【第三話】橘さんは森で魔法使いさんの伝言をもらうようです
―――そなたへ能力を授けた異界の魔道士より伝言を受け取っているので伝えよう」
異界の魔道士ってなにそれ―ー!?
<シメルト>様に色々お尋ねしたい事があるが、ひとます伝言を受け取ろう。
ポン♪
「うむ、では伝えるぞ。」
あう 脳内筆談なので、<シメルト>様と意思のやり取りがスムーズなので助かります。
ジジジ……
ポン♪
[きみが無事に薬師の神と邂逅しこのメッセージを受け取れることを確信しこの伝言を綴る。
異世界で戸惑うきみの手助けになる能力の説明をしよう。【解析】、【分析】、【知識の図書室】という呼び方が適当だろうか…… きみは今、この三つの力を持っている。何故これらの能力を獲得したのか、転移の原因、元の世界への帰還方法などは今考える必要はない。まずはこの世界で三つの能力を活用して生存すること]
そのとおりだと思う。まずはこの右も左もわからない世界で生きてゆかなきゃならない。
ポン♪
[三つの能力の解説を行おう。まずは【解析】だが、きみが注目するものごとが、どういうものか観測して大まかに知る能力。次の【分析】は、きみが【解析】で得た観測結果を更に精査してまとめる能力。
具体例を挙げよう。眼の前に花があるとしようか? しかしこの花はキミが見たことも聞いたこともない品種だとしたら、花っぽい何か?となるのは解るだろ?
そこでコレは、なんだ?と【解析】することで名前は解らないが、薬効作用がある花だと情報を得られるたとしようか? 固有名詞が解らないのは、きみなら理解できるだろう。まずは仮初の名を与え解析結果を補強するんだ。]
この世界の事をボクは何も知らないから、その花の名前をまわりの人たちが何と呼んでいるか知らない。とうことでよいのかな?
ポン♪
[そして更に細かくこの花の事を【分析】することによって、どの様な薬効や毒物それから副作用があるか?という情報を知る事が出来るだろう。そうして集めた情報を収集管理し検索する事ができる能力が【知識の図書室】だ。
元々、きみは【記憶の宮殿】を持ってるだろ?
それが更に使い勝手が良くなったものだと言えば理解できるだろう。地道に観測を行いデータを蓄積することは観測者には大事な…… そう。大事な仕事だ]
え!?
シャーロック・ホームズの影響でオンボロ校舎の図書館のイメージでだけど、ボクは【記憶の宮殿】を頭の中に持っている。でもどうしてそう断言できるのかしら?
ポン♪
[世界は数字で出来ている]
ああ この言葉が口癖のヒトをボクは知っている……
ポン♪
[きみが、見たことも聞いたこともない異世界の博物誌を綴る機会を得たと思えば、生きる為に生きるという不毛なサバイバル生活をせずに済むのではないかな?
幸いきみは薬師の神と【ご縁】が出来ただろうから教えを請えば助力を得られるはずだ]
ご縁とは、これはまた日本的な概念用語が出てきたなぁ
ポン♪
[この伝言をきみが見ているということは、薬師の神へ私が提供した日本語ライブラリを彼が理解して、きみと意思の疎通が出来ているからだ。 しかしこの世界にない概念がかなりあるから、スムーズな会話を行うために【記憶の宮殿】へ彼を招待することを推奨する。
彼は知的好奇心が強くてな、私も彼との会話はとても愉しめたので是非ともおすすめするよ]
え、<シメルト>様って男の人だったの?
なんとなく薬師の神さまということで仙人のようなおじいちゃんをイメージしてたけどどうなんでしょうか?
ポン♪
「うむ、我に性別は特にない。そもそも生物ではないしな。そなたの世界の言葉で我がどういう存在かと説明すれば、この星が誕生したときから存在する高エネルギー精神体とでも言おうか?
ふむ、さいえんすふぃくしょんとな? そうかそういう物があるのか。そなたの世界は面白い」
あ― <シメルト>様、今、しれっとボクの脳内の記憶のぞいたでしょ!!
ポン♪
「「フフン。 我は、そなたの手助けを行う代償として、そなたの知識を求めるつもりだ。
そなたの本棚の一角を勝手にのぞき見したのは謝罪しよう。
なぁに、そなたの世界の言葉で言うところの『つまみ食い』というやつだ。
では続けるぞ。
あの魔道士の言い方を借りれば、原住民が我を薬師の神と認識したから、我は薬師の神としてこの世界に存在する強度を得られたと。 しかし民の信仰が弱まった。或いは神の名を忘れてしまった場合どうなると思う?」
えーっと読み物からの受け売りになっちゃうのですけれど、神は神としての力を失う。正しくは神が宿す高エネルギーが方向性を失い拡散し果ては消失する。ということでよろしいでしょうか?
ポン♪
「ハハハ そなたの世界はすごいな。たかが退屈しのぎの娯楽で哲学に科学とな! 世界を飽くことなく観測する欲求で見つめ続けて、想像を推論で補強し理論を立ち上げ更に極める。なんと強欲なのだ人間という生物は。面白い!」
<シメルト>様すっごくテンション高くなってますね。
このサバイバル生活が落ち着いたら祠でも建ててお祀りしてあげますからね。
ポン♪
「察しが良いな! そなたは本当に優しい子だ。この世界の癒し手どもは、我への信仰を忘れたくせに我を奉っていたという過去の資産を食いつぶす愚か者たちだ。あやつらにはもう癒し手を名乗る資格はない」
わぁ― 辛辣ですね。 そりゃぁお手伝いをお願いしようとしてるヒトに、名前知らんけどよろしくねー!と言われたら温厚な人なら怒りますよね。
ポン♪
「そういうことだ。祠の件は本当に期待しておるぞ。 話が逸れてしまったが、魔道士からの伝言がまだ残っておったわ」
ポン♪
[あぁそうそう、【解析】と【分析】の能力はキミが目で見える範囲で有効だが、距離が近いほど観測精度が上がるのはそのうち理解できるだろう。
きみの視界に仮想表示されるHUDは、気分が出るかと思い羊皮紙のデザインにしたが、きみが楽しんでいたゲームのデザインにカスタマイズ可能だ。いつかきみが綴った異世界の博物誌を閲覧できる日を楽しみにしている。伝言は以上だ]
え えっと、HUD呼び出し……
ポン♪
視界の右隅に羊皮紙が出てくる。
設定、HUDデザイン選択呼び出し!
羊皮紙が視界中央に移動して視界いっぱいに拡がり、見覚えのあるデザインパターンが並ぶ。
うそでしょう……
眼の前には浩之ちゃんに強引に誘われたものの遊んでいるうちに夢中になったゲーム
VRMMOHAG「ヒグマ・スレイヤーズ・ワールド・すまっしゅ。」
ゲームスタート時の通い慣れた自宅画面に切り替わった。
ボクが住んでいた世界で魔法ってやつは、おとぎ話やゲームの中だけで現実にはそんなものはない。
だけどいつもボクに、世界は素敵で不思議な事があふれるおもちゃ箱なんだよと、教えてくれる素敵な魔法使いさんがいることを思い出した。
理論物理学、量子物理学の権威。登山家といろんな顔を持つすごいヒト
「世界は数で出来ている! 観測せよ!」が口癖の科学を信奉する絶対科学主義者
自分のことを【物理魔道士】と自称するヒト
橘 明人
ボクのお爺ちゃん
VRMMOHAG「ヒグマ・スレイヤーズ・ワールド・すまっしゅ。」
VRMMOハンティングアクションゲームの略です。
タイトル色々混じってますね
略称「クマスレ」で大人気シリーズのVRMMOでVRMMOHAGというジャンルを築きあげたゲームっぽいです。
橘さんの世界ではHDMゴーグル形式のVRゲームは色々あるみたいです。
「クマスレ」は新選組、日本陸軍軍人、五稜郭の落ち武者、芸者、素浪人、屯田兵、アイヌの狩人、ロシアの兵隊などなどユニークなキャラクターで様々な獣をお宝を求めて荒ぶるゲームです。
橘さんは採取専門ですが、仕掛け罠と目つぶし玉の取扱いに長けてて、ひとつだけ扱うのが得意な武器があったので支援職として引き手数多だった模様です。
今回、土曜の晩に投稿する予定だった3話を早めにお届けしました。
次回は来週週末予定でご容赦下さい。
今まで話数など入れてなかったので一話から二話のタイトル訂正と内容をもう少し読みやすく訂正したいと思ってます。