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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
1章 犬友達は頑張る
7/26

現代人達は召喚される 7

 ガタガタ・・・。

 トットット・・・。

 ゴソゴソ・・・。


 そんな物音で歩は目を覚ました。


 見慣れない部屋の景色に、慌てて辺りを見回し、そして自分が不可思議な現象に巻き込まれたことを思い出した。


- 夢ではなかったか・・・。


 歩は少し肩を落とすと、隣で眠る勇太の方を見た。


 勇太は口から盛大に涎を垂らし、布団に大きなシミを作っていた。


 寝言で「ムニャムニャ」と何か言っていたが、どうやら元気なようである。


- はなちゃんとソラが居ない・・・。


 足元で丸まって寝ていたはずのはなちゃんと、勇太の布団に潜り込んでいたソラの姿は無かった。


 代わりに襖が丁度犬が通れるくらい空いており、2匹はここから出て行ったのだろうと容易に想像がついた。


 ドタドタドタ・・・。襖の隙間を、四つん這いになった人影が慌ただしく行ったり来たりしていた。


 その人影の後を、はなちゃんとソラが楽しそうに追いかけていく。


- ヨーコちゃん・・・?


 ドタタタタタ・・・。


 今度は彩であった。


 少女はキャッキャと笑いながら、四つん這いで廊下を駆けて行く。


 歩は起き上がり、襖を開けた。


「ワンワンッ!」


 すぐに気付いたはなちゃんが飛び付いてきた。


 歩はそれを受け止め、撫でてと耳を垂らしたはなちゃんの頭を優しく撫でる。


 廊下には、埃の積もった白い部分と、雑巾がけをして木の模様を見せた部分とがハッキリと分かれていた。


 長い廊下の向こう側まで行ったヨーコが、四つん這いのまま再びこちらに戻ってくる。


「やっと起きた」

「歩兄おはよう~」


 歩は挨拶を返し、そして二人に何をしているのかと聞いた。


「掃除」


 と何を当たり前のことを聞くのだと言わんばかりの表情で、ヨーコが答えた。


「さっちゃんのために私頑張るの」


 彩が続いた。


「ワオン」「にゃわん」


 犬達と小梅さんも続いた。


 確かに屋敷は汚く、掃除したくなる気持ちも理解出来る。


 歩はヨーコと彩の自発的な行動にすっかり感心し、「僕も手伝うよ」と身を乗り出した。


 するとヨーコは「あれ」と廊下に置かれた二つの桶を指差した。


 なるほど桶の中の水は黒く濁り、これでは雑巾をゆすぐことができない。


 要するに桶の水を変えてこいとのことだった。


「井戸とかあったっけ?」

「庭にあったよ。ヤトさんとアサヒさんがいるから聞いてみな」


 歩は早速2つの桶を両手に提げ、庭に向かった。


 もちろんはなちゃんも尻尾を振りながらルンルンと付いて来てくれた。


 土間で靴を履き庭に出ると、清々しく柔らかな日差しが歩とはなちゃんを包み込んだ。


 はなちゃんは嬉しそうに目を細め、伸びをし「こっちこっち」と元気よく走り出した。


 どうやら道案内をしてくれるらしい。


 その後に続けば、昨日は気が付かなかったが、庭の一画に井戸があった。


 そこにヤトとアサヒとライ、そして幸姫が居た。


 三人と一匹は何かを取り囲み、幸姫は嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねている。


「あら歩さんおはようございます」

「ヤトさんおはようございます」


 ヤトは歩を見つけると、ニコリと微笑んだ。


「お~歩か。良い朝じゃな」

「おはようございます幸姫様」


 幸姫とも挨拶を交わす。


 アサヒは何も言わずに静かに目礼をしたので、目礼を返した。


 幸姫達が取り囲んでいた物を見て、しばし歩は言葉を失ってしまった。


 鹿であった。


 それも内蔵と皮の取り除かれただけの鹿であった。


 脂身の少ない赤身肉が朝日を浴びてツヤツヤと輝き、昨晩は山菜のおひたししか食べていない歩のお腹が「クゥ~」と小さく鳴った。


「鹿じゃないですか。それもこんなに大きな・・・」

「ヤトとライがな、狩ってきてくれたのじゃ」


 幸姫は満面の笑顔であった。


- ヤトさんとライが買ってきてくれたのか。こんなに丸々と太った鹿ならば、さぞ値段も髙かったに違いない。後で半分でも出させてもらおう。


 歩は言葉を勘違いしていたが、それも無理もないことだった。


 一体誰が華奢な体のヤトと、犬に過ぎないライが鹿を狩って来るなどと思うだろうか?


 しかしこの不思議な雰囲気を漂わせるペアはいとも容易くやり遂げ、こうして獲物を携えて屋敷に帰ってきていた。


「ヤト殿・・・ライ殿・・・感謝致す・・・」

「うむ。ヤトにライも大儀であったぞ」


 幸姫とアサヒはヤトが領民にも肉を配ったことをすでに聞いていた。


 アサヒは何度も頭を下げ、幸姫はヤトとライの頭を撫でた。


「ありがたき幸せ~」「ワオ~ン」


 意外と武闘派なこのペアはお褒めの言葉を頂戴していた。


 歩はそんなやり取りがあったことを知らない。


 しばし鹿を眺め、そして自分に与えられていた仕事を思い出した。


「あっ・・・と、桶に水を汲んでこないといけないんだった」

「うむうむ。ヨーコも彩も良くやってくれている」

「朝餉の支度が出来たら呼びに行きますね」


 どうやらヤトは朝食の準備を手伝うようだった。


 歩は桶に新しい水を汲むと、はなちゃんと共に急ぎ足で屋敷へと帰って行った。



☆彡☆彡☆彡



 朝食はつつがなく終わった。


 それぞれの膳に鹿肉がこれでもかと盛られ、それに昨夜は見なかったキノコの炒め物まであった。


 勇太も彩も夕食が足りていなかったのか、朝食としては少し重たいメニューではあるが、ガツガツと食べていた。


 すっかり満足したのか、今朝は歩に「足りない」の催促はなかった。


 食事が終わり、歩達が屋敷の掃除に戻ろうとした時「付いて来てほしい」とアサヒが声をかけた。


 言われるがままに付いて行くと、昨日の大広間へと通された。


 幸姫がトテトテと歩き、高座で腰掛けたのを見計らい、アサヒが口を開いた。


 ちなみに、当たり前のように小梅さんも脇息に上がった。


「昨夜はバタバタとしていたのでな・・・。実は皆のスキルを鑑定したいのだ」


 アサヒの前に、装飾の凝った大きな羅針盤のような物が置かれていた。


 羅針盤と違う点を言えば、本来ならば方角を指し示す磁針があるべき中央に、ポッカリと穴が開いており、今いち使い方が分からない。


- スキルってなんだ?


 ヤトとライを除く犬友達の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。


「幸姫様の力によって、こことは違う世界に住んでいたみんなを召喚させてもらった訳だが、古い書物によれば召喚された者は特別なスキルを持つと書かれていた。これはそのスキルを鑑定するための道具なのだ」


歩:やっぱりここは別の世界だったのか・・・。


ヨーコ:何を訳の分かんないこと言ってんだ?


彩:うわぁ~キラキラしててなんか凄い高そう。

 

勇太:ご飯食べたら眠たくなってきちゃった・・・。

 

 ウトウトとし出した勇太は置いておいて、召喚された者達は三者三様の感想を持った。


 ヤトとライはこの場においても、落ち着いており上品に「ウフフフ」「ワフフフ」と笑っている。


 アサヒの説明が終わると、幸姫が竹の筒を取り出し栓を抜いた。


 中には透明な液体が入っていて、羅針盤の中央にトクトクと注いだ。


 それで準備が終わったのか、幸姫とアサヒは目を合わせ頷くと「歩」と名前を呼んだ。


「はっ・・・ハイ?」


- 一体何をされるんだろう・・・?

 

 歩の背筋に緊張が走った。


 自分が一番最初に名前を呼ばれたのは年長者だからだろう。


 不可思議な物に対して、年長の自分がトップバッターとしてその安全性を確かめなくてはならない。


 女性のヤトやヨーコ、子供の彩と勇太にその役割を負わせる訳にはいかない。


ー でも怖い・・・。痛くないよな・・・?


 男らしさと、弱さの狭間で葛藤する歩であったが、幸姫の「早うこっちへ来るのじゃ」の一声で重い腰を上げた。


 上から見下ろすと、羅針盤の中央は漆黒の闇であった。


 液体を注いだはずだが、底なし沼のように光の反射さえも飲み込んでしまっていた。


 歩には訳が分からなかったが「そこの上に手をかざすのじゃ」と幸姫に急かされた。


「あの・・・痛くないですよね?危険じゃないですよね・・・?」

「大丈夫だ・・・安全だ・・・と古い書物には書いてある」


- いまいち信用出来ないんだよなぁ~。


 疑り深い歩であったが、言われた通りに中央に手をかざす。


 するとどうだろうか?漆黒の闇と思われた中央に何やら文字が浮かんできた。


【豊穣】【浄化】


 原理などは分からない。


 分からないが、その四文字がくっきりと浮かび上がった。


 歩がそうであるように、幸姫とアサヒも羅針盤を覗き込み、微動だにしない。


- 豊穣・・・浄化・・・?これが僕のスキル・・・?


「のうアサヒ・・・」幸姫が沈黙を破った。


「これは何と読むのじゃ?」歩は思わずずっこけそうになった。


 5歳の幸姫様に漢字は難しいのであろう。


 しかしパタパタと尻尾を振っているあたり、歩のスキルに何か期待しているのかもしれない。


「ほうじょう・・・じょうかと読みます」アサヒが答えた。


「それはどんな意味なのじゃ?」幸姫の小さな胸は期待で一杯のようだった。


「古い書物には・・・何も書かれておりません・・・」アサヒは苦虫を噛み潰したような表情をしている。


 そして助けを求めるように歩に「歩殿はどう思われますか?」とバトンを渡した。


- 僕に聞かれてもなぁ~・・・。


 歩は本心からそう思った。


 本来、豊穣と浄化のスキル効果については歩が説明されるべきであって、説明する知識など持っているはずがない。


 字面からおおよその予想を立てることは出来るが、もしも間違っていた時に責任を取ることができない。


 ほとほと困り果てていると、ヤトがひょっこりと顔を覗かせた。


 ヤトだけではない。ヨーコに彩に犬達までも、揃って羅針盤に注目していた。


「豊穣は大地を豊にすることと思います。浄化は分かりませんが、色々と試して行けば良いのでは?」  


 ヤトがそう提案した。


 歩がホッと胸を撫でおろしていると、幸姫が立ち上がり、歩に抱き付いた。


 何か素敵なプレゼントを貰った子供のように、瞳をキラキラと輝かせている。


「歩は大地を豊にすることが出来るのか?本当か?嘘ではないな?」


 興奮したように矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。


 歩には何も答えることが出来なかった。


 本当なのか嘘なのか、それは歩本人が知りたいことであった。


「大地が豊になれば米が沢山とれるようになる。野菜が沢山とれるようになる。領民が餓えなくてすむ」


 幼い犬神の姫様の悲痛なまでの想いであった。


 アサヒまでもが力を入れて歩の腕を掴み、真剣な眼差しを送ってきた。


- ああ・・・こうまで切実な問題なんだな・・・。


 歩は霧音岳の麓の村落の状況を知らない。


 いや、彼が召喚された美芳の地が抱える問題の、ただの一つさえも今は分かっていない。


 しかし、幸姫とアサヒの痛々しいまでの態度が、事の重大さを歩に気付かせた。


 超が付くほどのお人好しの性格を持つ歩は、本心からこの二人に何かをしてあげたいと思った。


 そして自分が彼女達の抱える問題の解決策になり得るのであるならば、できる限り力を貸してあげたいとも思った。


「僕に出来ることなら・・・何でも協力しますよ・・・」


 それが歩なりの精一杯の答えだった。


 その答えを聞き、幸姫どころかアサヒまでもが尻尾を振っていた。


 次にヨーコが鑑定を受けた。


 歩の様子を見ていたからだろうか、彼女はスムーズに羅針盤の上に手をかざした。


 てっきり文句の一つや二つくらい飛んでくるかと思ったが、そんなことはなく、それ所かヨーコは幸姫やアサヒと同じくらい真剣な表情をしながら浮かび上がる文字を待っていた。


 歩には何故ヨーコがこうも真面目に鑑定を受けるのか、その理由が分からなかったが、恐らく、彼女が自発的に屋敷の掃除を始めたことと関係があるのかもしれない。


【慈愛】【成長促進】


「のうアサヒ・・・?」

「じあい・・・それとせいちょうそくしん・・・」


 アサヒよりも先にヨーコが漢字を読み上げた。


 例によってこの二つのスキルも古い書物には書かれておらず、皆が首を捻った。


 とはいえ成長促進に関しては、字面から何となくの効果は予想することができたため、これも後々試していこうという話になった。


 そして彩。


【魔法】


「っつ・・・ついに私が魔法少女になる日が・・・!?」

「っにゃ・・・にゃわん・・・!?」


 彩と小梅さんは感じ入ったようにマジマジと羅針盤を見つめていた。 


 最後に勇太。


 勇太はソラを枕にして深い眠りに付いていたため、羅針盤を移動させて、眠りこける少年の手をかざした。


【剣士】


 どうやら彩と勇太の年少コンビは、戦闘に特化したスキルが与えられたようだった。


 ちなみにヤトも鑑定を受けるように言われたのだが「自分のことは自分で分かっておりますので」「ワフフフ」と断っていた。


「うむ。ヤトなら問題あるまい」

「流石はヤト殿」


 と幸姫もアサヒもうんうんと頷いていた。

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