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同窓会のお誘いが来る季節になりました。

作者: 鈴鈴木戸井田



同窓会の案内状が今年もきてくれました。


いつもの会場で、いつものペンションで、 いつもの時間でした。


参加者の名簿も添えられていました。

いつものメンバーでした。


ぼく以外のクラスメイト全員の名前がそこにはありました。


もちろん、あの人の名前も。


今時、メールでも良さそうなものなのですが、彼らには、彼らなりの理由があるのです。


ぼくも毎年参加しています。

年にたった一度だけ、あの人にあえるのですから。


ぼくはきっと、その日のためだけに生きいるのかもしれません。


それほどぼくは、それを楽しみにしているのです。


ここから車で3時間程走らせた山奥の湖沿いにある古びたペンションがその会場です。


待ちわびたその日は、早起きをして、珈琲を時間をかけて丁寧に点てるのです。それを並々と入れたポットを抱えて、いそいそと十年と十万キロを超えた小さな赤い国産車に乗り込みエンジンに火を入れます。


時々不機嫌になるぼくの愛車も、この日だけは、すこぶる機嫌が良いようです。


3時間半の楽しいドライブなのです。

思い出と寄り添ったドライブなのです。

思い出に包まれたドライブなのです。

思い出に泣かされるドライブなのです。


いくつもの山を越え、沢山の川を渡ると、あの湖が見えてきます。


その湖のほとりにあるペンションが会場です。


その手前に一際急なカーブがあります。


ぼくは毎年そこで車を停め、そのカーブから、湖を眺め、祈りを捧げます。


あの日の、あの出来事の後、設置されたガードレールも大分古びて錆びついてしまいました。


ぼくも歳をとるはずです。


さあ、ペンションは、目の前です。

思わずアクセルを踏み込みました。


慌てて、速度を落とてしまいました。

ぼくは、そうなっても構わないのですが。

本当はそうなりたいのですが。


いつも通りのガラガラの駐車場に車を入れました。


いつもぼくが、最後です。


来年は、もう少し早めに家を出て、みんなを出迎ようと、強く決心をしていると、ペンションの扉が開きました。

真っ先に飛び出してきたのがあの人でした。

ぼくに向かって手を振っています。


あの時とかわっていない素敵なあの人と仲間達でした。

ぼくだけが、こんなに歳をとってしまいました。


あの人はいつも、千切れほど手を振ってくれます。


一年ぶりなのです。


あの人は駆け寄ると、ぼくの手をひいてペンションの中へと、二人の関へと、案内してくれます。


いつものと同じように。


募る話はたくさんあるのです。

今度手に入れようと思っている車の話。

お気に入りのです短編小説。

感動した映画。

そして、二人の思い出。


彼女は微笑んで聞いてくれました。

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのです。


別れの時間が来てしまいました。


いつもお別れの時間がくると、涙ぐむ彼女が、今年は満面の笑みを浮かべ、ぼくの耳元に唇を寄せ囁きました。


「もうすぐ、あなたとここで、一緒に暮らせるようになるのよ」


あのひとは、嬉しそうにとても嬉しそうに微笑みました。


車のドアを開け振り返ると、あの人とみんなとペンションの姿が少しづつ薄くなって消えていってしまいました。


みんな帰ったのです。

あの人も冷たい湖の底に帰ったのです。


いつもは、ぼくが見えなくなるまで見送ってくれるのに。


そんなに急いで帰らなくてもいいのにと思いながら、ぼくは、違和感と軽い痛みを感じる胃のあたりをさすりました。


ぼくをあの人の元へ送り届けてくれるはずの大切な違和感と軽い痛みなのです。




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