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三十一限目 〜早まる鼓動〜

「……ところで猫山先輩と桔梗達はどうなった?」


 俺は一番心配していた事を、雑鬼たちに聞く。

 すると雑鬼たちは、飛び跳ねながら……。


『桔梗が「ピカーン」って雷を出して』

『化け物に当てて』


 どうやら桔梗は攻撃手段として、『飛雷神(ひらいしん)』を化け物に向けてはなったようだ。


『でも化け物にはそれが効かなくて』

『今度は桔梗に向けて化け物が口から』

『大量の水をドバーって!』

「なっ……!?」


 ――――桔梗の攻撃は効かず、逆に化け物からカウンターを食らったのか……!?


 反射的に「桔梗は無事か!?」と雑鬼たちを問い詰めそうになったが、それをぐっと堪える。


『それを千里が桔梗を捕まえてよけて』

『近くの教室に引きこもったの!』


 桔梗の無事を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。猫山先輩が桔梗を守ってくれたのか。


『そしたら化け物がドアを殴りだして』

『少ししたらドアが壊れて』

『化け物が教室に入ったのを』

『千里が無理やり引きずり出して』

『千里が一人で化け物の相手をしたの!』


 今日は()()()()()猫山先輩が、不利な状況を覚悟で化け物の相手を自ら引き受けた……俺が来るまでの時間を、猫山先輩が稼いだのか?


『でも桔梗たちが廊下に出て来たら』

『化け物が顔だけを桔梗たちに向けてきて』

『それを止めようとした千里が』

『化け物に手足捕まえられて』

『千里の顔を目掛けて口からドバーって』

『奥に「ドーン!」とやられて』

『千里が《猫》の姿になっちゃったの!』

『それで桔梗が「戦力ゼロだ」ーって』


(やっぱり、今日の猫山先輩じゃ分が悪すぎたか……)


 猫山先輩が《猫》化し、戦力がゼロになったことを聞いて再び心が焦る……だが先輩が《猫》になったのなら、大丈夫。先輩はまだ生きている。


『それでそれで』

『教室で待機しようとしたら』

『メガネが桔梗を教室に突き飛ばして』

『メガネが化け物の口から大量に出てくる』

『水をドバーって食らったの!』


 それまで黙って聞いていた俺だが、今の一言で全ての理性が崩壊した。


『それでね、そしたらメガネがー……』

「涼星は化け物の攻撃を食らったのか!?」


 俺の言葉に一匹の雑鬼が『おう!』と、どこか自慢げに答える。さらに『真正面から思いっきり!!』と、声を上げるやいなや。一匹の雑鬼が短い手で何度も殴る素振りをし、前方の雑鬼たちが何匹も一斉に倒れるフリをした。


 ――――猫山先輩ならまだしも、一般人の涼星が食らったら死ぬだろ!!


「それを早く言え……っ!!」


 俺は慌てて刀を持つと、教室のドアを勢いよく開けて走り出す。

 猛スピードで階段を駆けあがり、三階へと向かう。


 少し眠っていた為か、頭は大分楽になっていた。おかげで今までの苦労など茶番のように、辿り着くのは一瞬だった。


 三階へ辿り着いた俺の目に映ったもの。

 それは先の化け物と……桔梗や猫山先輩のシルエットとは違う、見知らぬ人物が一人。


 化け物が腕を伸ばして攻撃しようとしているが、どうやらその人影は気づいていないようだ。


 俺は声を上げるよりも先に刀を構えると、人影と化け物の間に立って腕を受け止める。




 ――――――キィィィィイィィィィイイィィィィィイイン…………ッ!!――――――




 廊下中に、金属音が鳴り響いた。

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