10:測定、入学
2020/08/23:途中のまま忘れられていた文に気が付いたので加筆。
門を潜りヴァーベナに入った一団をまず出迎えたのは幾つもの店が立ち並ぶ商店街だ。店のショーウィンドーに並んだ武具や料理店から漂う美味しそうな匂い等に一団の幌馬車から幾つかの子ども達の好奇心に満ちた声が上がるが、買い物が目的では無いのでそのまま素通りする。
ヴァーベナにはユウリも偶にしか来なかったので装備にはあまり興味が無かったが、流れるように過ぎていく景色の一環としては
都の中央である大きなの像がある広場を通った時の事だ。周囲の子ども達が像に目を奪われている中、ユウリだけはその手前にある奇妙な看板に目を奪われた。
それは石畳みの都の中にあるには不自然とすら思える程のシンプルな木の看板。相当古い物のようで、黒ずみ苔むしたその看板には真新しい白い字でこう書かれていた。
『渡人招待準備中』
と。
「あの看板は…?」
看板に書かれた文字が気になったのでユウリは前へと身を乗り出して御者へと問う。
「うん?ああ、あれは伝言板だな。偶に神様からのメッセージが届くんだ」
「なんか俗っぽい」
「…今書かれてるのは『今度また異世界人を呼ぶからそのつもりでいろ』っていう事らしい。それ以上は知らん」
"俗っぽい"と言ったユウリに対して御者は何とも言えないような顔をしたが、そのまま話を続けた。ユウリは知らないと言われたのでそれ以上質問する事もせず、ただ「そうなんだ」と返したが、ユウリはもしかしたら"カナタや他のネットゲームの友人達とこの世界で会えるかもしれない"という可能性に気付き、期待で胸を膨らませた。
普通に考えればユウリの転生から15年経っているので、プレイ予定だったゲームの時代がとっくに過ぎていてもおかしくは無いのだが、異世界ものの話で世界間の時間の流れが違うというのは良くある話である。ユウリはかつての友人達にまた会いたいと思い、その可能性を願う。
そのまま広場を通り過ぎ更に奥、王城へと続く門の少し手前を逸れた所に建てられた壁に囲われた建物の敷地へと幌馬車の一団は入って行った。門から真っ直ぐ伸びた石畳の道の先には2つの西洋館風の建物が左右に並び、それぞれの入口手前には看板が立っておりそれが男子寮と女子寮である事が判る。
その間、更に奥には教会風の建物が建っており、敷地に入ってすぐの所で馬車から降ろされた子ども達は、それまで護衛として同行していた冒険者達に先導されてぞろぞろと徒歩でそこまで案内される。
「入学予定の方々ですね。まずは能力測定をするのでこちらへ」
建物の玄関口に辿り着くと冒険者達は子ども達と別れ、仕事が終わったとばかりに来た道を戻り、子ども達は代わりにそこで待っていたスーツ姿の集団に先導されてまた別の建物のへと案内される。
案内されて辿り着いたのはバスケットボールのコートを左右に並べて6つ入りそうなくらい広い体育館のような建物だ。そこには数種類の測定器具とそこで出た結果を記録するのであろう紙とペンを前に椅子に座っている大人達が待機していた。彼らもスーツ姿なのでスーツが制服なのだろうとユウリは思う。
この測定は単なる身体測定であると共に入学試験であり、ここでの結果次第では不合格となり入学出来ない事があるらしいと、ユウリ達よりも先にこの学院に入学して村に帰って来たモヨモト達やレントとシュナから聞いている。何らかの基準があるようで、その結果次第では不合格となり入学出来ないようだ。
性別や体格がある程度似通った幾つかのグループに別れ、そこから更に種族ごと別れて測定をするのだが、これは種族特性とでも呼ぶべき【ステータス】に表記されない種族ごとの能力やレベル毎の身体能力に差があるためである。全能力初期値の赤子同士でも種族が違えば、姿や大きさだけでなく強さも変わるのだ。
ユウリ達はまず始めに筋力測定をすることになった。これは重量挙げをしてその結果で計るものだ。ただ、筋力測定に使われるダンベルにはダンベルの重量は書かれておらず、代わりに"3"とか"4"とか書かれたものを使うのだ。この数字は"5"のダンベルを持ち上げられれば、筋力が5レベルある。というようにその数値のレベルがあれば持ち上げられるだろうというモノだ。
ダンベルは3から20までの数字があり、それらを順々に持ち上げていくのだが、周囲の子ども達が軽々と"8"や"9"のダンベルを持ち上げる中、ユウリはプルプルと震えながら"6"と書かれたダンベルを持ち上げる。それも時間をかけてようやくと言った感じで、"7"はびくともしなかった。フウカは"11"のダンベルを持ち上げきれず記録が"10"となり、その後全員の測定が終わった事でユウリ達魔人族のグループの筋力測定は終了した。
その次に行われた魔力測定は使用者の魔力を最大値から何割か吸い上げてそれを数値化するという魔道具を使ったモノだ。赤外線体温計のような魔道具のトリガーを引いて暫くすると、ピッっという音と共に前方に数値が投影され、それを見て使用者の魔力のレベルを把握するのだ。
ここにレベルに関する説明は無かったが、ユウリ達のグループ内で出た結果の最低値である"4133"と最高値の"16662"の2つの結果に、それぞれの自身の結果と自身の【ステータス】から見る事の出来る自信の魔力レベルから千の位以上の数値がその人物の魔力レベルなのだろう。という予測が立てられた。因みにフウカは2番目に高い"14997"であり、ユウリは"12110"とフウカの次に高い結果を出していた。
ユウリよりもフウカの方が数値が高いのは呪文よりも魔技の燃費が良く、特に魔技を使い慣れたユウリでは魔力をあまり使用しないが為に生まれた差だ。他は11から7であり、ハウレルの村の子らが少し高めではあるが、上位三人を除いた子ども達の平均値は大体他の種目と同じであった。またこのことから魔力測定1位の子がフウカと同じ呪文、もしくはそれ以上の魔力消費を行う魔法を持つ転生者であろう事が窺える。
その後少し休憩を挟んで持久走をするのだが、これは疲れてギブアップするまでに何週できたかを計るのだ。そこには同時に1週ごとの時間も記録され、それによってその子どもの持久力と敏捷のステータスを計っている。ここでは予測も立てられなかったが、走る速度は一部の子を除いては皆同じような速度であり、大半がフウカと同じ10かその少し手前の9から7までのどこかであるのだろうと思われる。ユウリは歩き始めた頃より意図的に敏捷のステータスを上げていたので12と他の子ども達よりも速いが、1番ではなかった。
また、特に遅かった子と1番速かった子を除いて大体同じような時間走っており、持久力についても大体どの子もレベル9かその前後なのだろうという事が判った。因みに特に遅かった子は早々にギブアップ宣言をし、一番速かった子は他の子ども達の倍の時間走り続けていた。
最後に先程の魔力測定器の色違いのような魔道具を使って本人のレベルを計る。これだけは最後である事が決まっているようで、どのグループに居ても最後になるようだ。最初からそれを使えばいいじゃないかと思うかもしれないが、このレベルの測定では対象の総合的なレベルしか測定することしかできないのだ。レベルはステータスの合計値で表記されるため、5つの能力値の内1つや2つだけが高くても均等であっても全て同じレベルだとしか判らない。
だがこれによって不正をしていればそれまでの測定の結果で予想されるレベルよりも、総合レベルが低く表示されるので不正をしていた事がバレるという事だ。それによって合否が決まるのでこれが合格発表でもあり、この学校に入学する条件は年齢だけなので不合格になると測定で不正したことが周囲にもバレる事になる。
「ユウリ・フェイル、レベル11」
約15年使ってレベル11と聞けば低いと思うかもしれないが、これはかなり高い方である。適度な外出と運動、それから十分な食事に睡眠とそれなりに健康的な生活をするために必要最低限の行動だけで5歳ごとに+1レベル増え、余程病弱であったり毎日食事をとる事も出来ない程貧困したりしていなければ、ただ生きているだけでも年齢÷5+1のレベルになるため、15歳のユウリは7レベル分…つまり自然上昇で約35年分のステータスをユウリ自身の努力によって獲得している事になるのだ。
「…真面目にやっていたのか?」
だがレベルが高い割にはどの項目もあまり高いとは言えない結果にその教師はユウリに疑惑の目を向ける。敏捷と魔力が平均よりも高いという事は判ったのだが、他の2つの項目は平均値とそれ以下であったためだ。
ユウリはその二つ以上に生命力のレベルが高い為にレベル11という結果が出ているのであり、そうでなければ8か9が妥当とされる測定結果である。これは生命力の測定が無い為に生じたズレであり、生命力の測定をすれば納得の行く結果が出るだろう。
しかし、基本的に傷を負う事によって伸びる生命力が高いという事はつまりそれだけ何度も怪我をしているという事である。レベル3以降の生命力では、何かを掴んだり歩いた時等の軽い摩擦や衝撃のような日常の中で受けるダメージは1日中ハンドグリップを握りながら歩き続けたとしても全体の0.01%にも満たず、それ以上の傷を頻繁に負うような生物はその怪我を元に後遺症で動けなくなったり、獣害や病気などで生命力が伸びる前に死んでしまったりするのが普通の世界なので測定はしない。
また過去に魔技を壊し続けて自らの腕を壊したディストのように、身体の部位毎にも耐久力が設定されており、適度に休まなければそちらのダメージが回復せず何時しか壊れてしまうので延々と続ける事もできないのだ。ユウリはそれを知っていたので自身にも見える形で残る引っ掻き傷を付けていたのだ。
それらの理由からユウリのように生命力が高い者というのは殆どいないので生命力の測定をする意味はあまりなく、ユウリの為だけに測定する事もない。もし測定する場合、最低でもユウリと共に来た他の子ども達も測定する必要が出てくるのだ。他の子ども達に合わせるとユウリは傷付かず、ユウリに合わせると他の子ども達の大多数が大怪我をすることになるだろう。
そしてユウリは生命力を除いた場合、魔技を扱うため他の子ども達よりも魔力は少し高めだが、敏捷のステータス共々飛び抜けて高いというわけではない。持久力のステータスは平均値前後であり、筋力に至っては明らかに他の子ども達よりも劣っているため、何処かで手を抜いていたのではないかという疑惑を受けてしまったのだ。
まさかそんな疑惑を受けるとは思っていなかったユウリは、「ふぇ?」というまぬけな声を発し口が開いたまま固まってしまった。少しして自身が疑われている事に気が付いたユウリは何とか弁明の余地を見出そうとするが良い案はすぐには浮かばない。
ユウリが自身の【ステータス】を伝えれば納得されるかもしれないが、他人に【ステータス】を見せる事は出来ないので今一信用性に欠ける。だからこその測定であり、ではどうすればよいか。と、ユウリが悩んでいると、測定をした教員は「はぁ…」と溜め息をつき「…まぁいい。君は合格だ」と言った。
測定よりも総合レベルの方が高い分には何も問題が無いので、ユウリは無事合格することが出来たのだった。その後フウカも合格し、数名の不合格者を出して測定は終了した。因みに不合格だった者の中には持久走で他の誰よりも長く走っていた子が混ざっていたが、その子についてだけは殆どの教員が(ああ、やっぱり)というような反応を示していた。
後で聞くと持久力は体を動かす殆どの行動によって成長するため、余程動いていない場合を除いて大体同じくらいになるそうだ。故に運動不足によってあまり走れないことはあっても、同じ種族の同年代の者の数倍もの時間動き続ける事は非常に困難であるようだ。
◇
無事入学することが決まったユウリ達が次にするのはそれぞれが専攻する分野の学科を選ぶことだ。これは後から変更する事も可能ではあるが、余程適性が無い場合を除いてはあまり勧められない。どうしても決められない場合には複数の分野を広く浅く修学する学科もあるが、それでも研究者か生産者、技術か武術か等のある程度の方向性を決める必要性がある。
専攻分野を決めるのは一年間で必要な知識を学ぶ必要がある為だ。共通事項や、自身が関わる他分野の事であれば多少なりとも知っていた方が良いが、そうでなければ態々教える意味はないだろう。大工が薬のレシピを覚えてもあまり意味はないのである。
ユウリは"冒険科"という冒険者や傭兵などの魔獣や盗賊等と戦う事のある外の危険な場所で活動したい者のための学科を選んだ。ここは前述した複数の分野を修学する学科であり、兵士や騎士なども含まれるが、冒険者が護衛をしたり兵士が魔獣を狩ったりとする事もある為である。
早々に所属する学科を決めた彼女は合格発表の際に教員から手渡された用紙に氏名と専攻する学科を記入すると、身体能力測定が終わった後に現れた『冒険科』と書かれた看板を持った教員の元へと移動する。そこには馬車で一緒だったライオンの少年がおり、少年もユウリの事を覚えていたようで、ユウリの接近に気が付くと「よぉ」と手を上げながら話しかけてきた。
「お前もこっちか?」
「…ああ、うん」
ユウリは一瞬『こっち』が何を指しているのか解らなかったが、学科の事だと思い至り肯定する。
「じゃあ一緒だな!よろしく頼むぜ!」
「よろしく」
肯定したユウリに対し嬉しそうに笑いかけてくる少年に対してユウリは(若いって元気だなぁ)などと年寄りじみた事を思いつつ少年と握手をするが、この場に居る者は全員15歳以上のはずなのでユウリが15歳である以上少年はユウリと同い年か少年の方が年上であるはずだ。
「で、お前は何でここに入ったんだ?」
「何で?」
ユウリは少年の唐突な質問に質問を返す。返してから彼女自身何とも間抜けな事をしたような気がしたが、何を訊かれているのかいまいち判断できなかったからだ。
「この"冒険科"に入るって事はなんかそれなりに目的があるんだろ?騎士団の偉い人になって金持ちになるとかさ」
「目的かぁ…」
「あ、俺はいつか凄い冒険者になって俺だけのハーレムを作ることだ!」
そう自身満々に大声で言った少年に対して冷ややかな視線が周囲の女子生徒達から向けられる。元男性であるユウリは男性がハーレムに夢を見るのはそれなりに普通の事なのだろうとは思うが、少なくとも声を大にしていう事ではないだろうと呆れつつも少年の質問に対して考える。
少年の言った通り実績を残し多くの名声を得て高名な冒険者や高位の騎士になれば、ある種のスターのような豪勢な生活が出来るだろうし、そんなスターとお近づきになりたいという者も出てくる事だろう。少年以外にも"冒険科"に入る生徒の中には一定数それらを目的として居る者が居る事も確かだ。
しかし、ユウリは"広場の看板に異世界人が来ると書かれていた"という理由で選んだだけだ。そこに大それた信念や信条は無く、ただひたすらに過去の友人達とまた遊びたいという想い以外の理由は無い。
彼女が前世で最も交流を深めていたのは死の直前まで共にオンラインゲームをしていた"カナタ"であるが、他にも学校やネット上などに友人はいたのである。その彼らも同じゲームをする予定であったので、看板に書かれていた渡人が前世の世界からの人々である可能性に賭けているのだ。もし違うと判ればすぐにでも他の学科へと異動しようとする事だろう。
まぁ、そんな事は彼女の心の内を知る事が出来る人物が居なければ誰にも判らないし、渡人がなんという名の世界の人々であるかは実際に来るその時まで彼女が知る術はない。神からの伝言板であるという看板に書かれれば知る事が出来るかもしれないが、それこそ神のみぞ知ると言ったところなので意味はないだろう。
勿論、馬鹿正直に『前世の友人と会えるかもしれないから』などと言う事はせず、ユウリは「冒険者になって旅をしたいから」と答えた。それならばどこへ行ってもおかしくは無いだろうと思った為である。
実際、ハウレルの村では旅をしたいと言って出て行った子どもの話も、そう言って出て行った後、1つ目の街から何処へも行かず帰ってきたという話もよく聞く話だった。
ユウリの答えに「ふーん」と少年は興味なさげに応えた。
(自分から聞いておいて失礼な……まぁ誤魔化した私にも問題があるか…?)
ユウリはつまらなさそうに答えた少年に少しばかり憤慨したものの、すぐに当たり障りのない答えを出した自分にも責任があるかと思い直した。
「やっと見つけたわよ!リグレス!」
少女の声に「げっ」という嫌そうな少年の声にユウリは何事だろうかと思いつつその声の主へと振り返ると、そこには少年と同じ琥珀色の髪と瞳のセミロングの亜獣人の少女がいた。
「『げっ』って何よ!『げっ』って!」
「い、いや…そ、それより遅かったな!すぐに来ると思ってたぜ!」
「そう思うならちょっとくらい待ってくれたっていいじゃない!あっちこっち探したわよ、もう!」
少年と少女は互いにこの学科へと入る事を伝えていたのだろう。と憤る少女の剣幕に少年はたじたじである事が見て取れた。
少女は前から少年に対して不満があったのか、その後も「遊んだ後の玩具の片付けはしろ」とか「ゴミはきちんと捨てろ」とかと少年に日常の不満をまくし立てる。少女は少年ほど特徴的ではなかったが、その声や口調からユウリは馬車で少年と言い合っていた少女だと思い至る。
「…そちらの方は?」
一通り言いたい事を言った後少女は冷静になったのかユウリに気が付いた少女は少年にユウリの事を問う。少年が「おう!紹介するぜ、こいつは」と言ったところで言葉に詰まり、暫く考えて「…そいや知らねぇな!」と言って豪快に笑った。
その言葉にユウリが「そう言われれば…」と腕を組むと同時にユウリは後ろから頭にバシッと強く叩かれたような衝撃と痛みを受けた。生命力のステータスが高いユウリに痛みを与える為にはそれなりに強い力が必要であり、そんな事をするような相手はフウカ以外には考えられない。
しかし、そこまでの筋力はフウカにあったろうかと思いつつ振り返ると、フウカの手が時折指の間でバチッと音を立てるほど帯電していたので、フウカであっていたことに安堵しつつユウリは「呪文を使いながら叩かれたのか」と独り言ちる。その際に「いってぇ!」という少年の悲鳴にちらりと少年達の方を見ると、少年が後頭部を押さえながら少女に文句を言っていたので向こうでも同じような事があったようだ。
「フウカもこっち?」
「…自己紹介くらいしなさい」
呪文を使ってまで叩いたにも関わらず大して動じていない様子のユウリに、フウカは呆れと不満を滲ませつつユウリを窘める。
「えっ…と、ユウリ・フェイル。よろしく」
ユウリは【ステータス】で自身の名前を確認しながら言う。普段「ユウリ」としか呼ばれないのですぐには思い出せなかったのだ。他者の【ステータス】は見えないが、空中を見つめながら名乗ったユウリを訝しみつつフウカもユウリの後に続いて同じように名乗った。
「俺はリグレス・セレネムだ!よろしくな!」
「リスティー・セレネムよ」
「…兄妹?」
「いや幼馴染よ。村ならそう珍しい事じゃないわ」
亜獣人の二人が共に同じ姓を名乗ったのでユウリは二人の関係を問うが、どうやら同じ村出身の者同士で姓が被る事はそう珍しい事ではないらしい。ユウリの隣でフウカもうんうんと頷いていたので単にユウリが知らなかっただけだのようだ。その後リスティーに「そっちは?」と同じ質問をされたので「双子」と返す。因みにフェイル家は親の2人が元々村の外の出身であったために他の家と姓が被っていなかったらしいと、後でユウリはフウカから聞き知る事となった。
「んで、二人は互いに名乗もせずに何の話をしていたのよ?」
「"冒険科"に入って何がしたいって話?」
「だな、俺は俺のハーレムが欲しい!」
「…私はこの馬鹿を見張る為よ」
改めて自身の夢を述べたリグレスにリスティーは残念なモノを見るような目でリグレスを見つつそう言った。
「私は…強くなりたい…かな。強くなって、私たちを助けてくれたあの人みたいに、誰かを助けられる人になりたい!」
それに釣られてかフウカが冒険科に入った動機を述べる。フウカは11年ほど前にディストから自分達を救ったアリスに対する憧れのようなものから冒険者として活動したいという理由であるようだ。
「…なんかあったのか?」
「大分前にねぇ…っと」
そんな風に4人で雑談をしていると急激に暗くなり、ユウリ達は話を辞める。急に暗くなった事に大半の生徒が少しざわついたが、暗くなってから少しして奥の舞台に白髪交じりの赤毛の男性が、ライトに照らされながら上がった事で問題は起きていないのだと判断したのかすぐに静まった。男性は舞台中央に置かれた教卓の前に立つと、全体を見渡すような動きをしてから話始めた。
内容としては、この学校が過去の異世界人達によって提案され、当時の冒険者ギルドの長やこの国の王達によって建てられたという設立の話と、"他人の物を盗まない"や"他人に暴力を向けない"等の集団生活をするにあたり当然のようなことをはじめとした、校内での犯罪行為に対する処罰や諍いが起こった際の解決手段の指定等の校則の説明だ。
またこの時ユウリ達はこの学校が"ユージ総合学院"という学院である事を知ったが、異世界人によってそう名付けられただけなので、"学院"はこの【アウレーリア】の人々には単なる施設の名前の一部でしかないようだ。ヴァーベナ以外の場所にも"学院"と名付けられた施設があるようだが、学び舎である事以外特に何の統一性も無いらしい。学園も同じであるようだ。
その後、ユウリ達生徒は教員から翌日の予定等の連絡事項を聞いた後、自身が割り当てられた学生寮の部屋へと向かうのだった。




