ガチャ1157回目:厄介払い
目の前ではリリアナが懇願するように上目遣いで俺をみていて、その先では重力か何かで押しつぶされている吸血鬼が2体。そして俺が来てもなお、スキルを解除するでもなく、困った顔を向けてくるエス。
あの表情、俺の表情から何か嫌なものを感じ取ったかな? まあ、断らせはしないが。
とりあえずそんな現状は無視して、俺は懐から端末を取り出し電話をかけた。
「もしもし、アイラ」
『はい、ご主人様。スキルのご所望ですか?』
「うん、正解。何が欲しいかは分かる?」
最初は察しが良すぎて、俺の用事のカテゴリを言い当てたアイラだったが、その先の答えまでは把握しかねているようだ。しばし沈黙が帰ってくる。
「答えはいるか?」
『……くっ、お願いします』
どんだけ悔しいんだか。その姿が直接拝めないのは残念だが、目の前にいたら流石にバレてるだろうし難しいところだ。
「とりあえず紙に書くから、よろしくー」
『承知いたしました』
そうして電話を切り、ペンを持ちながら紙も一緒に『魔法の鞄』に突っ込み、異次元空間の中で書き上げる。流石のエスでも、感知範囲外で書かれた腕の動きは読めないだろう。
「くっ……」
こっちも悔しそうにしてら。
そうして数十秒もしないうちに目的のスキルが鞄の中に出現。取り出した俺はそれをそのままエスに投げつけた。
「これは……!」
「使えエス。理由は言わなくても分かるな?」
「……くっ。一つ聞くけど、兄さんは今回の顛末、わざとじゃないよね?」
「んな訳あるか。他の空中浮遊ダンジョンにもヴァンパイアがいるのは分かったが、近場ならまだしも、とんでもなく距離が開いてるだろ。それらと直通のワープゲートが設置されてるとか流石に想定の範囲外だわ」
まあ、あの通知を流したら親族が怒り狂ってダンジョンを飛び出してこっち来たりするかなと若干予想はしてたが。だが、ヴァンパイアが潜んでいる空中浮遊ダンジョンは分からなくても、一番近い位置に存在していたところからここに飛行してくるとしても、エスですら半日は掛かるくらいには離れていた。だから問題ないだろうと思ってたんだ。
まあ、深く考えていたら嫌な予感が引っかかってたかもしれないが……。いや、エスが制圧できたから、嫌な予感すら発動しなかったかもしれないか。
「ぐぬぬ……」
それでもまだエスは納得行かないのか悩んでいた。その様子を不思議に思ったのか、タマモが腕を引っ張ってくる。
『御主人御主人、あやつは何を悩んでおるのじゃ?』
「ん? スキルが見えなかったか?」
『のじゃ!』
まあタマモは背が低いからなー。俺の胸の高さに持ち上げられたスキルは見えなかったんだろう。すぐに投げちゃったしな。
「アイツに渡したのは『テイムⅩ』だ」
『ふむー?』
『人間さん、どうしてあの人にそんなスキルを……?』
「簡単だ。あの2人はエスが制圧した。そして見るからに、あの2人はエスに屈服しているように見える」
リリアナがここに居るにもかかわらず、あの2人はそれに気付いていないどころか、エスに夢中になっているようだし。
彼女たちもリリアナと同じく長命種だ。例のアイテムを使ったのかレベルが1000を超えているし、そんな状態で人間1人に襲いかかったのだ。きっと自信満々だったろうし、負けるなんて微塵も想像していなかった事だろう。だというのにコテンパンに制圧され、身動きがとれないでいる。恐らく、自分より強い存在に出会ってときめいてるのかもしれない。
「ああなっている以上、俺があそこに割り込むのは憚られるし、何よりそうしたエスにはあの2人を飼う責任があると思うんだよな」
『御主人は面倒だからあやつに投げたのじゃな』
「……そうとも言うな」
責任があるかは不明だが、屈服させた以上エスが面倒を見るべきだとは思う。リリアナはまあ心を通わせたから最終的にもらう事になっても受け入れられるが、あの2人もとなると話は変わってくるんだよな。
「……」
今のエスの思考は手に取るようにわかるが、随分と悩んでるなー。
現状エスが取れる選択肢は3つ。
1:処分。
2:テイムせずにリリース。
3:諦めてテイムする。
1はまず、エスの信条からして不可能だろう。これから俺が仲良くしようとしているリリアナが目の前にいるし、エス自身家族を心配して駆けつけた彼女たちを裁くべき悪だとは考えられない。
2は、こんなボスクラスを野に放つ危険性を天秤にかけてるんだろう。家族のためとはいえ話を聞かずに襲いかかって来た相手だ。手綱無しに放置はできないと考えているはず。
となると3しか残っていない訳だが、シルヴィに操を立てているエスは選びたくないようだ。それで堂々巡りをしていると。
まあほんとはここに4つ目として、スキルを投げ返して俺を説得するという選択肢が存在するんだが……気付いていないのか、無理だと判断して除外しているのかは分からんな。
「エスー、まだ決めらんないか?」
「だって兄さん、僕は……」
「別に『テイム』したからって貰わなきゃならん訳じゃないだろ」
「……え、そうなのかい?」
「いやそうだろ。俺は気に入ったから嫁に迎えただけで、絶対じゃないぞ」
『そうなのじゃ。御主人がわっちらを迎え入れたのは、支配した方が都合が良かったからなのじゃ。こうして結ばれる事は最初から勘定に入っていないのじゃ』
そうそう。付き合うも突き合うも結ばれるも、そこから先は本人たち次第なのだ。まあ、アズが以前言っていたように、感情はある程度ペットに筒抜けになるようだから、それで絆される可能性は無きにしも非ずなんだが。
「……分かったよ。この2人は僕が責任をもって『テイム』する」
そう覚悟を決めたエスは、スキルを取得しそのまま2人を支配下に置いた。『解析の魔眼』でその光景を視ていると、確かにエスの力の一部が彼女達の中に入り込んでいく様子が見て取れた。
改めてエスを視てみる。
「おお」
どうやら、あの2人はどちらもダンジョンボスだったようだ。エスにも『管理者の鍵(末端)』の項目が追加され、1125と1175の鍵を所持していた。
これでエスも、一気にレベル2のダンジョン管理者になったわけだな。
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、
ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!











