カツカレー
よければ最後の1行まで読んでください。
僕は今大学1年生。最近やっと落ち着いてきた。勉強においても私生活においても。今、恋愛をしたくて仕方がなかった。あの時の感動をもう一度味わいたい。最近の趣味は物語を書くこと。いつか自分が書いた物語を全国で映画化されることが夢なんだ。授業中も僕はひたすら物語を書いた。しかし、どうにも上手くいかず何度も書き直している。退屈な日常からの唯一の逃げ道だった。いつものように今日も大学の食堂で1人で学食を食べる。今日は僕の大好きなカツカレーだった。最高だ。1口食べて目を瞑る。(これは、鶏肉の揚げ具合、カレーのとろみそして米のちょうどいい柔らかさ。)それはもう感動した。目を開ける。と、なんと、目の前に見知らぬ女の人が座っていた。
「カツカレー、好きなんですね!私もです。」
彼女は名乗りもせずそれだけ言った。しかしとてつもなく可愛い。清楚系でストライクゾーンをぶち抜かれてる。
「そうなんですね。あの、失礼ですがどちら様ですか?」
名前知りたい。出来れば連絡先も…
「あ、ごめんなさい!3年の幡谷薫といいます!」
「どうも。1年の久寿米木湊です。」
少し困惑する彼女。まぁ今までも多々ある事だった。
「くすめぎ?珍しいね!どう書くの?」
「久しいに寿司の寿、米に木で久寿米木って言います。結構珍しいらしくて日本に今460人くらいしかいないそうです笑」
先輩なのに僕に敬語を使ってきて礼儀正しい人なんだなぁって思った。しかし初対面の人に敬語を使うのも当たり前かなとも思った。
「幡谷先輩でいいですか?呼び方。」
「下の名前でいいよ。あと、先輩もいらない!」
「じゃあ、薫さん…で?」
「いいよ。薫さんで!私は湊くんって呼ぶね!」
なんだこの可愛い生き物は。そう思いながら彼女と話す。
券売機で日替わりの券を買いおばちゃんに渡した。今日は私の大好きなカツカレー。私はお盆を受け取り、席を探しに向かう。向こうに超絶どタイプの男の子が座ってる。これは話すしか。目の前に座ったが目を瞑っているようで私にまだ気づいてない。開けた。気づいた。
「カツカレー、好きなんですね!私もです。」
絶対に引かれた。いきなり来てなんだよってなったよ絶対。
「そうなんですね。あの、失礼ですがどちら様ですか?」
ほらぁ、カツカレー好きかどうか答えてくれないし。
「あ、ごめんなさい!3年の幡谷薫といいます!」
3年のは余計だったかな。
「どうも。1年の久寿米木湊です。」
くすめぎ?聞いたことも無い名前だ。ますますかっこいい。
「くすめぎ?珍しいね!どう書くの?」
「久しいに寿司の寿、米に木で久寿米木っていいます。結構珍しいらしくて日本に今460人くらいしかいないそうです笑」
ちょっと微笑んだ顔もやばい。そういえば私先輩だから敬語使わなくていいのかな?でもここは敬語使っておこう。
「幡谷先輩でいいですか?呼び方。」
先輩だなんてこの顔で呼ばれたら鼻血出ちゃう。出てないかな?心配になってきた。
「下の名前でいいよ。あと、先輩もいらない!」
「じゃあ、薫さん…で?」
あ、鼻血が出る。これは出る。あかん。
「いいよ。薫さんで!私は湊くんって呼ぶね!」
彼との話は楽しかった。趣味の話やカツカレーとの出会いの話。
そろそろ授業だなぁ。行かなきゃだなぁ。まだ話してたいなぁ。
「そろそろ授業なんで行きます。」
「あ、そうですね!」
2人とも席を立つ。そして2人で同時に振り返る。
『あの、連絡先…』
まさかのハモった。そういえばこうやってハモった時はハッピーアイスクリームって先に言った方がアイス奢って貰えるって話があった。
「すいません。連絡先交換できませんか!」
「もちろん!」
彼女のLINEを手に入れた。
授業中。気が気じゃない。あんなに可愛くて性格も良くて律儀な人がなんで僕なんかに話しかけてくれたんだろう。一目惚れって訳でもないけど確実に薫さんの事が気になっていた。僕のことどう思ってるかな。
授業なんて頭に入ってこなかった。湊くんのあの優しい笑顔。未だに鼻血がでてないか気になる。しかも話してみるとすごくいい人で優しくて面白い人で。もしかして!あんなにいい人ってことは彼女とかいたりする?でももし彼女いたら連絡先とか交換しないよね…考えすぎか。
その夜LINEにて。
「今日は突然話しかけたりしてごめんね!」
「いえいえ、全然です。話しかけてもらえて嬉しかったですよ。」
「湊くんは彼女とかいたりするの?」
「いませんいません!生まれて此の方出来たことないです。」
「ほんとに?!」
それは嘘でしょ。私は1人でニヤける。
「ほんとですって!逆に薫さんは彼氏いないんですか?」
さすがに薫さんにはいるんじゃないかと思ったけどいたら易々と他の男に声かけないか。と自分を説得する。
「私はね最近彼氏と別れたの。相手の浮気で。ほんと許せない。」
あら、これ聞いて良かったのか?と思いながらも少し攻撃してみる。
「そうなんですか…それはお気の毒です。でも別れてもなお許せないのはそれは彼のことが好きだからなのでは?」
「確かに。そう言われてみれば腹立たないかも。」
湊くんの言う通りだ。改めて考えてみると誰と何しててももういいやって思える。
「湊くんありがとう!なんか安心した。」
「礼を言われるようなことはなにも。あ、よかったらこんど上野動物園に行きませんか?キリンが好きでよく見に行くんですけど、子供のキリンがいてヒカリと言うんですよ!めちゃくちゃ可愛くて。よかったら一緒に見に行きませんか?」
「そうなんですか!是非みたいです!ご一緒させてください。」
やったぁ。デートだデート!初めてのデートだよ。僕大丈夫かな。
「あ、じゃあ土曜とかどうですか?」
「大丈夫です!空いてます」
「なら土曜、11:00に上野駅で!」
土曜、10:30に上野駅に着く。こういうものは少し早めに来ておいた方が紳士だと映画やドラマで見たことがある。薫さんも気を遣ったのか10:45には来た。
「早かったんですね!私もそれなりに早めに来たのですが…」
「僕も早めにと思ってさっき着いたところですよ。じゃあ行きましょう!」
薫さんの手を取り繋ぎたいとこだけど、いきなりそんなことしたらまずいかなって思ってそれはやめて置いた。
「お昼ご飯、何食べましょうか。」
「もちろん!カレーが食べたいです!」
「ですよね笑カレー屋なら公園の敷地外にあるんですがご飯先に食べてから行きますか?」
「そうですね!そうしましょう!」
カレー屋に着き席に座る。おじさんにカツカレー1つと頼むとそれに重ねてもう1つと薫さんが言う。
カレーを1口口に入れる。(このカレーはそんなでも無いなぁ。米が少し硬い。衣が柔らかい。)
「美味しいですね!」
薫さんが若干苦笑い気味で言ってきた。
「え?あ、はい。」
店ではなんの会話もなく黙々とカレーを食べた。店の外に出て会話を始めた。
「あれ、正直僕は少し美味しくないなって思いました…」
「ですよね。私もそうは思ったんですがカウンター席だったし、おじさんのあの顔を前にはそんなことは言えませんでした。」
「それに、学食のカツカレーが美味しすぎるだけですよ!」
キリンの前に来てヒカリの様子を見る。だいぶ大きくなったがまだ通常よりは小さい。
「あの子ですか?ヒカリちゃん!」
「そうです!可愛いですよね。この前はもう少し小さかったのですが成長って早いですよね。」
静かに頷く薫さんの目は真剣にヒカリを見ていた。
「他に見たい動物いますか?」
「ゴリラ見たいです!」
ゴリラ。変わってるなぁ。まぁ見たいなら行こう。
「ゴリラはみんな血液型B型って言うじゃないですか!」
あぁ聞いたことはあるな。ホントなのかね。
「あれ実は正確に言うと間違いなんです!ゴリラの1種であるニシローランドゴリラの血液型がみんなB型でほかのゴリラはB型以外もいるんですよ!」
やっぱり皆B型なんてことは無いのか。
「そうなんですね。僕も疑ってたところです笑」
「とは言っても世界のゴリラの95%をこのニシローランドゴリラが占めているんですけどねw」
「へぇ…詳しいんですね!ゴリラについてそんなに深く考えたこともなかったです。シルバーバックぐらいしか知りませんでした笑」
他にも色々な動物を見て回った。夜はどうするか聞いてみる。
「夜ご飯どうしますか?」
「そんな、お気遣いなさらずに!」
「ここまで来たら一緒になにか食べましょうよ。」
僕達は結局ファミレスに行った。そこで意外と話が盛り上がり3時間ほど喋っていた。
「薫さんは趣味とかありますか?」
「私は絵を描くのが好きでよく1人で風景の絵を描きに山なり川なり海なり色んなところに行きます!」
「絵ですか!僕も好きですが見る専門で…中学の時どうしても本物のモナ・リザが見たくて母親に頼みまくって、そしたらテストで学年1位取ったらいいよって言われたんですよ。そして死ぬ気で勉強して見に行きました!あの時の感動は忘れませんよ。薫さんの絵も見てみたいなぁ。」
「本物を見たんですね!すごいです。いいなぁ。私の絵はまだまだです…。」
こんな時間がずっと続けばいいのに。
「あ、湊くん。敬語やめませんか?なんかよそよそしいって言うかせっかく仲良くなれた訳ですし!」
「そうですね!じゃあ今からやめましょう!」
と言ったとたん2人とも黙る。やはり慣れというものは恐ろしいなって思う。
帰り道コンポタージュの缶を手に持ち、手の温度を保とうとする。薫さんは満足気な顔で隣を歩いている。まずい、急がなければ終電の時間かもしれない。時間は10:30分だった。まだ大丈夫か。
「あ、どこに住んでるの?僕は台東区の方だけど。」
「私は中野のほう。逆方向だね!じゃあ駅でお別れだ。」
改札の前でめいっぱい手を振ったのにホームの向こう側にいるという少し恥ずかしいことが起きた。笑いながら僕はまた手を振った。
家に着き少し横になった。目を閉じても開けても薫さんのことばかり考えてしまう。これが恋なのかと思った。恋はしたことあるけど叶ったことはない。今回だって恋だと気づいても叶うかどうかすら分からないし。とりあえず今日は楽しかった。また薫さんとお出かけがしたい。そう思った。
今日は初めて湊くんとデートをした日。ソファに深く座りほろ酔いのピーチ味を飲む。そうか。湊くんはまだお酒飲めないんだ。きっとあのピュアな湊くんは今まで飲んだことないんだろうなぁ。湊くん、私のことどう思ってるのかな。少しは好意を抱いてくれてるかな。そうだといいな。また湊くんとどこかへ行きたいな。
「今日は遅くまで付き合わせちゃってごめん。」
「いやいや!とんでもない。楽しかった!」
「よかったらまた今度遊ばない?」
「ぜひぜひ!今度は私のリクエストいいですか?」
「お、気になる。」
「海に行きたい!砂浜で星型の砂拾いたい!」
「なるほど。それはすごく素敵だけど星型の砂って言ったら沖縄のイメージあるけど…この辺にもあるのかな。」
「いや、あると信じよう!きっとある!」
「なら守谷海岸に行こう!友達から聞いた話だけど結構砂浜が広くて海って感じだって言ってたから。」
「そこにしよう!次はまた来週だね。来週も土曜日で大丈夫?」
「来週土曜はバイトがあるから日曜にしよう。」
「了解!詳しいことはまた連絡してね。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ。」
顔が見えない会話は怖い。相手が今どんな顔をしてこの発言をしているのかが分からない。
今日は朝から忙しい一日だった。目覚ましがならなくて1限目に遅刻ギリギリだった。たまにならないバグが起きるのだ。そんな日は最悪でゴミを出す時間もないからまた来週になってしまう。そんな日常が続いていた。何気ないこの日々が地味に好きだ。僕はまだ普遍的に生きていたい。
廊下で湊くんにばったり出会う。寝癖のままの彼には少し愛着が湧いた。こういう完璧な男じゃない感じも好きだった。
日曜私たちは10:00に有楽町駅に待ち合わせをした。そこから電車で3時間近くかかり着いたのは1時半になってしまった。お腹がすいたため近くの海の家的な場所でご飯を食べることにした。
食べ終わって一息付き海に出た。なんとも海らしい眺めでとても海だった。
「さぁ、星型の砂!探そうか。」
「うん!」
薫さん、嬉しそうだなぁ。頑張って探そうかな。2人でしゃがんで砂を手でさわさわする。どんなものなんだろうとググッてみるとなんとめちゃくちゃ小さいのだ。これを探すのは相当大変だ…と思いながらもさわさわを止めない。
結局星型の砂はなかった。そこら辺の横たわってる木に座り話した。話してることが1番幸せだった。
「星型の砂、無かったね。残念。」
「でも、思い出は出来たから!結果オーライ!」
「たしかに笑」
こういうポジティブなところ好きだなぁってなる。僕は気づいていた。薫さんのことが好き。
「薫さん。僕と付き合って欲しいです。どうやら僕は薫さんのことが好きみたいで、考えずにはいられない。」
「湊くん。私も湊くんが好き。ずっと考えちゃう。」
こうして僕らは付き合った。
「星型の砂、無かったね。残念。」
「でも、思い出は出来たから!結果オーライ!」
「たしかに笑」
湊くんの笑った顔、ずっと見ていたい。もう私から告白しようかな。きっと湊くんはこういうの恥ずかしくて言えないタイプだと思うから。
「薫さん。僕と付き合って欲しい。どうやら僕は薫さんのことが好きみたいで、考えずにはいられない。」
こんなことあるんだなぁ。
「湊くん。私も湊くんが好き。ずっと考えちゃう。」
湊くん、結構勇気ある人だったんだなぁ。
電車の中で手を繋いだ。湊くんの手は大きかった。
「今日、泊まってもいい?」
「いいけど、家汚いし明日授業だけど。」
「それでもいいよ!」
どうやらうちに泊まるらしい。急展開で少し驚いてはいるがこれもこれで成長だと思い受け付ける。
「あ、汚いから少し片付けるから寝室の方にいて!」
リビングをものすごいスピードで片付けた。
「お待たせ。」
「綺麗じゃん!全然汚くないよ!」
部屋を一通り見て机の上に視線が止まった。紙、原稿用紙?みたいなのがいっぱい置いてあった。
「勉強?」
「あぁ、それは僕が作ってる物語だよ。結構楽しくてさ笑いっぱい書いてる。」
「読んでもいい?」
「えー恥ずかしいなぁ笑一つだけならいいよ!」
すごく引き込まれる作品だった。
「面白いの書くね!読んでて夢中になっちゃった。」
「まだまだだよ。字数も少ないしなにより構成がなってないから。なんか暖かいもの作ってくるよ。」
そう言って湊くんはキッチンに立った。これが付き合い始めて初日だなんて信じられなかった。ずっと前から知ってるような気がした。湊くんはコーンスープを作り持ってきた。そして2人で映画を見た。禁じられた遊びを見た。前にも見た事があったがまた見た。映
画のエンディングは必ず見る派だと2人でエンディングまで見た。そして抜群の雰囲気の中私から湊くんにキスをした。初めてだったらしく顔が真っ赤になっていた。薄暗い部屋の中でもわかるくらい。
次の日案の定2人で寝坊した。起きたのは9時半。
「散歩でもしようか。」
近くのコンビニまで歩いて行きアイスを買った。2人で食べながら家まで帰る。家に着いてオセロをしてその後薫さんは帰った。昨日の余韻に浸ってしまう。初めてのチュー。君とチュー。新鮮な感覚だった。しばらくぼーっとした後、ゲームをした。今度薫さんとこのゲームで遊びたいなぁ。
時が流れ僕は2年生に、薫さんは4年生になった。今年から薫さんは就活が始まる。忙しくなるんだろうな。僕の存在が邪魔になるんじゃないかな。大丈夫かな。
「1人になりたい時があったらいつでも言って欲しい。その時は1人の時間を大切にしてあげたいから。」
「わかった。そばにいて欲しい時も言ってもいい?」
「もちろん。」
僕達は段階を踏んで少しだけど大人になっていった。
5月20日で僕は20歳になる。これでやっとお酒が飲める!薫さんと一緒に飲める!こんなに嬉しいことってあるものなのか。
誕生日、ほろ酔いで酔ってしまった。男として情けない。しかし生まれてから一度も飲んだことのないアルコールの味に感動した。
「お酒って美味しいですね!」
湊くん酔って敬語になってる笑
「これは甘くて比較的飲みやすいやつだけど、美味しくない、苦いお酒もあるんだよ!」
「苦いのは飲みたくないです笑甘いのがいいです!」
ご機嫌そうでなにより。酔っていたこともあり、私たちは3度目の夜を過ごした。終えたあと2人で全裸のまま天井を見上げた。
「別れるって想像できる?」
湊くんがそう聞いた。
「できない笑もうきっと離れられないよ。」
「僕もそう。」
と言ったあとすぐ寝てしまった。
ほんとにこのまま別れずにいられるのか。そんな都合のいい話は無いのかな。でもきっと湊くんは私を幸せにしてくれるだろう。
些細なことで人と人にはズレが生じる。でもズレなんてすぐに修正できると思っていた。あの夜は。
6月になり忙しくてなかなか彼とのコミュニケーションが取れていなかった。私から連絡することも最低限のことだけだし彼からの連絡も1日1本おすすめの映画の連絡くらいだった。
3ヶ月ほどたった。就活が続いて私は疲れていた。面接ばかりで内定がなかなか決まらなかった。イライラして描いてる絵をぐちゃぐちゃに丸めた。彼からの電話。出なかった。今は誰とも話したくなかった。数分後、彼が家に来た。しかし事情を悟ったのか帰って行った。違うよ。今は抱きしめて欲しかった。抱きしめて、あの優しい声で「大丈夫。」って言って欲しかった。
中学の頃の同級生たちの同窓会の誘いの手紙が届いた。私は参加しないつもりだったけど久しぶりに皆に会ってこようかなと思い参加に丸をしてポストに入れた。さやちゃん。来るかな。
少し着飾って外に出たが恥ずかしくなっていつもの格好に戻した。会場につくとほとんどみんな揃っていてびっくりした。参加しといてよかった。
「あ、薫!久しぶり!」
さやちゃん!やっぱり来てたのか!
「久しぶり!さやちゃん!」
「その呼び方、懐かしい笑」
中学の頃私とさやちゃんとしょうくんとまさとくんの4人でよく遊んでいた。今日ここにも4人揃っていた。
「2次会は俺たち4人で飲むから、じゃな!」
まさとくんが私たちを引き連れて抜け出した。相変わらずだなと思いながら後ろを振り返るとみんな手を振ってくれていた。私も手を振り返した。2次回はまさとくんの家で行われた。
「酒ならなんでもあるから好きなの飲んで!あとなんか食べたいものあれば言ってね。」
恐ろしいほど広くて綺麗だった。まさとくんは親が政治家のお偉いさんでお金持ちで、おまけに頭が良くて国立大学に通っている。
「お!バーボンあるじゃん。いただき!」
しょうくんも変わらないなぁ笑
みんなでトランプしたり大学の話したり、さやちゃんはデザイン科の学校に行ったあと就職したからその仕事の話を聞いたり、充実した時間だった。みんな結構酔いが回ってきて突っ込んだ話をするようになってきた。
「薫はさ、今彼氏いんの?」
「うん。一応、いるよ!」
「一応ってなんだよ笑」
「薫はイケメンの彼氏がいるもんね!」
「ま、まぁね。」
するとしょうくんが挙手した。
「実は僕、結婚します。先週、プロポーズしてOK貰いました!」
みんなは驚き、しょうくんにお祝いとしていっぱい飲ませた。
気づいたら私以外みんな寝ていた。私も横になって天井を見ていた。天井、高いなぁ。起き上がりトイレに行った。帰ってくると、まさとくんが水を飲んでいた。
「おう、起きてたのか。」
「ちょっとトイレに。」
私も水を飲み一息ついた。
「しかしまぁ、薫も変わんねぇな。相変わらずだ。」
「なにそれ笑褒めてんの?笑」
「いい意味でも悪い意味でも変わらないよ。」
「そっか!ありがとう。」
「実はさ、俺中2の時からずっと薫のこと好きだったんだよね。今もまだ。」
「ねぇ酔すぎだよ笑」
「んにゃ、酔ってなくてこれは本気。だって見て、文字が書けます。」
「ほんとだ。酔ってない。気持ちは嬉しいけど私、彼氏いるし今が幸せだから。」
「ほんとにそうか?一つだけ変わったよ。嘘が下手になった。最近上手くいってないんじゃない?そこに漬け込んで薫に好きって言ったわけじゃないけど笑顔が今ひとつあの太陽みたいな笑顔に届かない気がするんだ。もしなんかあったら相談くらい聞い…」
私はキスしていた。酔ってんのかな。きっと酔っているんだ。キスくらい誰だってするし減るものじゃない。大丈夫。
「いきなりなにすんだよ。びっくりしたじゃん。」
「ごめん。今のは無しに…」
まさとくんからキスし直された。まぁそりゃそうか。結構猛烈なキスをした。そしてそのまま寝た。
朝起きたら何事も無かったかのようにみんな寝ていた。携帯を見ると彼から2回ほど電話が来ていた。あとメッセージも。
「どこにいる??新作のゲーム一緒にしようと思って家行ったらいなかったから。玄関にアイスぶら下げといたけど溶けちゃったかも笑」
あーあ連絡するの忘れてた。
「ごめんね!昨日は中学の同窓会で友達と呑んでたのよ。アイスは溶けちゃったね…」
既読つかないなぁ。怒ってるかな。
電話したけど、出ないなぁ。大丈夫かな。心配だからちょっと行ってみようかな。僕が薫さんの家に行く時は必ずジャイアントコーンを買っていく。玄関の前に立ってインターホンを押したが、返事はなかった。今ってもしかして1人になりたい時なのかもしれないと思ってジャイアントコーンは持って帰った。でももしかしたら余計な気遣いだったかもなぁ。
気持ちよく寝ていたのに、インターホンの音で起こされる。
「はい。」
「あんた、いつまで寝てんの。」
「姉ちゃん?!なんで急に。」
「元気にしてるかなって見に来たの。まぁ、元気そうではあるね。」
ズカズカと入り込んできては部屋の中を物色していた。
「あんた、女できたね?」
「な、なぜそれを。」
「髪の毛、落ちてる。あと、へんなマグカップ置いてある。」
恐るべし姉ちゃん。女に隠し事はできないとはまさにこの事だと実感した。
「へぇやっと彼女できたかぁ。」
「まぁ、出来たけど。最近微妙でさ。」
「あら、何したの。」
「彼女、就活でここんとこ忙しくてさ、あんまり連絡とってないんだよね。この前も家の前まで行ったんだけど1人になりたいかなって思って帰ってきた。」
「さてはあんた、女心を知らないな?」
「知らないよ。男だし。彼女も初めてできたし。」
「就活で忙しくて落ち込んでる時こそそばにいて欲しいものでしょうよ。これは女に限らずの話だと思うけどな。そんなんだと彼女、どっか行っちゃうよ?ちゃんとそばにいてあげて、大丈夫だよって言ってやんなさい。」
「お、おう。今日の夜新作のゲーム持って行ってみる。」
「ちゃんと言うんだよ?大丈夫だよって。」
大丈夫、大丈夫言ってるけど何を根拠に何に向けての大丈夫なんだろう。無責任な大丈夫は返って薫さんを傷つけるのでは無いだろうか。でも、とりあえず行ってみよう。
ジャイアントコーンとゲームを持って薫さんの家に行った。インターホンを鳴らした。しかし3回くらい鳴らしても返事がなかった。薫さんに電話した。2回。そしてメッセージも打った。けど既読にならなかった。ジャイアントコーンを玄関にぶら下げて僕はとぼとぼ1人で帰った。
起きたらメッセージが来ていた。
「ごめんね!昨日は中学の同窓会で友達と呑んでたのよ。アイスは溶けちゃったね…」
なるほど。同窓会なら仕方ない。でも連絡くらいして欲しかったな。
「そっかそっか!楽しかった??」
「うん!楽しかったよ!久しぶりにみんなに会えたから元気もらえた。」
僕が元気を与えなきゃいけないのにそれが出来なかった。今度こそ薫さんのそばにいてあげたい。
「今日の夜って暇?暇ならゲームしようよ!」
「ごめん、明日面接だから今日は早めに寝たくて。明日の夜なら大丈夫だよ!」
「わかった。じゃあ、明日の夜に!」
ピンポーン。
「いらっしゃい!」
「ラーメン屋か笑」
こういうくだりがほんとに好きだなって思う。机の上に置いてあった絵が無くなっていた。
「面接どうだった?」
「今回は手応えあり!いけた気がする!!」
自信満々の顔に安心した。
「楽しみだね!あ、これジャイアントコーン。この前のやつどうした?溶けてたでしょ笑」
「溶けてたよ笑だから、冷凍庫で再び凍らせております!うわっ!変形しまくってる!」
変な形のジャイアントコーンを2人で笑いながら食べた。そして新作のゲームをして順番に風呂に入った。風呂上がりのビジュアルって最高だなって思いながら薫さんを抱きしめた。そして
「大丈夫。きっと薫さんなら上手くいく。」
そう囁いた。
「遅いよ。もう少し早く言って欲しかった。あの時に言って欲しかったのに。」
あれ?泣いてる。姉ちゃんの言う通りだったのだ。あの時帰ったのは間違いでそばにいて欲しかったんだって。今気づいても遅かった。
「ごめん。」
少し気まづい空気のまま2人でベッドに寝た。起きて手紙を置いて帰った。
『昨日はありがとう。ゲーム楽しかったね。結果わかったら連絡してね!応援してます!湊より』
あれ?湊くん帰ったのか。あ、手紙。
あのごめんは、なんのごめんだったんだろう。携帯の通知音が鳴る。
「今夜呑まない?好きな酒用意しとくよ!」
まさとくんだった。こんな時に。でも好きなお酒用意してくれるならって理由をつけたけど、ほんとは慰めて欲しかった。
夜、私はまさとくんの家でお酒を飲んでいた。
「薫、どうだ?彼氏とは仲直り出来たのか?」
「いや、仲直り以前に喧嘩してる訳じゃないし、そもそも私の考えすぎかもしれないし。今度会ったらちゃんと話をしようと思ってるところ。別れ話とかじゃなくてね?」
「なるほどな!薫も悩むんだなぁ!ま、飲めよ!」
私だって悩むよ。自分でも信じられないくらい。
携帯の着信がなった。彼からの電話だった。
「もしもし。」
「あ、すいません。薫さんの携帯でしょうか。」
女?誰?なに、湊くん浮気?
「はい。そうですけど、どちら様ですか?」
「病院で看護師をしています。霧矢と申します。先程久寿米木さんが交通事故で搬送されてきまして。」
「そうなんですね。すぐに行きます。」
電話を切って私はまさとくんに事情を説明した。
「俺も行こうか?」
「馬鹿じゃないの?誰ってなるでしょ。」
病院について私は彼の部屋を尋ねる。
「湊くん!大丈夫?」
大丈夫じゃなさそうだった。看護師が6人も集まって、真ん中でお医者さんが戦っていた。生と死を狭間に。
「湊くん!なんとか言ってよ!」
わたしは湊くんの手を握った。脈がどんどん弱くなっていってる。
「私まだ湊くんとやりたいことがいっぱいあったの、最近あんまり話せてなかったからしっかり話して、色んな話して行きたい場所だってあるし、一緒に観たい映画だって。やっぱり、湊くんが1番好きなの。やだ。死なないで。生きて。また笑い合おうよ。あの笑顔でもう一度。」
大粒の涙が1粒湊くんの瞑ったままの目から零れ落ちた。
「生きてくれ。薫…」
湊くんは最後に振り絞った声でそう言った。
午後10:36分、死亡を確認しました。
私は一晩中、湊くんの抜け殻の横で泣いた。失って始めて彼じゃなきゃダメだと泣いた。こんなに泣いたら一生分の涙使い果たしちゃうってほど泣いた。
あとから聞いた話、彼は事故にあった時にビニール袋を持っていて中にはジャイアントコーンが入っていたらしい。私はそれを聞いて自分も死んでしまいたくなった。けど湊くんはきっと私が私を殺すより、生きて幸せになることを願ってくれているってそう思った。だから私は生きた。大学にも行った。
今日は1人で学食のカツカレーを食べた。やっぱりこの味が1番好きだった。私も、君も。
「うーーーん。物語的にはいいと思うけど、切なくない?彼氏死んじゃうの?生かそうよ。そこは」
「まぁ、生かしてもよかったんだけどそしたら展開的に現実味がないかなって思ってさ。」
「まぁ、そうか。これもまた物語。久寿米木湊かぁこれはイケメンだわ。おもしろかった。」
「キャラのこだわりは強い方なんでね!」
僕の物語をおもしろいと言ってくれた。僕はこれからまだまだたくさんの物語を書く。
そして僕は物語の最後にこう書く。
「この物語はフィクションです。実際に存在する個人名団体名とは一切関係がありません。」
読んでいただきありがとうございました。感想などありましたら、コメントしていただけるとありがたいです。