七話目 印
春の空気は昼寝をさせる能力があるんじゃないか? 四時間くらい寝てしまった……
「間違いなく撃たれてた。それでやつが感電したんだろうよ。でなきゃフォレストベアーが止まった標的を外すわけがない。まあそんなのも外してるようならまず生き残れない。その後も動かなかったから倒すのは楽だったがな」
にやっと口元に笑みを浮かべたその人。
「で話は変わるんだが、ちょっと上半身見せてみ?」
と言って僕の服を脱がせようとした。
だからって僕は突然言われて脱ぐような変な人じゃない。
その手を止めるために自分の手を重ね、警戒心丸出しで言う。
「な、なんで脱がなきゃいけないの?」
「まあまあ、騙されたと思って」
と言われて結局強引に脱がされてしまった。
「ほら見ろ、やっぱ正しかったな」
何が正しいのか、なぜ脱がされたのか。ラルクの脳内は疑問符でいっぱいだったが、取り敢えず指をさされている左肩を見てみる。
「――ん? 何これ!? なんで!?」
視線の先にあったのは見慣れているいつもの左肩では無かった。青と黒が混じったような色が白い肌に写し出され、稲妻の形をした何かがあった。人が見れば印だの痣だの言いそうなものだった。
「これ……なに?」
「なあ、これ、いつからあったか分かるか?」
「知らないよそんなの! それより先に教えてよっ!」
その人は僕がそう反応すると笑い始めた。
どこがおかしいのかわからない。ラルクは少し怒っていた。この人は見たところこれについて知っている。だけどすぐに教えてくれないもどかしさと、突然現れた印。唐突に異変が出た自分の体に何が起こっているのか知りたかった。
「はは、お前すごいな、生まれ持ってないのにあとから授かったのか? 初めて聞いたな、偶然か……それとも必然だったのか?」
「これは何なのさ、さっきから色々言ってるけどどういう事なんだよ」
「ああ、悪い悪い。それはな、たぶん加護だ」
「加護?」
その人は突然右の袖をまくり始めた。ある程度まくると一気に袖を肩まで持っていく。そこにもさっき見た時と同じような緑色の印みたいなものがあった。これは――風?
色が違うのはなんで?とめどなく溢れてくる疑問のせいで言葉が出てこない。
「多分わかったと思うけど、これは風の加護の印だ。これは生まれた時からあるんだよ。他にも持ってるやつは知ってるが、生まれた時からあると言ってたのさ――だがお前はこれが昔からあったわけじゃないんだよな? よっぽど気に入られたんだろうよ」
説明は正直よくわからなかった。だけどこの人もこの印を持っていた事で、何となく体に悪いことがある訳では無いことが分かっただけでも不安な気持ちは和らいだ。
「そういやぁまだ名前聞いてなかったな?俺はソハルっていうんだがお前は?」
「――ラルク」
さっきの会話で少し不安は和らいではいたが、色々と考えることがありすぎて名前を答えるだけになってしまった。
「ラルクだな? じゃあ今日は泊まってけ。明るいうちにムルリアの街には着けないだろうからな」
その事に驚き外の窓を見れば太陽が地平線の彼方に消えようとしていた。さっきの悪天候なんてなかったような優しい光を放っていた。
電車で帰る途中五歳くらいの女の子が、切符を落としたおじさんの切符を渡していたのを見てホッコリしました。←お前が拾えよ? ごもっとも……