女王かつ巫女という、色々な意味で尊いお立場
シルクバニア王国は世界でも5本の指に入る大国だ。
国土の広さは世界第四位。
総人口は世界第三位。
貿易収支は世界第二位。
そして君主である女王の美しさは、周回差でぶっちぎりの世界第一位だ。
しかしながら、華やかな美貌だけで広大な国を治める事は出来ない。
陛下には、代々女王にのみ受け継がれてきた、特別な力がある。
それは神の啓示を受ける能力。
神の助言をもとに国を導く、王にして巫女。それが、シルクバニア王国のローラ女王陛下なのだ。
女王は神の寵愛を賜る為に、いつ何時も『正しくある』事を求められる。
清廉潔白な人間であり、聡明な王であり、慈悲深い女性でい続けなければ……たちまち、神はお言葉を授ける事をやめてしまうのだ。
過ちを犯すことを、一切許されない。想像しただけで、息がつまりそうな生涯。
そんな茨道を、陛下は歩んで来られた。
若干14歳で即位されてから5年間、寸分たりとも道を違える事なく、ずっと。
国を想い、民を想い、ご自分を高め、律し、懸命に励むそのお姿を、俺はずっと見守ってきた。
そのご苦労たるや、いかばかりのものか……一介の騎士である俺には想像も出来ない。
「それ程の名君である陛下に!! 事もあろうか花瓶なんぞを投げつけたクソカス危険分子は!! 私が責任を持って見つけ出し!! 血祭りにあげてみせます!!!」
「ちょ、わかっ、わかったから落ち着けレオナルド! 陛下の御前だぞ! 」
「いつもこうなのですかな? この男は」
身振り手振りで決意を語る俺を取り押さえる騎士団長と、若干引き気味な目で見る首相や官房長官達。
「護衛騎士としては申し分ない実力の持ち主なのよ。性格というか性癖には、かなり難があるのだけど」
国の要人達を前に、俺をかばって下さる陛下。
これまで何度、そのお優しさに癒され、期待に胸を膨らませ、ピンク色の妄想をしてきた事か。
陛下が男性だと知った今、あれらが現実になる可能性は潰えてしまったわけだが……
だからといって、不届き者に命を狙われた陛下を置いて、護衛騎士を辞するほど、俺の想いはあっさり軽いものではなかった。