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二十一限目 〜身体の代償〜

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 ――――――ドン……ッ!!




「うっ……っ!」




 俺は全身に強い衝撃を受け、思わず(うめ)く。

 頭も強打したのだろう……一瞬、じわっと痺れたような感覚の後に、痛みと共に意識が朦朧(もうろう)とする。



「うっ……っつ、く! …………っ、うあぁぁっつっ!!」



 身体中から『ミシミシ……』っと音がすると同時に、言葉にならないほど、耐え難い激痛が走る。


 俺は昔から()()()()()治癒能力が優れているのか、切り傷や打軽い撲程度なら数日で治っていた。

 ……が、いつからかだろうが。俺が気づいた頃には『()()()()()()()()()()』程度から、軽い怪我なら数分……ものによっては『()()』で治ってしまうほど、人の数倍……いや、()()()()()()()()へと変化していた。


 その変化に気づいてからは、人前では怪我をしないように常に心がけ、不注意で怪我をしてしまった際は苦し紛れの言い訳で誤魔化してきた。


 まぁ、この変化のおかげなのだろうか……治癒能力と共に免疫力なども上がっているのか。変化に気づいてから十年近く、俺は無病息災である。




 しかし、この『治癒能力の向上』の変化には色々と()()()がある。


 まだ『人より治癒能力が高い』だけならともかく……今みたいに現在進行形で折れた骨が()()()()()の激痛と言ったら、例えようがないほど痛い。


 普通の人間なら、運が良ければ苦しまずに即あの世生き……もしくは骨は所々粉々に砕けたり、場合によっては複雑に折れた骨が皮膚を破って出てきたり内蔵などに突き刺さったりと、死ぬまで地獄のような痛みで苦しんでいるだろう。


 だがしかし。それでも俺は、こうして生きている。

 しかも生きているだけではなく、あの化け物などからの攻撃以外、普段は骨を折ったりしないどころか重症などの怪我をすることもそうそうない。


 例え、そこらの不良やゴロツキ程度に後頭部を金属バットで思いっきり殴られようが、不意に通り魔に背中から的確に急所を刺されようが、時速何百キロで暴走する大型トラックに()ねられようが……これらは全て致命傷には至らずに、軽い打撲や刺傷程度……もしくは無傷で済むほど、俺の身体は大変丈夫で、何食わぬ顔をしながらケロッと生きているだろう。


 ――――――……あぁーでも、さすがに高層ビルの屋上から地面に向けて突き落とされたり、スナイパーに銃で頭を撃ち抜かれたり、新幹線に()ねられたりしたら軽傷ではすまないだろうなぁ……。


 試したことがないから分からない。が、そもそも自分から進んで試そうとも思わないし、これっぽっちも試したくなどない。むしろあってたまるか、そんな状況。


 また、頭を強く打ったりして脳震盪(のうしんとう)などを起こすと、普通に歩けるまで時間がかかってしまう。

 ……そういう所は、少し不便ありで難点である。


 ……などと。こういうところが自分が『()()』じゃないということを、改めて思い知らされる。


 まぁ、胸元から刀だしている時点で、もうすでに『普通』ではない。しかも、超高度な再生機能付きである。




 呼吸を整えながら仰向けになると、「動けるまでに、どれくらいかかるかな……?」と考え、激痛に耐える。




 ――――――俺の身体は、いつからこうなったんだ……?




 打ちどころが悪かったのか、言ってる側から脳震盪を起こしている上に全身の痛みで朦朧とする頭で、俺は自分の身体がこうなった経緯を思い出そうと思考を働かす。


 少なくとも……小さい頃は、胸元から刀を取り出すことは勿論、三階から落ちても今みたいに急速に身体が再生し始めることもなかった。



 ――――――多分……俺自身が思い出せない欠けた記憶の部分に、答えがあるに違いない。



「ぐっ……っつ!」



 立ち上がろうと腕に力を入れて上半身を起こそうとすれば、身体を動かすにはまだ早かったのか……再び全身に激痛が走る。

 それでも、落ちた直後からすると、だいぶマシになった方だ。


 俺は刀を地面に突き刺して、悲鳴を上げる身体に鞭打って立ち上がる。


「……っ、はぁ……落ちたのが『()()()()()』じゃなくて、本当に良かった……」


 もし落ちたのが『混沌の狭間(あちら側)』だったら、俺は数日……いや、何十年……下手したら『現世の世界』と『隠世の世界』……どちら側にも行けず、死ぬことも出来ずに廃人のように『混沌の狭間』の中を永遠にさ迷い続けることになっていたかもしれない。


 そう考えただけで、背筋がゾッとする。


 俺は息を大きく吸い込むと、痛みと脳震盪によってふらつく身体を無理やり動かして少しずつ歩き始める。


「っつ、うぐっ……っ!」


 一歩踏み出す度に、今にも意識を手放してしまいたくなるような痛みが走る。

 その痛みに耐えるために、血が滲むほど強く唇を噛み締めながら、俺は地面を踏みしめる。


「はぁ、はぁ…………桔梗……たち、を……早、くっ……! 助けに……行か、な……い、っと……っ!」



 ――――――……頑張ってくれよ、俺の身体……!




「朝までに、あの化け物を倒さないといけないんだからな……!!」

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