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決意を語ったら笑われた

 「とにかく……逆賊を捕らえるまで警備を強化しましょう。バルコニーから陛下のいらした位置までは約10メートル。花瓶は自然に落ちた、のでは無く陛下目がけて投げられた、と考えるのが自然です。今回はレオナルドが花瓶を叩き切ったからよかったようなものの……陛下の頭に当たっていたら致命傷を受けていたかもしれません」


 落ち着いた様子で話す騎士団長。

 入団2年目の俺を、女王の護衛騎士にと推薦してくれた恩ある人。


 誠実、勇敢、真摯、を体現したような男。

 世の中全ての男と陛下を奪い合う事になったとしたら、敵わないかもしれないと思っていた、唯一の存在。

 今年40を迎える団長は立派な妻帯者であるし、彼がライバルになる事は無いのかもしれないが。


 ああ、いや。もうライバルだとかは考えなくてもよいのだった。


 目の前の見目麗しいお方は、獅子のようにたくましい団長と同性なのだから。


 「うーん、10メートルか。一輪挿しの小さな物とはいえ、陶器をそれ程離れた場所に投げ得たという事は、犯人は男でしょうな」


 顎先の髭を撫でながらうなる首相。どや顔の割りに、その推測は大層なものじゃない。


 「女性の力を侮ってはいけません。彼女達の腕力は怒りによって2倍にも3倍にもなるのです。私は縁談をお断りして、何度か殴られた事がありますが……正直、あまりの衝撃に、胸鎖乳突筋がもげるかと思いました」


 「きょ、きょうさ?」


 「首の筋肉です、閣下」


 ポカンと間抜け面を浮かべる首相に、騎士団長が小声で注釈を加える。


 「じゃあお前……レオナルドとか言ったか。犯人は女だというのか? しかし、女が一国の主を狙うなど……反乱分子は大抵男の集団――」


 「私が申し上げたいのは、性別を限定せず、幅広い視野を持って調査すべきだという事です。暗殺行為の全てが統治への不満を持つ人間によるものと決めつけてはいけません。陛下は名君であられるが、同時に多くの同性を敵に回す要素を兼ね備えた、女性でもある」


 「どういう事だ?」


 「レオナルド、この場でそういう話は――」


 話を遮ろうとする騎士団長を無視し、きょとんと首をかしげる首相の質問に答える。


 「……金髪の長い髪、空の青よりも透き通った碧眼。蝋のように白く滑らかな肌。華奢さの象徴であるデコルテに浮き上がる鎖骨と、ドレスの袖から覗く折れそうな手首。いかにこの国が広かろうと、これ程までに美しい女性がいるでしょうか? いやいない! しかも性格まで良く、地位あり権力ありの女王陛下! 完璧なんですよ! 陛下は女性としてまさしく完璧! 女性は完璧な男性を好みますが、完璧な女性は大嫌いなのです! 嫉妬に狂い、陛下に刃を向ける者がいたとしても……不思議ではないと……思い……ます……」


 「ど、どうしたレオナルド?」


 話の終盤、急速に勢いを失った俺の顔を、怪訝そうに覗き込む騎士団長。


 陛下への愛溢れる熱弁に圧倒されていたのか、ドン引きしていたのか、押し黙っていた首相達も、戸惑った様子で顔を見合わせる。


 「いえ……すいません。自分で言ってて悲しくなってしまって」


 「ん?」


 完璧な女性だと、思っていた。生涯これ以上の相手には出会えない、理想の人だと。


 けれど昨日、その偶像は打ち砕かれた。

 手の平に感じた、あの感触を、平坦な絶望を、俺は一生忘れる事はないだろう。


 しかし、たとえ男でも、陛下が素晴らしい君主である事実に変わりは無い。


 「とにかく! 犯人が男であれ女であれ、私がこの身に代えても陛下をお守り致しますので、どうかご安心を!」


 決意を新たに、ローラ女王陛下の前にひざまずいた。

 

 そしてゆっくりと顔を上げ、元・理想の女性の表情をうかがう。


 国で一番尊いそのお方は、口元に手を当て、プルプルと肩を震わせながら……笑いを堪えていた。

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