表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の自称妹  作者: 九埜七海
5/5

両想いの案件 後編

木山一樹は、ボヌールのスタッフに指定された場所に来ていた。

彼は一つ、溜息をついた。これで何度目の溜息だろうか。幸せが逃げるとよく言うが、身体が淀んだ気持ちを吐き出そうとしているのか無意識にそれをしてしまうのだ。


先日、彼女を怒らせてしまった。理由は単純、女の子と親し気にしていたところを目撃されたのだ。

別に、その女の子に気があるとか彼女と別れたいからとかでは断じてない。

彼女の気を引くためだ。最近態度がそっけない気がするため、もう一度付き合った当時のような気持ちを取り戻してもらいたい。だからボヌールという恋愛の悩みを解決してくれるお店にそのことを相談したのだ。


しかし、正直大丈夫なのだろうかと不安が拭えない。

先日の一件では、彼女を怒らせてしまった。あの計画に対して異議一つもないのだが、何分相手役をしてくれた女の子がいけなかった。あーちゃん、といっただろうか。彼女の容姿は人間離れしてるといっても大げさではないくらい整っていて、しかも年下。おかげで自分より一つ年上なだけなのに「どうせ私はおばさんよ!」と怒鳴られてしまった。

あの状況になってしまっては、いったいどう解決するのだというのか――



「ごめんなさい、待たせちゃいましたね。」


いつの間にか、目の前にピンク色のサングラスをかけて日傘を持つ少女がいた。

そっとサングラスを外して笑いかけてくる。木山もつられて微笑みを返した。

先日は日傘は持っていたもののサングラスはかけていなかったので少し驚いたが、何でも似合うんだなぁと関心のほうが勝った。


「それで…依頼の件で打ち合わせって言ってましたけど…」


「はい。それなんですけど…」


彼女が話し始めようとしてふと言葉をやめた。木山の肩越しに何かをじっと見ているらしい。何かと思って後ろを振り向く。彼の目に映ったのは、自分の彼女である江波唯の姿だった。隣には、知らない男がいた――




*****


「どうやら上手くいったようですよ」


「ホントに?一樹の姿なんて見えなかったけど」


江波は、訝しげな声を隠そうともしなかった。彼の姿はどこにいたとしても見つけられる自信があるし見つけられなかったこともない。一種のセンサーだと友達に笑われることもあるくらいだ。


「メンバーから連絡が来たので間違いないですよ」


ボンという名のボヌールのスタッフは、先ほど届いたであろうメールを見せてくる。どうやら木山はかなり落ち込んでいるらしい。じわじわと罪悪感が押し寄せてくる。しかし、初めに女の子と仲良くしていたのはあっちだ。しかもこちらは本当に浮気をしているわけではない。ちょっとした仕返しのつもりなのだから自分は悪くない、と言い聞かせる。


「一応これで依頼達成ということなんですけど…せっかくなので少し付き合ってくれませんか?」



ボンのその言葉に、断る理由などなかった。別に気持ちがあるわけでないから浮気ではないし、こんなことに付き合わせたことの申し訳なさも相まって二つ返事で了承した。


たどり着いたのは、インテリアショップだった。安価ながらもかわいい商品が多く揃っている。このお店の特徴としては、ガーリーなものからシック系、カントリー調など雰囲気ごとのブースがあるのだ。見ているだけでも飽きないし、購入となれば好みの系統を揃えることができる。


「このお店…」


「どうしましたか?」


「い、いえ…」


この場所は、最近来たことがあった。木山とのデートの際に偶然見つけたお店で、一緒に住むことになったらここでいろいろ揃えようと話をしていた。そのことが思い出され胸がキュッと掴まれた感覚がしたが、それを振り切って店内に入る。


「お店で使うティーセットを頼まれたので…どんなのがいいと思いますか?僕はセンスないので選んでもらいたいんですけど…」


 ――俺、センスないから唯に任せちゃうかもだけどさ。また一緒に来ような。—―



不意にそんな言葉が頭を掠める。もう、ここに来ることはないのかもしれないと思うとまた胸が苦しくなった。



「ありがとうございます。おかげでいい物が買えました。」


「いえいえ。皆さん気に入ってくれるといいですね」


自分の中にある淀みを出さぬように笑いかける。しかしボンは、それをみて「ちょっと待ってて」とどこかへ行ってしまった。程なくして戻ってきた時、その手にあったのはキャンディーだった。クマの形をしているそれは、木山がクマ好きの私に買ってきたもの。以来、それがお気に入りとなっていた。


「元気なさそうだから。これ好きなんだよね?プロフィールに乗ってたけど、こんなの売ってるんだね」


それを受け取ると、なぜだか泣きそうになった。彼もよく、私が元気がないのに即座に気づくとポケットに常備しているのかそれを出して変な声を出して(本人はキャラクターのクマになりきっているらしい)笑わせてくれたのを思い出したのだ。最近では一緒にいることが少なくなったせいかそんなこともなくなり忘れかけていた。


しんみりした気持ちになりながら歩いていると、ボンが「こっち来て」というのでそちらについていく。見覚えのある階段。誘われるように登っていく。


「唯」


夕日に包まれるように居るそれは、逆光でシルエットになっている。

江波は、走り寄ってその胸に飛び込んだ――



*****



「うまくいったみたいだね」


あーちゃんが隣で笑う。僕もそれに倣う。


僕が考えた計画。それは、彼女の些細な”思い出”を再現することで気持ちを呼び戻すというものだった。

木山さんはもちろんのこと、江波さんも彼を愛していることは十分に分かっていたからだ。

なぜなら、嫉妬でほかの男の存在をチラつかせるのならボヌールに依頼することなどないのだ。彼女は交友関係も広いし、大学でもそこそこ人気のあるのだから誰か手頃な相手を探しせばいい話だ。


それをわざわざ依頼する点に引っかかっていた。おそらく彼女は浮気などしたくないほど彼を愛していた。そして彼もそうであると信じていたために俗にいう”マンネリ”と化していたのだろう。

それが女の影があることを知ってしまい、嫉妬に狂いそうになったものの本当に浮気をしてしまうことは躊躇われ、以前名刺をもらっていたボヌールの存在を思いだし依頼を思いついたのではないか、そう思った。



だから僕は、木山さんの依頼を達成するために彼女と行動をした。浮気相手役として買って出た僕は、パソ君に頼んで二人の思い出の話を調べてもらった。そして、ピックアップしたものの時系列を逆にして再現したのだ。


まず、最近のことで「将来の話」がでたインテリアショップに行く。

次に、最近ではなくなってしまったが日常でよくもらった「クマのキャンディー」を渡す。

最後に、この場所「木山さんが告白をして付き合った場所」に連れてきた。


彼とあった出来事を思い出させて、「付き合いたての気持ち」とまでは行かなくてもなにかしらの感情が出てくると踏んでいた。



「唯。大学卒業したら、俺と結婚してください」



あーちゃんに促され、僕たちはそっとその場を後にした。

気になって一瞬だけ振り返ると、彼らのシルエットが一つになって輝いていた。




*****



「くっ…あはっ、なんでそんなにできないの?」


僕はパソ君が作ったという例のゲームに挑んでいた。結果は、二問目でゲームオーバー。

一問目の三択は、㊂平伏するを選んだ。その後殺人犯に高圧的な態度をとられムカつきもしたが、とりあえずクリアしたのだからいいだろう。そして二問目。殺人現場に遭遇した主人公は一目見ただけで回答を強いられる。誰が犯人か――いや、わかるわけないだろう。そう思いつつも真剣に考えた結果、外れて殺された。


「難しすぎだろ」


「よく見ればわかりますよ。」


「そうだよファイト」


二人に適当な応援を受けもう一度再チャレンジする。

そこでふと思った。あれから音沙汰のない二人はどうしているのだろうと。

上手くやっていけているといい。ゲームのように、選択を間違えてもやり直しなどできないのだから。しかし、間違えてしまっても修正ならできるのだと思う。二人に絆があるのなら、何が起こっても離れるという選択肢に辿り着かないようにできるはずだから――




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ