ガチャ950回目:かつての聖地
テレサを頼りにバチカン市国を進み続ける。先程の施設に降り立った時には既に、街の空気に僅かながら違和感を感じていたが、彼女の案内に従って進む度に、その違和感は徐々に強くなっていっている。
なんだろう、この……空気が汚染されているような感覚は。
「まるでダンジョンの汚染地帯を歩いているような感じだな」
「そうですわね。話には聞いていましたが、まさかここまでとは……」
「ん。一般人は誰もいないし、時間的な薄暗さも相まって、あの世にでも入り込んだみたい」
「ショウタ様には、美しかったあの頃のバチカンを案内したかったです」
「それは今から取り戻せば良いだろ?」
「そ、そうですね。少し、弱気になってしまいました。ショウタ様、あそこの角を曲がった先が目的地です」
そうして俺達は、今まで以上に重苦しい雰囲気のする場所へと辿り着いた。本来であれば観光客で賑わうべきこの場所も、今ではボロボロの状態となった冒険者達が身体を休めており、さながら野戦病院のような様相へと変わり果てていた。
そしてスタンピード直前という事もあり、ダンジョンから発せられている空気とは別に、ひりついた緊張感も感じられた。当初は、あえてスタンピードを発生させてから無理やり鎮める簡易攻略も視野に入れていたが……これは駄目だな。理由は分からんが、攻略に失敗するイメージがふつふつと湧いてくる。
「……ここがそうなのか?」
「はい。ここがダンジョンの入口になります」
「とんでもない場所に出現してんだな。しかも初めて見るゲート型か」
サン・ピエトロ広場。そのど真ん中に位置するオベリスクの目の前に、ダンジョンの入口が存在していた。基本的にダンジョンの入口というのは、突如として洞窟が出現するパターンがほとんどであり、それが山奥だったり森の中、街の中や海の底だったりするわけだが……。こんな風に空間が歪んで向こう側が視えないゲート型のダンジョンを視るのは初めてだった。時折こういうタイプが存在するという話は聞いた事があったが、その最初のダンジョンがここになるとはな。
「彼らがギリギリまで抑えていた人達で間違いないんだな?」
「はい。私がいなくなった後、この地を守り抜いてくださった戦士たちです」
「ふむ……」
見るからに治療を必要としている人間に対して、回復の速度が追いついていないな。だが妙だな。ここから見える範囲にいる人達を直接視る限り、練度が低いという訳では決してない。だというのに治療が遅々として進んでいないのは……。
「なんか、あのダンジョンがある事で治療の阻害が起きてるのか?」
「その通りです。ですが、私がいた頃はここまで酷くはありませんでした」
「これもまた、スタンピード間近になった影響か」
なら、この淀んだ空気を俺の力で消し飛ばせるか?
「テレサ、マリー。俺の力で上書きできないか試してみるから、重ね掛けを頼む」
「「はいっ!」」
「『神意のオーラ』解放!」
「サンクチュアリ!」
「『神域の波動』!」
三者三様に光り輝き、広場を輝きが包み込む。それと同時に辺りを覆っていた陰鬱な気配が吹き飛び、広場一帯に清浄な空気が流れ込むのを感じた。
「……マシになったか?」
「ん。嫌な感じが薄れた」
「完全になくすことはできなかったようですが、『回復魔法』の効果が通りやすくなったように見えますわ」
「やりましたね、勇者様!」
「ああ。だが、この効果も俺達が離れた途端なくなるだろうし、今の内に回復を行き渡らせるか。んじゃ『回復魔法』を覚えているテレサ、マリー、それからアズ。彼らの治療サポートしてきてくんない?」
「「はいっ」」
『マスター、あたしも行って良いの~?』
「ああ。もう彼らにもあの通達は行ってるだろうし、邪険に扱われる事はないだろう。けど、もし不当な扱いを受けたら言えよ?」
『はーい♪』
そうして特にトラブルもなく順調に治療は進み、20分たらずでこの場にいた100人ほどの患者の治療が終わった。
『マスター、終わったわよ。褒めて褒めて♪』
「ああ、ご苦労様」
「ショウタ様、彼らの治療をする時間をくださり、誠にありがとうございます」
「いいよ。あんな状態の彼らを放ってまでダンジョンに入るのは気が引けただけだからな。……マリー、知り合いでもいたか?」
なんかちょっと浮足立ってる感じがする。
「は、はいっ。どうやらフランスからの支援部隊が参加していたようで、その中に顔見知りがいまして……」
「何か言われたのか?」
「はい。後光全開の勇者様に心を奪われていたようで、すごく祝福してくださいました」
「そっか」
嬉しそうにはにかむマリーが微笑ましかったので、撫でる事にした。よーしよーし。
「そんじゃ、乗り込むとしますか」
『マスターマスター』
「ん?」
『後光全開だけど、今は自分の意志で仕舞い込める?』
「ちょっと待ってな……ふんっ」
俺から出ていた神聖な波動が収まり、ダンジョンから再び邪気のような澱みが溢れ出したのを肌で感じる。
『うん、オッケーよ。もうマスターにはここのデバフは効かなくなったみたいね』
「ああ、指輪の効果でか」
『マスターなら、自前で自浄作用も働いていそうだけどね』
「どうかなー」
まだ若干、何かに引っ張られてる感覚はあるんだが。
なんて話しつつ、散歩にでもいくかのようなノリで、俺達は『悪魔のダンジョン』へと乗り込んだのだった。
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