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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
2章 再会
22/26

現代人達は山に入る 7

 

 歩達は村へと続く山道を歩いていた。


 樹々の隙間から降り注ぐ太陽の日差しは日に日に強くなり、やがて訪れるであろう夏の気配を肌に感じさせる。


ー 太陽の大きさは変わらないんだな・・・。


 空を見上げた歩はふとそんなことを思った。


 歩とヤトが大広間で気絶している間に、畑の方では色々なことが起こっていた。

 ヨーコの力に感激したお父たまとお母たまが、色鮮やかな木の実の殻で作った髪飾りを彼女に下賜したそうだ。

 控えめながらも、精巧な細工の施されたその髪飾りは、深い愛情と尽きぬ幸せの願いが込められているそうで、今はヨーコの茶色の髪に彩りをそえている。

 髪飾りを造ったのは職人ハムスターで、ハムスター族の中には細工を得意とする者もいるらしい。


 そんなハムスター族は、犬人族と共に村で暮らすことになった。


 ハム神様と皇后様はどうやら幸姫の屋敷で暮らすそうだが、村人への挨拶のためにハム神様だけが同行している。

 そんなお父たまは、アサヒの頭の上に陣取り、アサヒと何やら難しそうな話をしていた。


 歩とアサヒの後にはヤトとヨーコが続き、さらにその後ろからは人間の大人の大きさのハムスター族が、二足歩行で続いていた。


 そんなある種、異様ともいえる集団に、先頭を歩く歩はチラチラと視線を送っていた。


 みんな一列に並び、規則正しく行進している。

 あるハムスターは期待に瞳を輝かせ、あるハムスターはしきりにヒクヒクと鼻を動かしていた。

 それだけを見れば、可愛らしいハムスターのお散歩の光景であるのだが、いかんせん彼等は巨大過ぎた。


 通常のハムスターのサイズとは、せいぜいが手の平に収まる程度なのだが、成人した人間の大きさのハムスターなど見た事も聞いた事もない。

 この巨大化というのは、ハムスター族の持つ特殊能力らしく、彼等がこの力を使うのは主に農作業に従事する時なのだそうだ。

 確かに、野菜の世話をし、収穫し、運搬までしようとすれば、小さなハムスターの体では何かと不都合が多いだろう。

 そう考えればこの能力は、畑を神聖視し、農作業が大好きなハムスター族に取って、まさにうってつけといえるだろう。


「わ~いッ!フカフカモコモコだよ~ッ!」

「ワォンッワォンッ!」

「ワンワンッ!」


 巨大化したハムスターの体に、勇太がよじ登っている。

 犬達もじゃれついては、興奮したように声を上げた。

 そんな少年達に、ハムスター達は嫌な顔一つせずに「ハムッ!ハムッ!」と進んで相手をしている。

 楽しいことや面白いことが大好きという点で、彼等は気が合うのかもしれない。


 屋敷の裏手にある畑を前にした時のハムスター達の喜びようは凄かった。

 誰もが目をキラキラと輝かせ、自制の効かぬ様子で一匹また一匹と畑に飛び込んで行った。

 そしてヨーコの力によって、丸々と太った実を付けた野菜を見た時、ハムスター達は堰を切ったように巨大化し、率先して収穫の手伝いを始めた。


「ハムム~♪」

「ハムハム~♪」

「ハ~ムハ~ム♪」


 誰ともなしに歌を歌い出した。

 それはハムスター族に伝わる、収穫を祝う歌で、どことなく懐かしいメロディーが畑を包み込む。

 彩も勇太もキャッキャと喜び、聞きかじったメロディーを必死に口ずさんだ。


「村にはもっと大きい畑が一杯あるよ」


 ヨーコがそう教えると、ハムスター達は狂喜乱舞した。

 そして今すぐにでも連れて行って欲しいとしきりにせがんだ。

 ハムスター族の願いは幸姫の「あい分かった」の一言で聞き入れられることとなる。

 丁度その場に歩達が現れ、村へと案内することとなった。


 歩とヤトが巨大化したハムスターを見た時に、「うぉッ!?」「まあッ!?」と驚いたことは言うまでもない。

 

ー それにしても大きいな・・・。


 いまだに見慣れない歩は、チラチラとハムスター族に視線を送ってしまう。

 村に着くまでは小さなままでも良さそうなものだが、巨大化しているのは、ハムスター族のやる気の表れなのかもしれない。


 村に向かうメンバーで、ヤトとアサヒが顔を揃えるのも珍しかった。

 いつもならば屋敷に残る幸姫や彩のために、どちらかが付いていたのだが、今日は「私が留守を預かりましょう」とのお母たまの声でこうなった。


 お母たまだけではなく、執事のセバスハムとその娘のハム美ちゃんも屋敷に滞在することとなった。

 セバスハムは燕尾服を着込んだ執事ハムスターで、ハム美ちゃんは可愛らしいメイド服のメイドハムスターである。

 幸姫と彩が、特にハム美ちゃんを気に入った。

 ブルーサファイアでジャンガリアンのハム美ちゃんは、気だてが良く、おっとりとした性格で、巨大化して幸姫と彩と遊ぶ姿などは、メイドというよりも優しい保母さんのようだった。

 セバスハムもハム美ちゃんも、料理から洗濯から掃除から子供の相手まで得意とのことだったので、幸姫と彩を頼むことになった。


 今までの出来事をまとめると、ざっとこんな感じである。



☆彡☆彡☆彡


 ハムスター族と犬人族の顔合わせはつつがなく終わった。

 井戸の周りで、ヤトとライの獲ってきた肉の解体作業をしていた犬人族だったが、歩達とハムスター族の姿を見るとすぐに駆け寄ってきた。

 美芳の民は、新たな仲間に大層喜び、肩を叩き合ったり握手をしたりと、歓迎ムード一色であった。


 住居の問題が持ち上がった。

 村には空き家が何軒もあったが、ハムスター達は仕事が終われば元の小さなサイズに戻るとのことだったので、犬人族の体に合わせた造りの家では、何かと不都合が多かった。


 そこでハム神様がトカゲ馬車から取り出したのが【クルリの実】であった。

 一見するとクルミと間違えてしまいそうなその実は、育てばハムスター族の住居になるのだという。

 村の一画をハムスター族に割り当て、そこにヨーコが成長促進を付与したクルリの実を埋めると、すぐに変化が起こった。

 たちどころに太い幹が顔を覗かせ、幾十もの曲がりくねった枝がこれでもかと伸びた。


 ハム神様の話では、クルリの樹は人の胸程の高さまで育つということだったが、ヨーコの埋めた実は太く逞しく、遥か上空から人を見下ろすまでに成長した。


「ハミュ~ッ!?」

「ハムッ!?ハム~ッ!?」

「ハムムムム~ッ!?」


 興奮したハムスター達が、元のサイズに戻ってクルリの樹になだれ込んだ。

 クルリの樹は、その内部は空洞となっており、ハムスター達は空洞のそこかしこに居住スペースを造るのだという。

 樹皮は強固で、暴雨にも楽々と耐えることができる。

 そういった所が、ハムスター族の住居に選ばれた理由なのだろう。


「ハムッ!ハム~ッ!」


 枝に空いた無数の穴からハムスター達が顔を覗かせる。

 太陽の光と、爽やかな風に鼻をヒクヒクとさせては、慌てたように枝の奥に身を引っ込めた。


 ドタバタ・・・ドンドンドン・・・タッタッタ・・・。

 バタバタバタ・・・タタタタタ・・・。


 クルリの樹から、せわしない音が驟雨(しゅうう)のように聞こえてくる。

 どうやらハムスター達は新たな住居の内見に忙しいらしい。


「んしょ・・・んしょ・・・」


 根本の玄関のように開いた穴に、上半身を捻じ込もうとする少年の姿があった。

 クルリの樹が、ハムスター達が走り回れる大きさに成長したとはいえ、いささか少年には小さ過ぎるようだ。


「勇太・・・何をしているの・・・?」


 答えは分かっていたが、歩は少年に質問する。


「僕も入れるかと思って・・・。でも無理みたい・・・」


 勇太の尻が、アヒルが歩くように左右に揺れた。


「うん・・・そうだね。もう分かっただろう?出ておいで」

「出ようとしてるんだけど・・・引っ掛かって出れない・・・。歩くん引っ張って」

「えええ・・・」


 穴から出ている両足を引っ張ってみたが、勇太の言う通りビクともしない。

 ソラもはなちゃんもゴン太も勇太のズボンを口に咥え、一緒に引っ張るものの、山に鎮座する巨石のように、勇太の体は動かない。


「やあハムスターくん。僕のことを押してくれないかな?出られなくなっちゃって」

「ハムハムッ!?」

「ハム~ッ!?」


 どうやら内部からハムスター族が手伝ってくれるらしい。


「そ~れッ!うんとこしょッ!どっこいしょッ!」

「ワンワンッ!」

「ハムハムッ!」


 歩の号令に皆が力を合わせる。


「あはははは~ッ!まだまだ勇太は抜けません~ッ!」


 かぶ・・・勇太はキャッキャッと喜んでいる。

 

 そんな光景をヨーコが眺めていると、窓の様に開いた枝の穴からハムスターが顔を覗かせた。

 ハムスターはヨーコと目が合うと、器用に枝をつたい、やがて彼女の足元に降り立った。

 その動きをしたのは一匹だけではない。

 勇太を内側から押しているハムスター以外の者が、窓から枝をつたい、ヨーコの元に集合した。


「えッ・・・何・・・?」

「みんなヨーコたんにお礼がちたいのハム~」


 ヨーコが戸惑っていると、いつの間にかヨーコの肩に乗っかったハムちゃんがそう教えてくれた。

 ハムちゃんに言われるがまま中腰になり、ハムスター達の前に両手を差し出した。


「アタシ・・・お礼なんて別にいいよ・・・」

「こんなに立派なお家を建てて貰ったのハム。これで何もちなかったらハムスター族の名が廃るのハム~」

「そうなの?」

「そなのハム~」


 ヨーコとハムちゃんの話が一段落すると、ハムスター族は次々と頬袋に手を入れた。

 頬袋の中から出て来た物は、綺麗な花びらや、ヘンテコな形の殻や、キラキラと輝く小石などであった。


「ハムハム」

「ハム~」


 ヨーコの掌の上に、それらの物が積まれていく。


「あたち達ハムスター族は、自分の大切な宝物を頬袋にしまっているのハム~」

「そんな・・・大切な宝物なんでしょ?貰えないよ・・・」

「みんなのお礼の気持ちなのハム~」


 ヨーコがあたふたとしていると、母親に抱かれた赤ちゃんハムスターが頬袋に小さな手を入れ、一所懸命に何かを探していた。


「はみゅはみゅ」


 赤ちゃんハムスターはお礼の言葉と共に、掌の上に宝物を置いた。

 それは、とても小さなヒマワリの種だった。


「あ・・・ありがとう・・・」

「はみゅ~」


 ヨーコの指に赤ちゃんハムスターが抱き付いた。

 指から伝わる小さな生命の温もりに、ヨーコは静かに微笑むのだった。



☆彡☆彡☆彡



「そうか。マホちゃんが満杯になったのじゃな・・・」


 夕餉が終わり、ハム美ちゃんの淹れてくれたお茶を皆で飲んでいた時の話だ。

 ハム神様も皇后様も、高座に席が設けられ、そこでハムスターサイズの小さな湯呑を手にしている。

 セバスハムとハム美ちゃんは巨大化したままだ。

 執事とメイドの仕事をするには、この大きさの方が都合が良いらしい。


 歩はこの席で、カルカンへの行商の準備が終わったことを幸姫に告げていた。

 ハムスター族の手伝いもあり、マホちゃん、つまり魔法の鞄は米と野菜で満たされた。

 そうなれば後は、片道で四日かかるカルカンの街へと行商に行くだけである。


 行商のメンバーも決まっていた。

 歩にヤト、それにアサヒと、犬人族のまとめ役である弥助だ。


 この四人にハムちゃんとはなちゃんが加わり、食料と山を拓く道具を交換してくるのだ。

 片道で四日の道程に、街での滞在時間を考慮すると、一週間以上はかかる長旅である。


 道中で魔物に出くわすかもしれない、危険な旅だ。


 歩達は明日、カルカンへ向けて旅立つ。

 屋敷にはヨーコに彩、勇太、それにハム神様達が残るから、幸姫が寂しくなることもないだろう。


 話が一段落すると、皆は広間の隅へと目をやった。

 隅にはソラの姿があり、ソラの体に顔を埋める勇太の姿があった。


「うぐッ・・・えぐッ・・・」


 勇太は肩を震わせ、時折嗚咽してはソラに抱き付いた。

 ソラはというと、じっとりとした視線を歩に送り、勇太がこうなったのはお前のせいだと責め立てているようだった。


「僕も・・・歩くんと一緒に行く・・・」


 表情は見せないが、涙声でそう訴えた。

 カルカンの街へ行商に行くメンバーを決める時、当たり前のことだが子供達ははずされた。

 彩などは元から行く気がないのか「頑張ってね~」「にゃわん」と激励してくれたし、ヨーコも「村の皆と出来ることはやっておくから」「ワンワン」と頼もしいことを言ってくれた。


 勇太は違った。


 少年は行商に付いてくるつもりだったようで(というより歩に付いて行く)、行商のメンバーに自分が含まれていないことを知ると、駄々をこねた。


「嫌だッ!僕も歩くんに付いて行くッ!!」

「ワオンッ!」

「駄目だよ勇太。行商は危険だし・・・皆と一緒に待っててよ・・・」

「ヤダヤダヤダ~~~ッッ!!ビエ~~~~~ンッッ!!」

「ワオ~~~ンッッ!!」


 とうとう勇太は泣き出すと、広間の隅に陣取り、ソラと共に籠城戦を開始したのだ。

 ハム美ちゃんからの補給物資(夕食)を残さずたいらげた所をみるに、少年は持久戦も辞さない覚悟であり、籠城戦には根気と体力が必要だと本能で分かっていたのかもしれない。


「勇太・・・さっちゃんと一緒に待ってようよ・・・」

「にゃわん・・・」


 和睦の使者が少年の元へと赴いた。


 少女達は意固地になった勇太をなんとか懐柔すべく言葉を重ねるが、勇太は断固としてこれを拒否した。

 首を激しく左右に振り、ソラの体に顔を埋め、不退転の姿勢をみせたのだ。

 この少年の覚悟を、あるいは有翼馬の騎士(ペガサスナイト)やバルディア重装兵が見たのならば「見上げたものだ。将来が楽しみだ」と褒めたのかもしれないが、残念ながらこの場に騎士達はいない。


「勇太・・・帰ってきたらたくさん遊ぼう・・・。だから・・・我慢して待っててよ・・・」


 歩の呼びかけに、勇太の肩がピクリと動いた。


 佐藤勇太が、犬友達の誰と一番仲が良いのか、誰に一番懐いているのかといえば、それは田中歩で間違いないだろう。

 出会って一年が経つが、勇太は歩を年の離れた兄のように慕い、歩も勇太を弟のように可愛がった。

 そういう二人の積み重ねがあるから、勇太は歩と一週間も離れたくないのかもしれない。


 歩と彩の説得が続く中、勇太はいよいよ最後の切り札を出した。

 少年はソラの首輪をまさぐると、四つに折られた紙を取り出し「んッ!!」と印籠のように突きつけた。


「そッ・・・それは・・・ッ!?」


 紙には歩の字でこう書かれていた。


【勇太のお願いを何でも一つ聞く券 発行者 田中歩】


 とある日曜日、勇太と釣りに行く約束をしていた歩だったが、仕事の都合で約束を破ってしまったことがあった。 

 夕方仕事が終わり家に帰ると、釣り具を手にした勇太とソラが玄関先で丸くなって眠っていた。

 玄関の向こうでははなちゃんが「クゥ~ンクゥ~ン・・・」と鳴いている。

 事前に勇太には釣りに行けなくなったことを話していたのだが、少年はどうしても歩と一緒に釣りに行きたかったのだ。


 歩は良心の呵責に押しつぶされそうになった。


 そんな勇太へのせめてもの償いとして発行したのが【勇太のお願いを何でも一つ聞く券】なのである。

 発行したはいいが、勇太がこの券を使用することはなく、いつしか記憶から忘れ去られようとしていた。


ー ソラの首輪に・・・大事にしまってたんだな・・・。


 勇太はこの券をソラの首輪にしまい、いつか使う日のことを待っていたのだろう。

 泣き顔で券を掲げる勇太が、歩にはいじらしくて仕方がなかった。

 それと同時に、あの日、勇太との約束を破ってしまった自分への罪悪感が蘇ってくる。


「んッ!!」


 勇太は歩の眼前へ【勇太のお願いを何でも一つ聞く券】を突きつける。


「んッッ!!!」


 勇太は涙声だった。

 少年のこの態度に、歩は完全に折れた。


「アサヒさん・・・ヤトさん・・・」


 伺うような素振りで、アサヒとヤトを見やる。


「勇太を・・・一緒に連れて行くことは出来ませんか・・・?」


 子供達を置いて行くことは、散々話し合った。

 話し合った上で、子供達の安全を考えての結論だった。


 自分が無理難題を二人に押し付けていることを、重々承知していた。

 しかし、ここで勇太の願いを、自分の発行した券を反故にすることは出来なかった。

 もしもそれをしてしまえば、自分は何と愚かで醜い大人なのだろうと、自己嫌悪の渦に飲み込まれてしまうことだろう。


 子供との約束など、契約書を交わすようなものでもなく、言ってみれば口約束である。

 だからこそそこにあるのは純粋な信頼関係であり、歩には勇太の信頼を二度も裏切ることなど出来るはずもなかった。


「私は・・・」 

 

 ヤトは泣き顔の勇太を優しく見つめる。


「別に構わないと思いますよ。勇太さんが居れば旅も楽しくなるでしょう」


 そしてニコリと微笑んだ。


 アサヒは勇太が持つ【勇太のお願いを何でも一つ聞く券】に興味を持ったようだ。

 その券が発行された経緯は分からないが、歩と勇太に取っては大事な意味を持つのだろうと想像した。

 そして歩が約束を果たそうとしていることを知ると「私も構わない」と頷いた。


 途端に勇太の顔に光が射し込み、歩の首根っこに抱き付いた。

 そんな少年の姿を、彩と小梅さんはヤレヤレといった表情で眺めている。


 そんな中


「約束を破るのは最低なヤツのすることだ・・・」


 とアサヒが呟いた。



☆彡☆彡☆彡



 ミシディア大陸に、ハーペークと呼ばれる地方がある。

 ラディリア山脈を背骨とするその地方では、多様な人種が生活していた。


 その者達はそれぞれに王を戴き、それぞれに国を創った。

 それが百年前の話である。


 国々は、自分達こそがハーペークの唯一の支配者であると宣言し、隣国に戦を仕掛け、やがて地方は終わる事のない戦乱の時代へと突入した。

 そんなある種、蠱毒のような様相のハーペーク地方に、突如として新たな国が起ち上がった。


 その集団が、それまで何処で何ををしていたのか、あるいは元からハーペーク地方に住んでいたのかさえ誰にも分からなかった。


 国の名を【ネヴェラス帝国】といった。


 ネヴェラスは皇帝アヌモシーディの元、みるみるうちにその版図を広げて行った。 

 蜃気楼のように現れると、疾風の如き速さで、林立する国々を統一せしめた。


 統一の立役者となったのは【有翼獣の騎士(グリフィンナイト)】である。

 有翼獣の騎士(グリフィンナイト)の軍事力に抗う術を持っていたのは、錬金の国クルシェのみで、その他の国は全てネヴェラスに降った。


 降ったといえば聞こえは良いが、それはネヴェラスによる徹底した殲滅戦の後の話で、ネヴェラス率いる有翼獣の騎士(グリフィンナイト)は、執拗に、残酷にハーペーク地方に災厄を振り撒いた。


 ネヴェラスが地方を統一する間に、ハーペークの全人口の三分の一が失われたと聞けば、彼等のやり口の凄惨さを想像できるかもしれない。

 有翼獣の騎士(グリフィンナイト)は、軍人、民間人の区別なく、目に入る者をことごとく殺した。


 殺し尽くした。


 戦場から逃げる親子の死体の横に、降伏を意味する白旗が転がっていたなどという、吐き気を催すような事態も、度々起こった。


 戦争の後始末も酷いものだった。


 国々にはそれぞれに王が居たのだが、皇帝アヌモシーディは、それらの一族全て、幼子や赤子に至るまでことごとく斬首した。


 王に仕え、手足のように働いていた貴族達の処遇も悲惨だった。


 アヌモシーディは彼等に【自由開拓民】の名を与え、海路よりエスバール大陸へと派遣した。

 自由開拓民と名は付けられたが、要するにそれは未開の地への放逐に違いなかった。


 ただ大きいだけで、快適さも居住性もない、まるで奴隷船のような船に彼等は詰め込まれた。

 三隻の奴隷船を、有翼獣の騎士(グリフィンナイト)が見張った。

 騎士達の仕事は、海に潜む魔物から自由開拓民を守ることなどではない。

 万に一つの可能性に賭け、大海に身を投げ入れ脱走しようとする者を監視するためのものであった。


 航海は過酷を極めた。


 貴族達に与えられた食事は、日に干しパンが三切れに、海水を煮立たせた様な、塩辛いスープが一杯のみであった。

 病が流行ったが、治療などは受けられるはずもなく、バタバタと人が死んでいった。


 反乱も起こった。


 自分達の置かれているあまりに酷い環境と、そしてどうやら魔物の巣窟であるエスバール大陸に連れて行かれる、と聞いた者達が、解放を求めて反乱を起こしたのだ。


 戦いは一方的なものだった。


 武器を持たぬ貴族達は、有翼獣の騎士(グリフィンナイト)によって殺された。

 その死体は一隻の船に集められ、自沈され、海の藻屑となった。


 そうして船がエスバール大陸へと辿り着いた時には、貴族達はその数を半分に減らしていた。

 右も左も分からぬ土地に放り出された貴族達に、有翼獣の騎士(グリフィンナイト)は皇帝より預かった言葉を伝えた。


「自由開拓民の独立を認める」


 である。


 有翼獣の騎士(グリフィンナイト)は沖合にて残った二隻の船を自沈させると、用事は終わったとばかりに、早々に帰還の途についた。


 空の彼方へ消えゆく騎士の背中に、何百もの呪詛の言葉が投げつけられた。


 ある者は天を仰ぎ「ああ・・・女神ミリムよ・・・」と、己の運命を嘆き悲しんだ。

 彼等が泥をすすり、仲間の死体を積み重ね、血を吐く思いで築き上げた街の名前こそがカルカンなのである。

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