第2話【例外なる異変】
「お、おい!?旦那!?」
「下がりなさい、魔理沙!」
突然、水無月静から発せられた禍々しいオーラに博麗の巫女である博麗霊夢が身構え、魔理沙が対応しきれずに戸惑う。
「・・・来い・・・我が鎧よ」
静が静かにそう告げると足元から赤と黒のカラーリングの鎧が現れ、彼と合身して行く。
その姿は東洋の鎧を模したパワードスーツに近かった。
「・・・これはまずいわね?」
霊夢がそう呟いた瞬間、禍々しいオーラが凝縮し、鎧姿の静にまとわりつく。
それを見た霊夢は誰よりも早く、その危険性に気付いていた。
「・・・旦那?」
「ひれ伏せ、愚民よ」
困惑する魔理沙に静がそう呟いた静が魔理沙に向かって手を掲げた瞬間、衝撃波が彼女を襲い、魔理沙は階段の下へと吹き飛ばされる。
「うわっと!」
魔理沙は器用に身を捻って着地すると階段の上の二人を見上げた。
そんな魔理沙を気にしつつ、霊夢は禍々しいオーラを凝縮した静に尋ねる。
「・・・あんた、何者?」
「我は修羅王。かつて、この地を支配せんとした王なり」
「ああ。もしかして転生って奴かしら?
外の人間が転生やら覚醒するなら解るけれど、里の人間が転生ってのは珍しいわね?」
霊夢は素っ気なく、そう告げるとどうしたものかを考える。
あまりに突発的過ぎて、札やお祓い棒を含めた妖怪退治用の道具をいまは手元にはない。
加えて、相手は最初からこちらを殺そうとしているのだと直感している。
「忌まわしき我を縛る博麗の鎖は汝が命をもって消える」
水無月静ーー修羅王はそう告げると右手をかざし、どす黒い剣を召喚する。
「さらばだ、博麗の巫女よ」
そう告げられた次の瞬間、剣が振り下ろされ、霊夢を切り裂くーー筈であったが、霊夢はそれを寸前で回避した。
「生憎とこう言うのは慣れているのよ」
「ほう。我が敗れた博麗の巫女よりも逃げ足が早い」
減らず口を叩く霊夢に修羅王は兜の下で感心する。
準備も何もしていない無防備だった霊夢の反応を楽しむかのように修羅王は横薙ぎに剣を振るう。
それをしゃがんで回避しながら、霊夢は不敵な笑みを浮かべた。
それを見計らったかのように修羅王の横から電車が現れ、彼にぶつかる。
しかし、彼を轢き殺すまでには到らない。
修羅王はそのまま、踏みとどまると片手で電車の勢いを止め、そのまま、どす黒い気を放って電車を粉砕する。
「見慣れぬ技だが、我を止めるには到らぬ」
「ええ。そうね」
そう言ってスキマから現れたのは八雲紫であった。
紫は道士服に身を包み、かつての敵を見据える。
「千年以上の時を越えて復活するとは思わなかったわよ、過去の征服王さん」
「スキマの妖怪か・・・懐かしいものだ」
修羅王と紫は互いにそう呟くとどちらからともなく、笑う。
「ここはかつてとは違う。博麗の巫女が失われれば、この地はとんでもない事になるわよ?」
「我は修羅にして征服する王ぞ。手に入るものは全て手に入れるまでだ。
例え、それが刹那的なものでもな」
「変わらないわね、愚かなる人間の王よ」
「いまの我をただの人間と思うなよ、女狐め」
そう告げると修羅王の姿が消える。
そんな修羅王に動じず、紫は天を仰ぎ見る。
そんな紫に呼応するように霊夢と魔理沙も天を仰ぐ。
そこには天から地上を見下ろす修羅王の姿があった。
「来たれ、修羅の門よ。出でよ、我が眷族よ」
その言葉に応じるように修羅王を中心に暗雲が立ち込める。
「これぞ、千年の時を越えた我が力なり」
修羅王がそう告げた瞬間、幻想郷は黒い闇に包まれる。
「・・・まずいわね」
「ええ。そうね」
そんな闇の中で霊夢と紫が言葉を交わす。
そんな二人に魔理沙は置いてきぼりを喰らい、思わず「おい!」と叫んでしまう。
「これって異変なんだろ!?
なら、私達の専門分野じゃないか!!」
「・・・いいえ。今回の異変は違うわ」
「何が違うんだよ!いつもみたくスパッと解決すれば良い話だろ!?」
魔理沙が叫ぶと霊夢は真剣な表情で彼女を見据える。
「・・・魔理沙。貴女に人間が殺せるの?」
「え?」
その言葉に魔理沙は何も言い返せず、霊夢が続ける。
「修羅に堕ちた奴ってのは魂だけじゃないわ。人間そのものもいる。
つまり、私達が今からするのは異変解決なんて生易しいものではなく、人殺しよ」
「・・・マジかよ」
霊夢の言葉に魔理沙が絶句する中、修羅王は門の中へと消えて行く。
「修羅界へ行ったようね」
「・・・どうするんだよ?」
「あの男を殺すしかないわ」
「駄目だ!」
淡々と告げる霊夢に魔理沙は叫ぶ。
「旦那を殺すってのも、霊夢が手を汚すってのもやっちゃ駄目だ!
そんな事したら、霊夢が霊夢じゃなくなっちゃうだろ!」
「ええ。そうね。人殺しに手を染めた私は隠居ーーもしくは排除されて新しい博麗の巫女が幻想郷を治めるでしょう」
「わかってんなら、行かないでくれよ!こんなのあんまりだ!」
魔理沙は悲痛な声で叫ぶと紫に顔を向ける。
「お前もなんかないのかよ、紫!
霊夢が人殺しになっちまうんだぞ!」
「・・・そうね」
「そうねって、それだけかよ!
お前、これから霊夢にーー博麗の巫女に人殺しをさせに行くんだぞ!?」
「私だってさせたくはないわよ!
でも、これ以外に方法はないの!」
魔理沙の叫びに紫も叫び返すとしばしの静寂が訪れる。
「あー。その事なんだが、なんなら、その役は私達が引き受けてやろうか、八雲紫?」
その言葉に三人が振り返るとリボンのほどけ、封印が解かれた常闇の妖怪のルーミアや愉快げに笑う鬼の四天王の星熊勇儀と伊吹萃香が博麗神社にやって来る。
「こう言うのは私らの役目だ。
久々に鬼の恐怖を存分に思い知らせてやろうじゃないかい」
勇儀はそう言うと指をゴキゴキ鳴らせながら拳を作る。
「闇に閉ざされた世界なら私の出番でしょう?
久々に人を殺すから腕が鈍ってないと良いんだけどね?」
封印のリボンを無くし、長身の金髪美女になったルーミアはそう告げて笑う。
「この異変は妖怪が解決してやる」