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二十七限目 〜焦りと現状〜

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






「あぁー、ヤベェッ……こりゃ想像以上に、キッ……ッッツいわ……」


 俺は化け物の一撃によって、外へと投げ飛ばされた。

 その時の勢いで、骨を何本か折ってしまった。


 まぁ骨は折れても、時間が経てば勝手に治るから別に良い……いや、骨とか折れるレベルのものは再生時には想像を絶する激痛が伴うから、正直言うとものすごく困る。というか、本音を言えば出来ればホイホイと何本も骨は折りたくない。


 俺の抱えている、今の問題は『()()()()()()()』、コレだ。


 俺にとっては『()()()()()()脳震盪(のうしんとう)』なのだが……普通の奴なら確実に頭が割れ、今頃天に召されていることだろう。


 しかし、この脳震盪がまた面倒なやつで。

 ……骨や傷は程度にもよるが、すぐに治っても……この強く頭を打った衝撃は、一時(いっとき)経たないと治まらない。


 脳震盪……しかも三階から落ちた時に、頭を強打したのだ。


 実際、骨は既に治っている。

 だが今の俺は目の焦点は合わないし、頭が船酔いしたようにグラグラと回って、まともに歩けない。傍から見たら、千鳥足の酔っ払いのようだろう。


 それでも何とか校舎内に入ることができた俺は、近くの下駄箱や壁に手を当てながら、刀を杖代わりに使って歩く。


 まだ一階の玄関口……しかも階段までの距離が、あと五メートルほどもある。


 普段なら、既に三階についている頃なのに……今は玄関口から入り、ここまで来るのに十五分もかかった。


 いつもならこの程度の距離、十分もかからない。もちろん、三階にたどり着くまでの時間だ。


「別に……猫、山先輩がいる、から……そんなに、心配、は、ないだろう、が……『()()()()()』が、ある、からなぁ……っ」


 『もしもの事』……それは猫山先輩が、ただの『猫』になってしまった時の事。


 猫山先輩は命の危機を感じると、()()()()『猫』の姿になり、危険を回避する能力がある。

 試しにたずねてみたら、猫山先輩本人も『気づいたらこの体質になっていた』らしく……『猫化』に至る詳しい経緯や理由などは全く分からなかった。


 なにより問題なのは、猫山先輩が『猫』になってしまったら、本当にただの『猫』ということだ。


 戦えないわ、喋れないわ……出来るとしたら、ただ愛想を振りまいて『ニャー』と鳴くだけだし。


 けどまぁ……猫山先輩の『猫パンチ』は、それなりに痛いけど……。


 猫山先輩が『()()()』なら、話は別だが……ただの『猫』わなぁー……。雑鬼たちくらいなら倒せるだろうが、あの化け物相手じゃまず無理だろう。



「くっ……とっ……とり、あ……え、ず……急が……ない……っと……っ!」



 気持ちばかりは、どんどん焦るのに……まるで自分のものではないかのように、身体が言うことをきかない。


「〜〜っ! あぁっ、もうっ! クソ焦れったい……っ!」


 半ばキレ気味に、身体を引き()るように歩けば。やっとの思いで、階段の前まで辿り着いた。



 頭がグラグラするため、手すりと刀を杖代わりにしたとして……この状態じゃまともに立って歩いて登るのは困難と判断。時間はかかるが安全を考慮(こうりょ)し、階段を()うような形で俺は階段を登り始める。



 ……ココまで来て、また階段から落ちて脳震盪を悪化させたりなんかしたら、元も子もない。

 俺のここまでの頑張りを、一瞬で無に帰してたまるか……!



 そんなこんなで、やっと階段の一階と二階の……ちょうど中間の踊り場まで登って来た。


「やっと、ここまで来た……」


 俺は短い溜め息をついて、壁に寄りかかる。


「はぁ……疲れた……少しだけ休憩……」


 三階まで残りの階段でやっと二階に着いて、あと一回踊り場を登り……さらにもう少し登らなくてはならないのだ。


 そう考えると、憂鬱になってしまう地味に長い道のり。

 本当、地味すぎるくらい地味に長い。


 息を吐いて再び登ろうと、階段に手を伸ばした瞬間――――――!!



「うっ…………っつ!!」



 先程頭を打った後遺症か、脳震盪の影響か……突然、頭が割れてしまいそうなほどの強い痛みが襲う。


「なん……で、今……ご、ろ……っ!!」


 激しい痛みに何とか耐えようと、拳を握って奥歯を食いしばる。



 ――――――……いや……違う……コレは……!



 頭痛と……さらに抗いようのない、強い眠気も襲ってくる。

 そう、いつもの急な眠気だ。


「〜〜っ、クソッ……! こんな、大事な……とき、に……っ!!」


 抗いようにも、抗えない。



「……ねこ、やま……せん、ぱ…………りょう……せ……」



 意識が遠退いていく中、俺は階段へと手を伸ばす。




 ――――――桔梗……。





 そこで俺の意識は、完全に途切れた……。

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