第5話【圧勝】
全てを砕きながら勇儀は悠然と歩いて行く。
そして、修羅王と対峙した。
「よっ。迎えに来たぜ。地獄へな」
「これは異な事を云う修羅界もまた地獄の一つ。
今更、地獄に落ちようとも差して変わらんだろう」
修羅王の言葉に勇儀は違いないと笑う。
「戯れ言はここまでとしよう。さあ、始めようではないか」
「ああ。精々楽しませてくれよ?」
勇儀がそう告げると修羅王が剣を手に無造作に振るう。
それだけで勇儀の衣服に傷がつき、青アザが出来る。
それを見て、勇儀は笑った。
「こんなモンかい、修羅王とやらの実力も」
「やはり、人の身では鬼に敵わぬか・・・」
修羅王はそう告げると天へと拳を突き出す。
「修羅王が命じる。我が糧となれ、修羅の猛者達よ」
それに応じるように修羅王の肉体ーー否、鎧に修羅界の魂が吸収されて行く。
そして、脱皮するように鎧が割れ、異形なる魔物が現れる。
それを見て、勇儀はつまらなそうに片耳を指でほじる。
「鬼が化け物退治かい?
つまらない幕引きだね?」
その声に呼応するように修羅王だった異形が勇儀に襲い掛かる。
勇儀は退屈そうにして一歩踏み出す。
刹那、異形の化け物を形成する無数の手で構築された巨大な腕が膨張するように伸び、勇儀に迫る。
勇儀はそれを左手で弾きながら更に一歩踏み出す。
修羅界が揺れたのは次の瞬間であった。
「・・・三歩必殺」
そう言って勇儀が繰り出した右拳が触れると異形の身体が上半身から吹き飛ぶ。
しかし、それも一瞬の事ですぐに異形の身体は再生される。
そして、また吹き飛ばされる。
何度も何度も・・・。
鬼の力と修羅の集合体の再生能力は拮抗していたーーそう見えていた。
だが、修羅の集合体は明らかに徐々に形成が困難になっていった。
そして、とうとう終わりを迎える。
それは修羅の集合体を司る核である水無月静の胸を拳が深々と突き刺さり、その背中を貫通した。
静は口を開閉させ、何かを口にするが、その何かが言葉にされる事はなかった。
そして、核を失った集合体の身体が四散する。
終わってしまえば、呆気ないものである。
人間は本気の妖怪に勝てない。
それは人間を捨てようとも変わらない事実であった。
ただ、それだけの事なのである。
こうして、修羅王は永劫の時を再びさ迷う。