一生俺に味噌汁を作ってくれないか
テーマ『一人称ラノベ方式』
「はあっ…はあっ…っ」
走り続ける足が痛い。息を吸い込み続ける肺も痛い。それでも、止まれない。
なぜなら
「□□□□□□□!!!」
なんかよくわかんない怪物がおいかけてくるからだよおおおお!!!
しかも、叫びながら!
なにこれ、こわい。ドッキリですか?お金かけてますねー。
なんて、現実逃避してたら、わたくし馬鹿やりました。はい。木の幹に足をひっかけ、転びました。
ああ、こんな深い森の中じゃ、助けなんか来ないだろうな。あ、この怪物虫歯できてる。ご飯を食べたら、歯を磨きましょうねー。じゃないと、痛いのはあなたですよ?なんつってーwww
……なんて、暢気なことを考えているうちにも、目の前の怪物に食われそうです。ええ、もう、バリバリとw
獲物を前にし、自らの食欲を満たすため、その頑丈であろう頤を大きく開き、あまつさえ、涎を垂らし、好みの味にするかのように鼻息を吹きかける。
詩的に表現してみちゃったりしてみましたが、状況は変わらず…うん。怖いし、叫ぶか。元合唱部員舐めんなよ。
「ぃいいいやあああああああ!!たすけてえええええええええ!!!」
「助けてあげてもいいですけど、助けたら何をしてくれるんですか?」
「だれかあああああ…て、え?」
声を出すために閉じていた目を開けると、髪の長い金髪のイケメンが怪物の牙を剣で受け止めていた。
え、ちょ、こんな近くに人がw
「ふぇ…た、」
「さっきから、見ていたんですが、あなた馬鹿なんですか?こんな魔物くらい誰だって倒せるでしょうに」
そう言ってパツキンイケメンはつめたい瞳をこちらに向けた。
「え?」
「で、助けたら何してくれますか?」
「私にできること、なんでもするわ!だから助けて!」
この時の私は、なんて早まったことをしてしまったのでしょうか…。
「なんでも…ふむ、では交渉成立ということで。」
にやりと笑ったパツキンイケメンは、剣を素早く翻したかと思うと、怪物の脳天に強烈な蹴りを入れた。
ズシーン…という地響きとともに怪物は地に伏し…ああ、この人ってもしかして私の王子さm「なに馬鹿なこと言ってるんですか。さあ、行きますよ。」
「え、どこに?」
「私の家ですよ」
「そそそ、そんな破廉恥な!男が女を家に招くだなんて!」
「なんでもすると言ったのは貴女でしょう。もしかして、逃げるつもりですか?だったら、その子を今すぐたたき起こしてあなたを餌にしてしまいますからね」
その子と言って指さした先は、いましがた目の前の男が倒した怪物で…
「もももももちろん!ついていきますとも!」
そうして私はよく分からないままパツキンイケメンにつれさられたのでしたまる
いやいや何が、まるだよ?いみわからないよ?確かにこの人に何でもするとか言っちゃったけどさあ、でもさ、あ、ああアレじゃない?その、出逢ったその日によく知らない人と、いいいイタしちゃうなんて……破廉恥な!!性病とか持ってたらどうするのよ?ここってあの怪物しかり、いわゆる〈異世界〉的なとこだよね?もし、変なウイルスとかあったら……
一気に血の気が引いた。どうしよう、私、助けを求める相手間違ったかも。
「何を百面相しているんですか。赤くなったと思えば青くなったり…別にとって食いやしませんよ。ただ、あなたに料理を作ってもらいたいだけです。それくらいならできるでしょう。ワタリビトのあなたでも」
あー、なんだ、よかったあ…料理くらいなら、一人暮らしで培ったこの腕を見せてやりますわ!
「それくらいなら、お手のもんですけど、調理器具とか大丈夫っすかね?」
「大抵のものはそろっているはずですが、足りないものがあれば言ってくれればすぐに手配します。後の話は食事をしながらでいいですか。もう家についたので」
「え?」
言われてあたりを見渡すけれどそれらしいものはない。むしろ、さっきのとこより木が茂ってる感じするけど
「ああ、術を解くのを忘れてましたね。」
そう言ってパツキンが指をパチンっとならした。
すると、さっきまで茂みだった目の前の空間に、なかなかかっこいいログハウスが建っていた。大きさ的には、二階建て3LDKというところだろうか。奥行きは見えないのでもしかしたら、もっと大きいかもしれない。
「え、な、こ…?」
「魔法は初めてですか?これは、敵からこの家の存在を隠す術をかけていたんですよ。そんなことより、おなかが空きました。キッチンに案内するので早く作ってください。」
混乱する私を余所にパツキンはキッチンの使い方や材料を説明して、できたらよんでください、とだけ言い残してどこかへ行ってしまった。
とりあえず、何作ろうか?材料とか調味料は念のため少しかじってみたりしたけどいつも使っているものとかわらないみたいだし、何だって作れるけど…あー、パツキンの好きなモノくらい聞いとけば楽だったのになあ。まあ、いちいち訊きに行くのもめんどうだし、お腹空いてるみたいだったから、手早くできるモノにしよっかな。だったら、必要な材料は…ーー
皿をフライパンに乗っけて、ひっくり返せば、はい、完成!
「いやぁ、我ながら、完璧であります!」
「おいしそうですね」
「ひぇ!?」
自分の料理の腕にほれぼれしてるところをパツキンに見られましたー!最悪です-!
「まままだ、よんでないですのよ?」
どうやってできあがったと知ったのかしら!?恐ろしい子!!
「おおかた、どうしてできあがったことがわかったのか?とか思っているんでしょうけど、そんなに美味しそうな香りをさせていたら誰だってわかりますよ。こちらはできあがるのをずっと待っていたんですからね」
ばれてる…!
「あ、じゃあ冷めないうちに…あ、ちょっと待ってください!」
「まだ待たせるんですか」
む、っとしたパツキンもイケメンでありますな!私は、先に作っていたデミグラスソースを皿にかけて、パツキンに渡した。
「これは…いただきます」
「めしあがれー」
うわあ、あんなにガツガツたべちゃって…普段は生意気なしゃべり方なくせにこんな時だけ子供みたいで、かわゆすwww
「いま、ばかにしゃれたきがしまふ」
勘のいいやつですなw
「むぐむぐ…ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「ところで、これはなんという料理だったのでしょうか。また食べたいので」
ふきんで口を拭う姿も様になっておりますな。でも、そのふきんどこから出したんですか。私、気になります!まあ、それはそうと
「これですか?これは、チキンオムライスですね」
「チキンオムライスですか…また作ってください。とてもおいしかったです。」
「そんなに喜んでくれるならいくらでも作りまっせ!」
と言ってから気がついたけど、私いつまでここにいる設定なの?
「あのー、つかぬことをお聞きしますが、ここってどこですか?私家に帰りたいんです。」
「ああ、話してませんでしたっけ?ここはあなたの住んでいた世界の隣に存在する世界です。そちらでは異世界、と言うのでしたっけ。」
えっと、パツキンに教えてもらった話をかいつまんで要約すると、
ここは、異世界で、私たちの世界とは隣り合っているせいでよく人が飛ばされてくる。そういう人たちのことをワタリビトと呼んでいて、結構たくさん飛ばされてくるからあっちの世界の技術がこっちにも伝わっている。で、ここは向こうとは違って魔物とか魔法が存在する。
と、こんなもんですかね?
いやあ、にわかには信じがたいですがね、私、実はもう魔法も怪獣も体験しちゃってるわけで。信じないも何もないんですよねー。
「はあ。理解はしましたよ。」
「おや。ここで現実逃避しないワタリビトは珍しいです。」
「まあ、あっちでもソウイウ異世界もののアニメとか小説とか読んでたんで、こういう展開は願ったり叶ったりなわけですよ。
ところで、」
「はい?」
うわあ、パツキンマジイケメン。怪訝な顔でこちらを見やるとか、イケメンにしか似合わないっすわあー!でも、そんなイケメンオーラになんか負けない!言いたいことは言うわ!
「私は家に、あっちに帰れるんですか?」
「帰れますけど、準備が必要です。一ヶ月ほど。」
こういうのって小説だとたいてい帰れないんだよねーって大丈夫なんかーい!
「あ、そうかあ、よかったあ…」
「帰りたいんですか?」
「もちろんですよ!こんな怪獣がいるとこ怖くてやっていけませんもん!」
「そうですか…ならば仕方ないですね。これから一ヶ月ほど返還用の陣を書くために引きこもります。その間のご飯のことはまかせますから。よろしくお願いしますね」
「まかせとけ!」
なぜ、そんなに悲しそうにするんですかw私のおいしいご飯が食べれなくなるからですかwww
「じゃあ、早速書き始めるので、夕飯の支度お願いしますね。」
さてさて、今日でもう一ヶ月たちました!あ、パツキンの名前が判明いたしました!その名も、「エディアルド」くんです!かっこいい名前だね!ちなみにかなり有名な魔法使いらしいよ。私にはよくわかんないけどね。それで、そうそう、そのエディアルドと暮らしはじめていろんなことがありましたよ。私も魔法を使えることがわかったり、寝起きが最悪なエディアルドに侵入者と間違われて魔法で宙づりにされたり、エディアルドの寝室から書類やら洗濯物やらが雪崩をおこしたり、あとは、なんだっけ?思い出す限りでもろくな事ないわあ…よく一ヶ月も一緒に生活していられたな。
でもまあ、美味しそうにご飯を食べてるとこなんかは、その表情見てるだけで私も幸せだったし、色んな事があって楽しい一ヶ月だったかな。むしろ離れるのが少し寂しいくらいで…。ん?私今何考えた?『離れるのが寂しい』?いやいやいやいや、そんなこと全然ないよ?早く帰りたいよ?うん。向こうに仕事残してきてるしね!
「帰る準備はできましたか?」
「うん!できたよー!」
「それじゃあ、飛ばしますよ。でもその前に一つ。」
「ん?」
「いまさら言うのもなんですけど、この一ヶ月は実はあなたの夢だったんです。」
「うえええええ!?」
「だから、あなたは起きたらいつも通りの日常を過ごします。さようなら」
エディアルドが指を鳴らすと足下の陣が光って私を包み込んだ。
え、え、えええええええ!?
「えええええええええ!!!!????」
目を開けて、確認する。あ、うん。知ってる天井ですわwwwここは、我が家ですね!
「…かえってきちゃったのか」
いや、夢なんだっけ?今日は何日?
「ああ、一ヶ月前。…て、今何時?七時…だとおおおお!?会社行かなきゃ!」
「はあ、疲れた。」
あれから、一年。いつも通りの退屈な、会社がえり。
「本屋よってくか。そろそろ、新刊が出てるはず。」
ええっと、海棠だから、か、か、ん?あれって、醤油の作り方。こっちは味噌で…そういえば、あっちの世界には、味噌も醤油も、大豆製品なかったから物足りなかったんだよね。
あとは、あ!植物育てる関係とか、種とか…園芸ショップも行くかな
「はっ!」
なんだ。この荷物は!異世界なんて、全部夢だったんだよ?なのに。
「なんでかなあ。エディアルド。」
呟いた瞬間光があふれでて…
「遅いですよ。」
目の前にエディアルドがいましたw
「え?え?なんで?」
「あなたが呼んだからでしょう。」
「え?え?」
本物?これ、本物???
「ここ、だって、ここ、私の家だよ?」
「ええ。そうですね。」
「え?だって。」
「もう、うるさいですね。あなたが私側に来れるなら、私が行けない道理はないでしょう。ただ、座標が定まらなかったので、あなたが私の名を呼ぶのを待っていたんですよ。」
「へえ…」
なんだろ、すっごく、うれしい。
「何、泣いてるんですか。」
「泣いてなんかないし」
「いいえ。泣いてますよ。」
エディアルドに抱きしめられて、ささやかれる。ああ、たった一ヶ月で、この人は私の大事な人になっていたんだ。
「ねえ、愛しい人。これからも僕にオムライスを作ってくれますか?」
「そこは、味噌汁でしょう」
「それも、食べてみたいです。で、返事は?」
「もちろん!」
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……というわけで
エディアルドは新しい魔方陣を作ったのでこっちと、そっちを自由に行き来できるようになったんだよ!(この手紙もその陣を使って送っています)
私は、味噌とか醤油とか作って(もちろん魔法で単純化して)日本食文化を広めてみたり…楽しく暮らしてますよ。そのうち、おなかの子が安定期に入ったら、里帰りするから待っててね。それでは、父さん母さんお体には気をつけて。
異世界に嫁いだ親不孝より
「一生俺に味噌汁を作ってくれないか」そんなプロポーズっていいですよね