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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あみだくじ

作者: 潮路


 その珍妙な代物は、海外旅行へ行ったという友人からの土産であった。

 白い物体が数珠繋ぎになっているとだけ聞けば、真珠のネックレスの説明とも取れるが、生憎そんな物では全くない。

 その物体の形状は米粒のような楕円形だし、数珠繋ぎで出来た五本の縦線に、何本かの横線も混じってはしご状になっている。そして、縦線の先にあるものはちょうど、黒い幕で隠されている。

 黒い幕にはクエスチョンマークが描かれており、とてもチープな感じだ。

 この見た目からして、あみだくじをモチーフとした、一種のパーティグッズであると判断した。まあ、商品名にローマ字で「AMIDAKUJI」と書いてあるのだから、間違いないだろう。

 さて、皆様もご存知の事であろうが、あみだくじというものは一人でやっても、何も面白くはない。パーティグッズならば、猶更のことだろう。

 やはり幾人かを呼び、同時にあみだくじを引いてもらうのが、正しいあり方のように思える。


 翌日、漫研の部室でこの土産を紹介した。本来は買った本人にも参加願いたかったが、一身上の都合とやらで、止む無く辞退となった。

 怪しげなおもちゃに対する、部員の評価は両極端だった。

「これは面白そうだ」派と「絶対に引きたくない」派がそれぞれ半々。貰った私だけが、唯一の「どうでもいい」派であった。

 しかし、このまま「面白そう」派のみで引くのも、どうにも面白みがない。「引きたくない」派の人間が、嫌々でも引いてくれないと、パーティが盛り上がらない。

 というわけで、厳正な抽選方法を行うことにした。

 そう、あみだくじである。

 あみだくじを引く権利を得るために、あみだくじをやらせるというアイデアは、意外と「引きたくない」派の面子にも受け入れられた。

 まあ、言い出しっぺの私は、予選をすることなく、決勝のあみだくじに臨むわけなので、そういう姿勢を買われたのだと、勝手に想像している。

 結果としては、ちょうど「面白そう」派が二名、「引きたくない」派が二名という、理想的なバランスとなった。


 いよいよ、パーティーの始まりである。

 お楽しみを残すために、黒い幕は取らないようにした。

 あみたくじの先端には、取りやすいように配慮してか、プラスチックで出来たハート型の取っ手が付いている。

 部室内に広がる謎の緊張感は、パーティーゲームならではの雰囲気だろうか。

 各人がそれぞれの思いを胸に、それぞれの取っ手を選び、親指と人差し指でつまむ。

 そして、ゆっくりとそれを持ち上げていくと、蛇行していた線が、直線へと変化していく。

 五本の直線の先は、黒い幕で見ることは出来ない。

 高まる緊張感。


 それを破ったのは、ある後輩の悲鳴であった。

「面白そう」派の一人にして、予選で敗退し、ギャラリーに甘んじていた男。

 そんな彼が、悲鳴を上げたかと思えば、部室から出て行ってしまったのだ。

 それを期にして、ギャラリーがざわめきだした。後輩と同じ場所に立ったと思えば、同じように悲鳴を上げ、どこかへと去ってしまう。

 事情を知らないのは、私を含めた、引いている五名のみである。

 誰もが困惑の顔を浮かべ、目くばせをしていた。総意としては「さっさと引いてしまおう」といったものだった。私も賛成である。


 いっせーの、せっ。


 各人が一斉に引き上げると、勢いに押されて、黒い幕がめくれた。

 その中には、五センチはあろうかという、巨大な蠅がおり、五本の線は全て、その腹部に繋がっていた。

 皆の動きが硬直した。止まった時間の中、蠅の足だけがぴくりと動いている。

 時間が戻ると、もう我慢できなかった。私は我一番に思い切り、手を引っ込めてしまった。ハートの取っ手をつまんだままで。

 ぶちん、と嫌な音がした。そのはずみで、白い米粒が四方八方へと飛んでいく。

 それがよりによって、残り四名の顔にへばりついた。

 もう止まらない。狂乱した彼らにより、力任せに線は引きちぎられた。

 白い米粒があたり一面にまき散らされた。ついでに巨大蠅も空中分解を起こして、部室内へと散らばった。

 そこからは語るまでもない。残ったのは、いたるところ「染み」だらけの部室だけだ。

 パッケージに書かれた「K」の字も、「染み」に覆われ、今は見えない。

空間描写がもうちょっと上手ければ、と思う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 空間描写って難しいですよね。 でも、上手いと思いますよ! 描写で不気味さを感じられます。怖い!
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