慈悲深い人というのは物事を心で考えるらしい
「つまり……ベタな展開とはこういう事ですか? エレナ嬢はグランヴィル伯爵に恋心を寄せていて……婚約者になるかもしれない陛下を、嫉妬心ゆえに狙ったと?」
女王への挨拶を求めるゲストの群れから離れ、一旦控室に下がった俺と陛下。
もう声をひそめる必要はないのだけれど、無意識に声量を制限してしまう。話の内容が、内容なだけに。
「証拠は……無いけれど」
そんなもの必要ないだろう。
歩いている人間目がけて花瓶を投げるだなんて、稚拙で衝動的な犯行……。その動機が色恋沙汰に狂った小娘の嫉妬、という事ならば、すんなりと合点がいく。
「……陛下のご意向は?」
「え?」
「私にお任せ頂ければ、彼女を問い詰めて犯行を吐かせるのは簡単です。陛下が望まれるのであれば、私はまぁまぁ可愛い女子相手でも、躊躇なく拷問し尋問し、投獄出来ます」
「投獄……」
陛下の美顔が、わかりやすく曇る。
やはり。陛下ならば、未来ある少女を捕らえる事に抵抗を示すと思っていた。
「王族への謀反は死罪にあたります。私個人としては……たとえ怪我を負わなかったとはいえ、陛下のお心を傷つけただけで、十二分に斬首にふさわしい大罪だとは思いますが……。慈悲深い陛下はそれをお望みではないのでは?」
「……なんとかできるというの? あなたなら?」
「陛下のお望みとあらば。ですが……代わりにと言ってはなんですが、一つお願いが」
「お願い? 言ってみなさい」
怪訝そうに俺の目をじっと見る陛下。
俺の身長が180センチ。陛下が156センチ。必然的に上目遣いになる。
「くぅ……っ」
「え? くう? くうって何?」
たまらない。ちょっと小首をかしげながら、くりくりの丸い瞳で見つめられたら、そりゃあ声も漏れる。
可愛くて愛おしくて、強引に抱き寄せてめちゃくちゃにしてしまいたい。
「失礼しました。もしこの件がひと段落したら……私は今度こそ、陛下の護衛騎士を辞するつもりでおります」
「……そう」
「陛下への忠誠心に変わりはありませんが……やはり……恐ろしいのです。陛下の真実を知った今も、私はあなたに魅了されっぱなしで。そのうち男でもなんとかイケるんじゃないかと、やりかたを学びだしそうな自分が……恐ろしい……。ですから……申し訳ありません」
「いいのよ。辞職の事は私に非があるのだし、何もお願いなんてしなくても……」
「いえ、お願いというのは他にあります」
そう、このままではやはり諦められない。諦められないままお傍を離れても、想いとストレスが募るだけだろう。だから、何とかしてこの恋心を抑え込む手段を投じなければ。
「……なあに?」
ごくり、と陛下が息を呑む音が聞こえる。
「この件が……エレナ嬢が陛下の望むような結末を迎える事ができましたら……
陛下に一番よく似ているご親戚のお嬢さんを、私に紹介して下さい」