アセイ村
カイムは、ティアンス町長に紹介された商人たちと旅をしていた。
幾日も旅を続けてきたカイムはついに一つの村の近くに着いた。
カイムの前は、今日の朝から進んできた森が途切れて目の前に草原が広がっていた。草原の先には立派な期の柵が見え、その後ろにレンガ作りの壁が見えた。
「ここが、アセイ村か。」
と同じ馬車に乗った商人にカイムは話しかけた。
馬車を操っていた商人が、そうだよとカイムへと教えていた。
村の入り口まで来るとカイムは馬車から降りた。村の門の前には、兵士が二人立っていた。カイムは、
「すみません!ここがアセイ村ですよね!風の歌声の本部に案内してくれませんか?」
と言った。
兵士の一人が、
「何の用だ、少年。」
と威圧的な態度でいった。
「ここに来れば、風の歌声に入れてくれるて聞いたのでやってきました。」
とカイムが言い、コロンナンスの紹介状を見せた。
紹介状を見た兵士達は驚いた顔をした。そして、態度を変えて、
「いますぐ、本部にご案内します。」
と言った。
一人の兵士が入口近くにある建物に走っていった。カイムには分からないことであったが、紹介状の表の模様は、ウンエンス家当主しか使えない紋章が書かれていたのだ。この手紙を開けれるのは、貴族以上の者だけであった。彼らは元々ウンエンス家に勤める兵士であった。
近くの建物から、さっきの兵士の他にもう一人が出て来た。新しく出て来た男が、
「その紹介状を見せてくれませんか?」
と言った。
カイムが紹介状を渡すとその男が紹介状を見て、他の兵士に小さい声で、
「これは、本物だ。俺が本部にお連れする。」
と言った。
そして、カイムに紹介状を返して
「本部までお連れ致します。ついて来てください。」
と言った。
門番の後ろを歩いて村の中に入ったカイムは、村の中でもひときわ大きな建物を正面に見据えてた大通りを歩いていた。
十数分歩いた所で、一際大きい建物もの前に兵士とカイムが来た。門番がカイムに向かって、
「この建物は、『アセイ領ウンエンス邸』である。」
と言い。ここに風の歌声本部が設置されていた。門番について来いと言われ二人は、建物の中に入った。
玄関を入ると、二人はすぐに左に曲がった。兵士は一つの扉の前で足を止めた。その扉を開けて、二人は中に入った。そこは、本部での兵士詰め所であった。兵士はそこに居た兵士の一人に事情を説明した。説明を受けた兵士がカイムの所へやって来た。
「私が入隊を管轄している『ビオサール・アクサン』です。紹介状を見せてくれませんか?」
と言った。
カイムは、紹介状をアクサンに渡した。アクサンは、紹介状を開けて、中を確認し始めた。封印された公式文書を開封できるのは、二等行政士以上の資格を持つ者だけであった。そのため、さっきの兵士達は見ることが出来なかった。二等行政士は、貴族出身者は見習い期間終了時に与えられた。しかし、市民出身者は下士官以上になり、さらに合格率4%の試験を受けて受からなければならなかった。
「我がリーダーとお会いになってください。あなたが紹介状は持っていてください。」
とビオサールが言った。紹介状を袋の中にしまった。
ビオサールは、カイムに紹介状を返すと部屋を出て行った。
ウンエンス邸にやってきて数十分後。カイムは大広間にとおされた。大広間は広く、一部が高くなっていた。高くなっている場所には、高そうな椅子が置かれていた。
少し待つと、三人の女性が部屋に入って来た。真ん中を歩いていた女性が上座にあるイスに座った。彼女がタンベス13代王第1王女『タクサララ』であった。
「そなたがわがレジスタンスに加わりたい若者ですね。」
と王女が言った。
「はい。私は、『ウンエンス家』9代当主『コロンナンス』の孫ウザル=カイムです。」
とカイムが言った。そしてカイムは紹介状を王女に渡した。彼女に手紙を渡した後に指に付けていた聖雷の指輪を外しタクサララ王女に見せた。タクサララ王女は紹介状を受け取り、
「私にその指輪を貸していただけないだろうか!」
とタクサララ王女は言った。
カイムが指輪を外して渡した。カイムから渡されたタクサララ王女は指輪を受け取りよく眺めた。そして指輪をウザル=カイムにかえした。
「本物のようだ!そなたがコロナンスの言っていた跡継ぎか!そなたはこれから『ウザル=カイム・ウンエンス』と名乗るがよい。」
とタクサララ王女は言った。
タクサララ王女は、カイムから渡された紹介状を読んだ。紹介状を読み終わったタクサララ王女は、
「コロナンスのたのみだしなそなたをレジスタンス『風の歌声』の隊員にしよう。
『アクサンマ・エルテロス』隊長はいないか?」
少しの時をおいて一人の男が大広間に入って来てた。
「はい、アクサンマ・エルテロス参上しました。」
とアクサンマ隊長は言った。彼は騎士団時代、王国遊撃騎士団副団長をしていた。
王国遊撃騎士団は、四つの分団に分かれていた。それは、『朱雀』『玄武』『青龍』『白虎』の四つであった。分団長は、四家の人間が世襲していた。部隊は、隠密『鷹』『隼』『鷲』『雷鳥』・破壊工作『鳶』『白鳥』『雉』『雲雀』・暗殺特別『燕』『梟』などがあった。そして、帝国との戦争で壊滅的な被害を受けていた。
「この少年をお前の隊に加えてくれ!」
とカイムを示しながらタクサララ王女は言った。
「こんな少年をですか?わが1番隊は精鋭部隊ですよ!王国遊撃騎士団の出身の隊員がほとんどなんですよ。新入隊員にはわが隊の隊員は勤まりませんよ!新入隊員は、普通5〜8番隊の後方支援部隊に入れるのが筋じゃないんですか?」
と驚きながらアクサンマ隊長は言った。
「ウザル=カイム・ウンエンス。さっきの指輪をアクサンマに見せてあげなさい。彼は、王国遊撃騎士団『白虎』分団の団長後継者だ!歴代最強と言われた『コロンナンス』の推薦状と他に元遊撃騎士団部隊長の推薦者が3人いるんだ!お前の隊で育ててやってくれ!」
とタクサララは、言った。
ウザル=カイムがアクサンマに聖雷の指輪を見せると、アクサンマは驚いた顔をした。四家の本家筋は皆、断絶していたとアクサンマはおしえられていた。彼は、帝国との戦闘の前線指揮を取っていた。また、帝国の標的にすらなっていた。
「わかりました。ウザル=カイム、私に付いてきなさい!宿舎に案内します。」
とアクサンマ隊長はカイムに向かって言った。
「ウザル=カイム・ウンエンスをよろしくお願いしますよ!コロンナンスに叱られますから!仕事が終わったら、別邸に来てください!」
とタクサララ王女は言った。
「分かりました。それでは、失礼します。」
とアクサンマ隊長は言い、敬礼した。