ガチャ1172回目:実際の難易度
目の前に迫りくる影のような虎型モンスター。数は……5体。最初は1体だけだったはずなのに、そいつが俺の存在に気付き唸り声を上げた瞬間、どこからともなく4体追加でやってきた。周囲が暗黒フィールドなのもそうだが、何よりこいつらもまた気配が希薄だ。コハクよりは存在感を感じるのは、連中が発する敵意のおかげだが、それもなければ俺はこいつらを認識すら出来なかったかもしれない。
第一層の疑似太陽の強さも考えて、このダンジョン……最高難易度のダンジョンと認定すべきだな。
『グルルル……!』
『ガァッ!!』
「アイラからマインゴーシュを借りといて良かったなっとぉ!」
『斬ッ!』
前回はできなかった短剣二刀流だ。
飛びかかってくる虎を一撃で蹴散らし、そのまま順番に切り捨てていく。そうしてあっという間に5体の虎は煙になっていったのだが……。
「……」
『ふふ、マスターったら不満そうね♪』
「まあな。けどこれが、お前達が向こうの世界で強者と戦っていた時に感じていた感覚なんだろ?」
『鑑定妨害LvMAX』程度ならまだしも、『鑑定偽装』持ちの相手には『真鑑定』で全てのステータスを確認しきる事は不可能。だから今の俺の状況は、『真理の眼』を持たない彼女達が向こうの世界で戦うとき、ずっと感じていた不快感というか不安を体験してるという事だろう。相手が見えている情報以上に危険なスキルを保持している可能性を視野に入れながら戦う必要がある訳だ。
ただまあ今回の場合は、最低限の情報すら見えていない訳だが。
『そうねー。といっても、それクラスの相手と戦うことになっていたのは、あたしとタマモ、それからベリアルとその配下2人くらいじゃないかしら』
「そうなの? イクサバは?」
『我は向こうでも『鑑定』スキルは持ち合わせておりませんでした。信じるはこの腕のみでありまする』
『はい。ですのでマスター様のお悩みは、私には理解はできますが経験したことがありません』
キュビラは耳と尻尾を少ししょんぼりさせながら言った。これはモフらざるをえない。
「よしよーし」
『マスター様……♡』
『それで、マスター的に今のモンスターはどのくらいの相手だった?』
「つってもまあ、攻撃の速度と身体の硬さから感じた範囲でしか情報は無いんだが……。レベルは60前後、魔石は中か大かな?」
弱すぎる事は無いが、強すぎるとも言い難い。そんなレベルだ。
ただまあ、敵意を持ってちゃんと出現したモンスターがいきなり50オーバースタートであることを思えば、やはり生半可なダンジョンではなさそうだよな。
「正直スキルを使わせる前に倒したから、何を持っていたか分からんわけだが、そこはドロップを見れば――」
「それなんだけどお兄ちゃん、ドロップ……これだけだったの」
そう言ってカスミが見せてくれたのは『中魔石』だった。
「……え? これだけ??」
『おかしいわね。あたしの経験からしてみれば、あの虎は何かしらの通常スキルをもっていても何らおかしくない強さをしてたはずなのに』
『我も同感である。主君の見事な短剣捌きによって絶命したものの、相手の虎もただのケモノではなかった。いくつかの『Bスキル』を所持していても不思議ではないはずなのだが……』
「アズとイクサバもそう思ってくれてるのなら、やっぱおかしいよな」
こいつが特殊なだけなのか、それとも……。
「結論を出すにはデータが足りないな。このままマップを埋めつつ、可能ならレアを湧かせられるか試してみよう」
そうして俺達は攻略を再開。再びマップの角から埋めていくことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
まず歩き回っていて分かった事だが、この階層もそう広すぎる事は無かった。1層ほどの極端な狭さはしていないものの、『初心者ダンジョン』の第二層ほど広くもなかった。せいぜいそれから2回りほど小さくさせたくらいだろうか。
近い広さで言えば『ハートダンジョン』の第一層だろうか。きちんと明るくて道も明快なら、20分ほどで横断できてしまうくらいの広さだ。
ただまあ、あっちとは違って視界は最悪だし、本当に落とし穴なんかの類が無いとは言い切れない。その上どこからともなくモンスターも集まって来るので、探索の進捗は当初の想定より大幅に遅れていた。
まさか、全く見えないのではなく中途半端に見えないせいで、余計に不安を煽って来るとはな。『鑑定』が通らない以外にも未知の仕様が潜んでいてもおかしくない訳で、嫌でも慎重にならざるを得ない。
「リリアナのダンジョンとは大違いだ」
『ふぇっ? わたし?』
名前を呼ばれるとは想像していなかったのか、リリアナはびっくりした様子だ。
「お前の所は難易度自体はそれなりに高めだったけど、ここのダンジョンとは比べるまでもないくらい分かりやすかったからな。設計者の意図が伝わってくるというか、優しい造りをしていた」
『えへへ、そうかな?』
「正直あそこは楽しくもあったし、勉強にもなるだろうからカスミ達にも遊ばせたいくらいだ」
「あの記憶アスレチックね。映像で見てたけど、確かにああいうのは経験した事ないかも」
「良い経験にはなりそうですが、命綱なしにあれを渡るのはちょっと……勇気がいりますね」
「この身は某だけのものではない以上、確固たる自信がないと踏み出す事自体至難の業です」
「あー……。まあ、確かにそうか」
俺やエスの場合は自力で復帰できる手段があったけど、その手段を持ち合わせていない彼女達では挑戦する気概も起きないか。まあ今なら封印はないから、『空間魔法』で復帰はできるかもしれないが……あの足場、『狭間の理』が無いと脆いんだよなぁ。
彼女達のその言葉を聞いて、リリアナも残念そうにしている。
「……なあリリアナ。あのダンジョンの設計なんだけど、細かいところがどうなってるとか聞いても良いか?」
『もちろん。ショータは制覇者だもん。それも1度もミスしないほど完璧にね』
「じゃ遠慮なく。あの足場だけど、落ちたらそのまま死ぬのか?」
『ううん。入口に戻されるだけだよ』
「……マジで?」
『だって、せっかく挑戦しに来てくれてる貴重な人材なんだよ? 失敗してもまた挑戦してもらいたいもん』
……そりゃそうか。リリアナは人類を敵視していない。むしろ好意的に見ている。そんな彼女が、せっかくの挑戦者を1度の失敗程度でむざむざ殺したりはしないか。
「お前はほんと良い子だな」
「うんうん! ほんと良い子だよー!」
「人間が大好きなんですね」
「あたしもリリアナちゃんの事、もっと好きになっちゃった☆」
『え、えへへー』
いつものように撫でようかと思ったら、それよりも早く嫁達がリリアナに抱き着いていた。まあ、これはこれでアリか。
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