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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第八章 五月の病

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第九十五話

 



 再び空へと浮かんで急ぐ。高度はさっきの反省も踏まえて低めに心がけた。

 五分もした時だ、みんなが息を呑んでショッピングセンターの駐車場を見下ろした。

 それもそのはず。氷の城が築かれていて、その中に侍たちが囚われていた。

 刀の力を振るって、制服はボロボロで、露出した肌は傷だらけ。

 満身創痍のシオリ先輩が刀によりそって、崩れ落ちていた。そばに歩み寄る緋迎シュウがあの刀を――……禍津日神をシオリ先輩の心臓にあてがう。

 見上げたシオリ先輩が何かを囁いた。浮かべる表情は笑みで。


「ボクに、触れるな……?」


 シロくんがそう囁いた直後、シオリ先輩の刀から氷の触手が生えてシオリ先輩ごと氷漬けにした。その触手はシュウを襲う。けれどそこは腐っても最強の侍。刀を振るい、すぐさま身を翻して飛び退り避けたのだ。

 巨大な氷の結晶と化したシオリ先輩へと試しに刀を振り下ろす。けれどその氷は砕けることなく、傷つくことすらなかった。シオリ先輩が認めた人にしか溶けないかのように……強固な鎧として存在していたのだ。


「ハル、気づかれた」

「えっ」


 侍の何人かが刀を手に私たちへと飛んでくる。けれど刀の力を露わにしようとしない。まるでそれが叶わないかのよう。


『当然じゃろ! 操られているのに心を信じるも何もあるか!』

『うむ』


 タマちゃんの言葉にはっとした時にはみんなが飛んで、やってきた侍を迎え撃っていた。火を消して地面に降り立つ頃にはもう、そこは激戦区と化していた。

 そんな中、どの侍も私に向かってこない。来るのはただ一人だけ。


「君は……良い触媒になった。青澄春灯くん、弟がいつも世話になっている」


 悠然と歩く様も浮かべる余裕しかない笑顔も優雅なのに、それは真っ白すぎるラビ先輩とは逆方向すぎて、漆黒。


「これだけ撒き餌を散らしたんだ。来ると思っていたよ」

「あなたは……あなたは、何がしたいんですか?」

「世界を変えたい」


 微笑みながら言う声はまるで、明日はカレーが食べたいくらいの自然なものだった。

 だからぞっとした。この人の日常が、信念が、現実が……理解できなくて。


「その第一段階のために、きみたちには犠牲になってもらおうと思ってね」

「犠牲って!」

「侍による士道誠心への襲撃。生徒は全員、霊子を失い昏倒。邪による襲撃が行われた、奴らは意志を持っている。そう報告し、政府にはもっと侍の地位向上を訴えかけて――」

「……嘘だ」


 囁かれる言葉に思わず声が出た。


「ほう?」

「その刀を手にして正気を保っているあなたが、そんな俗でしょうもないことするはずない」

「……そういえば、君はこれの味を知っているんだったな。だが一つ勘違いを正しておこう」


 にい、と唇の端をつりあげて笑うシュウに背筋が泡立つ。


「正気なんて、とうにない」


 大薙ぎの一撃は空を切る。

 けれど、シュウの狙いは素振りにあるんじゃない。

 禍津日神が吐き出す邪にこそ意味がある。

 黒い泥が吐き出されて地面に落ちて、それは瞬く間に龍へと姿を変えた。

 妙に既視感のある生き物に身体中の筋肉が引きつった。

 それは一匹だけで留まらない。

 シュウが振るえば振るうほどにゆらゆらと吐き出されていく土たちが龍へと姿を変えた。


「あいつは!」「彼女を助けに行ったときの!」「ち、まずいぞ!」


 ギンが、狛火野くんが、タツくんが焦りの声をあげる中、


「シロ!」「わ、わかってる!」


 二人の刀が振り上げられた。


「宿れ――」「駆けろ――」

「「雷神!」」


 空から稲妻が落ちた。轟音が鳴り響いて直後、私の横を二つの稲妻が駆け抜けた。

 それは龍を両断して、地面へと落ちた。シロくんとトモだ。

 歓声があがる。すげえ、という茨くんの声に「まだだ」と岡島くんが唸った。

 龍の増える速度が尋常でないのだ。

 汚泥はまるで波。龍の姿になるほどの邪って、なんだろう。


「は、あ――……はっ」


 耳障りな自分の吐息。

 なんで、私はアレを知っているなんて思うんだろう。


『前に禍津日神に乗っ取られたお主が乗っておった!』

『何か、思い出せないか?』


 二人の声に必死に考える。

 あの時のことはよく覚えてない。

 ただ……声が聞こえたの。タマちゃんや十兵衞のように……声が、聞こえたの。

 吸い寄せられるようにふらふらと歩いて、龍の頭に触れた。

 頭を垂れるそれと私の無防備さに誰もが言葉を失う中、伝わってくる。


『もう――……かいは、いやだ』


 なに?


『もう、こん――かいは……やだ』


 なにを、言いたいの?


『もう、こんな世界はいやだ』


 はっとした時、お腹を抱えられて飛び退いていた。

 顔を向けるとカナタが「死にたいのか!」と怒った顔でいて。

 見ればバスがついたところだった。


「すぐにあいつを倒す。それでこの騒ぎは終わる」


 刀を手に構えるカナタだけど、私は咄嗟に服の裾を掴んでいた。


「まって、」

「離せ!」

「まって、まって、」


 縋るように抱きつく私を見て、カナタが驚いたように目を見開いた。


「ハル……?」


 肩に触れて顔を寄せてくれるカナタに、口から出た言葉は。


「あれは、シュウの……シュウさんの刀なの?」

「何を、いっている」


 カナタはもちろん、言った私ですら驚くものだった。

 躊躇うカナタに、喘ぐように言う。


「ユリア先輩の八岐大蛇のように、ああいう刀? ……最初から、あの刀だったの?」

「それは……最初は違うが、いや待てよ?」


 はっとした顔でカナタが自分の兄を見る。

 汚泥の中心で龍を吐き出し続ける凶人。


「刀が歪んだ? それとも……自分を刀に? いや、それでは身体を構成する霊子が」


 何かを囁くカナタの服の裾を握りしめる。


「シュウさんの本当の刀は禍津日神?」

「わからん。兄は……兄さんは俺にすべてを打ち明けるような男ではないから」


 みんなが戦っている中、こんな問答をしている場合じゃないのはわかっている。

 それでも焦燥感に駆られながら尋ねる。


「もし侍の心が歪んだら? その刀も邪になっちゃうのかな……邪を吐き出す刀なんて、そんなの悲しいよ、助けたい。あの刀を助けたいと思うの。ユリア先輩の時のように。何かできない?」

「だとしたら……俺の刀が大典太光世なのも、運命かもしれないな」


 ひと息吐くとカナタが頷いた。


「やろう。倒すのは……撤回だ。助けるために力を貸してくれ、ハル」

「う、うん!」


 刀を手に歩み出すカナタの横に並んで、十兵衞を抜いた。

 暴れ回る龍はライオン先生や南先輩、北野先輩をはじめとする先輩達がなんとか食い止めていた。侍たちもシュウさんが龍を吐き出すことに集中し始めてからは一人、また一人と勝手に倒れていく。


「緋迎! なんとする!」

「俺を兄の元へ!」


 ライオン先生の問い掛けにカナタが答える。

 けれど返事ができないくらい、龍の数が増えていた。空を覆い尽くさんばかりだ。

 それらは私たちを攻撃するのではなく、士道誠心へと向かっていく……ううん。


「帰って……いく?」

「ハル、気を抜くな!」

「う、うん!」


 あわてて意識を前に向ける。泥から姿を変えたばかりの龍は一様に暴れ回る。うっかり攻撃を食らわないようにするためには集中しなきゃいけない。

 攻撃されれば怒り、その顎を向ける彼らを放置もできない。何もしなければ学院に飛んで行ってしまうのだから。

 だからといって吐き出される速度が尋常でなくて、誰も何もできない。


「ど、どうしよう!」

「くっ……攻め手に欠けている! ユリアが学院に待機しているとはいえ、見過ごすわけには――ん?」


 カナタがはっとした顔で空を見上げた。

 雲がびかびかと光っているのだ。


「くっ!」

「シロ!」


 龍の尻尾に吹き飛ばされたシロくんを、吹き飛ばされた先にいる龍が食らおうとする。

 そこへ雷が落ちた。お姫さま抱っこをされて助けられたシロくん……抱いているのは星蘭の鹿野さんだ。


「す、すまない!」

「ふふっ、気にせんでええよ」


 噛み付こうとした龍が怒り雄叫びをあげる。けれど動き出そうとしたその身体が縦に一刀両断された。立浪くんが現われたのだ。

 空を見上げて私は思わず叫んだ。


「ユウジンくん!」


 雲を足場にして学ランに狐の尻尾を揺らして笑う、先頭の彼は言った。


「約束したから来たで」


 よかった! 間に合ってくれた!

 事前に連絡しておいたのだ。


「がっこの方は任せとき。鹿野、立浪、いくで」

「ここでの出番これっぽっちかいな!」「仕方ない。真打ちが来た」


 シロくんを下ろすと、立浪くんの手を取って鹿野さんが飛んだ。

 立浪くんが見つめる先はユウジンくんたち……ではない。

 私たちの後ろだ。ふり返ると、バイクに跨がったラビ先輩がこちらへ向かってくる。

 その背に立つ真中先輩が飛んだ。その刀は既に熱く燃えている。


「一年生がいるの気になるけど、後回し! ラビ!」

「わかってます」


 バイクを停めたラビ先輩が「コナ」と呼びかけると、まるで事前に打ち合わせでもしていたのかコナちゃん先輩が光と共にラビ先輩の横に現われたの。

 コナちゃん先輩は一目散にシオリ先輩の元へと駆け寄って、その氷に触れた。すると……独りでに、しかも瞬く間に氷が溶けてしまった。

 出てきたシオリ先輩を抱き留めるコナちゃん先輩。


「もう! 無茶をして!」

「……コナの匂いだ」

「でももう少し頑張って! メイ先輩のサポートを!」

「無茶いうなあ……でもコナの頼みじゃ、仕方ないか」


 短く息を吐いて、コナちゃん先輩の腕の中でシオリ先輩が刀を構えた。


「みんな、シオリの後ろへ!」


 ラビ先輩の言葉にみんなが急いで従う。

 追い掛ける龍をたった一人、炎の嵐と化して食い止めてしまえるメイ先輩は文字通り士道誠心の候補生最強の人だった。


「ラビ!」

「どうぞ!」


 メイ先輩の呼びかけにラビ先輩が答える。

 シオリ先輩が刀の根元を掴んで囁いた。


「コナ、ボクのこと好き?」

「へっ? え、ええ、それはもちろん」

「……今日はそれで満足する。真打ち、闇龗神――……太陽さえ防ぐそらの氷を」


 シオリ先輩が囁いてすぐ、シオリ先輩の刀の前が一瞬で凍り付いた。

 分厚い氷の壁の向こう側で、メイ先輩が刀を振るう。炎を吐き出して、身体中が燃えていく。


「真打ち、天照大神! 私の学校にぃ――」


 刀を掲げた途端に暴力的な光が放たれた。


「手ぇ出すな!」


 激怒の声と共に何かが振るわれた。氷の壁がなければその衝撃と光と熱で溶かされてしまっていた。そう感じるほど、圧倒的な力だった。

 泥も、龍も、空を飛び学院へと迫る脅威さえすべてなぎ払って直後、カナタが躍り出た。

 抉れて焼けた大地を疾走して、身体中が燃えてなお立ち続ける兄の元へ。

 構えられた禍津日神へと大典太光世を振り下ろす。

 甲高い音がした。


「兄さん! なぜ! なぜこんなことを!」

「……カナタ。ああ」


 口を開いたシュウさんから泥が吐き出されていく。赤黒いモヤも。まるでシュウさん自身が邪に感染されてしまったかのように。


「どこにいるんだ……もう何も見えないんだ。だから……すべて壊すしかない、と、思って」


 壊れたように笑う。


「狭い業界だ。なじられ、疎んじられる……ならば、彼らが無視できない災害を起こしてやるしかないだろう」


 禍津日神から吐き出される汚泥はシュウさんだけでなくカナタまで呑みこんでいく。


「カナタっ!」


 叫ぶ、けれどカナタはただただ兄だけを見つめていた。


「禍津日神を手にするあなたの真意はそこにあるのか? 本当に? 妹を刀にした理由は? なぜだ、なぜだ! なぜなんだ、兄さん!」

「ああ……あの子だけは……こんな汚れた世界を、見せる、わけには」

「カナタくん! どいて!」


 刀を燃やし、第二射を構えるメイ先輩にカナタは叫んだ。


「だめだ、まだ!」


 そうだとも、と叫んだカナタはシュウさんの胸元に手を伸ばした。見えていたのは、小さな刀。妹さんそのものだ。

 そしてもう片手を禍津日神へと伸ばした。


「後は頼む!」


 そう叫んだ瞬間だった。


「それは!」「カナタくん、だめ!」


 ノンちゃんとコナちゃん先輩が叫んだけれど、遅かった。

 カナタの手から光が禍津日神へと伝わって、瞬間汚泥が弾けた。

 もはや龍へと変わることさえ放棄した汚泥を見て、


「いかん……総員、退避!」


 ライオン先生が叫ぶけれど私たちは……正確に言えば一年生のみんなは身動きが取れなかった。

 だから先輩たちに抱えられてショッピングセンターの中へ。それでも足りずに屋上駐車場へと移動する。迫り来る汚泥は腐臭をまき散らしていて、触れたら無事で済みそうな予感がまるでしません。


「進退窮まったな」

「はい……カナタくんが何したかわかる人は?」


 ライオン先生に頷いたメイ先輩がみんなの顔を見渡した。

 俯いているノンちゃんが「……あ、の」と口籠もる。

 その横でコナちゃん先輩が厳しい顔で前に出た。


「恐らく、禍津日神の刀を実体化したんです。妖怪などの刀を持つ者が姿を変えるのと、理屈的には一緒ですが、刀鍛冶として無理矢理実行した形です」

「……刀はきっと、暴走してると思うんです。形をなさずに吐き出しているあの泥はたぶん、長いこと侍と刀がため込んだよくないものです」


 コナちゃん先輩の言葉に続いて、ギンに背中を押されたノンちゃんが口を開いた。


「むう」


 どうしたものか、と俯くライオン先生。メイ先輩も「標的がでかすぎて時間かかりそう」と悩み顔です。二人が心配、というシオリ先輩に俯く。

 そんな重苦しい空気の中で、


「むつかしいことはよくわかんねえけど、要するにストレスたまってて吐き出してる感じか?」


 カゲくんが腕を組んでそんな言葉を口にした。


「あーわかる。受験の時とかもうね、もう勉強しんどすぎて何するかわかんなかったからね、俺」

「茨の場合はろくでもないことだろうけど。まあそうな、そういう時あるよな」

「これほどのことが出来る男の、それもストレス解消ができない男の鬱屈。それは大変なもの」


 茨くんに羽村くんが突っ込むんだけど、岡島くんの重々しい頷きと一緒に吐き出された言葉に肩がこけそうです。


「迷走したら飯もまずくなる」


 井之頭くんはあんまりその路線攻めすぎると怒られるからやめた方がいいと思う。

 とはいえ私も同意です。


「そうだね。ご飯がおいしくなくなるね! それはよくないと思うよ!」

「あ、あのね。いい? 一年生たち。一度はハルを連れ去った男よ?」


 そんな単純でしょうもない話に落とし込むな、と声をあげるコナちゃん先輩だし。


「そ、そうですよ! 邪を吐き出しちゃうすっごい侍さんですよ? 刀鍛冶としてもすごいんです! だからこそ今までなんとか禍津日神を制御できていたのかもしれませんし!」


 ノンちゃんもすぐに同調する。

 それには頷くしかないかなあ。あれだけの泥を吐き出してる刀の制御だなんて、大変そうだ。

 だってさ?


「禍津日神を一度持たされた時にはあっさり正気を失ったもん。邪って……なんていうか、人の怨念そのものだって思った。それを手にして働いていた時点で、確かにすごい人だと思う」

「ねえ、ハルちゃん。教えてくれるかい?」

「え?」


 メイ先輩のように私を呼ぶラビ先輩を見上げたら、いつものように笑っていた。

 シュウさんのとは違う……安心させてくれる笑顔だった。だからなんですか? って聞いたよ。


「カナタがよく言うんだ。君は刀の声が聞こえるってね。だから教えて。禍津日神の声は聞こえたかい?」

「……おぼろげに、ですけど。さっき龍に触れて思い出したんです」


 もう、こんな世界はいやだ。確かにそう言っていたと告げた。


「そ、それは……緋迎シュウほどの侍の刀の声としては、あまりにも」

「ゴールデンウィーク終わりに俺思った! 休みが終わるこんな世界はもうやだって!」


 茨くんは素直すぎるよね。おかげでシリアスモード入ろうとして入りきれなかったコナちゃん先輩が微妙な顔してるよ。


「コナのレア顔……」


 シオリ先輩が生き生きとした顔でコナちゃん先輩を見てスマホで写真をばしゃばしゃ撮っているのもちょっと解せない。


「なんだよ、要するにあれか。五月病か?」

「ってことは……すっきりさせて、しゃきっとしろって背中を叩いてあげればいい感じ?」


 ギンとトモが呆れてるし、


「そうだね。案外、彼は……ハルちゃんを使って刀の声が知りたかっただけかもしれないね。他に目的があったとしても、今は知る術がないから考えるのは後にしよう」


 ぱん、と手を叩いて締めてくれるラビ先輩がいなかったらどんどん脱線していた気がする。


「獅子王先生、策を提案しても?」

「うむ」


 鷹揚に頷くライオン先生に笑って、ラビ先輩が指を立てた。


「要領はユリアの刀を折った時と一緒だ。緋迎シュウ本人へと到達し、その刀を折る。シンプルだろう?」


 一年生のみんなが頷いた。二年生や三年生は厳しい顔でいる。


「あの汚泥に触れたらただで済まないだろうから――……メイ先輩、先陣を切って道を作ってもらいます」

「もち」


 メイ先輩がどや顔で頷いた。


「できた道をシオリに凍らせてもらいたい。出来るかい?」

「当然出来るし……まあ、いいよ」


 スマホをしまってコナちゃん先輩に寄り添うシオリ先輩が続く。

 返事に満足してラビ先輩が汚泥の一点を指差した。


「そこを全員で全力で進む。汚泥は邪そのものだ。迫ってくるだろうから全員で防ぎながら進む」

「大丈夫! 攻められたら私が防ぐから!」


 メイ先輩がそう言った途端に厳しい顔をしていた先輩たちがため息を吐いた。

 やっぱりか、とか、それが一番怖いんですけど、とか言ってる。


「いえ。後ろは僕が守りますから、メイ先輩は気にせず突き進んでください」


 ラビ先輩の笑顔の提案にメイ先輩がそう? と問い掛けた。

 その途端に先輩達が一斉に頷くの。

 確かにメイ先輩の攻撃って破壊力が抜群に高いもんね……怖いよね……。


「本命はメイ先輩ですね。刀の相性的にもいい」

「突き進んでいけばいいの?」

「ええ。出来れば目的地まで一直線でいきたいから……ハルちゃん」

「えっ」


 そこで呼ばれます? メイ先輩と話すラビ先輩に振られるなんて思わなかったよ。


「刀の声が聞こえるなら、僕らを導いてくれ。メイ先輩のすぐそばで道案内をするんだ……頼めるかい?」

「……えっと、はい」


 むしろ断る選択肢がないですよね。なので頷きました。もちろんやります。私がやらねば誰がやる。だからそれはいいの! それはいいんだけども!


「それではみんな、最強の侍の五月病を治しにいこうか」


 ちょっと締まらないあたりが、ひょっとしたら私たちらしいところなのかもしれない。




 つづく。

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