朝礼 〜プロローグ〜★
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とある日の、とある学園の敷地内にある、とある旧校舎の、とある教室に……四人の男女が集っていた。
ココは旧校舎の二階にある長い廊下を進んで、一番奥から数えて三つ目にある部屋。この部屋は、とある部活動の部室として使われている教室である。
そんな部室には、一部を除き……お通夜のような、重たい空気が流れる。
――――――一人はやっと少しだけ治まったはずの胃が、再び『キリキリ』と痛むのを唇を噛みながら必死に我慢をする。明るい亜麻色の髪の、高身長の少年。
――――――一人は『興味が無い』という雰囲気を出してはいるが、実際はこの予想外の出来事に驚いている。肩まである、癖の強い黒髪の美少女。
――――――一人は今にも逃げ出しそうなほど怯えながらも、おのれがこの場所に来た目的のために必死に恐怖に耐る。いかにも気弱そうな、メガネをかけた小柄の少年。
――――――一人はそんな三人の心情などお構い無しに、全力で『ウェルカム!』と言ったように満面の笑みを浮かべている。癖のある柔らかな黒髪の、細身の美少年。
そんな中。今にも逃げ出しそうなメガネの少年は、意を決してこう宣言する。
「あの! 僕、ココに入部したいんですけど……!!」
その言葉を聞いて、残りの三人はそれぞれが違った反応を示す。
胃が限界に来たのか、色々な意味で卒倒しそうになる者。
普段あまり表情が読めないのに、今は見るからに驚いている者。
そして大いに喜び、爽やかな笑顔で歓迎しようとする者。
そんな三人の心情を、知ってか知らずか……メガネの少年は、鞄からあるものを取り出す。
それは紛うことなき――――入部届け……!
その入部届を見て、メガネの少年を歓迎しようと笑顔の少年が喜んで紙を受け取……ろうとするのを、二人の少年少女が全力で突き飛ばして止めに入る。
「君は本当に、ココがどこの部か分かってて言っているのか!?」
「お前、本当にいいのか!? 早まるな! 考え直せ!!」
「君はこんな如何にも、怪しい部活に入る義理など、微塵もないんだぞ!!」
「こんな部活に入ったら、周りから白い目で見られたり、変人扱いされるんだぞ!!」
「『普通の人間はお断り』だし、こんなのに入って、青春を棒に振ってはダメだ!!」
「そうだ! そんな必要、お前にはないんだぞ!」
「「君はもっと、自分を大切にしろぉぉぉぉぉお!!」」
二人は息を切らしながら、必死にメガネの少年に考えすよう、訴えかける。
その後ろでは、先程突き飛ばされた少年が「そこまで言わなくてもいいんじゃね?」と、まるで他人事のように言っている。
――――――何故こんなにも、二人が必死にメガネの少年の入部希望を止めるのか……。
――――――そもそも、どうしてこんなに状況に至ったのか……。
それはこれから、順を追って説明しよう。
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――――――春。
……それは、出会いと別れの季節。
青空の下、満開の桜が咲きほこっては、風にのって花びらが散っていく。
そして、俺が通うこの学園……『私立縁城学園』にも、今年も新たな生徒が入学してくる季節。
この学園は中・高一貫の学園で、俺は幼なじみに勧められて高等部から外部入学した。
正直、私立は敷居や学費面など、色々とお高いイメージがあったために、最初こそは緊張した。だが、クラスメイトや先生方も、とても優しい人たちばかりで、そんな不安はすぐに払拭された。
俺は屋上のフェンス越しに、外廊下を行き交う生徒たちを見下ろす。
今年入ったばかりの新入生たちは、内部・外部問わず。まだ慣れない新たな学園生活に、期待と不安を胸に、ソワソワしている時期であろう。
かく言う俺も、去年の今頃はといえば、今年入学してきた一年生たちのように、上手くやっていけるかという不安と、中学生とはまた違う……。大人びて見えていた、高校生になったという希望で、胸がいっぱいであった。
何を隠そう。俺こと、宇辻 優心は、今年度、無事に二学年へと進級した。
自分で言うのもなんだが、学力や普段の学園生活の素行に問題を持つような生徒ではなかったため、進級に関しては特に問題視などはしてはいなかった。
それでも、家族である祖父や弟は、俺の進級を心から祝ってくれた。
そんな俺もこの学園に入り、そして進級して初めて先輩になるのだ。
本音を言ってしまえば、俺だって一年前のあの頃のように……とまではいかずとも、ちょっとドキドキが止まらない。
そして何より、待ちに待った後輩ができるということが、俺にとってまた、別の意味で期待に胸が膨らむのである。
あぁ……、憧れていた高校ライフ。『先輩、今日もお疲れ様です♪』なんて、言って貰えるのだろうか?
普段の学園生活、そして部活動。共に『先輩』と呼ばれ、後輩から慕われるのだ。誰かに『夢見がちだ』と言われても、憧れだったのだから仕方ない。
『宇辻先輩』……うん、いい響きだ!!
……だが、俺の場合、ギリギリ前者の方はあったとしても、後者の方はほぼほぼ……いや、もはや限りなくゼロに近いと言ってもいい程あり得ない。
え? 『そんなこと、まだ分からないだろ?』って? いやいやいや。実はそれが分かるんだよ、俺には。
もはや部活に関しては、断言してもいいくらいだ。俺の所属している部活動に、後輩はおろか……。
「部員が……入ってこない……!」
俺は眉間に皺を寄せながら、深いため息をつく。
俺の所属している部活動は、色々な意味で部員が入らないのだ。
現段階での部員は、俺を含めて三人。
そして、大まかに説明すると、理由は三つ。
一つ、俺を除く部員二人がおかしい。
二つ、最低入部条件の内容がおかしい。
三つ……というか、そもそも部活動の名前がおかしい。
……などと言う、『おかしい』の三拍子が揃ったこの三つの理由の時点で、新入部員が入らないのは目に見えている。
そんな部活動の……どうしてだか副部長という肩書きを、俺はやらされている。
今はだいぶ落ち着いてはいるが……新入生が入ったことで、また新たに変な噂話が流れることだろう。
俺が入学したと同時に設立された……俺の所属する部活動。設立当時はそれは酷いものだった。
部員の一人が入学早々、教師を恐喝しただの。
実は元不良で、ここら一帯の不良を取り纏める統率者だの。
はたまた、取り壊す寸前だった旧校舎を土地ごと買収しただの。
そして俺に関しては、そんな部員二人に弱みを握られ、無理やり入部させられた被害者なのだとか。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか……一部の話には尾ヒレはヒレがついてはいるものの、一般生徒にはどれが真実でどれが虚偽なのかは分からない。
それほど、ウチの部員二人は問題児である。
そして、その噂の真実があながち間違っていないというのが、俺が真っ向から否定出来ない理由でもある。
そう考えると、俺の胃は既にキリキリと痛み始めていた。
「元はと言えば、あの二人が悪いんだ……!!」
フェンスを強く掴みながら、唇を噛んではジッと胃の痛みに耐える。
俺は一年前の己の過ちと共に、元凶である二人の顔を思い浮かべては、再びため息をつくのだった。
どうも、斐古です。
新しく『イカれた奴等の集まる部』、通称『イカ部』を執筆しました。
こちらの作品は昔書いていたものを少し(だいぶ?)リメイクしたもので、もしかしたら見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
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表紙などのイラストは自作です。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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