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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
1章 犬友達は頑張る
12/26

現代人達は召喚される 12


 ヤトとアサヒの用意した朝食を食べ終わると、歩達は村へと出発する。


 今日のメンバーは歩、ヨーコ、ヤト、勇太、ソラだ。


 はなちゃんは朝から幸姫にベッタリモードで、どうやら今日は山を下りる気はないらしい。


 彩と小梅さんも屋敷で過ごすようで、このペアは幸姫の側に居たいようだ。


 結局、アサヒの代わりにヤトと勇太が加わったという所だろうか。


 そういえば今日はライも屋敷に残っている。


 昨日もそうだったが、パーティーが2組に別れると、ヤトとライはどちらかが必ずパーティーに同伴するように気を使っているようだった。


 それが何故なのかは分からないが、この二人にしか分からない何かがあるのだろう。


 ヤトが歩達と共に村へ行くのには理由があった。


 昨日は野菜を中心に育成し、何反かの畑も耕すことが出来た。


 ヨーコがスキルをかけた種も置いて来ているから、今頃はもしかしたら村人達はそれを育てているかもしれない。


 野菜を育てることには成功したのだが、ある作物を育てることに失敗していた。


 それは稲だった。


 神名川からほど近い水田の1つに数百本の稲が植えられていて、頼りない青い苗達が心細そうに水面で揺れていた。


 稲を育てるためには、生育段階にもよるが田んぼを大量の水で満たさなければならない。


 稲が育ってくれば、今度は中干しといって全く水を必要としない時期もあるのだが、まだまだ赤子のような稲達はとにかく水を必要とする。


 村人達は出涸らしの茶葉のような土の中でも、特に野菜の育つ土を優先的に水田に集め、なんとかして稲を育てようとしていた。


 枯れ果てようとしている神名川の水を桶で掬い、井戸の水を何度も汲み、それを壺に溜め、水田に何度も流し、辛うじて水を満たしていた。


 歩は早速、Gパンを膝元まで捲り上げ、靴を脱ぎ、幸姫のお母さんのクワを片手に、水田に足を踏み入れた。


 土に豊穣のスキルを付与するためであった。


 かつて祖父が米をやっていた頃などは、田んぼに生えた雑草を抜くために裸足で水田に入ったこともあった。


 久しぶりの泥田の感触に、何ともいえない感慨が沸き起こる。


 ぬかるみを歩けば、足の指と指の間から、土がニュルニュルとミミズのように這い出してくる。


 むず痒くもあり、慣れれば癖になってしまいそうな感触である。


 泥田を歩くコツは、始めにゆっくりと踵を持ち上げ、踵とつま先が縦に一直線の形になるようにし、最後にゆっくりとつま先を抜くことだ。


 そうすれば比較的スムーズに歩くことができる。


 間違ってもやってはいけないのは、足の腹が泥に付いている状態で、無理に足を引き抜く行為だ。


 泥と水の抵抗は想像以上に強く、まるで人が引っ張ているかのように足を離さない。


 もしもその行為をしてしまったのならば、バランスを崩し水田に頭から突っ込む覚悟をした方が良い。


 実際、幼少期の歩は祖父の水田でアクロバティックダイブを何回もしている。


 余談が過ぎたが、歩は手始めに畦道から近い場所にクワを振るった。


 まだ幼い稲を踏み潰さないように、それはそれは慎重に体を動かした。


 そうして横の一条の範囲の土に豊穣を付与していくと、今度はヨーコの出番だ。


 種ではなく、芽吹いた稲に成長促進のスキルをかけるのだが、これもある意味で実験であった。


 植物の成長途中でヨーコのスキルを付与した場合、それがどのようになっていくのかを調べる良い機会であった。


 ヨーコは果敢にも水田に足を踏み入れる。


 この年の女の子ならば、泥とか汚れを敬遠しそうなものだが、臆することなく一歩を踏み出し「キャッ」と可愛らしい声を上げて動きを止めた。


 もしも勇太がこの場にいたなら、大喜びしそうな事案である。


 ヨーコは泥が素足に与える感触に驚き、声を上げたのだが、その後に止まった理由が歩にはすぐに分かった。


 足が抜けないのである。


 ヨーコの上半身は前に行こうと動いているのだが、下半身は大木が根を張ったように微動だにしない。


 やがてジトッとした目で歩を見て「足が抜けないんだけど・・・?」と文句を言った。


「踵から抜くんだよ。ほらこうやって・・・」


 試しに歩が、ヨーコが理解しやすいようにかなりゆっくりと水田を歩いて見せる。


 まずは踵から抜いて、次につま先を抜いて、そうやって数歩歩いた。


「だから・・・まずその踵が抜けないんだって・・・ッ!!」

「ええッ!?」


 ヨーコの抗議に、歩が驚きの声を上げた。


 水田を歩くことは慣れるまで難しいが、ヨーコはまさかの第一歩目で躓いてしまっていた。


「お姉ちゃん、こうやるんだよ・・・」


 先程、キュウリをモリモリと食べた幼い犬人族の少女が水田に入り、ヨーコの目の前で歩いて見せた。


 水面に浮かぶアメンボのように、重力を無視したかのような、スイスイと軽やかな動きである。


ー へぇ~大したもんだなぁ・・・。


 歩は少女の動きにすっかり感心していた。


 祖父の田舎でも、田植え長靴を履いて水田を歩き回る人達が居たが、ここまで軽快な動きの人は見たことがない。


 もしかしたら犬人族の身体的な能力が、この動きを可能にしているのかもしれない。


「おいッ・・・」

「あッ・・・ヨーコちゃんほらあの娘みたいに歩くんだよ」

「歩くも何も踵が抜けないんだってばッ!」

「ちょっと待ってて・・・今そっちに行くから・・・」


 歩がヨーコの方へと歩き出した時、畦道に腰掛け事の成り行きを見ていた、彦助を含めた犬人族の少年達が首を傾げながらポツリと呟いた。


「姉ちゃんの足、泥に埋まっちまったんじゃねえか?」

「そんな埋まるもんかい?そりゃよっぽど()()()()埋まるかもしんねぇけど」


 重いという指摘に、ヨーコの髪が逆立った。


 この年齢の女性に体重の話はタブーである。


 少年達は慌てて両手で口元を隠した。


「アタシは重くなんかない~ッ!ふんぬッ!フニニニニ~~~ッ!!!」


 己のプライドと体重を賭けて、ヨーコは必死に足を引き抜こうとする。

 歯を喰いしばり、鼻にシワを作り、その形相はまさに鬼のようであった。


 ヨーコの名誉のために補足しておくと、彼女は第一歩目から間違えていた。


 つまり、水田に入る時は足が泥に埋まらぬように意識をするもので、具体的には足の腹を存分に使って泥に沈まぬようにするのである。


 しかるにヨーコは勇んで水田に飛び込んだのだが、その一歩はいささか力が入り過ぎており、彼女の足は泥を踏み抜いてしまった訳だ。


 こうなると、誰かに助けてもらうしかない。


「ヨーコちゃんタンマッ待ってッ!顔がエライことになってるからッ!」

「アタシは重くなんか~・・・ッ!!!ウギギギギッ!!!」


 手を伸ばせばヨーコに届くという距離にまで歩が来た時、彼女の執念が実り、ついに足が泥から解放された。


「スポンッ」と小気味よい音を立てながら抜けた足とその体には当然のことながら勢いがついており、ヨーコはさながら、プロレスリングのスピアータックルの様に、歩のみぞおちに肩から突っ込んだ。


「グフッ・・・」歩の口から悶絶の声が漏れた後に「バシャ~ンッ」と激しい音を立て、二人は水田に倒れ込んだ。


 この惨事を黙って見ている程、はなちゃんは薄情な犬ではない。


 愛する飼い主と、頭とお腹を撫でてくれる優しいヨーコの危機である。


「ワオ~ンッ!!」と勇敢な吠え声を上げ、レスキュー犬さながらに水田に飛び込んだ。


 そこまでは良かったのだが、やがて四肢を泥にガッツリと掴まれ、身動きの取れなくなったはなちゃんは「クゥ~ン・・・」と寂しそうに鳴いた。


 完璧な二次災害であった。


 結局、歩達はアサヒと村の大人達によって救出された。


 服は泥だらけだし、髪の中に砂が入り込んでしまって、ジャリジャリして気持ちが悪い。


 歩とヨーコは肩を落とし、水浴びをするために井戸へと向かった。


 そんな二人とは対照的に、はなちゃんは何故かご機嫌であった。


 水田の感触が癖になってしまったのかもしれない。


 そうして井戸の水を頭から浴び、気持ち程度に泥を洗い流して、再び歩達は水田の前に立った。


 先程の反省から、ヨーコの周りを、すぐに助けられるようにアサヒと大人達が固めた。


 豊穣の土になった所で、ヨーコに成長促進を付与してもらわなければ話が進まない。


 意を決したように、ヨーコが水田に足を踏み入れる。


 今度はゆっくりと、足の腹を泥に着地させる。


 そんな彼女を、畦道から歩とはなちゃんが見守っている。


 と言うよりも、水田に飛び込もうとジタバタと暴れるはなちゃんを、歩が抱き抱えているといった具合だ。


 ヨーコが腰を九の字に曲げ、畦道に程近い稲に手を伸ばした。


 種の時と同じように、赤子のようなまだ青い稲が一瞬輝き、それからは驚くべき速度で成長を始めた。


 ヨーコは歩が豊穣の土にした横の一条に次々と成長促進を付与していく。


 歩き方はぎこちなかったが、どうやらコツを掴んだようである。 


 稲達はスクスクと育つ。


 が、膝下の高さまで成長すると、どの稲もピタリと動きを止めてしまった。


 それだけではない。


 水田の水が、稲を中心に潮が引いて行くかのように枯れ果ててしまったのだ。


ー もしかして・・・水が足りないってことなのか・・・?


 歩は思わず唸ってしまう。


 稲作には水が大量に必要になるとは知っていたが、水田を満たす程の量でも足りないというのだろうか?他の野菜達は土を豊穣にすれば、水をあげなくても立派に育っていたが、どうやら稲は一筋縄ではいかないらしい。


「水を頂けますか?」


 歩がそういうと、村人が(かめ)に水を入れて持ってきてくれた。


 すぐさまそれを、成長を止めてしまった稲達に撒く。


 するとまるでスポンジのように水を吸い込んだが、変化は見られない。


ー まだまだ足りないのか・・・。


 頭を抱えてしまう問題だった。


 神名川の水はあてに出来そうもないし、井戸の水とて、村人の生活を支える大事な水源であり、稲のためだけにそんなに大量に使う訳にはいかない。

 

「歩殿・・・」


 アサヒが不安そうな声を上げた。


 同じように、村人達も不安そうだ。


 何よりも、成長促進の付与されていない幼い稲達は、水がなければ枯れてしまう。


 せめて豊穣の土にしたら数日はもってくれるだろうか?


 歩はそう思い立ち、クワを片手に田んぼに入る。


 そして一心不乱にクワを振るい、田んぼの全ての土に豊穣を付与していった。


 水がなくなったことが幸いし、動きやすくなっていたので作業は順調に進んだ。


 どさくさに紛れて一緒に田んぼに入ったはなちゃんはすっかり水の引いてしまった泥田の感触に「ワオン?」とどこか不満気であった。


 そうしていると陽が傾きだし、歩達は屋敷に帰った。

 これが昨日の話である。


 そして夕餉の時に、ヤトにそのことを話してみた。


 屋敷の湯舟は大きいが、ヤトは男湯と女湯の浴槽を水で満たしたと言っていた。


 だから、もしかしたら水田を満たす程の水を出すことが出来るかもしれないと思ったわけだ。


「ええ出来ますよ?」


 さも当たり前のことのようにサラリと言い放つヤトが、随分と頼もしく思えた。


 そんなことがあり、今日の村へ向かうメンバーの中にヤトが入った。


 勇太は違った。


 勇太はいわゆる歩とヨーコとはなちゃんが泥だらけになった「楽しいこと」に興味津々のようで、これから訪れるであろう最高の時に胸を躍らせ、山道の段階からテンションも髙かった。


 現に今も、偶然目に入った白い蝶を捕まえようと、野生児のようにソラと走り回っている。


 子供とは体力の限りまで遊び回り、力尽きたら電池が切れたかのように眠ってしまう。


 今日の帰りはきっと勇太をおんぶすることになるのだろう、と歩は確信を持っていた。


 さて、蝶々を追いかけて列からはみ出した勇太であったが、そんな無邪気な少年の背中を、獲物を見つめる蛇のような視線が襲った。


 視線を浴びせているのはヨーコであり、彼女は昨日の水田での一件を根に持っており、是非とも勇太に同じ苦しみを味わってもらいたいという屈折した感情を抱いていた。


 その感情が、およそ少年の背中に浴びせるものではない視線となって表れてしまっていた。


  勇太とソラに追われていた蝶々は、ヒラヒラと高度を上げ、少年の掌から逃げて行く。


「ああん・・・」と悔しそうに空へ手を伸ばした時だった、彼は自身の背中に浴びせられる、刺すような視線に気付いた。


ー む・・・誰かが・・・僕の桃のようなお尻を見ている・・・?


 思わず少年の水蜜桃のような尻に力が入る。


 無意識に括約筋が搾り上げられ、尻に二つの可愛らしいエクボを作った。


 勇太は自分の尻に自信を持っていたし、少年の両親もそのことを良く褒めていた。


 形良し、手触り良し、鮮度良しの三拍子揃った自慢の尻は、どこに出しても恥ずかしくない。


 例えば誰かに「君の自信のあることは?」と問われれば勇太は迷うことなく「お尻」と答えることだろう。


ー なんて熱い視線なんだ・・・思わずお尻に汗を掻いちゃったよ・・・。でも一体誰が・・・?誰が僕の自慢のお尻を見つめているんだ・・・?


 勇太は視線の主に異変を察知されぬよう、息を殺し慎重に辺りを探った。


ー 歩くんと・・・ヤトちゃんは僕の前にいる・・・。ならば・・・この視線を僕に向けているのは・・・ヨーコちゃんッ・・・!?


 思い当たる節は今までに何度もあった。


 ヨーコは大抵、勇太の後ろを歩くし、彼を抱っこする時など、偶然を装い幾度となく尻を触られた。


 自慢だとは言っても、まさか17歳の女性のことをこんなにも惑わしてしまうとは・・・。


ー ふっ・・・何とも罪作りなお尻だぜ・・・。


 勇太はニヒルな笑みを浮かべ、ヤレヤレといった感じでため息を吐いた。


「勇太・・・どうしたんだ・・・?」

「どうしたんですか・・・?」 


 勇太が勘違いの妄想に浸っていると、心配した歩とヤトが声をかける。


「歩くん・・・ヤトちゃん・・・。僕は・・・僕のお尻は一人の女性の心を惑わせてしまったよ・・・」

「?」

「?」


 歩とヤトが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、今もなお勇太の尻に熱い視線を注ぎ続けているであろう熱狂的なファンの期待に応えるかのように、少年は尻を軽く左右に振るのであった。


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