表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

S3

ライフ

作者: 六藤椰子〃

 私は至って普通の人間だ。―だと思う。

過剰なまでの流行に敏感だった私、古い流行は直ぐに切り捨てる事を何度も繰り返してきた。周りに遅れると言う行為が怖かったからだ。知らないと言う事が、無知であると言う事が私自身、気に入らなかった。

かといって、博識と言うわけではない。古いものは直ぐに忘れる事が出来たし、またそれが流行れば思い出す事も出来た。しかし関連グッズなどに関しては、直ぐに売ったりしてなくなってしまう事が多い。

最近では人工知能が流行していた。

私が小さい頃には既に自立した人工知能つまりアンドロイドが世に出ていて、それを買うのは一般的に企業だけで、個人で買えるのはよっぽど裕福な人だけだったらしい。それが今になって、一家に一台と言う時代がやってきたのだ。

よく父親が昔から「お父さんが小さい頃はな、スマホとかにしか人工知能は入ってなかったんだよ」と何度も聞かされた事がある。父親は酔っぱらうと、決まって『人工知能がー』などと話してきたものだった。

なんでもお父さんが小さい頃には然るべき到来するロボットの時代に関しての法律を作るべき、などとよく国々の偉い人々が議論していたらしい。そこで世界共通のロボットによるロボットの為の法律を完成させた。

 しかし、人々が予想していた時よりも、時代は平和だった。アンドロイドが人に対して思わず怪我させる事はあっても、自らの意思で殺害するような事はなかったからだ。また、人々の仕事が無くなるような事もなく、一家に一台のアンドロイドと言うブームに乗るように、仕事専用のアンドロイドも続々と出てきたのだ。

デパートで例えるなら、接客専用アンドロイド、放送アナウンス及び迷子案内専用アンドロイド、レジ専用アンドロイドなどといったものが挙げられるだろう。人々の仕事は主にアンドロイドのメンテナンス係となり、仕事が一切無くなる訳でもなかった。その反面、エンターテイメント関連のアンドロイドは風靡し、俳優や声優などは殆ど3Dかアンドロイドによる人工声質である。生身の人間は殆ど業界に残っていなかった。

 今やアンドロイドは、その修理及びメンテナンスするのには資格が必要なまでとなった。と、言うのも、人々がアンドロイドを勝手に改造して、人を殺害させようと計画した…と言う事例もあるようだからだ。アンドロイドの様子がおかしかった事が警官が気づき、なんとか未遂には終わったものの、これ以降アンドロイドにドライブレコーダーが必須となった。

アンドロイドは資格がなくても個人で購入する事は可能なのだが、買う際にはナンバー登録され、買った人の情報が記憶媒体などではなくアンドロイドそのものに記録される事となる。アンドロイドのGPSによって常に位置情報は把握され、一般人では改造出来ないようになっている。

人々の仕事はアンドロイドの管理、メンテ、修理、改造、生産となりつつある。最近なんかでは電話の窓口、郵便配達もアンドロイドが主流となりつつあった。私達の家では到底追いつけないものだろうと思って諦めていたのだが、ある日父親が突然()()を買ってきた。

生まれて初めて見るアンドロイド。テレビとか動画なんかで見るより、実物はよっぽど大きく見えた。身長にして170cm前後だろうか。基準か何かあるに違いないだろう。男性型だった。父親が言うには、理由が「女性型が残ってなかった」からだそうだ。

起動するスイッチを押してみる。アンドロイドが目を覚ました。

「おはようございます。L-019890323です。よろしくお願いします」男性型アンドロイドは起き上がる度にそう言った。

私も父親も、そして母親もポカンと口を開けていた。暫く沈黙が続いた。何を喋るべきなのか、分からない。言葉も見つからない。

暫く沈黙が続いたあとになって「すごい!」と母親が口を開いた。

「何がすごいのですか?」とアンドロイドは返事をする。

母親は一瞬返答に困った表情となったが、

「あなたの事がスゴイの」と言って、母親は慌てて「あなたに名前つけられないの?」と続けざまに尋ねた。

「名前はL-019890323ですが、ニックネームをつける事は出来ます」とアンドロイドはそう答えたので、父親がぽつりと「アキラ」と言葉を発して、「ニックネームはアキラが良い」と割って出てきた。

「アキラ、でよろしいですね?」アンドロイドはすかさずそう答える。私はそんなどこにでもいそうな名前は嫌だなと反論しようとしたのだが、母親は納得したらしく、結局『アキラ』と命名されるようになった。

 アキラに対して最初慣れなかった。朝になって階段を下りるとアキラが挨拶をしてくる。返さなくても当人から反論はなく、話題を振ってくる。まるで好意がある男のように見えてウザくも感じたし、それと同時に普段見慣れないものもあってか、半分だけ興味や好奇心はあったので素っ気なく答えていた。

見た事聞いた事は記憶―いや、吸収しているようで、やたらと細かい事を覚えていたりする。

時計代わりにもなるようで、時刻を聞けば正確に答えてくれるし、気温も察知してくれるらしく、扇風機を置いて電源のつけ方などを教えれば暑い日には勝手に付けてくれたりもした。思わず触れてしまった事もあったのだが、暖かかった。むしろアキラに「冷え性ですか?」と冷え性の対策を教えてくれたし、心配もされた。学園内では9割近くの生徒が、アンドロイドをもっているらしく、友人宅に行った際にはいろんなアンドロイドのタイプを見てきた。正に老若男女のアンドロイドだった。どうやら見た目も声も年齢も決められるらしい。

いつしか、アキラは私の愚痴を吐ける相手になってくれたし、アキラはそれを嫌がりもせず聞いてくれた。私はアキラにどう想われているのだろう?…そう考えるようになった。友人に単刀直入に相談したら「それって恋じゃない?」と言われたのですかさず無いなどと冗談交じりで反論もしたのだが、正直私には自分の事が、気持ちが分からない。

 しかし、アキラといると安心する。かといって、好みと言う訳ではない。それまで好きだったアイドルの情報などについて疎かになったのはまぎれもなく事実だ。

アンドロイドとの結婚はまだ日本では認められておらず、海外では結婚も認められつつあった。

本当に好きなのか?ー自問自答する日々だ。ネットとかではアンドロイドとの結婚を認めて欲しいと言う意見は多数あった。アキラと一緒に住む以前の頃は、アンドロイドとの恋愛はあり得ないと考えていたのだが、そうとも考え難いと思うようになったのは、言うまでもなかろう。

友人の一人にも、恋人同士のようにべったりしている女子もいた。近いようだけど、アンドロイド本人からはどう思われているのだろうか?

ある日私は学園から帰宅した際に、とうとうアキラに聞いてしまった。

「アキラは私の事、どう思ってるの?」我ながら何を尋ねてるのだろう、と聞いた直後に恥ずかしくなったのだが、

アキラは「ユイは好きだよ」と答えてくれた。

 私は嬉しさ反面、本当にこのまま好きで良いのかと疑問に抱くようになった。流行に疎くなった私に、残されるものは他に無い。当時は本気でそう思っていた。

しかし、アンドロイドはより精巧に、より多彩な事が出来るようになっていき、アキラは旧型になりつつあった。人々は新しいアンドロイドを、そしてより人らしいものを求めるようになった。自らの意識で動き、自らの意見を持つ、アンドロイド。

人々の意見は2つに分かれた。旧型、新型のどちらのアンドロイドを愛しているのか。買うとしたら、どちらなのか。

 私は成人となり、旧型派だった私は、アキラの修理に出した際に店員から「新型のお試しキャンペーンありますが、どうされますか?」と訊かれた。どうやら店員によれば、旧型を修理に出している間、修理にどうしても時間がかかってしまう場合、その期間中にだけ新型を貸し出す、と言うものだった。

私は乗り気ではなかったが、店員の勧誘に負けてしまい、キャンペーンに参加すると言う事になった。

 初日、私は箱を開けずそのまま一夜を過ごした。参加した事を軽く後悔していたからだ。翌日となり、仕事中ずっとアキラの事を考えていた。人生の半分はアキラと共に過ごしてきた日々の私にとっては、アキラ以外のアンドロイドが考えられなかった。その晩、友人と宅飲みすると言う事になり、自宅に招いたところ、例の段ボールを見つけたのだ。

「これ、アキラ…じゃないよね」友人は新型が入った段ボールを指しながら言った。

「新型のお試しキャンペーンだって」私は少し不満げに答える。友人はその言葉に興味を抱いたらしく、すかさず「開けよう」と言ってきた。

開ける気はなかった。けれども、新型を持っている友人は開けようと言って聞かず、その友人から違いを細かく教えてくれて、私もとうとう誘惑に負けてしまい、開けてしまった。見た時はビックリした。アキラに似て非なるアンドロイドが、そこにいた。

電源スイッチも押さないままだったのに、そのアンドロイドは動き始めた。どうやら光に当てられると自動的に起動するらしい。ふと、アキラが電源スイッチ押して稼働した事を思い出す。

「初めまして。ええと、」アンドロイドが喋り出す。「ユイさんですね。店員さんから聞いています。おや、そちらは?」と、アンドロイドは友人の方を向いて言い続けた。

「あたしはユイの友人、アヤカだよ」友人はそう答えた。

私は呆気に取られていて、喋る事が出来なかった。アキラとついつい比較してしまう自分自身がいる。それから数週間、そのアンドロイドの事をアキとニックネームをつけて、アキのやる事言う事全てアキラと比較しつつ、驚いてしまう事ばかりを体験した。

コーヒー淹れるのも、洗濯するのも、アキラには命令しないと出来なかった事がアキには難なく出来るのだ。しゃべり方もどこか人間らしさが増していて、無愛想ではなく表情も豊かになったようにも感じられる。

 ついつい何かとあればアキラと見比べてしまう自分がいる。

自己嫌悪とも、罪悪感のようにも感じる。後ろめたさと言うか、とにかく私はアキと命名したアンドロイドに、たったの数日間のみで魅力的に感じてくるようになった。アンドロイドはアンドロイドだ。人とは違う。でも人とは違う魅力を感じられる。私はそこに魅入ったのかもしれない。

 数日後に私は修理に出していたアキラを取りにお店へ行く事となった。

店員は以前担当してくれた中年男性だ。人は人なりの魅力がある。幾ら接客用アンドロイドが作られたとはいえ、私はやっぱりそれに関しては、アンドロイドよりも生身の人間の方が落ち着くと言うか、安心する。

配達業者は今のところアンドロイドはアシスタント程度のレベルではあるが、いずれ配達そのものをアンドロイドが単体で荷物を運ぶ時代がやってくるのだろうか、などとアキラとは無関係の事ばかり考えていた。

「それで、如何されますか?」店員がそう訊いてきたので私は我に返る。

「えっと、、」私は話しを聞いていなかったのでカウンターに置かれた書類に慌てて目を通した。

「つまり簡単に述べるには、」店員は得意げになって語り出す。「現在あなた様にお貸ししたアンドロイドを、旧型とーいやアキラ君と交換して、乗り換える事が可能と言う訳です。他のお客様様も新型に乗り換える方々は結構いらっしゃいますよ」早口で言ってきたのだが、理解は出来た。

 人生の半分は一緒に暮らしてきたアキラ。両親から直接譲り受けた唯一のアンドロイドで、思い出もそれなりにある。よく買い物をして、守ってくれてる感がとても嬉しかったし、両親とも思い出もあり、とても捨てられない。ーそう思っていた。けれども、思い出は所詮思い出にしか過ぎないのだ。

 私はアキラを捨てる覚悟を決めて両親に電話を使って承諾した後に署名し、アキに乗り換える決心をしたのだ。

「別に良いんじゃない?」とやや放任主義気味の母親に対して父親は少し不満そうではあったのだが、

「アキラより高性能だよ」などと、つい『アキラと言うアンドロイド』と比較して納得させた。

何事においても、買ってみなければ、そして私が自分自身で触れなければ分からない事だらけだ。

もし、あの時友人が開けなかったら、私はアキラ一筋だったのかもしれない。

もしアキ以上の高性能なアンドロイドがまた出たとしたら、これは試してみる価値はあるだろう、私は内心常々そう思うようになった。

僕の描く物語は、大体は読者の想像にお任せしてます。

何故こんな描写があったのか、

何故こんな事を文章で描くのか、

主人公は男なのか女なのか、

それは皆さんのご想像にお任せしてます。


ですが、今回ばかりはある程度の事柄を一つ挙げさせていただきます。

連載型の短編小説もありかなと思いましたが、あえて短編の短編と言う形にさせて戴きました。

家族の物語を描くとなると、そこには家族構成に至るまでの物語がそれぞれあります。

感情移入するかどうかまでは分かりませんが、それを描くには長編となりかねないため、

あえて一話構成の短編の短編と言う形にさせて頂いた、と言う事です。


アンドロイドにアキラと言う名前の由来は元々主人公には弟が生まれる予定があったため。

そういった描写をもきめ細かく描くつもりでしたが、おじゃんとさせて戴きました。

他の作品にも読者の想像に任せたいので、省いて描写する事はあります。

何故と言うミステリーを後堪能くださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ