第九百四十五話
さて、やみくもに飛び出す前に作戦会議!
ああしようこうしようでうまく動けるタイプじゃないよね? 私って。
反復練習を繰り返してやるのは、意識せずにリラックスした状態でできるほど体に馴染ませる意味合いもあると思う。
素振りや戦闘の動作訓練なんかじゃ、そのあたりを重視される。
攻撃も防御もそう。受け身の練習のように、どういうときにどうするかを体に叩き込む。
パニックに陥って過呼吸になる人を映画でみると、呼吸の仕方を教えている場面があったりする。それが医学的に正しいかどうかは映画の取材力に賭けて――……って、甘えちゃいけないけどさ。
ライブで最高にあがったときに酸素吸入器を使ったけど、ハイになって歌ったりしゃべってたりしたら、ふとわからなくなるんだよね。いつも意識してないくせに、苦しくなって、それを解消するために息を吸えばいいのか吐けばいいのかわからなくなるの。
テンパったり、パニックに陥ったとき、ぽかんとしちゃうことがある。いつもならできることが途端に難しくなったりする。
撮影中にカンペが出て「あと五分面白いことしゃべって」とか書かれたら「はい!?」って固まる。
いや、面白いことを喋ろうと思ってもできないから! できた試しもないし!
で、テンパる私。おそろっちで固まるキラリ。よどみなく笑顔でネタをぶっこんでくるマドカの三人で、金光星チャンネルをお届けしてるんだけどさ!
マドカが意図的にボケるか私が外してキラリが突っ込むっていうのが定型かな。
それも自分たちで「これがしっくりくるね」と納得してやってるし、他のスタイルないしいまの発展型でより受けるようにならないかなあと話しあうことも多い。
意識しないと変えられないし、挑戦できない。意識せずにできることは、だいたいもうやっちゃってるからさ? もちろん、それに変化を加えるときには、ある程度の意識が必要だろうとも思うんだ。
プロのスポーツ選手がプロのトレーナーさんにコーチングを受けるようにね。
的確な視点を持った技術者というか、意識を具体的に見ることができる第三者のプロがいて、初めて競い合う場っていうものがあるよね。
でも生き方のコーチングで、そばにプロの人生を生きた誰かにいてもらうことはできない。
いったいどれだけのお金を支払わなきゃいけないのかって話。
親が成人するまでの間にそこまで教えてくれたら嬉しいけど、それも世の中なかなか当たり前じゃない。ギンのうちみたいに片親の家庭もたくさんある。シオリ先輩のように孤児というケースだってある。
兄弟姉妹がいる家庭ばかりでもなければ、誰しも友達がいるわけでもないし、そもそも欲しいかどうかも人による。恋愛だってそう。
そもそも身内に見てもらいたい人もいれば、身内だからこそ見てもらいたくない人もいる。
そこいくと、御霊がいてくれるっていうのは強い。
すごくすごくありがたい。
でもって御霊ですらも、それぞれに自分の思うように過ごしているからさ。
コーチングしてくれるかどうかは別の話。
そういうごちゃごちゃ前提話を踏まえたうえで、尋ねちゃう。
タマちゃん、十兵衞。
私らしくやれてると思う?
『らしさはあるが』
『足りん』
だよね! 技はそれっぽくても、じゃあそれがキラリのなにを私なりに形にしているかは語れてない。捉えられてない。星を借りているだけ。
それじゃあさ。
たぎれないよ! まだまだあげていきたいのにさ?
これじゃあ足りないよ! もっともっと欲しいよ?
モアモアで行きたい! なのに見つけられてない!
そりゃあふたりとも渋い声で言うよ!
でもわかる! 私も渋い気持ちなんだ。
ミコさんがぷちと見せてくれる奇跡に憧れる反面、たくさんいる影の仲間たちと私には距離があるし、そもそもこの場に一緒にいる意味自体、作れてない。
アップデートがいる。
もっともっと更新しよう。
赤髪の私はなんで血を持ち歩くの?
自分のアイデンティティーを大事にしているから?
力を一部利用しているだけ。
契約という形で、身内になにかを与える代わりに血をもらっているんじゃないか。
『そこまで読む理由は?』
彼女がもしどこかの世界にいる、かつて私が憧れた私の最強形なら契約の意味を履行するために、効率化して血の弾丸方式を選んでいるんじゃないかなあって思うの。
無償の愛ほど甘く蕩けるようなぬくもりと、永遠に与えられるかどうか疑ったら壊れてしまうほど繊細なものはないと――……あの頃の私は斜に構えて思ってた。
無償の愛。
お母さんやお父さん、トウヤが私にくれるもの。
そう思ってた。昔はね。
いまは違う。
カナタと付き合う日々を重ねて、深めながら作っていくものなんだって気づかされた。
ぷちたちと過ごして、すごくやなことが仕事であった夜に耳元でぎゃあぎゃあ騒がれてブチ切れかけた夜に「ああ、ただ優しくなんてできないや」って痛感した。
教授の願いもそう。アダムの攻撃もそう。
つらかったよ。
金色を手にして、御珠に育ててさ? それで救える英雄だろって、だから助けろよって攻撃されても、ただ優しくすることなんてできないや。
やなんだもん。
しんどいもん。
攻撃されたくないんだもん。痛いのはやだ! 傷つけられるのもうんざり!
お願いするなら、聞いてもらえるように話してよって思うもの。
お父さんだって、お母さんだって、トウヤだってそうだよ。
私が傷つくことをいったら普通にストレスたまるし、うんざりする瞬間だってやまほどあったはず。
絶対に困っている人を救えるヒーローだって、うんざりして夜中に叫びたくなるときがあると思うんだ。
スーパーマンなんか、うんざりの連続だよね。シリーズのシリアステイストの映画になるほど、人は絶対的かつ圧倒的に善なる彼に辛辣に接している気がするなあ。ルーサーのように登場する悪役たちは決まって人々の不信や傲慢や怯えの象徴だったりするイメージだなあ。
そりゃそうなんだけどさ。
みんながテーマを背負ってる。
自分の軸足でどう歩くのかが別なんだ。
勝者が担う主張に響くかどうかの戦いなんて見方もあるみたい。
でね?
そこまででっけえお話じゃなくて、ちっちぇえお話として、しんどいこともある人生だけど、さあどう生きるよってところに落とし込むとさ?
傷つかなくなる必要はない。
傷つける必要もない。
あるのは、そうやって生きなきゃって思う必要性だけ。
そして、それをどう体現するかなんじゃないかな? なんて最近は思うんだ。
家族が優しいのは、実はちっとも当たり前なんかじゃない。
喧嘩したあとに謝ってくれるのだって、当たり前なんかじゃない。
悪いことしたからって必ずひどく裁かれるわけでもなく許されることもあるし、いいことしたからって誰もが報われるわけじゃない。
みんなが自分に優しくしてくれないのも、甘える誰かにみんながきびしくしないのも、よくある話。でもって、それが必ず起きるかどうかといったら話は別。
ひとつのレールがあって、それを利用するとマシな人生になるって言われたって、みんながそのレールを進むわけじゃないのも当然の話だしさ。
悪役だからってお仕事としてやっている人もいれば、身近な人が攻撃されたからより醜悪な敵をぶっ倒す展開も王道っちゃ王道だよね。ダークヒーローの。
当たり前はみんなで作っていく。
いいものも、悪いものも。
同じように、印象だってみんながそれぞれに作ってる。
答えが見つからなくて迷走することなんて、よくある話。
さっきの私は作り込みが甘くて、ミコさんとぷちたちの攻撃にあっさり優勢を取られてしまった。
そりゃそうだ。
さっき星を使わせてもらったキラリも、ハリセンギアを作ったり、ガントレットたち装備を作らせてもらったノンちゃんも、自分なりの自己表現を探してる。
私も探してるよ? いまだって探索中。
外側だけ利用するんじゃ、自己表現をかみ砕いたり、なぜその形になったのかを踏まえてのアレンジができない。深部に潜って、どうしてそれをしたいのか、望むのかを理解したうえで、いかに自分なりに表現するか試す方が、自分の色を探しやすい気がするね。
どう表現したっていいんだ。ほんとに。
キラリが星を出すっていうところだけに固執したら、キラリの自然体の美しさや尊さの意味には永遠に気づけない。
それじゃ私がキラリの魂を表現する楽しさが、十分味わえない。
なんかそれじゃつまらないじゃない?
ノンちゃんだってそうだ。
なぜギンを最強と愛して、自分の思いを注ぎ込んでいるのか理解できなきゃ、ノンちゃんの力を私なりに表現することはできない。だって、ノンちゃんのことをまったくわかってないんだからさ。
マドカのやり方が私と違って、模倣しているのはなぜか。
やり方を完全に一致させることで、なにを感じているのか、どうしてそれを使うのか探っているからだ。あれはマドカなりの方法で、みんなを知るためのやり方なんだよね。
対して、赤髪の私がなぜ弾丸で自分を撃ち抜くかって単純に、染めることも染められることも好まないからかもしれないね。強固に鍛えた自我で、主従をきっちりと分けることで、行動をシンプルに制限する。
なんでもできるだと、咄嗟になにをするかに困りがち。選択肢が多いと人は戸惑っちゃうことがある。多すぎると、余計にね。
愛用する血もありそうだし、ケースバイケースで血を使い分ける器用なところもありそうだ。
体内に貯蔵できる血には限りがあるとみた。
逆に言えば、抱え込めるだけの愛情を蓄えて、注いでくれる――……血をくれるみんなに愛される自分をまず大事にして貫くことによって、みんなを愛しているのかもしれない。
やり方はそれぞれ。
アップデートするなら、私が作る愛はどんな形にしよう。
受け入れて、外側を模倣して終わり?
私が好きな形を作って、それで終わり?
攻撃を受けて無効化されたり、通用しなくてだめだこりゃってなったら、もうそれで終わっちゃうの?
それ、つまらん!
だって、私のみんなへの気持ちは、こんなもんじゃ終わらない。
終わりにしたくない! だって楽しめてないもん。楽しめるまでやるよ? 楽しめたら、もっと楽しむ道を探すよ。増やしていくの。じゃなきゃ増えないんだから。
でしょ?
ハリセンギアの柄を握りしめて思考する。
シロくんなら、なんて考えるだろう。
努める。
いつだって胸を張れる人でいようと走り続ける彼なら、道を見つける。
じゃあ、ギンなら?
シロくんが憧れるギンならどうするだろうか。
切り開くよ。どんな壁だろうと、斬れるなら斬る。無理なら駆け上がる。いつだって力業。いつだって生きたいように生きる。壁が立ちふさがるのなら、いまの自分のポテンシャルを生かして通れる道を探す。そういう人だ。
だからこそ、シロくんならギンが進めなくなったときに助ける道を探してくれる。なんてったって、シロくんはギンが大好きだから!
ギンが剣ならシロくんはペン。
お互いにお互いの良さを羨み、喧嘩ばかりの日々もあったというけれど、高校生になって一年生の頃に何度か衝突してやっと、ふたりはそれぞれのペースで一緒にいられるように歩き始めた。
幼い頃ほど、喧嘩が強いって絶対的な時期があるよね。
いまどきそうそう、そんな学校もなくなってるんじゃない? と思うけどね。
シロくんはギンの強さに憧れたけど、でも彼はさ?
うちの学校の剣道小町こと、侍少女の恋人トモに同じ剣道部で勝てなくてもさ?
ずっとコンプレックスだったのにさ? トモと同じ雷速移動を手にしたのにさ?
シロくんは選んだんだ。
物凄い速度で思考するという力を。
ギンともトモとも違う。
たぶん思考こそが、シロくんの踏み出したはじめの一歩だ。
はじめて涙を見た男の子の選択の意味はさ?
もしかしたら必死に勉強して培ってきた学習力の土台なのかなって思うとさ。
自分の力の色をもっと強めようとする気持ち、すごくわかる。
なにより染みる。
染まること必要はない。自分の居場所、自分の生き方は選んでいい。
むしろ私たち隔離世の力を体現する人ほど貪欲に求めたほうが、より資質は輝く。
シャルになる前の教授のように、しんどいことになる人もいるだろうけど――……それもまた、選択だし。
私だって以前の教授のように拷問や襲撃を用いて押しつけられたり「これがお前だろ」だの「やれよ」だのとこられたらかちんとくるだけで、既に選んでる。
カル・エルは救うよ。うんざりしていた時期もあった。もういやだと嘆いたときもあった。
ピーターだってそう。
別に犠牲が必要とは思わない。犠牲なしで覚悟決めたり行動できるほうがよっぽどいい。
行動の強化、必然性の追加のために誰かに傷つくか死ねなんていうのは無茶な話だ。
ないない。それはないよ。そんなの必要ない。
決意に犠牲は必要ない。
選択し、続ける衝動を快く作れちゃえば問題なし。
じゃあ、試そう。
シロくん。
私は気づいたんだ。
みんなを出してみせても、戦っているのは私だけ。
ひとりぼっちのまま。体に取り込んで使える力は今のところ、たったひとつ。
これじゃあミコさんには届かない。
でね?
ちょっと思いついたことがある。
『――……』
頭の中が熱くなった気がした。
声が聞こえた気がしたんだ。
なんか、それほんと――……昔あこがれた属性っぽくて笑えるけど。
「わかった」
呟いて、ハリセンギアを上へほうり投げる。
「目ぇ覚ますぞ! 私!」
右手を振り下ろせ。
まるで私が握っているかのように、びゅんとハリセンギアが振り下ろされた。
すぱん! と頭をぶつ。
「あうち!」
痛くない。小楠ちゃん先輩は、いつだってそこは気をつけてた。
ツッコミ一発入れて、気合いを入れ直すよ!
「仲間が欲しい! いつも私の心の中にいて欲しい! だからおいで!」
光に散って消えるギアはそのまま。
星もガントレットもなにもかも、そのまま。
右手をかざせ。
「集まれ!」
やまほど出た私の仲間たち。執事服のみんなが駆け寄ってくる。
迷わず私に飛びつくんだ。
全部飲みこめ。闇色だろうが飲まれるな。ぜんぶ私の絆だ。ひとりぼっちに飲まれるな。
服がどんどん吸いこむ。
出して、食べて、出して、吸いこむ。
循環してる。形がどんどん鮮明になっていく。
無駄にはしないよ。
集まってくるみんなの霊子のぶんだけ、右手の人差し指の先に金色を浮かべて輝かせていく。
足りないなあ。
これだけじゃ足りない。
もっと先に進めたい。
私の掴んだ御珠さえもアップデートした、かつての私の憧れの最強形、赤髪の私の延長線上の最先端をいくような形がいい。
契約の証はとっくに決めた。
ずっと迷っていたよね?
拡声器は大事。マイクを握りしめることがすごく大事。なにせ私は声をあげることを、中学時代はずっと避けてきた。呟きアプリに逃げてたし、ノートに逃げてた。
いつしか逃げるより攻めの姿勢で迷走したけどね!
どうせならさ?
タマちゃんの刀を指輪にアップデートした。
十兵衞の刀は十兵衞に似合うものにアップデートしていい。
当然、拡声器もそう。
欲望を力に変える、ミコさんがくれた可能性さえ同じ。
そろそろ更新の時期だ。
ねえ、十兵衞。私、思うんだけどさ?
『――……ふ』
もう、笑って流すの?
だめだよ! ちゃんと伝えるから、素敵なリアクションが欲しいんだ。
カナタは既に、出会ったばかりの頃に可能性を提示してくれていた。
それだけじゃない。
江戸時代で宗矩さんが見せてくれた。
ずっと心の中に残ってたんだ。
御珠があるんでしょ?
みんなだけじゃない。
私が縁を繋いだのは、現世の人だけじゃないよね?
アマテラスさまも、閻魔さまも、他にも多くの神さまや妖怪たちや幽霊たちとも出会ってるんだ。
ずるいかな?
でもさ。欲望を形にしていいんでしょ?
指先の金色に寄り添うように、執事のみんなを受け入れた私は黒い霊子を浮かべた。
くるくると浮かんで絡み合うように飛ぶふたつの霊子。
繋がり溶け合い二連の指輪へと変えよう。
意外性なくてごめんね?
形はとっくに決めてたの。
弾丸はいい。
撃ち抜くつもりもない。
みんなと生きる。これは決意の証明だ。
右手の指輪。インデックスリング。指し示すのは、私の指標。
索引が指し示すのは、私が好きなみんな。
初めて嵌めるときには特別な儀式がしたい。
一緒に暮らす相手と事前に交わすルームメイト協定じゃないけどさ?
「私は信義に基づき誠実にみんなと付き合うことを誓うよ!」
装着と叫ぶ。呼応して指輪が私の人差し指へ。
嵌めて即座に引き抜け。
私の御珠! 拡声器だけじゃもったいない!
さあ、お待たせしたよね?
「十兵衞!」
掲げた手に呼び出せ、私と十兵衞の刀を!
魂から引き抜いた刀を溶かせ。望みのものへ進化させるために!
私は刀鍛冶じゃない。
でも、御霊に宿るあなたとなら私は先に進める。
タマちゃんが指輪なら、眼帯がいい?
ううん。もっと先へいこうよ。どうせなら!
金色の光に溶けた刀の雫を右目へ注げ。
吸いこんで宿せ。
右目を通じて全身に広がる十兵衞の感覚そのままに、空いた右手で引き抜くんだ。
これまでの人生で培ってきた絆を示す刀を。
私の御珠、絆の進化形となる一振りを!
「金毛青色丸狐!」
あほな名前でごめん!
銘はそのまま私の名前。
反りはなくて真っ直ぐ。刃紋も無いに等しい無垢な一振り。
でもね? こんなまっさらな刀でいい。最初だから、これくらいから始める。
「お待たせしました! いきますよ!」
ミコさんもぷちたちも、私の立ち振る舞いを待っている。
なにせこれは訓練。なにせこれは試しあい練習するための場。
恥ずかしがらずに全部みせよう。
「トモモード!」
私の刀から雷光が弾ける。
瞬間的に心の奥底からこみ上げてくるの。
『もっと速く。もっと強く。もっと鋭く。不安にさせないくらいの超速ダッシュで、私は走り抜いてみせる』
トモの声。トモの思い。トモの願い。トモの欲望。
『ついてきて。いけるでしょ?』
「当然!」
踏み出して、床を蹴った。
全身に雷光が届く。体が引き裂かれそうな衝撃に襲われる。
一瞬でミコさんとの間にあった距離を移動していた。
十兵衞の感覚が一切の遅れなく私の体を動かすの。
ひと息もしない短時間で掴んじゃうの、ちょっとずるくない?
刀を振り下ろす。けどね?
「――……どれ」
あとちょっと、あと数センチというところでノゾミの術が発動した。
くるくると指を回すノゾミに操られるように、元の場所へと戻されてしまう。
強いなあ! それ!
『教訓となるな。あの術は手強い』
だね!
『想定だが――……どれほどの距離であれば食らうか』
一歩を踏みこむ前に戻される過程で右目を通じて見えてくる。
ノゾミの術が通用する有効射程距離。
十兵衞の見込み。隔離世の敵とも渡り合ってきただろう十兵衞の戦闘経験からくる読み。
生と死を分かつ見切りの目。
飛び込む前の位置より一歩離れれば逃れられる。
実感がある。戻される力が離れるほどに弱まっていくの。
もちろん、無策に飛び込んだら同じ目に遭うだけだけどね!
『遠距離には遠距離だ。さて、どうするかな?』
手があればいい。
トモモードは接近戦が得意。
トモ自体が好きだからね。びしばし斬り合うの。
でもって、ノゾミちゃん相手だとどんなに加速しても間に合いそうにない。
既に術を使ってるんだから。
だったら、こっちも術でいけばいいだけ。
「ちぇんじ! ユニスちゃんモード!」
刀を宙へと放る。
雷光は消えて刀がまるごと杖に早変わり!
掴んでくるくるバトンテクで回してから、飛び乗って空を飛べ!
構えろ!
「やまほど放つよ! ぜんぶ変えられるかな!?」
どやって言おう。
使ってみたい魔法はやまほどあるけれど。
『――……最強と呼ばれても、そこに憧れも信頼もなければ孤立するだけ。私が示したいのは、繋ぐ力。過去の確執も不愉快な規則にも縛られずに、お母さんと故郷を繋げる力!』
願いが溢れてくる。
ユニスちゃんの願いが。欲望が。
『私は求める。奇跡を。世界を塗りかえられる奇跡を!』
尊大かもしれない。たったひとりの要求に世界が塗りかえられたら困るような願いなんて、それこそやまほどある。アクション映画のだいたいの悪役は、だいたいそんな願いを持ってるもの。でも意外と主人公サイドだって、同じようなこと思ってるよね。
どっちがより最大多数の幸福に繋がるかだけ?
どうでもいいや。
魔法使いが求めるのは、そこまで壮大な話じゃない。
故郷から日本に来るしかなかったお母さんが胸を張って故郷へ行けるようにしたい。自分にできることを増やして、大好きなお母さんのためにできることをしたい。
彼女のお母さんがそれを望んでいるかどうかとか、詳しい事情もなにもかも、ユニスさんに聞かなきゃわからない。
そもそも心の底からわき出るこの思いが本質とも、一番大事なテーマとも思わない。
ポイントはひとつ。
「私の願いは強いぞ! それは燃える龍のように!」
右手から放て。
「ときに凍てついた蛇のように!」
左手からも。
箒に乗って飛びながら、いくらでも思いつく限り、願いを叶えたいという気持ちを形に変えろ。
ノゾミだけじゃなくモアやサキが、それぞれの力を用いて攻撃を無効化していく。
これでようやく拮抗した状態。
攻め手がいる。もっといる。まだまだいる! モアモアで追加したい!
『距離がある状況下で膠着状態。持久戦に持ち込むか?』
『妾の出番はまだか!?』
『春灯、どうしたい?』
タマちゃんは欲望ダダ漏れ。
一方、十兵衞は私に戦況を右目を通じて見せてくれる。
それに感じさせてくれるの。十兵衞の感覚を。
箒を使ってタマちゃんと大暴れも悪くないけれど、それよりもっとしてみたいことがあるかな!
ねえ、十兵衞。
かの織田信長は、武田が率いる騎馬隊を前にどんな戦術を取ったんだっけ?
『用兵を変えて連射して弾数を増やす戦法――……というわけではなさそうだな?』
まあね!
いまの攻撃に宿る霊子じゃ、数を増やして持久戦に持ち込めばぷちたちはばてると思う。
ミコさんが次の手に出るだけ。
それって大して面白くない。ミコさんもぷちも、なんなら私でさえも求めてない。
やっぱりさ?
量を試したあとは質じゃない?
『こっ、これ! 妾やあきのみならず、ウカさまさえ差し置く気か!?』
タマちゃんが慌てるけど、舌をべっと出しちゃう。
ん!
そゆこと!
愛生先輩さえも通り越して、欲望のままに次のモードへと進めちゃおう。
もちろん、弾幕を張ってからだけど!
「うぉ――……っしゃあ!」
箒を思いきりぶん回して、火の粉をやまほど散らす。
さっきの流星群と違ってアレンジをつけよう。
火の粉をそれぞれ、獣の姿に変えて自由にミコさんを目指してもらう。
当然、ぷちたちはきちんと対応しはじめる。
戦う相手の側に立って見てみると、あの子たちみんなしっかりしてる。
ちゃんと訓練したことないのにさ?
私の中から見ているだけなのに、きちんと考えて、きちんと働けてるんだ。
すごいじゃん? 愛しいじゃん? 尊いじゃん!
できないこともある。食べ過ぎて咽せちゃうモアも。手を振るだけでいいのに、くるくる回って目を回すサキも。ちょいちょい気になる失敗は他にも見つけるけど、いいの!
できてる! やれてる! 楽しそうに笑う瞬間もたくさんあった。
あとでめいっぱい褒めるんだ。褒めたいから! 大好きでしょうがないからさ!
「いくよっ!」
箒を刀に戻して、一気に輝かせる。
私の金色でも、マドカの光でもない。
茨ちゃんと岡島くんの鬼火の合わせ技ですらもない。
「アマテラスさまモード!」
愛生先輩モードだとまた違う形になる。
だから敢えて御霊としてじゃなく、天国で私に修行をつけてくれるアマテラスさまを意識したモードチェンジだ!
身体中の霊子がぐいぐい吸い取られていくけれど、だからこそいけそうな手応えあり!
初めてミコさんの顔が引き締められた。
よし!
「みんなで受け止められるかなっ!」
口上をあげながら、霊子をまるごと集めて思いきり、
「いけええ!」
放つ。
愛生先輩は以前、小さな太陽のように霊子を凝縮させて放っていた。
隔離世で私が見た最強の威力を誇る技。
あれはマドカも模倣したことがない。私のいまの技も愛生先輩の表現とは違う。
焼き尽くすような望外の威力とは違う。
刃の軌跡から噴き出た熱が巨大な犬へと変わり、疾走する。火の粉の獣たちをはじき飛ばしながら、まっすぐ向かっていくの。
ノゾミが両手をかざして必死にくるくる回すけれど、火の粉の獣たちが邪魔して本命に届かない。対象を絞りきれないみたい。意外と自由が利かないのは、たぶん私が姫ちゃんの力をイメージしきれていないせい。
モアが吸おうとして、ユメが後ろから飛びついて口を閉じさせた。賢い! さすがに無理だ。ありったけのアマテラスさまモードの攻撃は、さすがに食べられない。
ちなみにね?
あれ、当たるとすっごく痛いの!
私がアマテラスさまにでこぴんされたときの痛みを感じるよ!
どこに当たろうと、おでこだけにね!
愛生先輩の小さな太陽はそれこそ必殺の技。必ず殺す技だ。
当然だよ。邪討伐のために作られた技なんだから。
でもって、私とミコさんがやっているのは、訓練だからさ。
そこまでやる必要はないし、だからといって手を抜く必要もない。
サキが必死に手を振って金色に散らそうとするけれど、火の粉の獣たちの数が如何せん多すぎて間に合わないの。
あとちょっと。初めて、一撃が届きそう。
なのに、私は期待してしまう。
ミコさんの次の一手は――……?
つづく!




