表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ゲーム世界大会

 私の名はルシファー。

 全ての遍く天使の頂点に立ち、最高位である熾天使を授かりし者だ。


 女神達は【転生】を司る存在だが、天使は【転移】を司る。

 昨今は、転生ブームにより転移は肩身の狭い立場だ。

 人間達が天界に呼ばれた際の一言目は総じて"異世界転生っスか?"である。

 その時に放つ転移の言葉は何と心苦しいことか。


 なので、女神達とはすこぶる仲が悪い。

 昨年に開かれた天界合同の忘年会で見る女神共のドヤ顔。

 特にまる子とかいう底辺女神はヒドイ。

 酔った勢いで新人天使の輪を盗み、人間界で売り払ったのだ。

 後日、申し訳なさそうに売った際に貰った領収書を此方に渡してきた。


 謎の輪、98円。


 その日の内に辞令を出し、輪を失った彼女は引退した。

 許すまじ、女神共。


 まあ、そんな鬱憤を日々抱えつつ、私はここにいる。

 地球と呼ばれる星で開かれるゲームによる祭典。

 そこで催されたとあるFPSゲームの世界大会に出場していた。

 何を隠そう私はゲームが趣味であり、幾つものゲーム、大会で優勝している。

 私が持つ唯一の趣味であり、息抜きだ。


 今日も人間に扮して、大会に出ていたのだが様子がおかしい。

 128人ものプレイヤーが参加し、私が遭遇して倒したのは一人のみ。

 情報を見ればあるプレイヤーが既に参加者の四分の三を仕留めている。


「まさか、そのようなプレイヤーがいるとは……」


 そうなのだ。

 世界上位のプレイヤーが一同に集まる大会。

 オンラインプレイをしていれば、何度かは対戦したことのある面子だ。


 だが、その中に四分の三ものプレイヤーを屠る者など見たことがないのだ。

 かくゆう私も最高記録は約半数の56。

 人知を超えた存在がいる。

 私も天界の力を使えば、同じ様に無双できるだろうがそれはしない。

 人間達と対等。

 何の能力も使用せず、身一つで挑まなければ意味がないからだ。

 

 また一人、一人とプレイヤーの名前が消える。

 早い。

 圧倒的な早さで人が減っていく。

 改めて無双中のプレイヤー情報を見る。


 名前は"トメ"。

 アバターはアニメ調にデフォルメされた100歳の女性老婆だ。


 聞いたことがある。

 日々のオンラインでは遭遇せず、大会のみに出現するプレイヤーがいると。

 数多の歴戦プレイヤーに絶望を与える者はいつも老婆のアバターを使う。

 いつしか、彼女は畏怖の象徴として世界中からこう呼ばれるようになった。


『クレイジー・トメ』


 プレイヤーブースは音がほぼほぼ遮断されている。

 ヘッドホンも装着しているが、歓声が微かに聞こえるのだ。


「ОH、トメ、ОH、クレイジー!!!!」


 面白い。

 最高天使の私が伝説に引導を渡してやろう。

 

 気付けば私とトメを含む六人だけになる。

 潜伏が基本だが最後の5人になると凡その相手位置が分かるゲーム仕様だ。

 そして、戦闘範囲が極端に狭まる。

 デュエル状態になれば、人間のステータスと比して100倍を誇る私が勝つ。

 敵がいると分かれば、意識を集中するだけで回避が可能だ。

 少しの動きも見逃さず、細やかな音も聴き洩らさない。

 ここは、勝つ為に無闇に突っ込まず、他のプレイヤーを消していくが正解か。


 鳴り響くスナイパーライフルの射撃音。

 無闇やたらに連発している者がいるのか、プレイヤーの数は減らない。

 誰か無能がいるな。

 不意に私の20メートル横の地面に弾丸が着弾する。


 成程、位置は読めているようだ。

 少しの危険を感じ、移動した時だった。

 

『Your Dead!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 はっ?

 スナイパーライフルで撃たれた。

 移動を決め、心が少し揺らいだとでも言うのか……。

 確認すれば、射程はギリギリ。

 ゲーム仕様で言えば、一歩後ろであったなら届かなかった位置。


 そして、更なる驚愕の事実を知る。

 スナイパーライフル一発で5人抜き。

 連続した射撃は私達を同一線上に運ぶための罠。

 デュエル状態は分が悪いと、その仕様を回避するために5人抜きを狙ったのだ。

 公式から緊急発表が届く。

 スナイパーライフルで一度に10人抜きは類を見ない所行であると。


 10人……、5人ではないのか?

 そう、トメは何度もワンアタック複数キルを連発し、勝利していたのだ。

 デュエルを嫌ったのではない。

 単に複数キルを狙ったら、結果としてそうなっただけ……。


 超神業。

 最強のゲームプレイヤー。


 トメは同大会で別のゲームにも参加していた。

 全て優勝。

 チームを組む戦いでも、一人で登録して優勝。

 化け物である。

 忘れてはならないのが、どのゲームも恐らくほぼほぼ初見であるということ。


 私は千里眼の能力を使ってトメを盗み見る。

 そこに映るのは老婆でなく、美しい17歳の少女。

 そして、現実を知る。

 試合前に取扱い説明を熟読しながら、ゲームを練習している姿を……。

 

 何千時間と練習していた者達を嘲笑うかのように倒す存在。

 悔しすぎる。

 天界の力を使ってでも、コイツに勝利しなければ私のプライドが許さない。


 その時、私は気付いた。

 トメが10日後にボンタン飴を喉に詰まらせて死ぬ運命を。

 ならば、善は急げだ。


 その夜、私はとある天界ノートを秘密裏に開いた。

 本来、書き記される筈の無い名前。

 クレイジー・トメ、いや本名『頼富 翠』の名を刻んだのだ。

 彼女は二度目の人生を天界にて歩む。

 神、女神、天使にスキルを提供する、スキルクリエイターとして……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ