そして友に出会った
4話構成でひとつの物語が完結します。
勇者として転生し、30年の時が流れた。
魔王軍との熱き死闘。
ヒロインとの運命的な出会い。
スキル無双。
転生直後は色々、夢見たものさ。
だがな、肝心の魔王が引退していたのだ。
待てども待てども復活する気配は無い。
女神の話では勇者と魔王は戦う定めと言われた気がする。
そう説明されたがそんな気配は微塵も感じられない。
20年程経過したある日、王国から最後通告がなされた。
平和となった世に勇者は不要。
そう宣告された俺は今、しがない農家として日々を過ごしている。
何故、農家なのかって?
それは女神に召喚された時の記憶。
あの美しい庭園といっても差し支えない農園が脳裏に浮かんだからだ。
その時に貰った自慢のスキルも今は畑を耕す時に使用するだけ。
振り下ろしの際に固い石まで砕き、掘れるのが嬉しい。
麦わら帽子、黒く焼けた健康的な肌、使い込まれた鍬。
今の俺を見て、勇者だと認識できる者はいるのだろうか。
いや、いるはずもない。
最初は不満もあったが、今ではそれもいいかと思っている。
農作業、楽しくね。
自作野菜、めっちゃ美味しい。
試行錯誤を重ねて努力する日々。
今では王国領土内において、NO1の農園を持つまでに成長している。
しかし、順風満帆なだった農作業ライフにとある影が。
「盤石だと思っていたんだがな」
つい最近、俺のNO1の牙城を崩そうとする者が現れたのだ。
その男は俺の隣に腰を下ろし握り飯を食っていた。
名前は"マオ"。
俺の良きライバルであり、友である。
「盤石か……。井の中の蛙だな」
「知った風な口調だな」
「昔の我も、とある一団を指揮していてな。そんなことを思っていた」
「初耳だ。どこぞの憲兵団か何かか?」
「そのようなモノだな」
昔を懐かしむような、遠くを見る眼差し。
若干、恐れを含んだ気配があるのは気のせいだろう。
「最初で最後の挫折だ。この世にはどうにもならないことがあるのだと知ったよ」
「挫折か……。俺も似たようなものさ」
「どういうことだ」
「約束された未来。だが、その時はついぞ訪れず。待ち人来ず、といった感じだ」
「将来を約束された婚約者にでも逃げられたか」
「そのようなモノさ、ハハハ」
いつもの他愛ない雑談。
休憩を終えると俺達はそれぞれの農具を担ぎ、左右に分かれた。
それぞれが持つ城、自慢の農園へと向かうために。
「さて、今年もいよいよ大詰めだ。今年は我が収穫率NO1の座を頂くとしよう」
「馬鹿を言え。今年も俺が1位の座を頂く」
お互いに不敵な笑みを交わして、踵を返す。
勇者としての道は絶たれたが、今の生活は悪くない。
転生した頃、心に宿していたギラギラとした感覚。
それを生涯の友"マオ"と出会うことで取り戻すことが出来たのだから。
「さて、今日もスキル《暁闇の剣聖》をこの鍬に宿らせ、耕すとしますか!」
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落ちぶれた勇者。
忘れられた魔王。
その後、二人の農夫が王国を著しく発展させる事業を展開する。
勇者と魔王の成り上がり農業生活における物語は、本編とはまた別のお話で。
ノリはメイドさんを中心とした短編群像劇です。
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