19:冒険ギルドと空飛ぶ魚
連絡会が終わった後、ユウリ達はグループで後の予定を話し合い、ロントの案に従って冒険者ギルドへと向かってみることにした。冒険ギルドは、街の中央の広場に並んだ建物の中にある 鍔が羽根の剣が描かれた看板が目印の大きな建物だ。
建物には種族毎に体格差が大きい為、出入り口が4つあり、それぞれ巨人用・人族用・小人用・小型獣人族用の扉に分かれているが、内部は共通だ。ユウリ達は魔人族や亜獣人族であるが、体格は人族と同じなので人族用の扉から中へと入る。
ギルドに辿り着いたユウリ達は、巨人や小人に気を付けながらも壁の掲示板に貼られた無数の貼り紙を閲覧し始める。その貼り紙には国の各地から集められた仕事の依頼が書かれており、その中から自分達の受けたい依頼書を剥がして奥の窓口へと持って行く事で、冒険者として仕事を受ける事が出来る為だ。
その中でも入口と同じ壁の低い位置にある掲示板は、彼女達と同じ学生かそれより小さな子ども達向けとされた依頼書が貼られている区画であり、見るからに弱そうな子ども達が依頼を受けに来たからと言って、それを嘲笑うような者はいない。
勿論、数ある依頼を独占しようとしたり、明らかに身の丈に合わなさそうな依頼ばかりを見ていれば注意されるのだが、ユウリ達が見ているのは、依頼文の上に三つか四つ、赤・青・緑・紫の何れかの色で丸が書かれた依頼書ばかりだ。
時折近くにある五つの黒い丸が描かれた依頼書も見ているが、そこに書かれている依頼について受注の検討することはなく、ただ読むだけに留めている。それは彼女達だけでなく、偶々居合わせた他グループの生徒達や、この街で冒険者として暮らしているのであろう大人達も同様で、中にはそこに書かれた内容を読んで持っていた依頼書から手を離す者もいる。
この丸には、依頼内容の難しさや、依頼の種類を示す印としての役割があり、丸の数が多いほど難しく、丸の色によってその依頼書がどのような内容であるかを示している。その中でも彼女達が見ている三つから五つの丸が書かれた依頼書は、基本的に安全ではあるが、街の外なので絶対の保証が出来ない。もしくは多少危険はあるが、学生くらいの歳であれば大丈夫だろうとされている依頼だ。
学生以外受けてはいけない訳ではないが、こんな所を見ている彼女達から理由も無く依頼書を取り上げるような大人が居れば、それは自らが子どもから仕事を奪わなければならない程、自らが弱く情けない人物であると喧伝するようなものだ。冒険者ギルドのシステムはヴェルグ王国外でも共通である為、この印についての知識がある者であれば、そんな情けない自己アピールをする事は滅多に無いだろう。
丸五つの依頼を碌に見ないのは、そこに書かれているのが天候や運、メンバーの種族に左右される物の採取ばかりであり、採取の依頼は、窓口で依頼を受けずとも現物を持ってさえ居れば良いとされている為だ。また、ユウリ達のグループには身体能力の差こそあれ、身長もほとんど変わらなければ特別な能力がある訳でもない種族しか居ない為でもある。
にも関わらず見ている黒丸の依頼書には、死亡者や行方不明者の多い地域であったり、大人でも危険なモンスターに関する目撃情報であったりと様々な事柄が書かれており、それらに関する情報提供の呼びかけが書かれているようだ。此処に書かれているモンスターは勿論、死亡者・行方不明に関しても原因不明のものが書かれている為、例えより高難易度の依頼を受ける冒険者になったのだとしても、危険を避ける為には内容を頭に入れておいた方が良いとされている。
そんな訳で彼女達がトラブルに巻き込まれる事はなく、掲示板に貼られた依頼書をじっくりと閲読したユウリは、やがて一枚の依頼書を掲示板から選び、その内容についてリグレス達と話し合う事にした。
「これとかどう?」
そうユウリが言いながら指示したのは、青い丸が四つの依頼だ。青い丸の依頼書には物資の配達の依頼が書かれている為、それを見たリグレス達にも何かを運ぶ依頼であるとすぐに理解出来た。
「何々…?『ソルティス山脈での護衛』…護衛?」
「護衛って配達なのか…?」
「人を運ぶ依頼って事じゃないかな」
護衛と聞いてユウリ以外のグループメンバーが驚いたような反応を見せ、それに対してユウリは推測を伝える。
「そんな雑でいいの?」
「多分?他のも見た感じはそんな感じだよ」
それを聞いてフウカは首を傾げたが、周囲にある他の依頼を確認すると、特定の場所に居る人物を護る場合は紫の丸、指定の場所まで連れて行く場合は青い丸であった為、そういうものであるようだ。因みにユウリ達が確認した紫の依頼の大半は、孤児院や自営業店での彼女達よりも幼い子どもの世話係である。
「で、内容はそのソルティス山脈に住んでるムートゥルム様ってのに会いに行くんだけど、村からそこまでにモンスターが出るから護衛してほしい。って依頼みたいだよ」
護衛は配達なのかという疑問に対し一先ずの決着が付いた事を確認すると、ユウリは依頼の内容を簡潔に説明する。ソルティス山脈というのは、ユウリ達がヴァーベナ行きの馬車から視認したこともある街の近くの山々の事だ。
「ちょっといいか?」
「何?クレイス」
「ヴァーベナの中じゃなくて村からなのか?」
それを伝えるとグループの男子生徒の1人―クレイスが聞き返してきた。どうやら彼は護衛が村からである事が気になるようだ。
「うん。ソルティス山脈、ヴァーベナ方面の村って書いてあるよ。街の近くの山の村だね」
「変じゃないか?」
「変?」
「連れてく場所は村の近くなんだろ?なのに俺達向けって事あるのか?」
「あー、他所の依頼って大体6つ以上だもんな」
変だと言われてもユウリにはピンと来なかったが、彼が言った疑問に同意するようにディックが言った一言に、ユウリは彼が感じた違和感に気付き(なるほど、確かに変だ)と思い直した。
ハウレルの村に関してもそうだが、基本的に町や村の人々は自分達が住む地域のモンスター相手に後れを取ることはないのだ。それはそのモンスターに関して熟知しているからこそであるが、そもそもそうでなければそこに住む事など出来はしないという事情がある。
であるからして、街や村の住人が近場のモンスターを相手にする依頼を出した場合には、そこに住む別の住人や冒険者が解決する為、基本的に他所の街のギルドに依頼が舞い込む事はあまりないのだ。勿論、そこに住む人々ではどうにもならない場合には他所のギルドへと救援を求めるのだが、それはつまり、特殊な技能かそれなり以上の実力を持った人物を必要とする自体が発生しているという事である。
当然依頼の想定難易度は上り、難易度が上がれば丸の数が増える。理由にもよるが、そうなれば少なくとも魔人族と亜獣人族、それから人族の学生しか居ない彼女達のグループには無縁の丸五つ以上の依頼となるはずなのだ。故にこの依頼のように、他所の人里の付近での護衛依頼が、普通の学生向けの依頼であるというのは確かに不自然であると言えた。
「…まぁ、何か理由があるんじゃない?」
「例えば?」
「村の人達全員の護衛とか…山に登れるのが1人だけとか?」
しかし、この丸の数はギルドが決めている為、依頼内容に不備があるとか何らかの事情によって内容が変化してしまったとか、そう言った特殊な事情が無ければその数で合っているとされた依頼である。であればそうなった理由があるはずである。そう考えたユウリは憶測で仮説を立てた。
「全員連れてくってのはともかく、山の近くに住んでて1人しか登れないとかないだろ」
「やっぱりそう思う?…まぁ、聞いてみれば判るんじゃないかなぁ」
その仮説は即座に論破されたが、そこに穴がある事は承知の上での発言であった為、その事に関してユウリが思う事は特に無い。というよりも聞かれてから1秒と掛からずに思いついただけのものだった為、彼女自身無理のある仮説だと思ったほどのものだ。
「んで、聞いてみて問題が無さそうならこれを受けてみたいんだけど、どうかな」
「いいんじゃない?」
「他に良さげなのも見当たらないしな」
寧ろ納得されなかった事に安堵しつつ、ユウリは改めて提案すると、快い承諾が得られたのでその依頼書を掲示板から剥がし、周囲よりもかなり机が低くなっている窓口へと持って行った。
「すみませーん」
そこはユウリ達学生や、より幼い子ども達用に設営されている子ども用の受け付けだ。大人よりも身長の低い子どもが利用する為にカウンターが低く作られている。ユウリ達が来た時には受け付けカウンターには誰もいなかった為、ユウリはそこから少し身を乗り出すようにしてカウンターの奥に見える人々に向けて呼びかけた。
「はい、ご用件は何でしょうか」
「この依頼についてなんですが、私達でも受けられますか?」
「ソルティス山脈麓の村の依頼ですか。…少々お待ち下さい」
その声に気付きやって来た男性は、ユウリが持って来た依頼書を確認すると、すぐにカウンター下にある何かを探りだした。
「…はい、問題無いですね。それで、こちらの依頼を受けられますか?」
「えっと、大丈夫…なんですか?」
暫く待つとそこで依頼に関する何かを見たようで、彼は体を起こして受託の許可を出した。元々問題無いであろう事は予想はしていたが、想像よりもあっさりと通った事に驚いたユウリは、思わず聞き返してしまった。
「はい?…大丈夫ですよ…?…ああ、これは向こうで依頼を受けてくれる方が居なかったからですね」
そんなユウリに受け付けの男性は少し呆けたような反応を見せたものの、すぐに彼女が何に戸惑ったのかを察したようで、丸の数が少ない理由を述べた。
「え、それだけ…?」
「ええ、それだけですね。で、どうされます?」
「えと、はい。受けます」
現地のギルドで受ける人が居なかった。たったそれだけの理由にユウリ達は動揺したが、此処はゲームのようにプレイヤーを楽しませる為の世界ではない。故に多少風変わりな出来事があったとしても、大抵はそこに誰かが用意したような特別な理由などないのである。
詳しく話を聞くと、依頼が発行されてから大体十日程の間、その依頼を誰も受ける事無く放置されてしまった場合には、付近の村や街にも同様の依頼が送られるようだ。それはどの依頼でも共通だが、他の依頼のついでには受け辛い配達依頼には多いらしい。後に確認すると、確かに配達依頼には他所の村や街の依頼が多く、中にはヴェルグ国外の依頼も見受けられた。流石にそこまで遠いと此処では依頼を受けられないようだが、幸いにしてユウリが見つけたその依頼の村は、ヴァーベナから徒歩3日程の距離であり、この街のギルドでも受託する事が出来るようだ。
「どっかいくん?」
そんな訳で依頼を受けたユウリ達は、早速その準備に取り掛かり、いざ街の外へと向かおうとした所でマーシャに声を掛けられた。彼女の後ろにはウツギも居る。
「うん。ソルティス山脈に依頼でね」
「山かぁ…なぁ、私らも付いてってええか?」
特に隠す事も無いだろうとユウリ達はそれを肯定し、目的地を伝えるとマーシャは同行を希望した。この時、ウツギが「えっ私も?」と驚いていたが、マーシャが「行かんの?夜1人になるで?」と言うと彼女は少し悩んだ後について来る事を決意したようだ。
「私は構わないけど…他の皆は?」
「俺も良いけど…それよりミホシ、二人増えても問題無いか?」
「良いですよ?スペース的にも余裕があるので問題無いですし」
そんな二人を見つつユウリは他のグループメンバーの意見を聞くと、彼女達が村まで乗る予定の荷馬車の定員にも余裕はある為、問題は無いと全員から賛成の意見が得られたので彼女達も共に行く事になった。
そんな訳で予定よりも2人多く馬車に乗り込み街を出たユウリ達だが、今回は彼女達を護ってくれる冒険者は居ない為、目的地である山脈麓の村までの道中、進路上付近に現れるモンスターから自分達で身を護る必要性がある。とは言っても、元々ヴァーベナ程大きな人里の付近には、滅多に人を襲うモンスターは出没しない上、襲いかかられたとしても荷馬車の馬が先程ミホシと呼ばれた女子生徒の魔術によって作られたゴーレムである為、馬を護る必要があまり無い。それどころか場合によっては、ユウリ達が手を出すまでも無く、現れたモンスターがゴーレムによって轢き殺される可能性すらあるのだ。
「あれ美味しいかな…?」
「どれ?」
「あの赤いヒラヒラしたの」
「…あれは多分美味しいけど後でお腹壊すって本で読んだ奴だと思うよ…。…あ、喰われた」
以上の事から彼女達の仕事は殆ど無いに等しく、暇を持て余したユウリとフウカの2人は、荷馬車にガタゴトと揺られながら時折空に向かって指を指し、その先にある光景について話し合っていた。
「なんか面白いもんでもあったか?」
「いや?…ただいつ見ても不思議だなぁって…」
そんな2人を見て、何か変わった事でもあったのだろうかとリグレスは声を掛けたのだが、ユウリそれを振り向く事なく否定し、ただ感想を述べた。
「あぁ、トビウオを見てるのか」
何のことだろうかと空を見上げた彼は、彼女達が何を見ているのかを理解し、呟く。彼はトビウオと呼んだが、それはダツ目トビウオ科の胸ビレで滑空する魚の事では無く、ヒレや鱗が翼や羽毛になった空飛ぶ魚の魔獣の総称だ。無数の小さな空飛ぶ魚が彼女達の目線の先―上空で何か埃のような小さな物を突いたり、自身よりも小さな魚を追い回して食べたりとしている。
「トビウオ?…別に珍しいもんでもないだろ?」
トビウオと聞いてディックが変わった奴だというようにユウリ達を見る。以前彼女達が見た鯨竜もトビウオの一種なのだが、このトビウオと呼ばれる魚のような魔獣が飛んでいる事は別段珍しい事ではない。以前ユウリ達が荷馬車の上で空を見上げていた日は鯨竜以外のトビウオの姿は無かったが、それは彼らの天敵である鯨竜がすぐ近くにいた為であり、街よりも巨大で目立つ鯨が現れれば、被食者である彼らが身を潜めるのは当然のことなのだ。鯨竜の居ない普段であれば、空を見渡せばそれなりの数のトビウオを見つける事が出来るだろう。
「そうなんだけど…」
「私達は森に住んでたからね。偶にしか見なかったんだよ」
だがそれは空を見渡せればの話だ。森の中にある村では勿論、壁に囲まれたヴァーベナの街中では空の様子は街の真上しか殆ど見えず、ユウリの知る過去には居なかった為、彼女達にとってこの空飛ぶ魚は偶にしか見た事のない珍しい生き物なのだ。それが群れともなれば尚更だろう。
学院のダンジョン1層目にも空はあるのだが、それはあくまでもダンジョンが生成した空っぽい空間であり、そこには外の時間によって色を変える空間があるだけでトビウオ一匹どころか雲一つない為、今彼女達が見ているような光景は存在しない。
そんな二人の事情を知らないディックは変わってるなとしか思わないが、ふと自身の頭上へと目を移した彼はある違和感を覚えた。
「なぁ…いつもより多くねぇか?」
それは、上空を泳ぐトビウオ達の数が異様に多いという事だ。今彼らの目線の先に居るトビウオの殆どは小型の群れを作る種であり、一度に大量に目にする機会はそう珍しくない。だがしかし、それでもこの日のように、空を埋め付くほどの大群がヴァーベナ周辺の空を飛んでいる。というのは異常な光景に思えた。
「そう言われればそんな気がするね?」
ユウリは街の外で普段の空がどんな様子であるかを知らないが、流石に今目の前に居る程の数が普段から居れば、街の中でも飽きるほど見る事になるであろう事は想像が付く。
「もう少ししたら来訪者が来るからだって聞きました」
ただ、それならば何が原因でこれほどの数のトビウオがやって来たのだろうかと考えていると、荷馬車の御者席に座っているミホシがその理由を話した。
「誰から?」
「ラト先生…えっと、魔力生物学の先生からです。来訪者さんに限らずですが、異邦人がこちらに来る時には移動系の魔法が使われているそうなので、彼らが大人数で来れば魔力溜まりが出来るのではないか。と」
魔力生物学というのは、主にスライムやゴーレムのような魔物の生態に関する学問の事だ。受講は任意である為、担当教師の名前を出しても伝わらないだろうとミホシは言い直す。
「それならゼライムが来るんじゃねぇか?」
ゼライムは魔力溜まりに集まる魔物だ。魔力溜まりがあるというのであれば彼の言う通りゼライムが発生するべきだろう。だが、そんな彼の疑問に答えるようにミホシの真後ろに座っているクレイスが補足説明をする。
「確かに魔力溜まりが出来ればゼライムが来そうだが、ゼライムは飛べないからな。魔力溜まりが空中にあるとゼライムの代わりにオバケがやって来るんだ」
「オバケ?」
「今あそこでトビウオ達がつついてる埃みたいなやつの事だ。毛が生えたエビみたいな姿らしい」
幽霊がでるのだろうか?そうフウカは思ったものの、どうやら"オバケ"と言う名の魔物がいるようだ。それを知った事で少しほっとしたような表情を見せた彼女は、説明の続きを促す。
「このオバケは小型のトビウオの餌になるから、オバケが集まれば当然―」
「トビウオも集まって来るってわけか…なるほど」
餌が増えればその捕食者も増える。それはこの世界の自然界においても同様であるようで、オバケが餌になるという事を伝えると同時に全員がトビウオが多い理由を理解した。
「ところで…依頼文の"ムートゥルム"様って何なんだろうね?」
「ペットかなんかじゃねぇの?」
「依頼者のおじいちゃんって可能性もあるわよ」
トビウオが多い理由は判ったので雑談を辞め、全員一旦は周囲の警戒に戻ったのだが、前述した通り此処は襲って来るモンスターが少ない。ヴァーベナからはそれなりに離れたので周囲の確認は怠らないようにはしているが、ユウリ達は再び雑談を始めた。
彼女達は自分達が受けた依頼について、依頼者はこの先にある山脈の麓の村に住むである事と、捜索対象である"ムートゥルム様"が山脈に住んでいるらしいという事以外何も判っていない。
「マーシャ達は何か知らない?」
「んー、私は知らんなぁ」
「どこかの守り神って話は聞いた事があるけど、それ以上は知らないわ」
「そっかぁ」
そこでユウリは同行しているマーシャ達にも訊いてみたのだが、彼女達もユウリ達と然程違いは無いようだ。一応、同じ名前の神が居るらしいという情報は得られたが、今回の依頼との関連性は不明であり、またその神に関しても情報は殆ど無いに等しい。
「あ、そうだ。話は変わるけどマーシャ」
「なんや?」
「マーシャはどうして私達に付いて来ようと思ったの?」
まぁそれは仕方ないと思ったユウリは、ふとマーシャが同行を希望した理由はなんなのだろうかと思い至る。ウツギはマーシャに連れられて来ただけだが、マーシャ自身の動機については聞いていない。
「ああ、それか。それはなぁ、鉱石採りに行きたいからやな」
「鉱石を?」
「そや。前にウチが魔鉱石使うってのは言ったやろ?課題で必要な分に足りんから欲しいねん」
ユウリ達とは違いマーシャとウツギが所属する"魔工科"は、以前にも述べた通り魔法と関わりのある技術に関する物事を学ぶ学科だ。この魔法と関わりのある技術には、魔技や呪文も含まれるが、この学科で学ぶのはその中でも魔道具やそこに刻まれる魔法陣に関するものばかりである。
そしてマーシャが目指す魔鉱技師は、魔鉱石と呼ばれる魔力によって変形する鉱石を加工して魔道具の部品を作る職業だ。魔鉱石を使って他の鉱石を加工する事もあるが、どちらにせよ相当量の鉱石を必要とする。当然そこに所属する生徒に与えられる課題は、物作りに則したものとなっており、その課題をこなす為に鉱石を集めに行きたいようだ。
「課題かー。じゃあ山でも一緒なんだね」
「そやなー。まぁでももしかしたら途中で別れるかもやけどな」
それを聞いたユウリは、それならば最後まで彼女達も一緒なのだろうと思ったのだが、マーシャはそうとも限らないと否定した。
「ん?そうなの?」
「そっちは護衛依頼なんやろ?ならウチの為に寄り道する訳にも、道草食う訳にもいかんやろ?」
「あ、あー……そうだった…忘れてたよ…」
ユウリ達が受けた依頼は依頼者の護衛である為、どのような道筋を通るかは基本的に依頼者の意向次第なのだ。その事を指摘され、そこから更に自分達の目的地と、マーシャの目的地が全くの別方向である可能性もあるという事に気が付き、ユウリは自身の見通しの甘さにがっくりと項垂れた。
「ずっと一緒かもやけどな。まぁ少なくとも途中までは一緒やし、それまではよろしゅうな」
「ああ、うん。よろしくね」
そんなユウリを見てあくまでも可能性の話だとマーシャは言ったが、彼女の目的の為には暫くの間目的地に留まる必要がある為、仮にその道中に彼女の目的地があったとしても、山の何処かで別れる事になるはずだ。偶然依頼者とマーシャの目的地が被り最後まで共に行動する可能性も無くはないが、十中八九そうならないであろう事理解しつつも、その僅かな可能性をユウリは期待せずにはいられなかった。
ミ☆




