表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1108

ガチャ001回目:執念の果てに

「これで96匹、こいつで97匹」


 いつものように、ダンジョンでスライムを狩る。


 ここは、ダンジョンナンバー777。通称『アンラッキーホール』。

 地球にダンジョンが出現し始めて、7年目に発生した一層だけの洞窟型ダンジョンだ。


 ここに出るモンスターはたった1種類のみ。そう、先ほどから倒している、世界最弱と名高い『青色スライム』だ。魔法も使わなければ、打撃に対してもめっぽう弱く、時折飛び掛かってくる事さえ気を付ければ子供でさえ容易に倒せてしまうモンスターだ。

 地球にダンジョンが発生した最初の年は世界各地で大混乱が巻き起こったが、7年目となればどの国も対応は非常に落ち着いていて、それまでに培ったノウハウも相まって各ダンジョンを詳細に調べ上げる余裕もあった。ここに来た人々は、そのナンバーから来る物珍しさと、ボスが存在せずモンスターも1種類だけと言う特殊な環境に「何かある」と思った冒険者や研究者で当時は大いに賑わった。


 けど、今では閑古鳥の鳴く非常に不人気なダンジョンとなった。

 そんなこのダンジョンに、俺は高校を卒業してからの3年間、ずっと通い続けている。


 最初に通い始めた理由は、まともに倒せるモンスターがスライムしかいなかったからだった。


 ダンジョンが出現して以降、全ての人類は自身の『ステータス』を閲覧する能力を得た。

 ステータスの項目は全部で7種類あり、それぞれ『腕力、器用、頑丈、俊敏、魔力、知力、運』に分けられる。

 一部のステータスは運動をしたり芸術の感性を伸ばしたりすることで補強できるが、一番の成長方法はモンスターを討伐することで『レベルアップ』することだ。そうすることで基礎能力値を大幅に伸ばし、その際に獲得できる『SP(ステータスポイント)』を使用して好きな能力をブーストすることでどんどん強くなれる。

 ただし『運』だけはレベルを上げても成長せず、『SP』を消費することでしか成長が出来ない。


「98匹、99匹。……ふぅ、ちょっと落ち着こう。ここに来るといつも緊張するな」


 だけど俺の場合、最初の『ステータス』も、レベルアップで得られる能力値増加も、『SP』も。何もかも人と比べて少なすぎた。



 まず、健康的な成人男性の基礎的なステータスは、どれも5~10ほどはあるが、俺は全てそれ以下だった。確かに勉強も運動も得意かどうかで言われると苦手だったが……。

 次に、レベルアップ時に増加する各種ステータスも、他の人は毎回1~5ずつ伸びるところが、俺だけ全て1ずつしか増えなかった。

 最後に、レベルアップ時に獲得できる『SP』も、普通は5~8は貰えるはずなのに、俺の場合はたったの2しかなかったのだ。



 そんな俺では、スライムの次に弱いと言われていたゴブリンですら、倒すのに5分以上かかってしまうのだった。


 そしてこの3年間、スライムを狩り続けた俺のステータスがこうだ。


*****

名前:天地 翔太

年齢:21

レベル:31

腕力:34

器用:34

頑丈:34

俊敏:34

魔力:32

知力:32

運:60


スキル:無

*****


 俺の『器用、頑丈、俊敏』の3つは初期値がたったの4しかなく、『腕力、魔力、知力、運』に至っては全て2しかなかった。なので俺は、レベル1から2に上げた際は、ポイント2つを腕力に回して、攻撃力を上げる事にした。

 それでもゴブリンにすら満足に勝てなかった俺は、ひたすらスライムを狩り続けた。


 そして、ある時気付いたんだ。

 このダンジョンのとある秘密に。


 それは『ダンジョンに入ってから連続でスライムを100匹討伐』した際に、確率で別種のスライムが湧くという事だ。


「……よし、100匹目!」


 今日も今日とて、祈る様にスライムを倒す。

 すると、ダンジョンに取り込まれ煙を上げて消えゆくスライムの代わりに、別のスライムが現れた。


「よしっ、『水色スライム』だ!」


 実際にはそんなモンスターはいない。初めてその存在を認知した際、世界中のモンスター図鑑を漁ったが、水色のスライムなんて存在しなかったのだ。だから、安直にそのままの名前を付けてみた。

 この法則に気付いてからは、『死にステータス』と言われていた『運』だけを『SP』を使って徹底的に上げ続けた。『運』を上げても実力は何も変わらないため、レベルアップ時に増加していく微々たるステータスでしか戦いは楽にならないが、それでも『運』を上げた分だけ、『水色スライム』に出会える確率が上がったように感じたのだ。


 この情報を公開すれば、うだつの上がらない俺でも一躍時の人になれるかもしれない。

 そんな誘惑が俺にもあったが、すぐにその考えは振り払った。なぜならそれをした瞬間、俺の狩場は見知らぬ誰かに……そして()()()()誰かに取られてしまうからだ。


 ()()()()()()()『水色スライム』を切り払う。今の『運』になってからは、『100匹ルーティーン』をした際に、60%くらいの確率で出会えてるのだ。さして珍しくもない。


 『水色スライム』が消えた先、別のスライムが現れた。


「よし、『緑色スライム』だ!!」


 こいつは今の『運』になってから、『水色スライム』討伐後、30%くらいの確率では出会えている気がする。

 俺は、この先の限界を知りたい。ここは俺だけの狩場で、誰からも見捨てられたダンジョンだ。だから、このダンジョンの秘密は俺が暴く! 一番手は俺だ。絶対に他の奴らに渡したくない!


 スライムは色が変わったところで強さは同じらしく、鈍い動きをする『緑色スライム』を切り捨てる。


 そうして『緑色スライム』討伐後、15%くらいの確率でしか出会えない『赤色スライム』。

 『赤色スライム』討伐後、8%くらいの確率でしか出会えない『紫色スライム』。

 『紫色スライム』討伐後、稀にしか出会えない『白色スライム』。

 『白色スライム』討伐後、極稀にしか出会えない『黒色スライム』へと、変化していく。


「黒色なんて半年ぶりだ。ははっ、手が震える。……頼む、頼む。出てくれ、次のスライム……!」


 挑戦回数たったの6回しかない黒色に、両手を合わせてから討伐する。黒色討伐後に出現する、特有の黒い煙が立ち込め、その後ろで何かがモゾモゾと蠢いた。


「な、なんだ……? 虹色!?」


 そこには、虹色のスライムがいた。

 虹色に輝くモンスターなんて、スライムどころかどんなモンスターでも存在を確認できていない。こんなの、世紀の大発見じゃないか!


「写真を……いや、レアなモンスターは逃げ足が速いと聞く。相手はスライムだけど、ここまで来たんだ。絶対に逃がさない。喰らえ!」


 今までと同じように、何万回と繰り返してきた攻撃を行う。

 するとスライムは、いつものように()()()()()()()()()()に切り裂かれた。


「相変わらずの無抵抗だったな……。やっぱりスライムは皆そうなのかな?」


 虹色スライムは、その色の通り虹色の煙を上げて消えていく。

 その煙が消えた時、輝く珠が『コトン』と音を立てて床に落ちた。


「……え? スキルオーブ!?」


 スキルオーブは、レアなモンスターが稀に落としたり、高難易度のダンジョンでしか見つからない貴重な珠だ。まさか俺の努力が、こんな形で報われるなんて。


 ダンジョンが出現して10年経つが、その希少性は失われてはいない。どんな能力であれ、売れば大金持ちも夢ではないかもしれない。

 だけど、このオーブは俺が1人でここまでやり遂げた成果でもある。誰にも渡すつもりはなかった。


 俺は、このオーブを迷わず使用した。


【スキルオーブを使用しますか】


「使用する!」


【スキル「レベルガチャ」を獲得しました】

読者の皆様へ


この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、

ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版第四巻 12月20日より好評発売中!
レベルガチャ1巻表紙絵 2巻表紙 3巻表紙絵 レベルガチャ4巻
コミカライズ第二巻 12/15より発売決定!予約受付中!!
コミカライズ1巻 コミカライズ第二巻
― 新着の感想 ―
とても面白かったです! 主人公の努力と地道なスライム狩りが、読んでいて気持ちよく、静かな緊張感もありました。 「不運の穴」という設定もユニークで、シンプルな舞台なのに物語がどんどん広がっていく感じが素…
[良い点] >世界に公表されてなければ未発見も同然ですね。 良かった、ちゃんとレアボス、レアモンスの発現条件を秘匿して稼いでいる人 そして今もって秘匿に成功している頭のいい人はちゃんと居たんだ 国はと…
[気になる点] 少なくとも水色スライムくらいは認知されていないとおかしくないですかね スライム以外も出る他のダンジョンで水色スライムが出ないのはまだ分かりますが 初期に色々検証されたらしいこのダンジョ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ