自分に合った化粧を知らない女は結構いる
年の頃は16、7だろうか。
ピンクのブリブリ系ドレスに、派手に盛ったヘアスタイル。
顔は……多分割と可愛いだろうに、下手な化粧で台無しにしている。
「陛下。部屋の左隅の、柱の陰からこちらを見ているご令嬢……ご存知ですか? 直視するのは避けて、ご確認下さい」
「え? ちょ、ちょっと待って…」
後ろから、陛下だけに聞こえる程度のボリュームで囁く。
話し掛けている事すら察せられないよう、口元を極力動かさないよう気をつけながら。
「ええと、どの子かしら」
「ピンクのドレスを着た、16、7歳くらいの娘です。巻き髪ハーフアップで、身長は陛下と同程度。目がぱっちりとしていて、華やかではありますが、少々品に欠ける顔立ちの。胸は…残念ながら豊満ですが、その分二の腕にわずかながらムダ肉が見受けられます。ですからトータルで言うと陛下の圧勝ですね」
「……ちょっと、余計な情報が多……あぁあの子ね。キャンベル子爵家の長女よ。確か、エレナ? だったかしら」
流石は陛下。一度でも会った事のある人物の氏名や顔は絶対に忘れない。
たとえ下級貴族であっても、女王に名前すら覚えられていない事を快く思う者はいないだろう。
自分は女王に知られている、一目置かれているという自負は陛下への忠義心にも繋がる。主従の信頼関係構築において必要不可欠なものなのだ。
「先程から、殺気に満ちた視線を陛下に向けています。大変失礼な事を伺いますが……彼女から恨まれる心当たりは?」
「……あるわ。ああ……なんというか、すごく……ベタな展開が見えてきた……」
「と、いいますと?」
「ああローラ陛下! ご機嫌うるわしゅう……」
囁くような俺と陛下の会話に、突然割り込んで来たのは……
「こんばんは、グランヴィル伯爵」
陛下のお言葉に笑顔で応じ、目元にかかる金の前髪を指先でかき分ける、見るからに頭の軽そうな男。
俺の大嫌いな、陛下の婚約者候補の一人。
「相変わらずお美しくていらっしゃる。この度は栄誉ある黄薔薇の勲章を授与して頂けるとの事で……私も身の引き締まる思いでおります」
陛下の手を取り唇を寄せるグランヴィル伯爵。
紳士の淑女に対する挨拶として、特段珍しい光景ではないが……沸き立つ嫌悪感。
今夜だけで、何人もの女に同じ事をしたであろう汚らしい手と唇で、陛下に触れるなんて。
そんな俺と同じように歯を食いしばっている人間を、会場内に見つけた。
それは他でもない、エレナ・キャンベル嬢。
「ああ……」
思わず声を漏らす。
陛下のおっしゃる『ベタな展開』の意味するものが、ようやく理解できたから。
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