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幻想生物グルメ~とあるギルド職員の美味しい手記~

作者: 榎木しめじ

 臭み取りの薬草と一緒によく揉みこんだグラングゥズのヒレ肉を一口大に切り、丁寧に串に刺していく。炭火でじっくりと焼いていくと、ぷつぷつと油がしみ出てきた。(料理長は『肉が汗をかく』なんて言い方をしている)

 程よい焼き目がついた頃、たっぷり肉汁を含んだ肉をそっと網から外し、つけダレが入った壷にとっぷりと沈める。

 ゆっくり3つ数えてから静かに引き揚げる。程よく煮詰められた甘辛いタレがキラキラと輝きながら肉に絡み、滴り落ちる。


 ここから更にもうひと手間かけるのが、ギルドの台所を任されている料理人のこだわりだ。

 薪を足し、火力を強めて最後の焼きに入る。

 肉の中心までじんわり火を通す作業とは打って変わって、ここからは短時間の勝負。

 直火に近づけて焦げ目を均等に付けるように炙る。すぐに焦げてしまうから、手を休めてはいけない。くるくると、一定のスピードで丁寧に串を回転させていく。

 じゅわ、と香気が弾けてあたり一面に広がった。官能的な香りを吸い込むと、腹の底が熱くなる。


 ああ、今すぐにでもかぶりつきたい。

 炙ることで香ばしさを増したタレは、濃厚な肉汁と混然一体となって口の中いっぱいに流れ込むだろう。

 啜るようにして肉汁を呑み込んだら、今度は柔らかな肉だ。

 深層森林の豊かな緑を餌にする上質なグラングゥズの肉は余計な臭みが無く、ほのかな香ばしさが漂うと言う。これは、好物であるマロの実やトゴリの実の芳香によるもので、鮮度の良いものにしかない特徴だ。


 ーーごくん


 思わず生唾を飲み込むと、隣に座っていたトスタが笑った。

 「早く食いてぇなあ。レンジ、あとどれくらい?」

 「もう完成。熱いうちに食っちまおうぜ」

 「待ってました!」

 いそいそと盛り付けの支度にかかる。

 ヒラテソウの大きい葉を適当に摘んで、軽く拭って皿の代わりにする。

 メインディッシュは狩りたてのグラングゥズの串焼き。付け合わせには、ユウガタケのソテー。それに宿舎から持ってきた爆炎酒(ばくえんしゅ)も二人分の盃に注ぐ。

 品数が物足りないとか、野菜が足りないとかそんなことには一切眼を瞑ってしまおう。

 なにせ今夜は食材探訪の最終日。少しなら羽目を外しても誰も文句は言うまい。


 「「いっただっきまーす!!」」


 二人分の声が、静かな森に木霊した。



◇とあるギルド職員の手記より

 深層森林 千年樹キャンプにて

 食材探訪最終日の夕食

 ・グラングゥズの串焼き

 ・ユウガタケのソテー

 ・爆炎酒

 調理担当 食研所属/レンジ・スタッド

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