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第1話【一変する人生】

『・・・よ・・・せいよ』


 ・・・深い。


 ただ、深い闇の中、俺を呼ぶ声だけが聞こえる。

 声の主は解らないが、人外なのは解る。


 何故なのかは解らないが、そんな気がした。

 そして、それは恐らく、正しいだろう。


『汝のあるべき宿命を思い出せ』


 その声が頭の中で響き渡り、俺は目を覚ます。


 ーー普段から見慣れた天井に夫婦になったさちえの顔があった。


「あなた、大丈夫?」

「・・・さちえ」


 さちえはゆっくりと俺の頬を手拭いでそっと撫で、心配げに此方を見詰めてくる。


「・・・またうなされていたのか、俺?」


 俺の問いにさちえはゆっくりと頷く。


「やっぱり、博麗神社で見て貰いましょうよ」

「いや、しかしーー」

「私の為だけじゃなく、あの子の為にもよ」


 そう言ってさちえはたくみに視線を向けた。

 七歳のやんちゃな我が子はこちらに気付いてないかのように静かな寝息を立てている。


 夢を見始めたのは前からであり、特に気にも止めていなかったが、ここ最近になって酷くなっている。

 もしもの事を考えて、ずっと堪えてきたが、家族の為にも一度、お祓いでもして貰うか・・・。



 次の日。俺は博麗神社へと向かった。

 この幻想郷では妖怪などが住んでいる。

 幻想郷の人里はそんな妖怪達も手を出さない特殊な場所だと幻想郷縁起にもあった。


 まあ、稗田様が書いているんだから正しいのだろう。

 ただの里の人間の俺にはよく解らないが・・・。


 そんな中、俺が博麗神社に向かうのを躊躇っていたのは博麗神社へ行くのが危険だからって言うのもあるが、そこまでの体力がないからって言うのがあった。

 あれから大分、農業で身体も鍛えられたし、流石に向かえるだけの体力は出来ただろうーー筈なのだが、博麗神社の境内に続く階段で俺はまた疲れてしまった。

 昔は病弱だったからだろうと思っていたが、流石に体力のついた現在の俺がここまで疲れるのは変だ。

 まさかとは思うが、本当に何かとんでもない悪霊か何かが取り憑いているのかも知れない。

 こうなるといよいよ、巫女様の力を借りにゃあならんな。


 俺はそう思い、重くなった足取りで階段を登る。

 神社が近くなるにつれて、気分まで悪くなって来た。


 今朝食べた山菜料理を口からぶちまけそうだ。


「おい、あんた」


 そんな俺に誰かが声を掛けて来る。

 振り返れば、魔女がいた。


 一瞬、慌てかけたが、よく見れば、幻想郷の異変を解決されている霧雨さんところの魔理沙ちゃんだと気付く。


「魔理沙ちゃんか・・・」

「ん?私を知っているのか?」

「俺だよ。俺」

「ん?ん?ーーって、蕎麦屋の旦那じゃないか!」

「そうそう。蕎麦屋の水無月だよ」

「うっわ!久しぶりだな、旦那!」


 魔理沙ちゃんが俺に気付いて、懐かしむように俺の肩を叩く。

 俺も懐かしむように魔理沙ちゃんの小さい時を思い出す。

 あの頃は儚げな少女が今じゃ、こんなに立派になって。

 森近さんからは今も顔を合わせている程度に昔、話を聞いたが、元気で何よりだ。


 いや、本当に懐かしい。


「魔理沙ちゃん。ちゃんと親父さんには会っているかい?」

「あんな奴、もう親とは思ってないんだぜ!

 あいつの話はやめてくれ!」


 こう言うところは霧雨さんそっくりだ。

 顔はお袋さんに似て美人なのになんで性格は似なかったもんかね?


 お袋さんに似てたんなら、ここまでこじれる事はなかっただろうに・・・。


 まあ、よそさんの事情はよそさんの事情だから深くは追求せん方がいいだろう。


「悪かったね。たまにはうちにも遊びにおいで」

「おう!水無月さんにはこーりんくらいに色々して貰っているしな!」


 改めて、お互いに笑うと魔理沙ちゃんは「それで?」と問い掛けてくる。


「旦那がこんなところにいるって事は神社に何か用なのか?ーーと言うか、こんな所でへばっているなんて旦那も歳なんじゃないか?」

「・・・一言多いね、魔理沙ちゃん」

「口の悪さは生まれつきだぜ!」


 魔理沙ちゃんはそう言うと意地悪そうな顔をして鼻を擦る。

 やれやれ、本当に親父さんに似ちまったもんだ。


「まあ、マジな話だけど、旦那の顔色、かなり悪そうだし、何かに憑かれているのかもな?」

「さちえにもそう言われたよ。

 ここに来るまでにかなり弱っちまったし、本当に何かに取り憑かれているのは確かみたいだ」

「そりゃあ、大変だな!」


 魔理沙ちゃんはそういうと「よし!」と言って、俺の手を引っ張る。


「旦那が無事に辿り着けるように私がエスコートしてやるよ!」

「ちょっーー魔理沙ちゃん!

 そんなに引っ張ったら、階段で転んじまうよ!」


 そう言いつつも魔理沙ちゃんとの会話で大分、回復していたし、俺はなんとか博麗神社へと辿り着く。


「おーい!霊夢!お客さんだぞ!」


 魔理沙ちゃんが巫女様の名を呼ぶと気だるそうに巫女様が縁側で欠伸しながら、こちらにやって来る。


 その瞬間である。


 俺が前世の記憶を取り戻したのは・・・。


 ーーそうだ。


 俺は千年以上前にこの地に災いをもたらさんとし、博麗の巫女に敗れた修羅王だ。

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