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問題は身分ではない

 叶う筈は無いと思っていた。



 「レオナルド……私、本当は……」



 王座から、跪く俺を見下ろす女王陛下。


 海のように透き通った碧眼が、悲し気に揺れている。


 一国の女王と、その護衛騎士では、あまりにも身分が違いすぎる。


 そう、思っていたのに。



 「私、本当は……男なんです」



 問題は、身分(そこ)ではなかった。





 「ちょ、レオ! 」


 「そんなの嘘です! この華奢な肩! 細い腰! 赤ん坊のように白く柔らかな肌!! こんな生き物が男だなんて、断じてあり得ない!! ああもう可愛い!!」


 両肩を掴み詰め寄る俺を、引き離そうとする麗しの女王陛下。


 「どうしても信じないなら、これでどう!?」


 そう言うと陛下は俺の手を掴み、自分の胸元へ押し当てた。


 「な……」


 無い。ふんわりとした、女性特有の膨らみが。


 「いつもは適当に詰め物をして誤魔化しているの。でも、これがありのままの私よ」


 「そんな……ただの、貧乳じゃなかったんですか……!?」


 全体的に小柄で、細見のお方だから、バストに恵まれていらっしゃらないだけだと思っていたのに。

 

 目を閉じ、首を横に振る陛下。長いまつげが涙袋にかかる様が、また一層美しい。


 「我が国は代々女王がおさめるしきたりになっているけれど、私の母……前女王は女児を授からなかった。だから男の私を女として育てたのよ」


 「そんな……」


 うなだれる俺の肩に、そっと手を添える陛下。


 「あなたの気持ちには気付いていたわ。だから話したの。

 大事な幼馴染であり、信頼できる護衛騎士であるあなたの青春を、私なんかで浪費させてはいけないと思って」


 「気付いていたんですか? 私が陛下を……」


 「ええ、その、あれは気付かない方が難しいと思うわ。いつでもどこでも、怖いくらい視線を感じていたし。私に貴族の子息が声を掛けると、鬼の形相で追い払ったりもしていたし」


 「お恥ずかしい……」


 顔を手で覆いため息を吐く俺に、陛下は微笑んだ。


 「でもあなたはいつも懸命に、私を守り、支えてくれた。どうかこれからも変わらず傍にいて? 

 女性としては、あなたの気持ちに応える事は出来ないけれど。女王としてなら、騎士が守るに値する立派な君主になれるよう、私はこれからも励む……」


 「陛下、股間……股間も確認させて頂くわけには……?」


 お言葉を遮る俺の問いに、さっきよりも激しく、首を振る陛下。


 耳のピアスが頬にペチペチとぶつかる。その様が、また一層愛らしかった。 


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