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そしてまた月は満ちる  作者: 春日野霞
十 愛着<下>
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真実

2021.03.01 投稿

 逢魔が時は、あっという間にやってきた。

 地下の上の部屋には暖房が置かれている。アマトがこっそり持ってきてくれたものだった。壺のような形の土器の下部にいくつかの穴が空いていて、壺の中に術で火を浮かせて使う。締め切られた部屋に、暖房の穴から光が流れている。

 青颯は暖房の傍らで、膝を抱えていた。暖かさに、固まりきった身体の筋がほぐれていく。暖房の上に置かれた鍋から、さかんに湯気が立ち昇る。小さな水の粒が光を孕んで闇に溶けていく様子を青颯が見上げていると、そっと戸が開く。

「やあ、待たせた」

冷たい空気と共に、凌光が入ってくる。

「ねえ」

 彼女は、食事を二人分持ってきていた。

「それ、凌光と俺の分?」

「いいや。私はもう食べた」

 まさか、バレているのか。

「じゃあなんで、二人分あるの」

 動悸が始まる。もし彼女が知っていたら、どう誤魔化そう。

「ああ、ナダはいつも食事を二食分持って帰ってたんだ。先祖と神に供える分だってね。留守にするときも欠かさず持って行ってこの部屋に置くようにと言われてたんだ……私にそれをやるようにってね」

 バレていなかった。と青颯は内心ホッと息を吐く。

「先祖と神の分って、もしかしたらあんたの分だってのを隠すために言ってるじゃないかっていつも飯を作っていたんだけどね。本当にそうだったんだ」

「凌光が作ってたの?」

「私も、作ってた。ここは、飯は家じゃなくて氏族ごとにまとまって食べるだろ?私はアマトのところの遠氏と、ナダのところの祷氏が一緒になってる食堂で仕事してたんだよ。分担して料理を作るんだ」

「そうだったんだ……」

 と凌光が目の前に置いてくれた食事に目を落とす。地上で見る飯は、いかにもうまそうに見える。空腹に食物の輝きが染みた。

「ところで、この一食はどこに供えればいいんだい」

 安心したのも束の間、危機がやってくる。

「……心当たりがあるから置いておいて」

 とさり気なく言う。

「よろしく頼んだよ。ほれ、食べな」

 青颯は「いただきます」と手を合わせ、箸を取る。

いつもは食事が嫌で何を食べているかも分からぬまま終わるが、此度はあまりのおいしさに何を食べているのかがどうでもよくなる。環境の違いで、こうも味が変わるものなのか。

あっという間に食べ終えて「ごちそうさま」と手を合わせた。

「足りたかい」

「うん」

「随分大きくなったけど、前より痩せちまったね」

 と言いながら、彼女は鍋から湯をすくい、空になった茶碗に入れる。

「そりゃ、動いてないし」

「ほれ」

 白湯の入った湯吞みを、青颯に渡す。

「ありがとう」

 青颯は湯吞を受け取る。冷たい指先にじんわりと伝わる熱の感覚。温かいものを、久し振りに手にした気がする。青颯はささやかな溜息を吐いた。改めて、夢でないかと頬をつねる。凌光が目の前にいるのだ。

「無事でよかったよ、ほんとに……」

 と白湯に囁きを零す。

「叫び声が聞こえたときは、死んでもいいって思った……。タヒトが殺された後も、凌光がいつ同じ目に遭うかって気が気でなかった」

「そんなに心配してくれてたのかい」

「当たり前だろ」

 と彼女を睨む。

「よく耐えたよ、あんたは」

彼女は、これまで見たこともないほど穏やかに微笑んでいた。

「また会えて、本当に良かった」

 突如として、彼女が凌光には見えなくなる。青颯はその感覚に戸惑い、黙って俯いた。

 暖房だけが煌々と光る。部屋に落ちた沈黙に耐えられず、青颯は昨日ナダが答えなかった問いを凌光に向ける。

「冬至の日、シアラは攻めてこないの?」

「ああ。攻めてこない。これはお決まりのことになっているらしくてね、冬至が近くなると全然来なくなる」

 ナダは、それを知られたくなかったのか。 

「冬至に、何かあるのかい」

「沖術を消す術の決行は冬至だって、ナダが言ったんだ」

「冬至って、もうすぐじゃないか。あと四日……もう三日も同然だ」

「そうだ。なんとしても止めないといけない」

「沖術が消えたら、この村は困るだろ。なのになんで、ナダは沖術を消そうとしているんだい」

 そういえば、ナダが沖術を消したがっている明確な理由を知らなかった。

「……さあ」

「知らないまんま、調べていたのかい」

「……そうだね」

「あんたらしくないね」

「俺も、そう思う」

湯吞みをのぞき込む。疲れた顔の自分と目が合った。それを見なかったことにするように表面に息を吹き、温かい湯を一口すする。腹の底に、温かさが落ち込む。全身の筋が弛緩する心地に、もう一度湯を啜った。

「ナダのせいだ。あいつのせいでうまく動けない。ちょっとでもあいつの気に入らないことをやると嫌な目に遭わされる」

 彼の数々の凶行が頭を巡る。凌光が言う通り、本当によく耐えたと思う。

「でも今、ナダはいないだろ。術を止めるためには、何をすればいいんだい」

「だから、分かんないって……」

「そうじゃない。私にできることは何かないのか」

 青颯はきょとんとした顔を上げる。

「……手伝ってくれんの?」

「そりゃ、危機なんだろ?沖術が消えたら、ここは大変なことになるじゃないか。誰しも困るはずだよ。皆で頑張ってなんとかしなきゃ」

「はあ」

 人の手を借りるという発想が、全くもってなかった。沖術が消えてからの未来を思い描くことすらしていなかったと気づく。禁術が果たされた先に、自分の命はないだろうと感じているのだろうか。

青颯は床に流れる光に目を落とす。真っ直ぐに進んだ光は、部屋の果てまで届かず闇に食われる。彼は今、その「あわい」に立たされているような気分だった。そのまま前に進めば、闇の中。幸運にも自分を引き戻す手などあれば、光の中。

「はあ。じゃなくて、教えてくれよ」

 ハッとして顔を上げる。

「いや……分かんないんだよ。どうすればいいか。ナダはどうやって禁術を実行しようとしているのか、俺に言わなかった。確証の無い推測ならあるけど……禁術の説明って全然してないよね?」

 彼女は頷く。

「色々省いて実行の流れだけ説明すると、まずは神を模したものに生贄を捧げる。そして

神を模したものを……特別な力を持った短剣で殺した後、月光が願いを叶えるんだよ」

「神を模したもの、ってなんだい」

「うーん……こっちで勝手に造った神、っていうか……説明が難しいんだけど、神の分身みたいなもの。ややこしいからこれからは神って呼ぶことにするよ」

「で、わざわざ造った神を殺して、なんで月光が願いを叶えるんだい」

「なんで……ていうか。まあそれが術だからとしか言いようがないんだけど」

「生贄を捧げるっていうのは、儀式みたいなのをやるってことかい」

「それはちょっと違うかも。もっと即物的というか」

「特別な力を持った短剣、ってのはどんな物なんだい」

「もう!うるさいな!一個ずつにしてよ!」

 青颯が怒ると、凌光は声を上げて笑う。

「あのさあこっちは必死なんだよ」

「うん。悪かった」

 と彼女は笑う。「もう」と口をへの字に曲げ彼女を見た。

「久し振りだねえ、その顔」

 言われて、口を元に戻す。するとまた彼女は笑った。

「もう、付き合わないからね」

「はい、ごめんよ。それで、月光は何なんだい」

「どうにも説明できないね。確かに、そんなことが起こるってのは普通じゃ考えられないけど……さっきも言ったように神が絡むから、人智を超えた現象を起こすことができる、んだと思う」

 言いながら、自信がなくなってくる。

 あの読解で、本当に九の禁術を果たすことができるのか?

 研究の蓄積も、禁術をよく知る先達もいない。答え合わせのしようが無いのだ。

「まあ、私にはよく分からん話ってことか」

「うん……そういうことにしといて」

「それじゃ、生贄っていうのは」

「結界の中で人を殺すと、神に生贄を捧げたことになるんだ。儀式ってほど大層なものはやらない」

「それを……どこでやるんだい」

 彼女は顔を引きつらせる。

 ナダと、生贄の話をしたことがある。結界は自分が用意をしておくと言っていた。結界そのものは彼も使っているものであり、嘉杖土のそれと大差ない。決定的に違うのは、その域内に神がいるかいないかという点だ。結界の内に神がいる状態で人を殺せば、自動的に贄を捧げることになる。

 神は、すなわちハマだ。彼女を遠くに運ぶことはできないだろうから、まず間違いなくワタドで生贄を捧げるのだろう。

「ここで、だね」

「それじゃあ、結界っていうのはもしかして、ここを守ってるやつのことかね」

 青颯は意味を解しかね、首を傾げる。

「ナダが受け継いでる秘術で結界を作ってるだろ。それで村を守ってるって」

 ゾッと鳥肌が立つ。

「それだよ……。それを使うに違いない。だから、ワタドのどこでも人を殺せば贄になる」

「じゃあ、冬至の日にここで殺しが起こるのかい」

「ってことだ。これは大きい術だから、かなりの人数が必要になる。いくら殺してもいい。ワタドの人間を全員殺しても足りないくらいだ。全員殺しても足りない……足りないのをどこやって補う……?」

 彼はしばらく額を押さえて考える。やがてあることに気づいたように目を見開いた。凌光は聞きたくなさそうな顔をしていたが、構わず彼は言った。

「シアラだ」

「じゃあ、ナダがシアラに行ってるっていうのは……」

「ワタドの皆が油断してる冬至の日に、ここにシアラを攻め込ませるつもりなんだ。その作戦を練りに行ったんだよ」

 ナダが、冬至にシアラが攻めてきたことがないと言わなかったことと、シアラを説得に行くなどという彼らしからぬ無謀が繋がる。

「一族が何百年も闘ってきた相手と、簡単に手を組むなんて、そんなこと本当にあるかね」

 彼女はとても信じられない、と首を横に振る。

「あいつならやりかねないよ。だってこの禁術のためにい……」

妹まで殺すつもりなんだから、と危うく言ってしまうところだった。

「禁術のために、他人の俺を地下に押し込めるような奴だよ」

「それはそうだけど……ナダが村を守るために戦ってきたのも、確かだろ」

「それとこれとは違うんだよ。自分が皆に信頼されておけば、都合の良いように人を動かすことができるでしょ。あいつはそれを狙ってるだけだ」

「それじゃあ、シアラに行ったファリ以外の精鋭も、裏切ってるってことになるんかい」

「それは分からない。ただ、守護の要である術士たちを殺すために、連れだしたのかもしれない」

「でも、シアラが相当な数で来たら、強い人だって負けて」

 凌光は、どうしても信じたくないらしい。青颯は彼女の言を遮って推論を続ける。

「俺が見る限り、シアラよりもワタドの方が実力は上だ。神に十分な生贄を捧げるためには、ワタドが勝つようなことがあってはならないんだよ。ワタドの人間がほとんど死んで、それに加えてシアラが死ななきゃいけないんだから。だから精鋭たちを連れだして全部始末してるんじゃないか」

「……じゃあほんとに、冬至の日は殺し合いになるんかい」

 彼女の声は震えていた。

「俺の推測が全部正しいとは限らない。でも、ナダならやりかねない」

「どうしたらいいんだい。じゃあ」

「……冬至の日は人を外に出しておく、しかないかもね」

「それじゃあ皆に知らせないと」

「朝も言ったけど、それは難しいよ。俺が出ていくわけにもいかないし。急に、冬至にシアラが攻めてくる、なんて言い出したってしょうがないよ。巫女みたいな、神と繋がる人間が言うんなら別だろうけど」

「じゃあ、あんたがそれっぽい人間になったらいいじゃないか」

 と両手を合わせる。

「忠告のために禰々島から来た、ってさ。冬至の日はこんなことが起こるから、皆ちゃんと対策しろよ、って。そのために加勢をするって言えば、そんな事態になってもなんとかなるんじゃないかい。あんたの術の力だけは信頼されてるだろうし」

「俺今沖術使えないんだよ」

 凌光は顎が外れんばかりに驚く。

「あんたから沖術がなくなったら、ただのひ弱な人間しか残らないじゃないか」

「それ本気で言ってる?心配してもらわなくても賢いお頭があるので大丈夫です」

「相変わらず嫌味ねえ」

 と言いながらも、彼女は嬉しそうな表情をのぞかせる。

「ただ、禰々島から忠告に来た、っていうのは、もしかしたら有効かもしれない……でもアマトを説得できてなきゃ、どうにもならないよ」

「ああ……」と凌光は肩を落とす。

「むしろ、アマトに冬至のことを話して、なんとかしてもらうことはできない?」

「聞いてみないと分からないけど……無理ではないかも」

 彼女は立ち上がる。

「なんとか、説得してみるよ」

「うん。よろしく」

「それじゃあ、もう一食はよろしく頼んだね」

「分かった」

 と彼女は青颯が食べたあとの盆を手に出ていこうとするが、「あ」と何かに気づいて振り返る。

「もう一個、聞くのを忘れていたよ」

 盆を置いて、再び座る。

「特別な短剣っていうのは、どんな物だい」

「神を殺す力のある……」

「そうじゃなくて、見た目だ」

「知らないよ。見たことないから」

「そうか……心当たりがあってさ」

 思わぬ言葉に、青颯は身を乗り出す。

「どんなの」

「アマトは西の山脈で鍛冶をしてるんだよ。それで、冬の間だけ帰ってくるんだけどね。タヒトが殺された時は、連絡が行って急遽戻ってきたんだ。また山に戻るとき、「化物」も殺せる剣を見つけたから鍛え直してくれって、ナダからものすごく古い短剣を渡されたんだって」

 青颯は、ナダが「短剣っていう材料が揃ったのがつい先月」と言っていたのを思い出す。それほど時間をかけなければ、鍛えられぬ代物だったのだろう。

「なっがい年月の沖を溜め込んだ、変な短剣だから、鍛えるのに苦労したみたい」

 思った通りだった。

「でも、だからこそ「化物」を殺すのにはもってこいだって言ってた」

「きっと、それに間違いないよ。でも短剣だけじゃ意味がなくて、それに霊力ある眼玉の力を宿すんだ……多分、眼玉を潰すとかして、作るんだと思う」

「物騒だね」

 彼女は顔を顰める。

「似たような話を、そういえば半年前聞いたねえ」

「なにそれ」

「セラっていう、青い目の巫女がいてさ。夏頃目と心臓を短剣で潰されたんだ。突然、蓑笠をつけた男が現れてね。短剣を持って『眼玉をもらいにきた』って村中を駆け回ってさ。そいつに殺されてしまったんだよ」

 青颯は、全身がぶわりと粟立つのを感じた。眦が裂けそうになるほど、両の目を大きく開く。

「寄神だ」

 間違いなかった。

「この山の下の、平地の動向を調査する部隊もいるんだけどさ。どうも、その男が各地で巫女を殺す事件が毎年必ず起こってるらしい。決まって、眼玉と心臓を短剣で突き刺すんだって」

 彼は見開いた瞳で、何もない床の一点を見つめている。

 寄神が巫女の眼球を潰したというのなら、そしてそれが至る所で起こっていたというのなら。九の禁術を叶えるためだと、考えられはしないか。また寄神にまつわる儀式が一族の宿願を果たすためだというのにも、合点がいく。九の禁術は沖を消すのに限った術ではない。大規模な願いを叶えるための術だ。加えて、九の禁術を叶える方法が詳細に説かれた書は、御妣と御子の元となった「妹」の手により向こうに伝わっている。

 故郷へ行けば、阻止する方法の糸口が掴めるかもしれない。

 青颯は思わず立ち上がる。今すぐに嘉杖土へ向かえば、冬至の前日までに帰って来れるだろうか。しかし地下の生活に萎えた足に、そんなことを果たせるはずがなかった。

 それでも、不可能だと思えない。驚くような距離を、自力でなしに駆け抜ける経験が己の内にあったからだ。

 今朝起きるまで見ていた夢のように、己の沖だけで故郷に向かえばいい。発話ができるのだから、欲しい情報は得られるだろう。

何かの本で、読んだような気もするのだ。蠱術で沖を操る方法を。古い術で、まだ沖術を手にする前のものだと書いてあったのまで覚えている。しかし棚のどこにある本なのかということは覚えていなかった。

「どうしたんだい、急に」

 驚いた表情の彼女を見降ろす。

「九の禁術を止める方法が、分かるかもしれない。故郷に帰ったら」

「故郷って、ずっと北にあるんだろう」

「だから、沖だけでなんとか飛べないかって思ってるところ。そういう蠱術が、あるんだ確か」

「沖だけで飛ぶ?そんな不思議なことあるんかい」

「今朝、それで禰々島に行ったんだ」

 彼女は軽く目を見開く。

「たまたま、行けたんだけど。昔の通りに戻ってた。燃やされたはずの森もそのままだったし、塔も直ってた」

「それは、良かった」

 彼女は立ち上がる。意外にもあっさりとした反応に、青颯はなぜか慌てる。

「他に、気になることとかないの。塔には上ってないの?とかさ」

「禰々島が平和なら、それでいいさ。また昔みたいに戻ったって聞いて、安心したよ」

「……禰々島が昔に戻ったって、俺たちは禰々島に戻れないんだよ」

「それはもう、仕方ないじゃないか」

 彼女はぐるりと後ろを向く。

「なんだか寒いと思ったら、ここに戸があるよ」

 と取っ掛かりを探して壁を触り、建付けの悪い戸をなんとか音がしないように開ける。

「ほら、この裏口から出ればバレやしないだろ」

 戸の向こうにあるのは塀だった。

 青颯は茫然と立ち尽くしている。凌光に三度名を呼ばれ、やっと外に出る。

 およそ三年ぶりの外の空気は、細胞の一つ一つに染み渡るようだった。夜の冷たく澄んだ空気を肺いっぱいに吸いこもうとして、むせかえる。冬のぎらつく星々が、涙で滲んだ。

「大丈夫かね」

「空気が、新鮮だ」

 信じられない思いで、夜闇を何度も味わう。その横で、凌光は嬉しそうに彼を見下ろしていた。

「そんな格好じゃ寒いだろ。風邪引かんようにするんだよ」

「分かってるよ」

 と顔を顰める彼を笑い「そんじゃまた明日な」と手を振る。前よりも小さく見える凌光の背中が、遠ざかっていく。そのまま闇に消えてしまいそうで、全身に怖気が走る。

「凌光」

 青颯は一歩を踏み出し、彼女の背に呼びかける。しかし遠すぎたのか、声が小さかったのか、彼女はそのまま行ってしまう。

 彼にそれを追いかけることはできなかった。

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