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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
1章 犬友達は頑張る
10/26

現代人達は召喚される 10 ~ ハムちゃんとキツネさん

 

 歩は言葉を失っていた。


 村落の周辺には盆地を活かした田園や畑がどこまでも広がっており、整備された水路がその合間を縫うように走っていた。


 そのすぐ近くを流れる広大な神名川の豊富な水量が、この田園地帯を一手に支えていたのだろうが、今は機能を失ってしまっていた。


 幅20mはある神名川であったが、肝心の水量の方はと言うと、何とか枯れ果てるのを免れているような、僅かな流れを維持するのが精一杯のようで、白く乾き干からびた苔の張り付いた川石が悲愴な姿をさらしていた。


 本来であるならば多種多様の野菜や穀物で賑わっているであろう景色は、生き物の存在を拒否するかのような、不毛の大地に変わってしまっていた。


 所々で、辛うじて僅かな野菜が植えられていた。


 逆を言えば、その場所でしか育たないのだろう。


 ありあまる不毛の大地の目を盗むかのように、ひっそりと緑があった。


ー 幸姫様のお母さんの畑と一緒だ・・・。


 歩が思った通り、この村落の土も痩せていた。


 野菜の育つ土も、出涸らしの茶葉のようなもので、いつまでその恵みを与えてくれるのかも分からない。


ー でも・・・だからこそ僕が頑張らないと・・・。


 獲物の解体作業が一段落したのだろう、いつの間にか歩達を取り囲むように村人達がその様子を眺めていた。


 誰もが息を潜め、これから何が起こるのだろう?と期待に胸を躍らせていた。


 歩は手始めに、一番近くの畑にクワをさしいれた。


 乾燥した土が、幸姫の母親の畑と同様に、みるみる黒さを取り戻していく。


「おおっ・・・」


 村人達の間から、感嘆の声が漏れた。


 村の畑は屋敷の畑とは違い、一反だけでもそれなりの広さがあった。


 クワを振るうだけでも、相当な重労働である。


 しかし歩は黙々とその仕事をこなした。


 奇しくもその姿は、かつて少年時代の歩が見ていた祖父の姿に酷似していた。


 畑の土をようやく三分の一程度、豊穣の土に変えた頃、村の子供達が待ちきれないといったように畑に飛び出した。


「こっ・・・こらっ・・・」


 大人達が止めようとしたが、子供達は聞かない。


 豊穣の土を両手で掬っては「凄い凄いッ!!」「うわぁ~ッ!!」と目を輝かせている。


 そんな子供達の様子を見て、歩は思わず頬を緩ませた。


 自分の行った仕事の評価を、こんなにも間近で見ることが出来る。


 むず痒いような、誇らしいような、そんな気持ちで一杯になった。


 はなちゃんも黙ってはいない。


 彼女は屋敷の畑でしたことと同じように、豊穣の土を二本の前足で器用に砕いていく。


 千切れて飛んでいきそうなくらいに尻尾をブンブンと振り、また、そんなはなちゃんの様子を真似て、子供達も小さな手を使って一生懸命に土を細かくしていく。


「わっ・・・私達もお手伝いさせて頂いて構わないでしょうか?」


 幸姫の容態を案じていた若い犬人族の女性の手には、スキが握られていた。


 先程のおずおずとした様子とは打って変わり、すぐにでも畑に飛び出していきたい!そんな意気込みを感じさせる程に、犬耳と尻尾がせわしなく動いている。


「お願いできますか?」

「はッはいッもちろんですッ!」


 歩の返事を聞くよりも早く、彼女は畑に飛び出していた。


 彼女だけではない。


 何人もの村人達が、土を耕す農具を片手に畑に集まってくる。


 彼等は手慣れたもので、歩が豊穣の土にした箇所を、まるで争うように耕していく。


 しかしその仕事は決して雑ではなく、丹念に丹念に土を細かくしていた。


 そうなってくると忙しくなるのは歩である。


 村人にせっつかされるように、歩は顔中に汗を浮かべながらひたすらにクワを振るった。


 そうして一時間もすれば、不毛な大地の広がる、広大な田園地帯の中に、一つだけ場違いな程に立派な畑が出来上がった。


「ん・・・」


 歩がクタクタに疲れ果て、あぜ道に腰を下すと、ヨーコが竹筒に入った水を差しだしてくれた。


「ありがとうヨーコちゃん」

「アンタって意外と体力あるんだね。途中で力尽きると思ってた」

「うん・・・。いや、別に体力があるわけじゃないんだけど・・・。何て言うか、皆の喜ぶ顔を見てたら体が勝手に動いた・・・と言うかなんというか・・・」

「分かるよ。皆、嬉しそうだもん。ご苦労さん、アンタはここで休んでなよ」

 

 畑の準備が出来たのならば、次は種蒔きだ。


 ヨーコは歩の肩をポンポンと叩くと、畑の向こう側で村人と話し込んでいるアサヒの元へと小走りで戻って行った。


「お兄ちゃん凄いんだねッ!!」

「ワンワンッ!!」


 子供達とはなちゃんが歩のすぐ横に座り込んだ。


 幸姫よりも幼い少女もいれば、彩よりも年上の子供もいた。


 共通していたことは、誰もがキラキラと目を輝かせ、そして誰もが土で汚れていたことだ。


 何故かはなちゃんが誇らしそうに「ワオン」と吠え「私のご主人様スゴイでしょ」といった表情で歩の膝に頭を乗せ、甘えて見せた。


 そんな彼女の頭を歩が撫でると、幸せそうに目を瞑り「ワフン」と息を吐くのだった。



☆彡☆彡☆彡



 ヨーコがアサヒの元へ戻ると、屋敷で見たものよりもさらに多くの種類の野菜の種が並べられていた。


 ヨーコは一人暮らしで、自分で料理をするため、見知った種の方が多かったが、それでも中には何の野菜の種なのか分からない物も沢山あった。


 聞けばその種達は、大事に保管されていた物だそうで、その気持ちも十分に理解できた。


 種とは当たり前のことだが、全ての野菜の素であり、逆を言えば、種が無くなってしまえばその野菜が消えることを意味する。


 美芳の民は、かつてこの地で栽培されていた野菜の種を、大切に大切に保管していたのだ。


 そんな話を聞き、ヨーコの体にも思わず力が入った。


「屋敷ではキュウリが丸々と太った実をつけて育ってくれた」


 アサヒがそう説明してみるが、村人達は不思議そうに首を傾げていた。


「アサヒ様・・・」


 その中の一人が、言いにくそうに、伏し目がちに口を開いた。


「ヤト様にライ様・・・それに歩様とヨーコ様も昨日から家臣に加わったと聞きました・・・。途方もない力をお持ちとも聞きましたが・・・その・・・昨日今日でキュウリが育つものなのでしょうか・・・?」

「もっともな話だ。説明するよりも見て貰った方が早いな。ヨーコ殿・・・お願いできるか・・・?」


 村人達とアサヒの視線がヨーコに集中する。


 ヨーコは何も言わずにコクリと頷くと、キュウリの種を掌の上に乗せ、屋敷でやったと同じように強く念じた。


ー どうか沢山の実を付けてください・・・。


 ヨーコの想いに応えるように、種が一瞬光った。


 彼女はその種を、歩が豊穣の土とし、村人達が耕した畑に埋めた。


 種はすぐに成長を始めた。


 まずは可愛らしい芽を土から覗かせ、ニョキニョキと伸び、支柱が要らない程に茎を太くし、やがて数多くの黄色の花を咲かせた。


 アサヒが心得たとばかりに花達を受粉させる。


 そうすると、最終的に十五もの実を付け、成長は止まった。


 屋敷の物よりもやや小ぶりであったが、その代わりに倍近い数の実を付けた。


 その凄まじい成長スピードを一度見たことのある歩達は、改めてその速度に驚いた程度であったが、村人達は違った。


 誰もが眼を見開き、口をあんぐりと開け、微動だにしない。


 まるでその場の時が止まったかのように誰も動かなかったが、その静寂を破ったのも、やはり子供達であった。


「うわぁ~ッ!!凄い凄いッ!!見てみてこんなにキュウリがなってるよ~ッ!!」

「とげとげしてて元気一杯のキュウリだよ~ッ!!」

「こんなに大きいキュウリはじめて見た~ッ!!」


 幸姫よりも幼い犬人族の少女が、満面の笑顔でキュウリをもいで口に運ぼうとして、動きを止めた。


 食料の不足している村であるから、その行動は軽はずみと言えば軽はずみであった。


 もしかしたら少女は食料のことで両親に怒られたことがあるのかもしれない。


 その時の記憶が蘇ったのか、それまで激しく左右に振っていた尻尾をダラリと下げ、犬耳をペタリと垂れ、今にも泣きそうな顔でで恐る恐るヨーコの方を振り返った。


「いいよ食べな・・・お腹一杯食べな。すぐに新しい種を植えてあげるから」


 ヨーコは優しく微笑み、少女を促した。


 途端に少女の表情は花が咲いたように明るくなり、尻尾をパタパタと振りながらキュウリに噛り付いた。


「皆も食べなよ」


 ヨーコのその言葉で、他の子供達もキュウリを口にした。


 キュウリはその数を減らすと、再び花を付けた。


 アサヒが受粉させ、キュウリの実がなり、子供達が食べる、そんなことを何回も繰り返した。


ー 20・・・30・・・34・・・。


 あぜ道からその様子を眺めていた歩であったが、彼はキュウリに実を付けた数を数えていた。


 ヨーコのスキルと、歩のスキルの恩恵もあるだろうが、一つのキュウリから一体どれくらいの実が採取出来るのだろうか?そんな純粋な好奇心から、歩は次々と子供達の口へと運ばれるキュウリの数を数えた。


 40を数えた頃、キュウリはその茎と葉を枯草色に変えた。


 そして、それまでの実とは大きさも、色もまるで違う実を一つだけ付け、ついには枯れた。


ー 種を獲れってことなのかな・・・?


 最後の実は、ヘチマ程の大きさがあった。青々としたそれまでの実とは違い、やや黄色く熟していた。


 歩はあぜ道から腰を上げると、その実を手に取った。


 ズシリと重く、実は歩の手の中でさらに追熟を始め、遂には全身を真っ黄色に染め上げた。


 この実を縦に切れば、きっと中には溢れんばかりの種が詰まっていることだろう。

 

 ふと畑を見渡せばヨーコが新しい種を植え、その周りを子供だけではなく、大人達も取り囲んでいた。


 ある子供はヨーコの腕を抱き抱え、ある子供は背中に飛び付いて頬ずりをしている。


 ヨーコは少し恥ずかしそうであったが、彼女にしては珍しくその表情は穏やかだった。



☆彡☆彡☆彡



 陽が沈もうとしていた。


 あれから歩達は畑を耕す一方で、色々なことを試していた。


 まずは歩が豊穣の土へと変えた土に、ヨーコのスキルを使わない種を植えた場合だ。


 待てど暮らせど変化は現れず、これは経過を観察しようということになった。


 次にヨーコの成長促進を使った種を、痩せた土に植えた場合だ。


 種はすぐに発芽した、が、成長し実を付ける前に枯れてしまった。


 結局は歩とヨーコのスキルを合わせて使った方が良いという答えに行きついた。


 野菜の方はというと、季節に関係なく成長し実を付けるという恐ろしい結論が待っていた。


 今の季節は春の終わりだとアサヒが言っていたが、冬の野菜である大根やニンジン、カボチャなども季節に関係なく怒涛の成長を見せた。


 中でも喜ばれた物は、サツマイモやジャガイモなどの、いわゆる救荒作物と呼ばれる野菜達であった。


 他の野菜と比べて、腹持ちも良いし、主食になり得る有難い作物だ。


 サツマイモもジャガイモも、丸々と太った実の他に、小ぶりな実を付けていた。


 これは種芋にしようということで、村人が大切そうに竹籠に納めて納屋へ持ち帰っていた。


 稲にも挑戦してみた。


 野菜も大事であるが、米文化の日本から来た歩達に取っては、食卓に白米が無いのは寂しい。


 これは別の機会に後述するが、失敗だった。


 その代償として歩とヨーコの服は泥だらけになり、はなちゃんも泥まみれになり、井戸水で洗い流しはしたが、汚れは取り切れなかった。


 それに何より、服と下着がビショビショで気持ちが悪い。


 そんなこんなしていると、日が傾きだし、歩達は屋敷へと帰ることにした。


 子供達は歩とヨーコの足に抱き付き「帰らないで」と駄々をこねて見せたが、明日もまた来るからと伝えると、泣く泣くその手を放してくれた。


 村を後にする時、村人が総出で見送ってくれた。


 誰もが口々に感謝の言葉を述べ「幸姫様によろしくお伝えください」とも言っていた。


「確かに伝えます」


 そう歩が答えると、村人達は何度も頭を下げた。


 夕日のオレンジ色に染まった山道を、三人と二匹は登って行く。


 屋敷から村まで下りの坂道で四十分程かかった。


 帰り道ではそれが上り坂となるから、一時間以上はかかるかもしれない。


ー 身体がクタクタだ・・・。


 農作業には普段の生活では使わない筋肉を多用すため、歩の体は疲れ果てていた。


 ちょっとした段差に躓いたり、足を高く上げようにも、鉛の重りが張り付いたように自由に動かない。


 はなちゃんが「どしたの?」といった様子で歩を見上げている。

 

 アサヒもヨーコも、そんな歩の様子を見て、歩くペースを落としてくれた。


 そうしてたっぷり一時間以上かけて、三人と二匹は屋敷に戻ったのであった。



☆彡☆彡☆彡



 ~ ハムちゃんとキツネさん


 歩を小学校に送り出した後のハムちゃんとキツネさんの一日は忙しい。


 まずは畑に出る歩の祖父、源次郎の手伝いから午前中が始まる。


 手伝いといっても、ハムちゃんとキツネさんは手当たり次第に畑を掘るものだから、本人達に言わせれば『畑を耕すのを手伝っているのです』となるのだろうが、傍目にはただじゃれているだけにしか見えない。


 もっとも、源次郎がこの二人の行為を咎めることはない。


 それ所か「今日も手伝ってくれてありがとうなぁ~」とクワを片手に礼の言葉を述べた。


 源次郎にとって、目に入れても痛くない孫が大事なように、歩の友達であるこの二人もまた大切な存在なのだ。


 そうして二時間も源次郎の仕事を手伝うと、お駄賃の代わりに畑の作物をくれる。


 その野菜が二人のお昼ご飯でもあり、腹を満たした後は自由時間だ。


 ハムちゃんは定位置のキツネさんの頭の上に乗っかる。


『お爺様、私達は遊んできます』

『お爺たま~行ってくるのハム~』

「おうおう気を付けてな」


 ハムちゃんとキツネさんの言葉は人には通じないが、ハムちゃんがキツネさんの頭の上に乗っかれば、それは遊びに行くサインだということを源次郎は知っていた。


 だからいつも二人にこう言葉をかけるのだ。


 キツネさんは全身の筋肉を躍動させ、森へと駆けて行く。


 その頭の上ではキャッキャッとはしゃぐハムちゃんの姿があった。


 そんな二人の後ろ姿を、源次郎は目を細めて見送るのであった。

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