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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第八章 五月の病

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第九十六話

 



「照らせ太陽! 燃えろアマテラス! どこまでも輝け!」


 メイ先輩が空へと掲げた刀が燦然と光り輝く。太陽を直接目で見るレベルの眩しさに思わず目を閉じた。

 響く轟音に次いで、ラビ先輩が告げる声が確かに聞こえた。「行こうか」

 光が和らいで目を開けると、ショッピングセンターの屋上から飛び降りるメイ先輩の背中が一瞬だけ見えた。すぐにシオリ先輩が続いて、


「クラオカミ――……闇より出でし龍よ、永遠に溶けぬ氷を!」


 刀を振るう。その先から空気が凍てついて、瞬く間に空に階段を作りあげた。それはメイ先輩の足下に届いて、さらにその向こう側へ。

 蒸発させられて消えた汚泥の隙間、地面にまで届く。左右から盛り上がって道を塞ごうとする汚泥さえ凍らせて食い止めた。

 階段を駆け下りるメイ先輩が叫ぶ。


「ハルちゃん! どっち!?」


 一生懸命追い掛けて階段を駆け下りて氷の壁越しに汚泥に挟まれてすぐ、周囲から聞こえてくる声がある。


『もう……いやだ』『才能が現世と隔離世を分かつなんて、あまりに残酷ではないか』『理解されないのなら、意味の無い力だ』『誰にも理解されない道を進んで、なんになる』『ほら、嘲笑の方が多いではないか』『邪とは即ち、人の弱さだ』『そんなものに向き合い続けて、一体どうして正気でいれようか』『カナタ……コバト……私は……』


 シュウさんの声だ。あちこちから聞こえてくるそれは愚痴以外の何物でもなくて。

 でもあまりにあちこちから聞こえすぎて、方向なんてわからない。


「ハルちゃん!」

「待ってください、待って、待って」


 泣きそうになりながら耳を澄ませる。


「ちっ!」


 空から降ってきて私へと襲い来る汚泥を切り払ってくれたのは、ギン。

 見ればラビ先輩がぴょんぴょんと飛んで、刀を抜いては汚泥を切り飛ばしている。

 急がなきゃ、急がなきゃいけないのに。


「落ち着いて。息を吸うの」


 肩に触れたのはコナちゃん先輩の手。

 肩から熱い熱が染み込んでくるのは、コナちゃん先輩の霊子。


「お手伝いします! ……これもぜんぶ霊子なら、あたしの力も届くはず」


 手を繋いでくれるのはノンちゃん。

 繋いだ手から柔らかい熱が流れてくるのは、ノンちゃんの霊子。


「フィルターになるわよ、佳村!」

「はいです! あたしたちで余分な声を受け止めます!」


 二人の熱が耳へと届いて、聞こえる声がより分けられていく。

 ただ、願う。

 お願い、カナタ――!


『――……る』


 どこにいるの? 助けに来たよ。


『――……ル……こだ』


 声を聞かせて。あなたの声を聞かせて。


『ここだ! ハル!』

「カナタ!」


 はっとして、それから急いで指差した。

 返事の代わりにメイ先輩が刀を振るう。

 あちこちから押し寄せてくる汚泥を防ぐシオリ先輩の刀の力は凄いけれど、でも壁の上から押してくるんじゃしょうがない。だからこそ、


「サユ! ルルコ!」


 メイ先輩の呼びかけに二人の先輩が刀を掲げた。


「シオリ!」


 南先輩の呼びかけにシオリ先輩が続いて刀を掲げる。

 真上に飛んだ北野先輩の刀がぶれて見えた。高速に振動するその刀を手に、真横にくるんと回転する。


「いけ鎌鼬! つむじ風を乗せてどこまでも走れ!」


 刀からあまりにも強い風が瞬いて、汚泥の勢いを食い止めるだけでなくがむしゃらに切り裂いた。その余波がすごくて、地面にいる私含めた女子みんながスカートをおさえるほどで。

 北野先輩が地面に着地してすぐ、南先輩が刀を地面へと突き刺す。シオリ先輩と二人揃って、口を開いた。


「凍てつけ!」「凍りつけ!」

「「 我らを汚すことあたわず! 」」


 空へと届くような勢いで、氷の壁がのびていく。壁の間から生えてくる触手が互いに手を取り合って繋がっていく。


「まだまだいくよ!」


 メイ先輩の叫び声に呼応して、その刀が輝きを増した。

 愚痴の塊と化した汚泥を切り裂いて、蒸発させて、ひたすらに前へ。前へ。

 シュウさんの心の奥底へと手を伸ばすように。

 その前進を止められる者などおらず、だから届いた。


「カナタ!」


 シュウさんとカナタの元へ。

 カナタの刀を中心に円形の空間が出来ていた。二人はそれで無事に済んだみたいだけど、カナタの刀に重なるシュウさんの刀――禍津日神からのびた汚泥の触手に二人は絡め取られ、意識を失っていた。


「メイ!」「わかってる!」


 前へと進んだメイ先輩がラビ先輩の声に応えてシュウさんの刀を叩き折ろうとする……が、


「ぁ――」


 刀から吐き出された汚泥の触手に囚われそうになった。


「彼女には触れさせない」


 寸前でラビ先輩が前に躍り出て汚泥を切り裂く。けれどその勢いが凄まじすぎてメイ先輩は身動きがとれずにいる。


「これが邪なら、」「俺たちの刀で!」


 その瞬間に前へと躍り出たのは狛火野くんとカゲくんだった。

 無我夢中の二人がラビ先輩の横に並んで、刀をがむしゃらに振るう。

 でも切り裂いた端から汚泥が三人に降り注いで、三人とも苦しげな声をあげた。


「どいて!」「だめ!」


 叫ぶメイ先輩の手を南先輩が掴んだ。


「メイじゃ二人とも殺しちゃう!」


 北野先輩の声にメイ先輩が唇を噛んだ。

 すぐそこにいるのに届かない。

 二人の手は今も刀を掴んだまま、重ね合わせて……意識を取り戻さずにいる。

 重なり合った刀から軋むような音まで聞こえてくる。


「ぬん!」


 飛んで地面へと着地したライオン先生が、三人がかりでやっとの汚泥を一太刀で切り裂いた。

 斬る。斬る。切り裂いて、前へ。愚直に進んでいく。

 あちこちへ飛び散る汚泥に口が生えた。何人かが悲鳴をあげる中、汚泥が嘆く。


『もういやだ』『こんな世界……』『疲れた』


 ライオン先生の刀。切った相手に本音を語らせるという……特別な力を持った、刀。

 それゆえに、聞こえた本音はあまりにも身近すぎて。


『いっそ、このまま――ぐじゅ』


 一つをギンが切り裂いて、私たちの前へ出る。


「くだらねえな、くだらねえ。こんなの要するに、働き疲れた野郎の愚痴じゃねえか」

「そうだな……ならば!」


 横に並ぶレオくんが、そのままライオン先生の横に並んで叫ぶ。


「無理心中などと愚かな! あなたの背中は、そんな情けないものではないはずだ! 何が不満だ!」


 切り散らかされていく汚泥が叫ぶ。


『みなが苦しんでいる』『侍を続けられぬと』『刀鍛冶を続けられぬと』

「欺瞞で作った高潔さなど捨てて素直に言え! あなた自身はどうなんだ! 本当の気持ちは!」


 レオくんの刀が黄金に煌めいていく。その光が周囲に伝わって、汚泥を通って禍津日神へと届く。だから、


『災いを手にしたその日から、ずっとつらかった』『これを愛していいのか、わからない』『自分の力を……信じられぬ』


 届いたのか。わからない。ライオン先生を追い掛け共にあろうとするレオくんだからこその力なのか。

 今はそれよりも、吐き出される本音に応じてどんどん量を増す汚泥の方が問題だ。

 それ以上に、ああ。

 カナタの刀に触れた箇所からかな。

 叫ぶように、


『――……いたいよ、やだよ』


 不意に小さな女の子の声が聞こえて、心臓を掴まれたような錯覚を抱いたの。


「タツ! あいつは士道不覚悟ってのにならねえのか?」

「……男の愚痴でしかない。吐けない愚痴なら、人である以上誰しも持っているだろう。俺には斬れんよ」

「なら俺がいく!」


 飛んだギンへと汚泥がのびていく。がむしゃらに切り裂いていくのに、汚泥の量が多すぎて届かない。むしろ地面へ落ちる気配すらない状況こそ異常だった。

 でも、まって。ねえ、待って。


『もう……やだよ。いたい。いたいの。からだも、こころも……いたくてたまらないの』


 あんなに声を上げているのに、誰にも聞こえないの?


「シロ、どう思う?」

「トモ……僕にだって人に言えない愚痴なら山ほどある。それでも生きてかなきゃいけない。この刀に僕は誓った。決して立ち止まらないと!」

「それでこそだ! じゃあいくよ!」

「「人の速度で届かぬのなら、我らの雷が切り裂く! 宿れ雷神!」」


 トモが、シロくんがその刀を掲げて飛んだ。ばちばちと光り、瞬いて。

 あらゆる角度からその雷撃を振るう。

 けど、ああ。


「ハル! どうしたの――」「いえ、待ってください!」


 背中にいる二人の刀鍛冶の声に応えられず、涙した。

 誰にも聞こえてないだろう声がある。


『わたしを、おって……もう、やだ……つらいよ。いたい。いたいの。ずっと、ずっといたかったの』


 女の子の声は、今も、確かに聞こえている。

 どこから? そんなの――……決まっている。

 禍津日神。あの刀からだ。

 いかなきゃ。


「ハル!?」「青澄さん!」


 悲鳴を背に、それでも駆け出す。

 ライオン先生とレオくんの間を抜けて。

 汚泥が伸びてくる。私を掴み、包んで、けれど。


「おねがい、とおして」


 願いを口にして、前へと。禍津日神へと手を伸ばした。

 身体中に染み込んでくる絶望への誘い。けれどそれは一度味わった。

 あの時からずっと……ちゃんと考えなきゃいけなかったこと。

 あんな絶望を吐き出す刀の気持ちは……誰が救うんだろう。

 握られることすら躊躇われた刀は。

 愛するべきか躊躇う侍は。

 彼らをどう救えばいいんだろう。

 カナタは邪を吐き出す刀を持つシュウさんをいつか倒さなきゃといった。でも……カナタは咄嗟にシュウさんの刀がためこんだ邪を吐き出させることを選んだ。

 倒そうとしたメイ先輩を制して、私たちに後は頼むと言って……託したの。

 救いたいんだ。カナタは。本当は救いたいんだ。

 なら、私は、どうすればいい? ううん、違う。

 救うために、何が出来るのかな?


「――ふっ!」


 汚泥に呑まれそうになる私を救う刀は幾本も。

 ギンが、メイ先輩が、トモやシロくんや、カゲくん。みんな。みんな、その刀を愛し、振るっている人たちだろう。


『ハル――無茶を』『いいや、いけ! 救いたいのなら、前へ!』


 タマちゃんの声に、十兵衞が乗っかる。

 未来が見える。この右目に見える。

 それは確定した何かじゃない。

 私の望む未来でしかない。救いたい道しか、私の右目には見えないのだ。

 ああ、だから叫ぼう。二人に届くように。


「刀を下ろして! 離すの!」


 競り合いぶつかり合う二振り。

 兄弟で相反する力を手にした二人へと。


「カナタ! シュウさん!」


 願う。

 それだけじゃたりない。

 前へ。あと一歩。

 進んで、二人の手を掴んだ。


「その刀を下ろして、お願い!」


 引きはがす。その手に握られた刀を掴んで。

 二人が争う力。二人の有り様を露わにするもの。

 ひょっとしたら一時は憎しみを向けていたかもしれない。

 刀の有り様を受け入れられない兄と、その兄を蝕んでしまうほど立ち向かい抗い続けた弟の刀を……離す。

 そんなことは許さないと、みなで朽ちようとする絶望だらけの汚泥が私に触手を伸ばしてくる。だから、叫ぶの。


「カナタ! あなたの折れない心が誰かを救うためにあるのなら、今こそ目を覚まして! お願い!」


 私の呼びかけにやっと、カナタが目を開けた。


「――っ、大典太光世!」


 叫んだ。その手にある刀が霊子と変わり、手のひらサイズの綺麗な女性へと姿を変える。彼女が汚泥に触れた途端に、それは光の粒子へと分散した。

 息を呑むような光景の中で、


「シュウさん! つらいなら離していいんです!」


 叫び、両手で禍津日神を掴んだ。

 一気に染み込んでくる。絶望に染まった刀の心が……私の中に入ってくる。


「それでも離したくないなら、愛せばいいんです!」


 けれどもう大丈夫。

 その気持ちの意味を知ったから。

 うっすらと目を開けるシュウさんの表情に、躊躇いの色が浮かぶ。


「禍津日神!」


 だから呼びかける。


「あなたはどうしたいの!?」

『……もう、いやなの』


 聞こえる声の、


『シュウを、傷つけたくないの』


 本心を知りたくて。


「ライオン先生!」


 呼びかけた時にはもう、ライオン先生の肩が禍津日神の刀身を綺麗に断ち切った。

 瞬間的に流れ込んできた痛みの向こうに、


『――……愛されたいよ』


 本心があった。

 ならもう、迷いはない。シュウさんの手から引きはがす。


「あ――……」


 傷ついたシュウさんの顔を見て、だいじょうぶって微笑んで……カナタに手を差し伸べた。


「お願い、力を貸して。この子の気持ちを届けてあげたいの」

「ああ」


 微笑み、手を取ってくれたカナタの手を禍津日神へ。

 二人で一振りの絶望を受け止めながら……カナタが禍津日神を手のひらサイズの一人の少女へと変えた。

 目を見開くシュウさんの前で、女の子はシュウさんに尋ねた。


『つらいなら……捨てて良いの。だけど……離せないなら、愛して欲しいよ。シュウは……どうしたいの?』


 懇願に対して、泥を吐き出し終えた一人の男の人は。


「……愛したい。その術を探って……手を回して。けれどいつしか絶望に呑まれて」


 私はなにを、と言おうとしたのかもしれない。

 けれどシュウさんの顔に縋るように禍津日神が飛びついて、泣きじゃくる。

 目を伏せたシュウさんが禍津日神をその手で抱いた。


「ああ……」


 よかった。

 ずっと……見たかった。これを、見たかったんだ。


「一件落着か?」


 ギンの問い掛けにカナタが頷いて、メイ先輩に言った。


「今こそ、周囲に残る泥を……兄の絶望を、焼いてくれますか?」

「いいに決まってるじゃない!」


 笑って頷くメイ先輩。

 シオリ先輩と南先輩が氷の壁を一部溶かしては、メイ先輩が焼いて。

 あちこちのお掃除をはじめる中で、カナタが妹さんの小刀を握る。

 確かに……今、五月の病は晴れたのだ。


 ◆


 現世へと戻って士道誠心に集まったの。

 ユウジンくんたち星蘭の人も含め、グラウンドに今回の関係者がみんな集まっていた。

 侍の人たちも刀鍛冶の人たちもみんなだ。

 警察に出頭しようとするシュウさんにカナタが駆け寄った。

 なんとなく気になって一緒についていく私です。


「兄さん!」

「……なにかな」


 疲れた顔で微笑むシュウさんは、それでも抱えている闇が晴れたのかすっきりした目をしていた。


「なぜこんなことを?」

「……どこまでが正気で、どこまでが絶望の凶行か判別がつかない。ただね、お前が才を発揮してくれたこと、嬉しく思う」

「え――……」

「私はついに禍津日神の声を聞くことができなかった……その姿を露わにすることもね。お前のそれは特別な力だ。大事にしなさい」

「……あ、ああ」


 褒められ慣れてないのか、カナタが戸惑っている。


「私はお前に殴られると思ったが」

「……あれだけの絶望に苛まれて。児戯の塊だと言ったこともあるけど、兄さんの刀はきっと……兄さんの刀でしかなかったんだ。だからいいさ。それに」


 カナタが私を見て、深くため息を吐いた。


「自分の彼女が兄さんを許したのに、俺が拗ねているのも情けないだろ?」

「恋人の前で、か。なるほど。格好つけるところは……私によく似ているな」

「……わかってるよ」


 くすぐったそうに肩を竦めて、それでも足りずにはにかんでいる。

 カナタは本当は……シュウさんのこと大好きなんだろうなあ。

 意識して、意識し続けて……認めてもらえない、と。そう思い込みながら現実と戦っていたんだと思う。

 それももう、終わりだ。

 やっぱり……兄弟は仲がいい方がほっとするし。


「気をつけるんだ、カナタ。この世界には……確かに悪人もいるのだから。もしかしたら私を絶望に陥れたのも――」

「兄さん?」

「いや……今はよそう。それよりも、青澄くん」

「は、はい!」


 微笑むシュウさんの顔はこれまでに見た歪さなんてなくて。

 まるでラビ先輩のようです。真っ白なの。

 だから真実、今日の戦いは心のデトックスみたいなことだったんだろうなあって思ったの。

 そんな私に、シュウさんはふと真面目な顔になって言いました。


「禍津日神を頼む……君に預かっておいて欲しい」

「あ……」


 差し出された刀を受け取るべきか悩んだよ。

 だって、だって……やっとわかりあえたのに。

 そんな私の思いに気づいたのか、シュウさんがまた微笑んだ。


「捨てたいのではない。刀の声を聞くことのできる君だから、預けたいのだ。彼女にはもう伝えてある……だから、どうか」

「あ……わかりました。大事に、大事に、お預かりしておきます」


 恐る恐る禍津日神を受け取る。


『すう……すう……』


 眠りについた吐息が聞こえてくるの。

 それは安心しきった子供みたいな寝息だったよ。

 話を聞いた上でこれなら……きっと大丈夫だ。


「ずいぶんと迷惑をかけた。本当にすまない」

「い、いえ!」


 頭を下げるシュウさんにあわてて手を振った。


「顔を上げてください、お願いです……私は大丈夫ですから」


 そうか、と呟いて。それでもしばらくシュウさんはそのままでいて。

 カナタと一緒にシュウさんの腕に触れてやっと、顔を上げてもらったの。


「すまなかった」

「いいんです。終わってみれば……禍津日神とシュウさんの思いが繋がって、よかったと思うので」

「……君は優しいな」


 そう言うと、シュウさんは私の身体をそっと抱いて耳元で言うんです。


「弟を頼む」


 はっとして見たらね?

 きらきらと輝くような笑顔だったの。


「あ――……」


 シュウさんに何かを言わなきゃ。こみあげてくる気持ちはけれど。


「では……行かなければ」


 そう言って、シュウさんは行ってしまった。

 パトカーに乗って、遠くへ。


「大丈夫、かな」


 思わずこぼれた弱音にあわてて口を閉じるけれど……カナタは頷いた。


「一般人は無事だが、侍をはじめ隔離世に行ける人間にはけが人多数だ。確かに大きな災害は起きた。大勢の人が巻き込まれたことになる。兄さんは……罪を償わなければならないかもしれない」

「あ……」


 口籠もる私の手をカナタが握るの。見上げるとね。


「どんなことがあろうと……大丈夫だ」

「カナタ?」


 どきどきしながら見つめる私に、


「あの笑顔は……俺のよく知る、自慢の兄さんのものだった」


 だから大丈夫だ、と。そう言ってカナタは笑ったの。

 それはすっきりしたシュウさんにとてもよく似て……きらきらと輝く笑顔でした。




 つづく。

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[一言] なんとか収まって何より! 禍津日神がようじょだった事にびっくり
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