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18:足跡と臨時連絡会

魔石を提出した後、校舎の玄関口でフウカやリグレス達と別れたユウリは、1人職員室前の廊下を歩いていた。そこは会議室や職員玄関などがあり、寮や授業教室からは遠い場所である為、生徒達はあまり近付かない場所なのだが、学院のダンジョンからは最も近い手洗い場のある場所であり、利用者が少ない事から比較的清潔に保たれている為、ユウリはダンジョンから出た際にはよくこの場所の手洗い場を利用している。この時もユウリはそこで用を足し、そこからフウカ達が待つ自身の部屋へと帰る途中だった。


「あれ…?」

だが、そこでユウリはふと違和感に気が付いた。

その違和感の正体を探るべく脚を止めた彼女は少し考え、その違和感の正体が目線の先にある黒い足跡である事に気が付いた。足跡を追って後ろを振り返れば、それが彼女自身の足跡であり、彼女がダンジョン内で靴に付けた汚れが足跡を作っているだけだと判る為、その足跡自体は何もおかしなことはない。


(でもさっき先生も此処通ってたよな…?)

しかし、その黒い足跡が彼女一人のものしかないとなれば話は別だ。此処はユウリ達が魔石の受け渡しをしていたカウンターのある事務室にも繋がる廊下であり、ユウリ達が魔石の提出をしている際にロントが歩いている姿を目撃した場所でもある。そしてこの黒い足跡は靴に付着した煤によるものであり、現在入口周辺が焦土(しょうど)と化しているダンジョン2層目に立ち入れば必ず付く物なのだ。

ユウリは多少払い落としはしたが、完全に落とし切る事は出来ておらず、足跡が残ってしまっている。であれば、ユウリ達よりも後にダンジョンの出入りをしているはずのロントに、靴を綺麗にするような時間は無いだろう。にも関わらず、ユウリの足跡以外に煤に汚れた足跡は一つも無い。


他の誰かが通った事によって消されてしまった可能性も無くはないが、萌黄(もえぎ)色の廊下は黒い汚れがよく目立つ。仮に数人彼と全く同じ場所を歩いたのだとしても、それで完全に分からなってしまうような軽い汚れではない。ましてや彼が通ったのはつい先ほどの事である。例えわざと消したのだとしても、それはそれでその跡が残ってしまう事になるだろう。勿論、その様な痕跡は一切存在していない。


そこまで考えてふとユウリは一つの疑問に思い当たった。それは、彼女達がダンジョンから出る際に2層目に入って来たのであろうロントは一体何をしに来ていたのだろうか?という事だ。教師である彼にはダンジョン内の見回りという仕事がある為、彼がやって来ること自体は何もおかしなことではないが、それにしては出てくるのが早すぎる。何か忘れ物でもあったのだろうか?そんな事を思いつつ歩き始めたユウリは、自身のすぐ傍にある扉が開いた事に気付かなかった。


「うわっ!?」

余所見をしながら歩いていたユウリは、そのまま開いた扉から出てきた人物へと衝突し、相手の身体に弾かれ尻もちをついた。

「いてて…」

転んだ事による衝撃はユウリにとって大したダメージではないのだが、なんとなく痛いような気がしてお尻を擦りながら起き上がっていると、相手から「君は確かハウレルの…何故ここに…?」という呟きが聞こえてきた。


知り合いだろうか?ユウリはそう思って相手の顔を見るも、相手は全身を覆う瑠璃(るり)色の鎧に身を包んでおり、顔どころか性別すら判らない。その姿を見たユウリは前世のアニメやゲームのイメージから一瞬騎士だろうか?とも思ったが、彼女の知り合いに騎士は居ないし、ついでに学院に騎士がやって来るような理由にも心当たりは無い。


兜越しに聞こえてくるその声に聞き覚えはないが、どこか既視感を覚えるものであり、相手の呟きから向こうはユウリの事を知っている人物である事が窺える。一瞬フウカと間違えている可能性も考えたが、仮にそうだとしても、彼女が森の村の出身である事を知っている以上、共に居たユウリの知り合いで無い可能性は低い。


また、ユウリ達は転生者ではあるものの、異世界の技術である魔技(マギ)や呪文を扱うという点を除けば、どちらも何処にでも居る普通の魔人族の少女だ。ユウリには人より頑丈であるという特徴もあるが、それは彼女が戦っている場面を見た事が無ければ気付く事の難しい特徴であり、森と学院内でしか使った事が無い以上、知り合いでもなければ一見普通の少女でしかない彼女達の事を態々覚えている者は少ないだろう。


故にユウリは相手を自身の知り合いであると仮定し、知り合いに騎士は居ない事から相手は騎士ではないと判断する。が、しかし青い全身鎧という一度目にした事があれば覚えていそうなものは勿論、それを着そうな人物にも心当たりがない。

いや、たった一人。青い鎧という事から該当する人物が居ない訳でもないのだが、その人物は女性であり、目の前の人物から聞こえてくる声色は男性のものである事から別人であろうとユウリは考える。


自分の目の前に居るのは一体誰なのだろうか?そんな疑問が彼女の顔に出ていたのだろう。その鎧の人物はユウリの顔を見て

「…いや…なんでもない。…怪我は無いか?」

と言い、ユウリに向けて手を差し出した。


「あ、うん。大丈夫…です。すみません…ぼんやりしてて…」

「いや、こちらも急に出てしまったからな」

差し伸べられた手を見てユウリは自身が地面に座り込んだままであった事を思いだし、相手に謝りながらその手を支えに立ち上がる。立ち上がって初めて気付いたが、相手は彼女よりも頭二個分程身長が高いようで、ユウリがクラスメイト達の中では比較的小柄であることを加味しても相手は大人であるように思える。


(大人…?なら先生…でも知ってる先生じゃないな)

背の高い子どもである可能性も無くはないが、大人と見間違えるほど背丈のある15・16歳などそうそう居るものではないし、ユウリにはそんな背の高い同級生は巨人族の生徒以外に居た覚えが無い。そして以前伝えた事からも判る通り、彼ら巨人族というのは、ユウリ達よりも遥かに身体が大きく、彼女よりも少し大きい程度の身長である目の前の人物には当てはまらない。


以上の事からユウリは目の前の人物は学院の教師だろうかと考えた。ユウリ達生徒は、入学前に学院に対し、氏名や出身などを記入した書類を送っている為、教師であれば生徒の名前からどこの誰であるかを知る事は出来なくはないからだ。それにしても生徒の事を出身地で覚えているというのは少々…いや、かなり不自然であるが、1つの情報から思い出せる記憶というのは人によって様々である為、有りえなくはない。


それと同時にユウリは相手は少なくとも冒険科の教師ではないのだろうとも思うが、それはロント達冒険科の教師はダンジョン内でしか起きた喧嘩やトラブルの解決をする為見回りを行っており、その際には多少なりとも防具を身に着けている為、一度も鎧姿を見た事が無いという事はほぼあり得ない為だ。仮に遠目に見かけた事しかない人物が居るのだとしても、青い全身鎧姿などという珍しい格好を一切覚えていないという事は無いだろう。


全身鎧が珍しいのは、この世界には防御力のステータスが無い為だ。防具には身に纏っている部位へのダメージをある程度肩代わりしてはくれる効果や、刃物や牙を防ぐ効果はあるのだが、幾ら頑丈な鎧を身に付けた所で、受けるダメージが鎧と肉体に分散するだけで無効化する事は無い。


生命力(HP)が非常に高ければ、鎧を身に着ける事ではっきりとした違いが出るかもしれないが、この世界の人々の生命力には高くない者が多い。故に鎧はその効果の殆どを発揮しないまま着用者が倒れてしまうものであり、また形状や装着部位にもよるが、動きを制限されてしまう鎧は動作の邪魔になる事も多い鎧は、「それなら多少脆くとも動きやすい方が良い」と一切身に着けない者や、着けても利き手や頭、胴体などの極一部にしか身に着けない者が多いのだ。


これは盾に関しても同じであり、ハウレルの村の子ども達は盾を使用していたが、あれはまだ敏捷のステータスの値も戦闘の経験も少なく、獣の攻撃を避けられない年下の子ども達を護る為だ。攻撃を受け止めダメージを負う事で生命力を上昇させることも出来るが、別にそんな事を期待して彼らは盾を持っていたわけでは無い。


「えと…ところで先生?は―」

「っと、すまないが私は急がねばならないのでね、では」

十数秒に渡るの思考の末に、相手の姿が鎧に隠されている以上考えても答えは出なさそうだと判断したユウリは、目の前の鎧の人物に名前を尋ねようと思ったのだが、そこへカツカツという誰かの足音が近づいてくると、彼はその質問を遮るように口早にそう言い、まるで逃げるかのように走り去って行った。


「…行っちゃった…まぁいいか」

一瞬の事に止める間もなく1人取り残されたユウリは、小さくなって行く彼の背中を眺めつつ、また出遭った際に訊けば良い事だろうと思い直し、今は気にしないことにした。足跡についても気にはなっていたが、先程のように誰かにぶつかっては迷惑である。廊下の途中で立ち止まっていた彼女を(いぶか)しげに見てきた教師に小さく会釈をし、ユウリは改めて自身の部屋へと向けて歩を進めた。



――ってことがあったんだよ。…それで…二人はあの人が誰か知ってたりしない?多分先生だと思うんだけど…」

「…青い鎧って言うと各地で人助けをしてるって噂の勇者様が思い浮かぶけど…私は知らないわねぇ…」

「まぁそやなぁ…。でもこんな所には来んやろし…わからんなぁ…」

その後何事も無く無事部屋に辿り着いたユウリは、フウカ達と別れてからの事を同室のマーシャ達に話していた。ついでに鎧の人物について訊ねてみたのだが、瑠璃色の全身鎧を着た人物については彼女達も知らないようであった。元々"彼女達が知っていたらラッキー"程度の思い付きでした質問であった為、それに対してユウリは「そっかぁ…」と少し残念そうに言っただけで特に気にする事は無い。


「でも足跡の方は【洗体(クリーン)】を使ったんじゃないかしら?」

だが、そんなユウリを見てウツギは、もう片方の話題――足跡について自分の予想を伝える事でロントへと話題を切り替えることにしたようだ。


「あー…。…んー、でもあの先生そんな身嗜みに気を遣う方じゃないと思うんだけど…」

着用中の衣服を含めた身体の汚れを落とす魔法【洗体(クリーン)】、確かにそれならば説明が付くとユウリは納得したが、しかしながらユウリにはロントが態々【洗体(クリーン)】の魔法陣を用意して自らを綺麗にする姿が思い浮かばなかった。と言うのも、ダンジョンの2層目入口付近が焦土になった事件が起こった際、彼は平然と全身煤塗れの格好で教室へとやって来たのだ。


当初は急な出来事に煤を払う時間も無かったのだろうとユウリは思っていたのだが、その日から暫くの間、常に煤塗れの格好で校舎中を黒く汚し続けていたのだ。問題が収束してから数日経った後も、煤汚れが残ったままの服を着ていたロントに対し、服を洗わないのかと訊ねてみた生徒も居たのだが、『どうせ汚れるのだから洗っても対して変わらんだろう?』と言って特に気にする様子は無く、そこから六日間、黒ずんだ服を着て校内のあちこちを汚しながら指導を行っていた彼を知っている者からすれば、当然とも言える評価だろう。最終的に毎回彼が触った後の机や扉に触れる度に汚れが移る事にキレた他学科の教師達の懸命な努力によって、足元以外は綺麗にするようになったのだが、それがなければ今もそのままだったという。そんな彼の姿を思い出しつつユウリが「真っ黒だったし…」と呟けば、マーシャ達にも伝わったのか、「あぁ、あの先生か…せんわな…」と言って納得した。


「3人揃って何悩んでるの?」

仮に【洗体(クリーン)】を使用して汚れを落としたのだとしても、では何故【洗体(クリーン)】を使用したのかと言う疑問に行き当たる。特に重要ではない事柄ではあるのだが、他に話題になるような出来事も無かった3人が頭を悩ませていると、そこに部屋に入って来たフウカが3人を見てどうしたのだろうかと声を掛けた。

先に寮へと向かったはずのフウカがユウリよりも遅れて入ってきたのは、彼女は寮内の手洗い場へと行っていた為だ。ユウリが使っていたのものとは違い部屋に戻る途中にあるのだが、多数の生徒が利用する場である為混みやすい。


「ん、あぁお帰り。ロント先生の足跡が無かったからなんでだろって」

「足跡?」

「提出の時後ろ通ってたでしょ?なのに無かったんだよ」

「…【洗体(クリーン)】を使ったか、着替えたからじゃないの?」

ユウリが話の内容について詳細を省きつつ伝えると、フウカは足跡がどうしたのかと言った反応を示したが、簡単に説明するとすぐに理解したようで、一瞬の逡巡の後に推測を答えた。


「それは思ったけど、あの先生ならそのままにしてそうじゃない?」

ウツギと同じ結論に至ったフウカに対し、ユウリはやはりそうなのだろうか?と思いつつも否定気味に答える。


「確かにいつものロント先生なら気にしないとは思うけど、先生達の中に綺麗好きな人が居るとか、急な来客で誰かと会うとか、理由があれば綺麗にすると思う」

「あぁ、なるほど…。その可能性は考えてなかったよ」

しかしそれに対し同意しつつも、それでも理由があればそんな人物とて身綺麗にするだろう。そう言ったフウカに対し、確かにそう言われればそうかもしれない。と、納得したユウリはその日どこかすっきりとした気持ちでその後の一日を過ごした。



「あれ…?なんか閉まってる?」

翌朝。ユウリ達はいつものようにダンジョンに入ろうとして、その入り口に簡単な木の柵が作られ、手前に看板が立っている事に気が付いた。看板には『立ち入り禁止 生徒諸君は各自教室にて連絡を待つように』と書かれた紙が貼られており、少しの逡巡の後、彼女達は自分達の教室に向かった。


「お、来たな。よし、全員揃ったな」

ユウリ達が教室に入ると、そこには既に同じ冒険科の生徒達が集まっており、教卓に立っていたロントから声が掛けられる。


「全員…?…少なくない?気のせい?」

ユウリ達は教室に入ったばかりであり、教室内に居るクラスメイトに関してまだ把握しきれていないのだが、しかし全員と言うには何となく人が少ないような気がしてユウリは呟く。入口は教室の後ろ側にある為、ユウリ達からは座っている他の生徒達の様子がよく見えるのだが、パッと教室内を見回しただけではその原因が解らず、空いている机へと向かいながら気のせいだろうか内心首を傾げていると

「確かに少ないわね」

と何かに気が付いたらしいリスティーが肯定した。


「あ、やっぱり?」

「ええ、ほらあそこ。前の方、見える?」

そう言いながらリスティーが指差した先は、教室の最前列端の席だ。そこはユウリ達の位置からは他の生徒達に隠れて見えづらいが、ぼろぼろになった武具を装備したグループが居た。そしてそのグループが座っている席には、一か所不自然な空席があり、その空席を挟んで会話をしている事から、恐らく普段はそこに誰か居るのであろう事が窺える。教室内をよく見れば、そういったグループが他にも幾つか確認でき、中には他のグループメンバーが居らず、1人だけぽつんと座る生徒が居る事にも気付く事が出来た。


「…何かあったみたいだねぇ」

「まぁそうじゃなきゃ、立ち入り禁止にはしないよね」

そういった生徒達を見てぽつりとユウリが呟くと、それに対して呆れたようにフウカが言う。それに対して それもそうか。とユウリは納得すると、彼女達は教室の後方の席に座る。ユウリ達が席に座ったのを確認したロントは

「…これより臨時連絡会を行うが、その前に寝てる奴は居ないな?」

と言って一度教室内を見回し、問題がない事を確認してから話を始めた。


「まず、現在封鎖中のダンジョンについてだが、昨日、ダンジョン内で幾つかのグループが不審なゴーレムに襲われ、負傷するという事があった。今ここに居ない負傷した生徒については病院で治療を受けて貰っているが、全員怪我だけで無事だそうだ。何事も無ければ数週間程で全員退院できるらしい」

ダンジョン内で問題が発生したという報告に教室内がざわつく。その声の大半は、何事も無く無事帰還したグループからのものだが、それはこの学院のダンジョンは安全に冒険者の仕事を学べる訓練所であるという前提で使用されている為だ。勿論、自傷による怪我や生徒同士の喧嘩のような例外を除けばだが、それ以外の、ダンジョン内に存在するモンスターから大怪我をさせられたとあっては生徒達が不安がるのも仕方のないことだろう。


「また、原因のゴーレムについてはこのように複数体居る事が分かっている」

そんな声を無視して、ロントは話を続けながら自身の後ろにある黒板に数枚の絵を貼り付ける。そこに描かれていたのは、複数の赤いゴーレムであり、ユウリ達が戦った人型のものもあれば、そうでない四足獣や、ダチョウのような大型の鳥の姿をしたものもある。それを見てユウリ達や他のその赤いゴーレムと交戦したグループの生徒が驚愕の声を上げた。中には「やっぱり」とどこか納得したような声もあったが、その殆どはメンバーの誰かが欠けているグループからのものだ。


「よってそのゴーレムの捜索と排除、それから発生原因の調査の為、暫くダンジョンへの立ち入りは禁止だ。ここまでで質問はあるか?」

「暫くってどのくらいですか?」

質問はあるかと問うと、すぐに質問が投げかけられた。ダンジョンが封鎖されるという事は、冒険科の生徒達にとっては自分達の課題進行が止まってしまうという事である為、当然の疑問だろう。


「暫くは暫くだ。それについては後日改めて連絡するが、その間は冒険者ギルドで何か依頼を受けるなり、今後の準備をするなりするといい」

だが、ロントはその質問に対して答えなかった。否、答えられなかった。というのも、ゴーレムは泥や粘土、石や木材などで出来た身体を持つ魔物である。身体となる物質と魔物が発生するだけの魔力さえあればどこでも生まれる可能性があるのだ。その生まれやすさから数体見かけたら倍以上の数が現れる事も珍しくはない。また、ゴーレムは人の手でも作る事の出来る魔物でもあり、意図的に行われた犯行である可能性も考えられる。いや、寧ろ人工ダンジョンの『ダンジョン内では魔物は自然発生しない』という特性からすれば、様々な要因が重なって偶発的に出現した可能性よりもそちらの方が可能性が高いだろう。そう言った事情から、具体的に何時までという事が決められないのである。


冒険者ギルドというのは、冒険者と呼ばれる便利屋のような者達の為の斡旋所の事だ。以前説明した街の周辺での甘草集めは、この冒険者ギルドで受ける事の出来る仕事であり、街の小さな子ども達が行っている事からも分かる通り、ここで仕事を引き受ける事に齢制限はほぼ無いに等しく、ユウリ達学生でも仕事を受ける事が出来る。


「では次に、近日中に新たな異邦人(いほうじん)がやってくるそうだ」

その後ロントは幾つかの質問に答え、それ以上質問がない事を確認すると、ロントはゴーレムの描かれた紙を黒板から取り外し、代わりに門から大勢の人が出てくるような図を描いた。以前伝えた事があるかもしれないが、異邦人というのは此処ではない何処かからやって来た人々の事を指す単語であり、この世界では主に意図してこの世界に来た異世界人の事を指す言葉だ。ユウリ達転生者もそうだが、この世界の人々にとって異世界人は珍しくはあるが、だからといってそれで騒ぐほどのモノではなく、異世界人が来るからといって生徒達の興味を然程引くような話ではない。


実際、ゴーレムの時とは打って変わって静まり返った生徒達から「それで?」とでもいうような雰囲気を感じたロントは

「…まぁ異邦人が来る事自体は珍しくも無い事だな」

と何処か気まずそうに言ってから話を続ける。


「だが今度やって来る彼らは、異邦人の中でも来訪者(らいほうしゃ)と呼ばれる不死の者達だそうだ。それが団体でやって来るらしい」

「えっ!ゾンビが来るのか!?」

不死だという事を伝えた途端何名かが驚き、前方に座っていた男子生徒が突然立ち上がって叫ぶ。ゾンビというのは、人や獣の死体がまるで生きているかのように動く魔物の事だ。魔物であれば普通の事なのだが、生物として最重要部位である頭や心臓が欠落しても核である魔石がある限りは問題無く動き続け、まるで不死身の生物であるかのように振る舞う事から不死身の魔物と呼ばれる事がある。また、ゾンビとなった死体は肉体の腐敗や欠損によって内臓が飛び出している事が多く、グロテスクな見た目から忌避感を抱く者も少なくない魔物でもある。


「ああいや、不死といっても死なない訳じゃないらしい。なんでもアバターと言う分身のようなモノで活動するんだそうだ。だから死んでも送り直すだけで良いらしい」

そんなゾンビが大挙してやって来る光景を想像してか教室内に動揺が広がったのだが、ロントはそれに対しすぐにそうではないと答えた。それによって生徒達からゾンビの群れが来るかもしれないという恐れは多少払拭されたのだが、代わりに異世界人の分身とはどんな存在なのだろうかと言う私語が目立つようになり、ロントは頭を抱える。


「…一応判っているとは思うが、来訪者も人間だ。実際には死なないからといっても何でも許してくれる訳ではないだろう。最悪その不死性を武器に襲いかかって来る可能性が無いとも限らん。他の異邦人以上にトラブルには気を付けてほしい」

一向に静まる気配を見せない生徒達に困り果てながらも、とりあえずこれだけは伝えておかねばなるまい。とロントは必要最低限の注意喚起を行ってこの話を締め、その後幾つかの連絡事項を伝えて連絡会は終了した。

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