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LIVE ANOTHER DAY ~僕達の物語~  作者: SAKURA
1章 犬友達は頑張る
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現代人達は召喚される 1 ~ある日の歩

 田中歩たなかあゆむは自身に起こった出来事を未だに理解できずにいた。


 いつものように、犬好きの人達の集まる公園で愛犬のはなちゃんの散歩をし、他愛のない世間話をして家に帰るはずだった。


 あれは確か、最年少の佐藤勇太さとうゆうた()()()に犬達が尻尾を振って喜ぶチャールという名のおやつをお供えした時のことだった。


 不意に自分達の体が光に包まれ、気が付いたら・・・ここに居た・・・。


 そこがどうやら山の中であると分かったのは、頭が冷静さを取り戻したからであろう。


 背の高い樹々が日の光を遮り、辺りはどこか薄暗く、かといって不安だとか恐怖などといった感情は抱かなかった。

神社やお寺で感じる神々しさというか、思わず背筋が伸びてしまうような、鮮烈な清々しさがその空間にはあった。


 巨木の立ち並ぶ中を、砂利が敷き詰められた細い一本の道があった。


 道は樹々を避けるようにうねり、そのため全貌を把握することはできなかったが、しかしどうやら山の頂上を目指しているであろうことは容易に想像できた。


 湿った緑の匂いが鼻をくすぐる。

 樹々のざわめきに混じり、鳥の鳴き声も聞こえてくる。


「ワンッワンッ!」 


 足元に視線を落とせば、愛犬のはなちゃんがお利口さんのように座り、パタパタと尻尾を振っていて、歩は思わずその頭を撫でた。


 ハナちゃんの真っ白の体は、薄暗さをものともせず真っ白のままだ。チャームポイントのピンク色のお鼻も可愛らしい。


「なんで僕達はこんな所に居るんだろうね・・・?」

「ワオン?」


 歩の問いかけに、はなちゃんは可愛らしく小首を傾げた。

 さてどうしたものか?と冷静さを取り戻した頭で考えてみる。


 ここがどこか分からない。

 この道を辿り、山頂を目指して良いのかも分からない。


 さりとて山を下るにしても、どこに出るのかが分からない。

 この場で待つべきなのか、動き出すべきなのかの判断がつかなかった。


「歩さん・・・」


 不意に背後から声がした。


「あっ・・・ヤトさん・・・。ヤトさんもこの山に・・・?」


 振り返れば、犬友達のヤトが立っていた。

 その傍らでは、彼女の愛犬であるライが凛々しくお座りをしている。


 ヤトは歩と目が合うと、切れ長の瞳を涼やかに細め微笑んだ。

 やや赤みを帯びた黄褐色の長い髪が嬉しそうに揺れる。

 

「良かった・・・歩さんがすぐに見つかって・・・」

「もしかして探してくれたんですか?」

「ええ。もちろんです」

「それはそれはありがとうございます」

「いえいえ」


 飼い主同士が再会を喜び合う中、はなちゃんは耳をペタンと畳みライに顔を近付ける。

 ライも銀色の尻尾をしきりに振りながら、はなちゃんと挨拶を交わしていた。


「ここは・・・どこなのでしょうか・・・?」

「・・・恐らく・・・」


 ヤトが口を開こうとすると、どこかから少年の泣き声が聞こえてきた。


 ここどこなの~ッ?歩く~んッ!!ヤトちゃ~んッ!!みんなどこ~~ッ!!


 声の主が佐藤勇太であることはすぐに分かった。


 大人の歩でさえも戸惑う状況である。

 幼稚園の年長さんである佐藤勇太には受け入れがたい状況であることは容易に想像できた。


 歩とヤトは目を合わせると、声の主の元へ急いで駆けだした。



☆彡 ☆彡 ☆彡



~ ある日の歩


 田中歩は26歳になる会社員である。


 彼は四年前から雑種の大型犬を飼っていて、特に不満もなく毎日を過ごしていた。


 朝と夕の散歩は大変な時もあるが、それ以上に尻尾を目一杯に振り、ルンルンなはなちゃんを見ると、疲れなんて吹き飛んだ。


 はなちゃんを飼い始めてすぐに、ヤトと出会った。


 彼女のことについては何も知らない。

 はなちゃんの散歩をしていると、必ずといっていい程ヤトと出会った。


 寝坊して散歩の時間が遅れたり、残業のため夕方の散歩の時間がズレた時でさえ、何故かヤトはライの散歩をしていて、歩と出会う。


ー ヤトさんと良く出会うなぁ~・・・。


 そうは思うが、彼は疑問を深く追求しない、潔いというか豪胆な精神を持ち合わせていた。


 だから一年前、転勤が決まって遠くの街に引っ越した時、当たり前のようにヤトとライが散歩をしていても


ー 偶然もあるもんだ・・・。


 と特に問題にしなかった。

 ちなみにヤトの談によれば、父の会社の都合で自分も偶然同じ街に引っ越してきたらしい。


 整った顔立ちに切れ長の瞳を持ち、外国の人のような髪色のヤトは、どうやら父親の経営する会社で働いているらしかった。


 それ以上のことを歩は知らない。

 何か質問してみても「ウフフフ」とお上品に笑われるだけで、情報を得ることは出来なかった。


 ヤトといえば、連れている犬のライも少し変わっている。


 歩は犬の種類にあまり詳しくないが、銀色に輝く体毛と凛々しい顔付は、ちょっと犬には見えない。

 時折覗かせる強靭な牙など、まるで狼だ。


 そのことを聞いたこともあるが「ウフフフ」「ワフフフ」とヤトとライにお上品に笑われてはぐらかされてしまった。


「歩くん、ヤトちゃん少し変わってない?」


 犬がきっかけで知り合った佐藤勇太は常々疑問を口にしていた。


 少年は雄のゴールデンレトリバーを連れていて、なんでも彼が産まれたその日に親が買ってきたそうで、いってみれば兄弟のような関係である。


 名前をソラといって、勇太とソラはいつも二人で連れ立って散歩をしている。


 どちらかと言えば、ソラが勇太の散歩をしているようにも見える。


 勇太はまだ5歳で、目に映る物が余程魅力的に映るらしく、公園でもよくソラのリードをほっぽり出してはジャングルジムやブランコで遊んでいた。


 するとソラは自分でリードを咥えて、勇太の側までテクテク歩いて行き、少年が遊び終わるまでジッと待っている。


「あの犬は頭が良い」というのが、公園でのもっぱらの評価だ。


「変わってる・・・のかな・・・?」


 勇太の疑問に、歩も過去を思い出してみる。


 一見すると上流階級のお嬢様のヤトは、いつも真っ白なお嬢様帽子を被り、フリルの付いた真っ白なお嬢様ドレスを着ている。


 そして去り際には「ご機嫌よう」と鈴の音のようなお淑やかな声で挨拶をする。

 彼女には深窓の令嬢という言葉がピッタリである。


「好きな食べ物のことを聞いたらね、油揚げって言ってた」

「油揚げおいしいじゃん」

「あんなお金持ちのお嬢様なのに、油揚げが好きなんだよ?」

「ふむ・・・?」

「お金持ちだったらもっと良い物が好きそう」

「あ~・・・。どうなんだろうね?良い物を食べ過ぎて油揚げに行きついたのかもしれないよ?」

「でも歩くん油揚げだよ?僕は少しばかり変わってると思うんだ」

「ちなみに勇太は何が好きなの?」

「唐揚げッ!!」

「唐揚げ美味しいもんなぁ~」


 歩は勇太に相槌を打ちながら、佐藤家の唐揚げに思いを馳せた。


 勇太の母由紀子の作る唐揚げは、とにかく美味い。


 佐藤家秘伝の生姜とニンニクをたっぷりと使ったタレに大振りの鶏肉を漬け込み、時間をかけて油で揚げるその唐揚げは、暴力的なまでにジューシーで、白米が幾らあっても足りない。


 特筆すべきは、なんとその唐揚げにウスターソースをかけて食べるという方法が存在することである。

 スパイシーでジューシーで、歩の持つ唐揚げのイメージはすっかり刷新されてしまった程だ。


 勇太が好きな食べ物のいの一番に上げるのも納得できる。


 ちなみに歩はおすそ分けとして何度もこの唐揚げを貰っている。

 いつも勇太少年のつまみ食いの跡が残っているのだが、それはまあご愛敬というものだろう。


「今夜のおかずは唐揚げってお母さんが言ってた」

「おっ、勇太やったじゃん」

「うん。だから僕はもう帰らないといけない」


 どうやら少年の興味はヤトから離れ、唐揚げに向いたようだ。


 勇太が走り出すと、リードを口に咥えたソラが手加減をした走りでその後を追う。


「じゃ~ね~歩くんッ!また明日~ッ!」

「お~う。気を付けて帰れよ~」


 街はすっかり茜色に染まる。

 夕日はハナちゃんの真っ白の体を柴犬色に染め上げる。


「あれ?はなちゃん柴犬さんになったのかな?」

「ワフワフ」


ー 今晩のおかず・・・何にしようかなぁ~・・・。


 そんなことを考えながら、歩とはなちゃんは家路へと急ぐのだった。

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