第4話【深淵】
闇に侵食された幻想郷。
その中で修羅界に堕ちた人間達は警戒していた。
相手の数は不明ーー人数も解らない。
本来なら味方すべき深淵なる闇すら牙を向いている。
現状の解らぬまま、一人、また一人と惨殺される。
ある者は頭を食いちぎられ、ある者は心臓を抉られていた。
修羅の人間を指揮する存在の声が止む。
修羅に堕ちた人間にとって恐怖は恥である。
しかし、この不自然な現状に堕ちた人間達も怯み始める。
解るのは赤い残光がたまに見えるくらいだろうか?
そして、気付いた時にはもう遅い。
それが一匹の妖怪の仕業である事にーー人間に覆せぬ事実である事にーー味方していると思っていた深淵その物が敵であると云う事に。
「あはっ♪」
そして、深淵から聞こえる少女の声と共に手が伸び、また一人消える。
ーーー
ーー
ー
深淵の中、人間から引きずり出した腸をストロー代わりにして中身を飲みながら、ルーミアは静かに残りの人間の数を数えていた。
「メインディッシュはまだかしら?
このままだと前菜だけでお腹いっぱいになっちゃう」
ルーミアはボヤくと鳥の声真似をするように口笛を吹く。
刹那、深淵に潜む黒い影達が修羅に堕ちた人間を闇に引きずり込む。
深淵故に無限。
それこそが宵闇の妖怪であるルーミア本来の姿である。
今のはルーミアの闇が修羅に堕ちた人間を飲み込んだのである。
ルーミアの腹の底が声なき断末魔と血肉で蠢く。
「随分と派手にやっているな?」
その声に振り返ると萃香の姿があった。
ルーミアはさして気にするでもなく、寧ろ、退屈そうにしていた。
「もう一人の鬼さんがあっちで暴れているから暇。
いい加減、まずい人間食べるの飽きて来ちゃった」
「絶望に満ちた人間の肉は妖怪のご馳走だろ?ーー贅沢はよくないね」
萃香はそう告げると千鳥足で修羅界に通じる扉へと歩いて行く。
「・・・何処へ行くの?」
「相方とご馳走を食べにね?
あんたも来るかい?」
萃香の誘いにルーミアはしばらく考えてから「遠慮する」と告げる。
萃香は「そうかい」とだけ返すとフラフラとした足取りで修羅の門へと歩いて行く。
幻想郷は全てを受け入れる。
それはそれは残酷な真実すらも・・・。