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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
1章 犬友達は頑張る
11/26

現代人達は召喚される 11


 村へ行く歩達を見送った後、ヤトにはやることが山のようにあった。


 屋敷の全体の様子も把握しておきたいし、何があって何がないのか、特に生活に深く関わる設備などに関しては知っておかなければならない事柄だった。


 それに今朝、ヨーコ達が自発的に行っていたが、屋敷の掃除や修繕も必要になってくるだろう。


 元々が立派な建物であるから、そこに少し手を加えてやれば本来の姿を取り戻すはずだ。


ー そういえば庭園の木々達にヨーコちゃんの成長促進をかけたらどうなるのでしょうね?根本の土を歩さんに豊穣の土に変えてもらって・・・。


 庭園には桜、梅、椿、それに桃の木があったが、どれもが枯れ果ててしまっていた。


 もしもこの木々が青々と茂り花を咲かせたら、どんなに見応えのある風景となるだろうか。


 ヤトは忘れないように心のノートにその事を書き留めた。


「ヤトやヤトやッ!母上の畑で野菜を育てるのじゃッ!」


 幸姫が尻尾を振りながらヤトの手を引く。


「ヤト姉ッ早く早くッ!」

「にゃわんッにゃわんッ!」


 子供達は先程見た、驚くべき速度で成長する野菜が忘れられないらしい。


 興奮のあまりピョンピョンと飛び跳ねながらヤトを急かした。


 ちなみに勇太は畑が一望出来る部屋でソラとゴン太と寝ていた。


 厳密にはソラは起きているが、勇太の抱き枕と化している。


 大型犬は人間の7倍程度で年を取ると言われているから、5歳のソラは人に換算すると35歳である。


 ここまでくると、親と子程の開きだ。


 ソラからしてみれば、随分と年の離れた弟と言ったところであろうか。


 畑に着くなり、幸姫と彩はヨーコの残した種を畑に植え始める。


 二人とも期待に目を輝かせ、六つの瞳でジイッと種の様子を伺っていた。


 六つと言ったのは、そこに小梅さんも加わっていたからで、どうやら小梅さんも野菜の成長する光景がツボにはまったらしい。


 茶色の瞳で今か今かとその時を待っていた。


 子供達と猫の期待に応えるかのように、種は成長を始める。


「わあ~ッ!」

「にゃわんにゃわんッ!」


 子供達の歓声が畑に響いていた。



☆彡☆彡☆彡



 昼時になった。


 ヤトは畑で採れたキュウリにナス、それにカボチャを使って昼食を拵えた。


 それにシカの肉を焼いたものを出すと、子供達は「美味しい~ッ」とモリモリご飯を食べた。


 その頃には勇太もすっかり起き出しており「ヤトちゃん料理上手だね。これは一流店でも通用するよ」などとマセたことを言っていた。


 果たして勇太が一流店に行ったことがあるかどうかは疑問が尽きないが、この少年は満足そうに服の袖で口元を拭い、行儀の悪さを彩に注意されていた。


 午前中をたっぷりと使い、畑での育成と収穫を終えると、成長促進のスキルをかけられた種に夢中だった子供達も少しは落ち着いたようだった。


「ヤト姉、次は何するの~?」

「ヤトや午後は何をするのじゃ?」

「何するの何するの?」


 体力と元気が有り余っている子供達は、次なる好奇心を満たす物を求めていた。


「そうですねぇ~」


 シメた、とヤトは思った。


 自分にやりたい事があった所で、子供達を放ってはおけないし、そんな選択肢をヤトは持ち合わせていない。


 こういった場合、子供が夢中になっている物に飽きるか、新たな物を催促するまで待つに限ることを彼女は知っていた。


 ヤトは屋敷の様子を知りたがっているし、それには屋敷に詳しい幸姫の協力が不可欠であったから、ヤトは子供達にこんなことを提案してみせる。


「屋敷の中を探検してみませんか?」

「探検・・・するするッ!探検するよッ!」


 探検という言葉に男心をくすぐられたのか、勇太が眼を輝かせる。


 この時分の男にとって、毎日が冒険の連続であり、小さな体に溢れんばかりの好奇心を備えているものだ。


 時には手痛い失敗も経験し、そうやって成長していく。


「この大きな屋敷を歩き回って、歩さんやヨーコさんよりも詳しくなりましょうよ。それで、二人に屋敷のことを教えてあげましょう」

「私が・・・歩兄やヨーコ姉に・・・教える・・・」


 どうやら彩にはこちらの方が効いたらしい。


 一人っ子の彩であるが、事あるごとに年下の勇太の世話を焼いていた。


 お姉ちゃん風を吹かせたいのか、あるいは純粋に人に何かを教えるのが好きなのかもしれない。


 そういえばはなちゃんにもレディの心得なる物をコンコンと説いていた。


 それがはなちゃんにキチンと伝わっていたかどうかは疑問が残る所ではあるが・・・。


「けれど私達はこの屋敷のことがよく分かりません。そこで幸姫様に、いえ()()()にこの探検の道案内を頼みたいのです」

「隊長・・・妾が・・・隊長・・・」


 幸姫はホァ~とうっとりとした表情で、その官能的な言葉を繰り返した。


 幸隊長とはえらく語呂が悪いように感じるが、この少女に取ってはそうでもないらしい。


 頬を赤く紅潮させ、放っておいたらとろけてしまいそうな表情だ。


「あい分かったッ!皆の者ッ妾のことは幸隊長と呼ぶのじゃッ!」

「「「幸隊長ッ!」」」「「「ワンワンッ!にゃわんッ!」」」

「もう一回呼ぶのじゃッ!!」

「「「幸隊長ッ!」」」「「「ワンワンッ!にゃわんッ!」」」

「皆の者ッ!妾の後に続くのじゃッ!」

「「「了解ですッ!」」」「「「ワンワンッ!にゃわんッ!」」」


 こうして幸姫の屋敷探検隊が結成された。


 以下に部隊の編制を書き記したいと思う。


隊長:幸姫 5歳 犬神の姫


副隊長:ヤト ?歳 人間?


偵察:勇太 5歳 幼稚園年長

   ソラ 5歳 ゴールデンレトリバー


お色気:彩 8歳 魔法少女らしい

    小梅さん 10歳 猫


長老:ゴン太 13歳 雑種


 人は未知なる物への探求をやめることは出来ない。


 それは人の本能であり、あるいは私達は常に何らかの刺激を求めているものなのかもしれない。


 そこに例え大きな困難が待ち受けていたとしても、人は冒険をやめないのだろう。


 今日もまた、探求の魔力に取り憑かれた者達が、山奥にひっそりと佇む古風な屋敷に足を踏み入れる。



☆彡☆彡☆彡



歩達が屋敷に戻ると、それまでの寂しい雰囲気とは何かが違っていた。


 すっかり日が落ちてしまっていたのだが、屋敷の門には行灯の灯りがともり、歩達を出迎えてくれた。


 門の中に入れば、庭園に幾つもある灯篭が、これまた玉砂利の敷き詰められた道を照らしている。


「屋敷にはこんなに油などないはずだが・・・」


 アサヒが困惑したように灯篭を見つめている。


 行灯にしても灯篭にしても、火を灯すには油が必要であった。


 菜種油に代表される植物性の油や、動物性の油などに大別されるが、アサヒが思わず呟いてしまうのも無理はなかった。


 屋敷には必要最低限の僅かな菜種油しか備えられていない。


 庭園から屋敷を見渡せば、そこら中の部屋から柔らかな灯りが漏れていた。


 現代の光のように無機質な白色ではなく、ややオレンジがかった暖かい色の明かりであった。


 古風な庭園と屋敷の様相とも相まって、どこか幻想的な光景に、思わず歩とヨーコは目を奪われた。


 しばらくそうしていると、焼けた肉の匂いと共に、野菜のスープの香りが鼻をくすぐった。


 村で簡単な昼食は食べたが、肉体労働をしたせいか腹はペコペコだった。


「ワーイッ!歩くん達が帰って来たよ~ッ!」


 玄関から勇太とソラが飛び出してくる。


「みんなお帰り~ッ!」

「にゃわ~んッ!」


 次いで、彩と小梅さんも飛び出してきた。


 ゴン太は鳴き声こそ上げなかったが、パタパタと尻尾を振り、ヨーコの足に身を寄せた。


「歩兄にヨーコ姉、ビショビショだけどどうしたの?」

「う・・うん・・・色々あってね・・・」


 歩が言葉を濁すと、勇太が敏感に反応する。


「歩くんとヨーコちゃん・・・さては・・・僕に内緒で楽しいことをしていたね?」

「たの・・・しいことなのかなアレは・・・?」

「楽しくないでしょ」


 ヨーコがキッパリと否定する。


 が、勇太にはどうやらそうは映らなかったらしい。


「歩くんッ!僕も楽しいことしたいよッ!明日は僕も一緒に村に行くよ~ッ!」

「フフ・・・フッフッフ・・・。そうかそうか・・・。よし分かった。勇太にも楽しいことをさせてあげようじゃないか・・・」

「そうだね・・・勇太・・・覚悟しな・・・」


 歩とヨーコの目が怪しく光った。


「そういえば勇太、その服どうしたんだ?」


 勇太とじゃれ合いながらも、歩はその変化が気になった。


 勇太は半袖シャツにハーフパンツを履いていたはずだったが、上下がすえた白色の木綿の服に変わっていた。

 

 勇太だけではなく、彩も同じ服を着ている。


 村人達も同様の格好をしていたが、屋敷にも同じ服があったらしい。


「屋敷に置いてあった服に着替えたのだな?」


 アサヒが彩の頭の上に手を置いた。


「そうだよ~。屋敷を探検してる時に見つけたんだよ~」


 彩はくすぐったそうに目を細めた。


「へぇ~。勇太も彩も屋敷を探検してたんだ」


 ヨーコは膝を折り、勇太達と目線を合わせると、木綿の服に手を伸ばした。


 どうやら縫い目や素材の丈夫さを入念にチェックしているようだ。


 ヨーコは服飾系の仕事に興味があるのか、こういった仕草をよくする。


 歩が新しい服を買った時などは「幾らで買った?」から質問が始まり、入念なチェックの後に大抵最後はヨーコの深いため息で締めくくられる。


 ヨーコはちょっとしたファッション鑑定人であり、犬友達からは一目置かれていた。


「いいじゃんコレ」


 そんなヨーコがそう褒めると、勇太はニコリと笑い「ヨーコちゃんと歩くんの分もあるよ」と報告する。


 幸姫の屋敷探検隊は、見事に宝を見つけ出していた。


「歩兄もヨーコ姉も屋敷のことは全然知らないでしょう?後で私が色々と教えてあげるね」


 彩が得意気に鼻を鳴らした。


 確かに歩もヨーコも朝早くに村に出掛けたため、探検をしていた子供達に比べて屋敷の内部の知識に乏しい。


 せいぜいが大広間と寝室、それに厠の場所を知っている程度であった。


「よろしくお願いするよ」


 歩が彩の話に乗ると、少女は目を輝かせた。


「この火はどうやって燃えているのだ?」


 アサヒはその事が気になっていたらしい。


 石の灯篭の火を観察しては、その火を維持するための油が使われていないことにも気付いていた。


「ヤトちゃんがね、ボッとやったんだよ」


 身振り手振りで一生懸命に説明してくれる勇太であったが、いまいち要領が掴めない。


 大人達が首を傾げていると、今度は彩が口を開いた。


「ヤト姉が火を出したんだよ。こう・・・ボッと」


 情報は増えていないが、どうやらヤトがボッと火を出したらしい。


 そういえば、ヤトは昨日の食事の席でも掌から火を出していたなと、歩は思い出す。


 ヤトはスキルの鑑定を丁重に辞退していたが、もしかしたら彩と同じように【魔法】などのスキルを持っているのかもしれない。


 多分、聞いた所で「ウフフフ」とお上品に笑われて答えてくれないのだろうし、ヤトにはミステリアスな部分もあるから歩はあまり気にしないことにした。


「あらあらお帰りなさい」

「みんな戻ったかッ!どうじゃった?どうじゃった?」


 玄関には優しく微笑むヤトと、ピョンピョンと飛び跳ねる幸姫の姿があった。


 絢爛なお嬢様ドレスに身を包んでいたヤトであったが、今は子供達と同じように質素な木綿の服を着ていた。


 ヤトの普段着というか、いつもドレスを着ていたため、歩の目にはそんな彼女の姿が新鮮に映る。


「大成功だよ。村の皆も喜んでた。幸姫によろしくって言ってたよ」


 ヨーコが代表して答えると、幸姫はそれはもう嬉しそうにニカッと笑い、耳と尻尾を激しく動かした。


「畑仕事で汗も沢山かいたでしょう・・・?お風呂の準備が出来ていますから夕餉の前に是非入って下さい。そのお洋服は洗濯しましょうね」


 お風呂と聞いて歩とヨーコが喰い付いた。


 ヤトの言う通り、慣れない畑仕事で汗も一杯かいたが、何よりも水田でのダメージが大き過ぎた。


 せいぜいが屋敷の井戸の水で体を洗い流すくらいだなと半ば覚悟していたが、まさかの言葉がヤトの口から飛び出した。


「お風呂・・・お風呂があるんですか・・・?」

「ええ。立派なお風呂がありますよ。男湯と女湯も別れていますし」

「凄い・・・。お風呂なんてないって諦めてた・・・」


 ヨーコが正直な感想を漏らす。


「ヤ・・・ヤト殿・・・」アサヒは信じられないといった表情をしている。


「屋敷には湯を沸かす程の蒔など無かったはずだが・・・」


「うむうむ。それはじゃな・・・」幸姫がまるで自分のことのように得意気に口を開いた。


「ヤトが水をジャバ~ッと出して火をボッと出して湯を温めたのじゃ。のうヤト?」

「ええ。ジャバ~ッと出してボッですわ」


 幸姫が自慢の家臣を誇るかのように、ヤトの足に抱き付いた。


 そんな幸姫の頭をヤトが優しく撫でた。この二人もなかなか仲が良い。


「ほらほらヨーコ姉ッアサヒ姉ッ!私がお風呂まで案内してあげるよッ!」


 彩がヨーコとアサヒの手を引っ張って連れて行く。


 アサヒはお風呂の場所を知っていそうなものだが、彩にはそんなこと関係ないらしい。


 ちゃっかりとその女性達の輪にはなちゃんも混じっていた。


 はなちゃんも一端のレディなのである。


「じゃあ歩くんは僕が案内してあげようかな」

「うんよろしく。勇太はもうお風呂に入ったの?」

「ううん。歩くんが帰って来るのを待ってた」

「それはそれはありがとうございます。流石は勇太だな」 

「でしょでしょ?僕ってさすがでしょ?」

「ああ。流石って言葉は勇太のためにあるようなものだ」

「ふっふっふ。じゃあ歩くんにはさすがな僕の体を洗わせてあげようかな~」

「ははぁ~。ありがたき幸せにございます」

「良いんだよ良いんだよ。そんなにかしこまらなくて良いんだよ」


 そんな歩と勇太のやり取りを、いつの間にかヤトに抱っこされた幸姫が目を細め、楽しそうに眺めている。


 太陽が完全に沈み、夜の帳が静かに美芳の地に下りる。


 屋敷には二日前では考えられない団欒の様子が広がっていた。

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