女友達ととある男のラブコメ
ある夏の日、俺は彼女にフラれてしまった。どんなフラれ方とかは言うまでもなく酷いものだった。それから俺は女、恋愛にまで恐怖というか苦手意識というかそんなものを持つようになった。顔は自分で言うのはなんだけどまだ整っていると思う。性格は自分で言うのはなんだけどゴキブリいや、ミジンコ以下であると思う。まあ、ゴキブリとミジンコどっちが下かどうかなんてわかんねえが。
とりあえずもう恋愛はしないと誓ったんだ。
今日はこの戌ヶ丘高校の始業式。俺は今年で高校二年生になる。またあの勉強地獄が始まるのか。
「おう!優斗!今日も死んだ魚みたいな目しやがって。」
こいつは親友の東條 和葉。女みたいな名前だが男で、生粋の変態だ。こいつとは小学校からの付き合いで、お互い気を許せる友だとでも言っておこうか。
「それがよ、今日から転校生が来るらしいぜ!それも超美人らしいんだ!楽しみだなあ。俺はまず履いてるパンツの色を聞いて・・・」
「バカ、お前!そんなことしたら即生徒指導だぞ!停学になりたいのかお前は。」
ほんとにこいつの頭はピンク以外の色はあるのか。こいつの脳はどうなってんだ?一回は見てみたい。
「ま、お前は女なんか興味ないんだろうけどな。お前の脳はどうなってんだ?一回は見てみたいぜ。」
「ぶっ!」
飲んでいた牛乳を吹いてしまった。俺がさっき考えていたことをそのまま返された。こいつは予測不能すぎる。
「おい、見てみろ優斗。転校生だ。俺の頭にはこの学校の女子の情報は全てつまっている。身体にあるほくろの数までな!そんな俺があんな美女知らないなんておかしい。あれは転校生だ。たしかに相当美人だな。」
こいつはさらっとエグいことを言いやがって。だが、たしかに美人だ。でもそこが恐怖なんだ。あの人の裏の顔というものが想像できてしまう。ああ、怖い。
キーンコーンカーンコーン。チャイムが遠くまで鳴り響く。
「やっべ、予鈴だ。走るぞ優斗!」
といい先に駆け出す和葉。こいつは変態のくせに運動だけはできる。このやろう憎い。
「よっし、ギリギリセーフ!危なかったぜ。」
久々の全力ダッシュだった気がする。ほんとに疲れた。一日分の野菜飲んでもこれじゃ、もう野菜の栄養なんで残ってない。と息を切らしながら教室を見渡す。
「うげ、ほとんど知らない人じゃねえか。」
とそこに長い黒髪の女が寄ってきた。この人は知ってる。優等生で一年では学級委員長をしていた、八坂 天音だ。
「おはよう、犬宮くん、東條くん。今年もよろしくね。」
と微笑みながら挨拶を済ませる。
「おー!委員長!委員長がいるってことは、このクラスは安泰だな。うっしゃ、ラッキーラッキー。」
ひねくれている俺はここで一つ思う。こんな勉強のできてしっかり者の委員長でも裏ってものがあるんだろうか。ヒトって怖いものだ。
「よろしく、委員長。」
と、軽い挨拶を済ます。ん!?そこにはすごい睨んでくる委員長がいる。委員長、なんだその目は。俺と一戦交えようってか。ふ、バカだな。俺は戦いの始まりの合図と同時に白旗をあげる。俺の負けだ。
「よ、よろしく。」
とだけ言い委員長はさっさとどっかに行ってしまった。
「委員長ってかわいいよな。なんか、勉強できるやつって大概堅物じゃん?その想像をぶち破るかのような明るい性格。ギャップ萌えだなんてほんとに存在するのか。ま、お前は嫌われてるみたいだけどな。」
こいつ、傷口に塩を。生かしておけないな。
「うるせえな。ま、お前は全人類の女子から汚物として見られる日がいずれ来ると思うけどな。」
そう言い俺たちは席に着いた。周りを見渡すと本当に知ってる人がいない。人見知りが火をふくぜ。
「あれ、隣は休みか?しょっぱなから休みとはけしからん。」
そうは言っても羨ましい限りだ。と思っているとドアの開く音とともに、先生が入ってきて教室は静まり返った。
「お前らはどこから広まったかわからんが、転校生のことは知ってるな。その転校生がこのクラスに来ることになった。まずは自己紹介してもらう。入ってこい。」
もしかしてこの隣の席に来るのが転校生か。くそ、こんなお約束いらないな。すると入ってきたのは和葉が推測していた朝のあの子だった。
「ビンゴ!」
と和葉が小声で親指を立てて笑っている。
「はじめまして。東京から父の転勤の都合でこの学校に来ました、宮野 エイラです。名前がカタカナですが、ちゃんと日本人です。一年間よろしくお願いします。」
先生の拍手に続いて次々と拍手がおこる。そして宮野は席に向かう。こっちに向かって歩いてくる。席は俺の隣だもんな。なんだこのラブコメは。
「よろしく。俺は・・・」
と言いかけた瞬間俺は気づいた。もう宮野がいないことに。
「あれ?どこいったんだ。・・・あっ!」
宮野の席は俺の隣ではなく真ん中らへんの空いていた席だった。ラブコメなんて糞食らえ!と思いつつ地球上の女を恨む。
「俺にラブコメなんてありゃしないな。」
HRが終わると同時に宮野の周りにはすごい人だかりができていた。もう宮野なんて髪の毛一本も見えないぐらいだ。
「ねえ、好きな食べ物は?ねえ、好きな男性のタイプは?ねえ、東京のどこ住んでたの?ねえ、パンツの・・」
と犯罪級のことを犯す前にこの変態だけは連れてきた。ほんとにこいつは怖いもの知らずだな。
「食堂いかないか?」
と和葉を誘い食堂へ向かう。
「お前、クールなフリしてるくせに携帯の待ち受けは子犬とかゆうかわいいやつなんだな。お前もギャップ萌え目指してるのか?」
「アホか。お前。」
こいつといたら果てしなくイライラする。白髪増えたのはこいつのせいだ。きっと。
「ん?あいつは。」
校舎裏に一人の少女がいるのが見えた。何かと思い校舎裏へと向かう。
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「ちょっと待っててくれ!」
と、和葉を連れて行くと面倒なので置いて行く。だってその少女というのはあの転校生だからだ。あいつがきたらまた変態行為にいたるからな。
「ごめんなさい。」
校舎裏に近づくとそう女の声が聞こえた。
「なんの話なんだ。よく聞こえない。」
少し前に出たところでもう一人いることに気づいた。もう一人は名前も知らない顔も見たことない男だった。
「なんで僕じゃダメなんだ?僕は君が好きって言ってるのに!」
バカなのかこいつは。転校生がきてまだ一日目。よく知りもしないのに付き合えるわけないだろ。本物のバカだな。和葉よりバカだ。
「私は、・・・」
と宮野が言ったところからもう聞こえなかった。いや、聞かなかったんだ。恋愛なんて糞食らえ、と思っている俺が告白の現場に居合わせている自分に腹が立った。
「おう、どこ行ってたんだよ。」
和葉を連れていかなくてよかった。宮野のためにも。和葉のためにも。
「いや、子犬の声が聞こえたんだ。だけど気のせいだったよ。さ、行こう。」
宮野に近づくとおそらくこいつは恋をする。こいつとは長年の付き合いだ。そのくらいわかる。こいつの過去の出来事を今更消すことはできない。和葉を近づけるのはできるだけ避けよう。
ちょっと特別な新学期一日が終わり俺はバイトへ向かう。
「ありがとうございましたー!」
俺は学校帰りにある喫茶店で働いている。ほんとに今にも潰れそうな店だ。新規の客はほとんど来ない。常連さんに店をもってもらっているようなものだ。
「優斗〜。あんた高校出たらどうすんのよ。」
この人はここのマスターで、俺の母さんの姉だ。そういう縁もありここで働いている。
「まあ、茜なら自由にやれって言いそうよね。自由人だったからね〜。」
自由人だった、と過去形なのは俺の母さんは去年死んでいる。元気で明るい性格だった母さんは俺の誇りだった。今でも尊敬する数少ない存在だ。
「沙織さん、母さんと似てますからね。自由なところは。」
「なんかあたしが適当に生きてるみたいじゃない!まあ、でも茜とは喧嘩なんてしたことなかったわね。似てるってことなのかしらね。」
と二人で静かな微笑ましい話をいつもしながら働いている。
カラーン、とドアの開く時のベルの音がした。
「すいません!ここで働かせてください!」
といきなり入ってきて頭を下げている少女がいた。誰だ、挨拶もなしに働かせてくれだなんて。
「あ!優斗だ!」
と言ったそいつはあの転校生だった。今はキラキラした顔でこっちを見ている。
「あのー、転校生の宮野だよな。俺、君にまだ名乗ってないのになんで俺の名前知ってるんだ?」
「えっ!あー、あのーあれだよ。あっ!そうそう、名簿見たからだよ。」
と笑っている。なんかごまかされた感じがあるけどそんなこと俺にはどうでもよかった。一番思ったのがこんなに明るいやつだったのかということだった。
「はい!これでオッケー!明日から来てね、エイラちゃん。それにしても可愛いわ〜。」
履歴書をまとめた沙織さんが頭やら顔やらをくしゃくしゃに触りまくる。
「じゃあ、明日17時からラストまでね。二人ともよろしくね。」
「あの!私まだ働いたことなくて何もわからないんですけど。明日から入ってもいいんですか?」
そりゃそうだ。他のところだったら一週間後とか、面接が合格かとか、時間がかかる。なのに急に明日からと言われたらそりゃ困るよな。
「いいの、いいの。こんな潰れそうな店だから、人員が足りないのよ。することとかは働きながら教えるわ。」
そんな単純な言い訳で疑問が晴れるわけ・・
「はい!頑張ります!」
いや、いいのかよ!思わず心の中でつっこんでしまった。俺としたことが。
「お前帰りどっちだ?暗いし送ってくぞ。」
本当は送りたくなんてないが、仕方ない。襲われでもしたら俺の責任だ。
「ほんと!?やったー!私の家はこっちだよ!」
ああ、ちょうどよかった。俺の家と同じ方面だ。
「それで、次は?」
「ここを左だよ。」
また同じ。ああ、もうオチは見えた。
「それでここ右だろ?」
「なんで知ってるの!?」
ほらな。もうわかったから。やめてくれ。席の時みたいに奇跡よおこってくれ。
「で、このアパートだろ?」
「正解!すごいね!」
うぉぉぉぉぉぉい!!!奇跡なんて糞食らえ!最悪だ。これからの出来事予想はつく。あれだろ?朝起きたら家にいて、朝ごはん作ってるとか、そういうのだろ?糞が!
「お、俺も、この家なんだよなー。奇遇だなー。ほんとにすごい偶然だなー。」
なんだよこのラブコメは。どうなってんだよー!
「おかえり、優斗くん。エイラちゃん。もうすっかり仲良くなっちゃって。」
この人は管理人さんの香山 玉紀さん。洗濯やら掃除やらと、すごくお世話になっている。俺からしたらもう一人のお母さんみたいなものだ。
「ただいま、玉紀さん。お風呂沸いてます?」
「沸いてるわよー。タオルとか持って行っておくからそのまま行っておいで。」
このアパートは他のアパートとは違って住居人みんなでご飯をたべたり、掃除もみんなでするし、なんたって温泉付きだからなー。
「ここ以上のアパートはない!」
とお風呂で湯船に浸かりながら叫んだ。
「ほんとうにここはいいねー!玉紀さんのご飯も美味しいし!」
「そうだよなー。」
ん?俺以外に誰が・・・
「って!お前何入って来てるんだよ、宮野!おい、さっさとでろ!」
「えーなんでー。優斗と一緒に入りたいー。」
こいつはなんでこんなに馴れ馴れしいんだ。そうか、こいつはあれか、和葉と同じタイプか。てことは。
「力ずくでやるしかないな!」
「キャーー。」
騒がしくなりそうだ。宮野 エイラ。こいつはとてもめんどくさい。
「もうこんな時間か、昨日は遅刻ギリギリだったし、もう寝るか。」
ん?布団がもっこりしてるぞ。
「お前!はやくでていけ!」
また宮野だった。
「ヒェーーー。」
ほんとのほんとのほんとうにめんどくさい!
鳥の鳴く声と日の光で起きてしまった。
「まだ5時じゃないか。目が冴えて寝られなくなったぜ。まったく。」
外から道場から聞こえるような、野太い声が聞こえてくる。たぶんあいつだな。
「おい!文人!今日も朝練か?熱心だな。」
「おお!優斗!起こしてしまったようだな。悪い。県大会も近いからな!」
こいつは同じアパートの水瀬 文人。一応同じ高校の三年生で、剣道部のキャプテンだ。戌ヶ丘の剣道部は強豪と呼ばれるほど強い。そこでキャプテンをやってるんだから立派なもんだ。
「おはようございます、玉紀さん。」
「あら、優斗くん早いわね。コーヒーでいいわよね?」
「はい、ありがとうございます。」
この朝のコーヒーが俺の日課だ。これがなきゃ一日頑張れない。当然ブラック以外は飲まない。砂糖とミルクなんて入れたらあれはもうジュースだ。
「ほんとに優斗はブラックコーヒー大好きだよねー。そんなの苦いだけで美味しくないじゃん!」
「お前次それ言ったら熱々のコーヒーかけるぞ。」
「はいはい、ごめんなさーい。」
こいつは、同じアパートのもう一人の住居人、千賀 知香。俺と昔からの付き合いで一応和葉の妹だ。苗字が違うのは複雑で、今はもう和葉との縁を切っている。和葉たちの過去には触れないと俺自身も一線引いている。また、いつかこいつらが仲良くなれれば・・。
「おはよー。朝ごはんはにんじんかな?」
寝ぼけたバカがきた。にんじんなんてワード寝起きで言うのはこいつぐらいだろう。
「起きろ!宮野!朝ごはんにんじん丸かじりでいいんだな!」
「いやだ。優斗のいじわる。」
こいつは。
「自分で言ったんだろ。にんじん食べろ!ほら!食え!」
生のにんじんを口の中に押し込む。
「ふぇ、ふぁめてー。」
「わかったなら、早く起きろ!」
「顔洗ってくる。優斗のバカ!べー。」
すこし痛めつけてもいいだろうか?イライラが止まらないんだが。コーヒータイムを邪魔しやがって。
「はあ、ゆっくり落ち着けないな。まったく。ってもうこんな時間!俺今日日直だった!」
素早く用意を済ませてアパートを飛び出す。
やばい、こりゃ完全に遅刻だ。今日のもう一人の日直は誰だっけな。えっと・・・
「「うわあ!」」
「す、すいません。急いでたもので。」
「こちらこそ、見てなくてすいません。」
この子戌ヶ丘の制服だ。校章の色が青ってことは、一年か。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫です。痛っ。」
ひざを擦りむいてるじゃないか。カバンから絆創膏を取り出し、傷に貼った。
「これでよし。腫れたり、激痛がはしるようならここに連絡をくれ。携帯は持ってるだろ?」
紙に電話番号を書いて渡した。
「電話番号登録したらLIMEでも追加されるだろ?そこにまた連絡してくれ。」
「は、はい。」
「急いでるから俺はこれで。」
やばい、現在進行形で遅刻だ。なんて謝ろう。くそっ、考えるだけ無駄だ。ここはぶっつけ本番で行くしかない。ドアを開けるとともに叫んだ。
「すまん!遅れた!この借りは返すから!許してくれ!」
「じゃあ今日のお昼奢ってくれる?」
「それだけなら・・ってお前かよ。未遥。なんだ、お前なら何もしなくてもいいな。」
こいつは樋山 未遥。おそらくこの人生で一番仲のいい女だ。こいつは彼女タイプじゃない、友達タイプだ。
「何言ってんのよ。奢るのよ、この私に。」
恐喝だろこれ。こいつは本当に横暴でガサツで、なんというか男の俺でも全てに負けるよ。
キーンコーンカーンコーン。
「ほら早く食堂行くよ!」
と、俺の耳を引っ張って食堂に連れてこられた。
「何にするんだよ。仕方ないな。」
「じゃあ、んー、カツカレーの大盛りにしようかな。」
「太るぞ。」
拳を構えて未遥が前に立っている。
「もう一回言ってみろ!!!」
「ヒェーー!」
くそ、こいつは本当に横暴だ。たんこぶが二つもできた。それに俺のメニューを勝手にトンカツ定食にしやがった。こんな重たそうなの食えそうにない。
「これで反省した?女の子に次からあんなこと言わないこと。わかった?」
「はい、気をつけます。」
こいつにだけは勝てそうにない。
未遥とわかれて食堂を出ようとすると携帯に知らない名前からのLIMEがきていた。
「あ、そうだ。朝ぶつかったあの子は大丈夫なんだろうか。会いに行ってみるか。」
そう思い校舎に入ろうとした途端に目の前が真っ暗になった。
「おい、誰だ?なんの目的だー!」
俺は、どこかへ連れ去られた。