とおる君の靴のお話
とおる君はわんぱくな男の子
靴のかかとはいつも曲がっている。
運動が大好きで、かけっこやサッカーはとても得意。
靴のサイズがぴったりで足首をしっかり守ってくれている。
雨の日は泥の水たまりにジャンプする。
靴の仲間で泥水でぐしょぐしょになっている。
だけど、外に行くとき、靴は何時も一緒。
とおる君の靴はとおる君の一番のお気に入り。
明日は一番上のお姉ちゃんの結婚式。
泥だらけの靴で言ってはいけないとお母さんに怒られた。
だから、今日は朝から靴磨きをしている。
大好きな靴を、水のたっぷり入ったバケツの中に入れて
じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ
としっかり水をしみこませる。
そして、ごしごしごしごしとブラシを使って泥を綺麗におとすんだ。
じゃぶじゃぶごしごし
何度も何度もくりかえす。
大好きな大好きなお姉ちゃんの結婚式。
大好きな大好きな綺麗な靴を履いて出席するんだ。
太陽が照り付けるベランダに綺麗に並べて干している。
上を見ると、靴の紐が風に揺られてゆ~らゆら。
じっくりじわじわと乾いていく。
次の日の朝、今日は大好きな大好きなお姉ちゃんの結婚式。
綺麗になった大好きな大好きな靴にゆっくりと丁寧に紐を通す。
今日は一日、綺麗な綺麗な靴で歩き続けた。
だけど、次の日からはいつもとお~んなじ。
サッカーをして泥だらけ。
水たまりに飛び込んで泥だらけ。
かかとはいつでも踏んずけて曲がっている。
大好きな大好きな靴の先が破けちゃった。
いつもいつもとおる君の足と一緒に動き続けた靴。
破けちゃった。
自分ではどうしようもなく鳴いていると。
大好きな大好きなお姉ちゃんがやってきた。
大好きな大好きな靴の先が破けちゃった。
そう言って説明すると。
「かしてごらん、お姉ちゃんが直してあげる」
そう言って、おうちのタンスからロケットのアップリケを持ってきた。
お姉ちゃんは一針一針ゆっくりと丁寧にロケットを取り付けてくれた。
出来上がった靴はロケットが最初からついていたかのようにかっこよかった。
「お姉ちゃんありがとう。これでまた大好きな靴を履くことが出来るよ」
だけど、次の日からはいつもとお~んなじ。
サッカーをして泥だらけ。
水たまりに飛び込んで泥だらけ。
かかとはいつでも踏んずけて曲がっている。
だけど、大好きな大好きな靴ともお別れの日がやってきた。
靴の裏に穴が開いてしまった。
お母さんに何とかならないか、泣きながら頼み込んだ。
だけど、靴の裏に空いた穴は治すことはできないといわれた。
サッカーをして、かけっこをして、水たまりに飛び込んで、
かかとはいつでも踏んずけて、
そして、大好きな大好きなお姉ちゃんの結婚式。
そして、そのお姉ちゃんにつけてもらったロケット。
たくさん、たくさん、思い出を踏み込んで、
とおる君の靴は寿命を迎えた。
裏に穴の開いた靴を履いてゆっくりとゆっくりと歩く。
とおる君は靴の最後の日を大切にした。
今日はサッカーもせず、
水たまりにも入らず、
かかともしっかりと伸ばして丁寧に履いた。
玄関を開けて、大事に靴を脱いで、玄関に整えて置いた。
そして、顔を上げたそこに全く同じ靴が、新品の同じ靴が置いてあった。
「お母さん、これ僕の靴なの」
「そうだよ、大事に履いたからね。同じ靴がいいだろうってお父さんも言ってたからね」
「ありがとう、また、大事にするよ」
だけど、次の日からはいつもとお~んなじ。
サッカーをして泥だらけ。
水たまりに飛び込んで泥だらけ。
かかとはいつでも踏んずけて曲がっている。
だけど、違うのはロケットのついた靴はとおる君の机の上にいつまでも飾られていた。
子供の頃の視点を思い出しながら、思いと行動のギャップが大人にはわかりにくい部分だと思います。
そんな、忘れていた瞬間を思い出せればいいなと思います。
感想や意見があれば気軽に記入ください。
読んでいただきありがとうございます。
P.S.ジャンルが童話でいいのかわかりませんが、子供向けに書いているつもりです。