第九百三十七話
中庭フロアから廊下に入って、五分もしない内に尻尾に重さを感じたの。
「――……そうっと、いくのです」
小声の決意が聞こえちゃっているんだよなあ。
ぷちの声が!
いきなりふり返って怒るのもつまらない。
なにより愛がない! なので?
「だ~る~ま~さ~ん~が~?」
口ずさんでみたの。
尻尾からそっと降りて、そろりそろりとゆっくり離れようとする気配を感じるけどね?
「こ、ころばない?」
「いいえ、ころんじゃう!」
だめ! 逃がさないよ!
それっと飛びついて抱き締めた。ついでに脇の下をくすぐっちゃう。
あははと笑うぷちは、ユメちゃん。理華ちゃんと繋がりを感じる賢いぷち。
じたばた手足を動かして暴れるけれど、楽しそうに笑っているからよしとしよう。
抱き締めて立ち上がる。
「どうしたの? お腹すいちゃった?」
「モアじゃないし、だいじょうぶだよ? じゃなくて、ぴこぴこ聞こえるから遊びにいこうかなーって」
ぷちたちみんな一尾。
尻尾をふりふりさせて「いってもいいでしょ? いいよね!?」って期待に満ちた顔をしてくるの、やばい。かわいい。愛しさしかない。けど無茶なことされて揉めたらかちんとくるのも事実。それに加減を知らずに危ない目にあいそうなところもある。
できれば、ほどほどで止められるように見ていたい。
ちなみにモアっていうのは、ぷっくりまんまる愛されボディのぷちの名前ね。
「どこから聞こえる?」
「あっち!」
ぴっとユメが指差す先に顔を向けた。後方の中庭に続く扉の左右に中庭に添うように伸びる通路があるけれど、ユメが指したのは私の正面。扉から出て真っ直ぐ進んだ先だ。
獣耳に意識を向けると、微かに電子音が聞こえてきたの。相当昔の八ビット家庭用ゲーム機の音だ。なぜそうわかったかって、お父さんが遊んでいるのを横で見ていたゲームの音楽だったから。いけてるお兄さんと戦闘するときの音楽だ。ちょっとおかしなRPGのね!
「きになるきになる!」
足を前後にぶんぶん振ってアピールしてくるから、
「しーっ。こっそり覗いてみよ? かくれんぼの鬼はどうする?」
「ばれないように捕まえる!」
「それでいこう」
よっしゃあ! と早速大声をだして、あわてて両手で口を塞ぐ。
仕草はそのまま、私のイメージの中にある子供像。たぶん、そこから逸脱したこともたくさんすると思うから、身構えておこう。
ついでに遊びにしちゃえばいいよね。ユメも私も楽しいし。
足音を立てないように気をつけながら、そろりそろりと進んでいくと不思議なことが起きた。
壁の向こう側から音が聞こえてくるのに、扉がないんだ。
通路の途中にある壁。十字路に辿り着くには、もうすこし歩かなきゃならない。
中途半端な位置にある、謎の部屋?
いやあ。ねえ? そんなの作る必要ないよね?
ない――……かなあ。
遊びが好きなうちの学校だもんなあ。マシンロボだって最初は悪ふざけなところもなかったわけじゃないしなあ。
「んっ……んっ」
私の腕に抱かれたユメが壁に向かって両手を必死に伸ばす。
あっちにぜったいなにかあるよって言いたげに私を見上げてきた。
吉と出るか、凶と出るか?
恐る恐る私も手を伸ばして壁に触れ――……。
「じれったいな」
お姉ちゃんの声がしてすぐに、壁から生えた手に掴まれてぐいっと引っ張られたの。
壁を通り抜けて入った先は、扉のない六畳くらいの一間。
壁際にモニターがいくつも設置されていて、最前列にシオリ先輩が胡座を掻いて座っていた。
テレビとゲーム機が設置された右手でカゲくんとミナトくんがファミコンで遊んでる。お姉ちゃんのそばにはシャルもいたの。
「入るならさっさとしろ」
「は、はあ……あっ、ちょっと!」
驚いてぽけっとしていたら、ユメが私の腕から逃げてカゲくんの後頭部に飛びついた。
なにやってんのー! って元気に問いかけるユメに、カゲくんは笑いながら「ゲームな」と答える。コントローラーを握るミナトくんが「やってみるか?」と誘いにかかった。当然、ユメは全力で「やるー!」と答える。好奇心の塊なんだもん。
ユメだけにやらせないとばかりに、ずっと尻尾の中にいたぷちたちがぞろぞろと飛び出して、カゲくんの背中に飛びついていくの。
なぜにカゲくんに集中するのか。よくわかんないけど、まあいっか。ゲームなら。私も大好きな奴だし。二作目は特に好き。
ぽえーん!
「シャルもお姉ちゃんも、なにしてんの?」
「ボクんとこに来て、あれこれ聞きたがってんの……」
シオリ先輩が不機嫌さを前面に出して答えるの、地味に怖い。
背中を向けたままだし、すごい猫背だし。ずっと両手でかたかた忙しそうにキー操作してるし。マシンでなにかしてるのかな?
お姉ちゃんに促されてカゲくんたちの後ろに置かれた座布団に腰掛ける。胡座を掻いたらシャルが私を見てきたから、両手を広げて差し伸べたら近づいてきた。
背中から抱っこするようにしてくっついて座ると、お姉ちゃんが呆れた顔をする。
けどまあいいじゃん。もういまさら、シャルは元の教授には戻れないんだし。
私の腕の中でシャルはシオリ先輩の背中を見つめる。
「ウィザードから聞いた。尾張シオリはゲーム開発をしていると。ゲームと言えば日本じゃスマートフォンゲームが売り手市場と聞く。なのに彼女は日本で下火になっているコンシューマーに固執していると聞いた。なぜかなと思って」
「我はコンシューマーのほうが好きだから歓迎だけど。お金がいくらあっても足りないし!」
私を意味ありげに見つめてくるお姉ちゃんの魂胆は丸わかり。
お小遣いくれてもいいんだよ、と。稼いでいるからいいじゃん、と。そう言いたいのだ。
でもね。双子の妹としては気が進まないです。
はいどうぞって課金カードを渡したら一瞬で溶かされて、しかも「最高レアでない!」って不機嫌になられたらさ。それじゃあ、あげた甲斐もないよ……。
スマホゲーにだってガチャじゃないゲームはいくつもあるけどさ。
お姉ちゃんの場合はガチャゲーなんだもん。
ガチャのお金をあげるイコール、ギャンブルのためのお金をあげるだからさ。
パチンコ狂いのヒモにお金をあげるのと構図的には大差ないじゃない?
それはちょっとね。
どうかと思うよね。
結論はひとつ。
あげません。
「経営サイドで見れば当たるとでかいから、稼ぎたければやる。その際、制作者に要請する内容はシンプル。お金をなるべくかけずに、嗜好性の高い企画を低コストで回して稼げ。根幹システムも一度開発すれば、あとはコンテンツの後乗せでやらせるな」
シオリ先輩のキータッチはぶれない。
「だって稼ぐためにやるんだよ。当たればでかいんだから。ゲーム業界とか、今後のユーザー育成の視点なんてどうだっていいんだよ。で、こういう極論を考える経営者は意外と多いんじゃないかなあ」
全員じゃないとしてもねーとのんびりゆるキャラっぽく言いながらも、激しく乱れ打つキータイプの音は迫力十分。
「制作陣のメンバーもさ。外部の人もさ。最初は期待するかもしれないけど。金のなる木しか求めてない経営者の下で働く人たちって、いろんなしがらみを与えられがちじゃないかなー。で、そういうこわばりみたいなものは、いろんなところにでるよ」
理想だけで生きていけないもの、とまで言われちゃうとしんどい。
「ボクにしてみれば現存のガチャって、焼き畑農業なんだよね。コンテンツそのものに体力があっても、凄い勢いで寿命が近づくシステムだと思う。この場合の寿命は製作サイドの体力、ユーザーサイドの資金力となにより重要な興味や好奇心の熱量、そして経営サイドの売り上げ低下に対する感度の鋭敏化」
うまくいってるときはいいんだって言われるの。
えぐられるなあ。
「ビジネスにも慣性の法則は当てはまるとボクは思ってる。突然すべてが悪くなったりはしないし、いきなりすべてが規制されるようになるのは難しい。凄く刺激的な事件がなきゃ無理だと思う」
でもねえ、とシオリ先輩はありったけのストレスを込めて唸った。
「子供が熱狂する。その子供が大人になっても離れない。で、大人がやがて結婚して子供ができて、その子供が熱狂する。そうなればコンテンツは長生きするでしょ? だってユーザーが減らないんだから」
もっともだ。
私の仕事の課題も、まさにそれ。
ファンの獲得。離れないほどの熱狂度を維持すること。そして願わくば、永遠にファンで居続けてもらうこと。さらに欲を言えば、ファンが新たなファンを生んでくれたら言うことはない。
あらゆるコンテンツ産業に関わるすべての人が思い描く理想型じゃないかな。
「趣味ってのは、入り口が広ければ広いほどいいし、はまったら抜け出せないほどいいし、人に話して勧められやすければやすいほどいいんだ。反対に勧められない理由、抜け出しやすい理由、入り口を狭める理由が増えれば増えるほどに停滞していくんだよね」
至極当たり前の話のように思えるけど……。
「時勢によって、それがどういう形になるかは変わるよ? 変わるけど、でもねえ。お金がかかる趣味は万人向けじゃないんだよ。資金力のあるなしで遊び体験に格差が出るなんて、現実のいやな面そのものなのにさ? なんで大好きな趣味のフィールドで、そんないやな目にあわなきゃいけないのさ」
う、ううん。お金を出しているから無課金より強くていいじゃないってのも、至極まっとうな話だと思うし。お金は出さない! でも満足させろっていうのも無茶な要求な気がするし?
「コンテンツそのものでお金を取る形だけが唯一絶対無二の手段とまではいわないけどね。デジタルストリーミング方式の契約料から、配信元を相手にコンテンツ売買がなされる可能性も大いにあるけどさ」
映像サービスはそっちのが増えてるんだっけ?
定められたパイをコンテンツ同士が奪い合う未来しか見えなくて、なかなかしんどい話だ。
私のアルバムも、たとえばストアで買えるようになってるの。
でもね?
ユーザーが支払っている月額料金から、ユーザーが視聴した回数を合算して、ストア側がいくらか抜いたうえにさらに視聴回数ランキングみたいなものから、私たちから見えない方式でアーティストに振り分けて分配しているという。
それって公平なの?
振り分け方式が見えないで、相手の言うままに受けとった金額を信じるしかないってさ。
それってどうなの? 不正し放題じゃないの?
そんな印象を持つ人も中にはいるみたいだよ。当然だよなあと思う。
計算方式が露わになってないんじゃね。取引上、コンテンツを受けとる側が優位すぎるもんね。法律的にはそうとう黒に近いグレイなのでは?
かといっていまどき、ネットで配信してないと厳しい気もする。
そんな事情もあってか、うちの社長はそっち方面のビジネスに弱腰というわけじゃない。
ただ乗り気なようにも見えないだけで。
「ハードメーカーへのライセンス料だのなんだの。とかくお金がかかる話ばかりでなんだけどね。それでも、ボクは会社にとっても、会社で働く人にとってもコンシューマーがいいなあって思ってる」
先輩からは熱量を感じるけれど。
「それが引いてはユーザーの利益に繋がるんじゃないかなって思う。ユーザーの利益になるゲームを作れなきゃしょうがないし、片思いで潰れる会社もやまほどあるけどね」
同時に哀切も感じるなあ。
さすがに私の前ではやらないだけで、お父さんはパソコン用のゲームも持っている。
中にはえっちな奴もあるみたい。で、そっちの業界は相当苦しい状況だという噂くらいは聞いたことがある。
「明坂ミコが言ってた。気の巡りのように、お金がみんなの間を気持ちよく動かないとさ。どこかが潰れて、そしたら最終的にはみんなが腐ってくんだって。あれには同感だね」
タイプの音が止まった。
「お金があればあるほど、その腐敗に鈍感になるか、攻撃的になるんだ。貧乏人が悪いって。でも問題はそこじゃない」
人生と一緒さ。そう言って、先輩はふり返ったんだ。
分厚いレンズのメガネがすこし落ちて、シオリ先輩の大きな瞳がよく見えた。
「ゲームって、やったら楽しい体験そのものだろ? で、そのゲームを楽しむためにはリアルがそこそこマシじゃないとさ。ゲームで楽しむどころじゃないんだ。ストレス解消もいいけどね?」
うおおおおと、ボタンを連打してお兄さんとバトルを繰り広げるユメをチラ見したの。
「ひねくれた制作者じゃなけりゃ、大概の作り手はプレイヤーに楽しんでもらいたいと思うんだ。それこそ、ガチャがあるゲームもね。楽しみ方だって、体験の極上さだって、ひとつに限定されたものばかりじゃない」
いけいけーってユメを応援するぷちたちに、ユメが夢中でコントロールを握る。
あのゲーム機なら、昭和世代が熱いかなあ。次のゲーム機になって平成。でも私くらいの年だと、いま四がついたゲーム機の二か三あたりがなじみ深いかな?
よくわかんないだよね。
私のうちは、お父さんがゲーム大好きで、どれもあったから。
お姉ちゃんとトウヤのゲーム好きも、お父さんの影響が強いと思うし。
ちなみにお母さんもゲーム好きだよ? 格ゲーで本気出されると、一撃も出せずにやられます……フルコンボだどん。それは違うか!
「ルートにニュートラル、トゥルーパシフィスト、ジェノサイドのみっつがあっていいようにさ」
私の好きなゲームだ!
「大勢のゾンビから逃げるオープンワールドのゲームも出るだろうし、ショッピングモールの武器で爽快にぶっ倒すゲームもあっていいし? 西部のガンマンがゾンビだらけの世界で生き延びるのもいいし、ゾンビになって仲良しになるゲームがあったり、最初の感染者として世界中の人を感染させるゲームがあったっていいよね」
自由さ。体験の愉快さ。面白さ。ブラックなのも含めたジョークやユーモア。
多様性っていうだけじゃ留まらない、可能性の泉。
「どう遊ぶかは自由。アンドロイドたちを人と戦争させるか、それとも仲良くさせる道を模索させるかも。往年のスーパーヒーローを悪役にしちゃう遊びも――……や、それはさすがにファンが怒るから原作でやってなきゃ、難しいけどね?」
テレビに体を向けて、膝を立てる。両腕で抱き締めて、八ビットの画面を眺める顔は憂鬱そう。
「ギャンブル挟んだら、その結果に気持ちが持ってかれちゃうんだよね。それにスマホはボクがチームとやりたいゲームを実現させたい機種としちゃ弱いんだ。画面もスマホやタブレットじゃあ、物足りないし」
「いまの小学生なら、タブレットで無料ゲームのバトルロワイヤルでコンシューマー操作と遜色なく戦えるようになるんじゃないか?」
「いずれは勝つ日がくるよ。でも、そういうことじゃないのさ」
シャルの問いかけに答えてやっと、シオリ先輩の表情が和らいだの。
「VRもARも、なんなら漫画から世界的なコンテンツになったちょいと昔の作品のように、あるいはそのいくらかあとの時代で侵食拡大したゲームとか、世界のオタクに広まったライトノベルのように、知覚のすべてが別世界に行けるような体験を理想とする人はいると思うよ」
「れでぃ、ぷれいやあ?」
「そ。ゲームウォーズもまさにそれだね。でも、ゲームってスマホやタブレットだけのものでも、ましてやゲームハードやパソコンだけのものでもない。カードゲーム、ボードゲームにも名作はやまほどあるし、いまでも新作が出てる」
持ってきてるぞーとミナトくんが早速声を上げて、シオリ先輩が嬉しそうに笑ったんだ。
その言葉を尊いと心底思っていそうな、幸せに蕩けた極上の笑顔だったよ。
「どれがいつ、どの程度流行するのかはわからないけどね。ボクはいまのところ、パソコンかゲーム機で遊べるゲームが特に好きなんだ。だってボクを楽しませてくれたからさ。今度はボクの番なのさ」
なるほど、とシャルが満足げに頷くの。
ふたりの話は終わったみたいだ。ユメが張り切ってプレイして、ぷちたちがみんなで応援する。お姉ちゃんはシャルの付き添いか、はたまたゲームのプレイ待ちか、眺めたくているのか。
カゲくんとミナトくんはユメにあれこれアドバイスしたり弄ったり、ゲームを題材にだらだらしゃべったり。まるで実況動画の人たち状態。
視点が変われば、ゲームひとつとってみても意見が変わる。
日本の現場で働いているゲーム業界の人も、会社の中ですらいろんな意見が存在してそう。
業界と接するライターさんたちも、プレイする人たちそれぞれでもそう。
シオリ先輩と真っ向からぶつかる意見もやまほどあるんだろうし、もっと事情は複雑なんだよと教えてくれる人もいそうだ。
ゲームがだいっきらいな人たちだっている。その人たちの中でも、微妙に意見が違ったりするんだろうなあとも思う。
世の中はゼロか一かでも、ゼロか百かでもない。ただ、居場所が違うだけ。そんな意見がやまほどありそう。人の数だけ世界が広がっていて、たとえばゲームって面白いっていう意見とつまらないっていう意見をふたつ用意したら、世界を地図にしたときに濃淡ができそうだよね。
面白すぎてどうにかなっちゃうってアヘっちゃう人が濃いところにいるとしたら、そこまでじゃないけどそこそこいいっていう人はすこし離れたところにいてさ。
つまらないっていう意見に対して、あれこれやってもう飽きたっていう人もいれば、一度もしたことなくて心底嫌っている人もいるだろうし。やっぱり距離の近い遠いがありそう。
ユメのプレイが主役になった部屋で、ぽつりとお姉ちゃんが呟くの。
「世界は箱だ。知覚できる世界は箱だよ」
いきなり哲学?
「だけど箱の外にも世界はある。箱の中に不快なものがあると、人は排除するか逃れようとする。ストレスを解消しようとするんだ。シンボルエンカウントだとわかりやすい」
敵が見えるロールプレイングゲームのシステム名だっけ?
「潔癖症は自分の箱を綺麗にしようとする。けれど箱の外には世界が広がっているから、無作為にいろんな刺激が飛び込んでくる。目の敵にするような情報も含まれるな。それが消えないと安心できないから、叩いたり規制しようとする」
――……そ、それは日本で話題になってる規制の話ですか!?
あぶないよ! その話はとてもあぶないよ!
「なんだぁ? 色相が濁るって話か?」
ミナトくん! その例えは皮肉がきいてるね!
私もそのアニメ大好きだよ!
「近くて遠いかな。ちょっと思っただけだ。我はどんな罪を裁くのかなと」
地獄のお父さまも、ずっと考えなければならないと言っていたよと。
そう囁く閻魔のお姫さまにかけられる言葉って、なんだろうね。
「ゲームにも、いろんな事情があるんだなあと思うと複雑でな。我はただ、楽しめればそれでいいんだけどな。がちゃがちゃしたいし」
「そ! なにが情けないって、ギャンブルって楽しいんだよね! ポーカーもパチンコもスロットも消えないしさ。パチンコを除くと、ミニゲームの定番ですらあるよね」
そういえばパチンコのミニゲームって、あんまりないよね?
それこそ歌舞伎町を舞台にしたゲームシリーズに、一作だけあった気がするけど。けっこう前の話だった気がする。
ギャンブルに特化しすぎると、いろいろと大人の事情が絡んでアウトになるのかなあ。
ガチャシステムのスマホゲーがコンシューマのゲームにミニゲームとして入ったら、どうなるんだろうね? 面白くなるのかどうかっていう課題がクリアされなきゃ、そもそも搭載されないだろうけども。
「ガチャ回して、最高レアの新キャラが出ると嬉しいし。ギャンブルで可能性に勝ったっていう体験には違いないわけで」
「そこは否定しないのか?」
「シャルロット、考えてみなよ。ウィザードもボクと同じ答え方をすると思うけどね。儲かる時点で答えは出てない?」
「……それでもやらないと」
「ボクの命題じゃないからね。心理戦も介在しないし、それじゃあ作り手としちゃあ満たされないさ。いまさらできて間もないボクの会社で骨太コンテンツを買えるとも思えなければ、真っ新ド新規のガチャゲー作って売れるとも思えないし。金策としても微妙だよね」
シビアな理由も含めて、やらないし、やる理由もないのかあ。
「ハードは作らないのか?」
「それこそ、いまのボクの会社じゃあれだ。ノウハウも技術者も確保できずに、資金も体力もないど素人が集まって火星に入植可能な宇宙ロケットを一ヵ月で作るような挑戦だよ」
「不可能で無謀な愚行か」
「そゆこと。誰もなし得ない挑戦には浪漫があるけどね? せめて植物学者はいないと。オデッセイは最高の小説であり、映画だからさ。そこは押さえたいよね。押さえて終わるだけだけど!」
「ワトニーか――……意外だな」
「お、知ってる? 彼、最高だよね! 火星の顔文字でおっぱいはないだろ? それに映画でラストのアイディアも! どっちも笑える」
「わかる」
「へえ、キミって意外と話せるね?」
褒められてドヤるシャルにシオリ先輩が「じゃああれは見た?」と話を振っていく。
ふたりの会話をよそにユメたちぷちはプレイに夢中だし、カゲくんとミナトくんは教えすぎないように気をつけながらフォローしてくれている。
お姉ちゃんはみんなの中にいることを好んだうえで、物思いに耽っていた。
なんだか放っておけなくて、お姉ちゃんが床に置いた手に手を重ねた。
「お姉ちゃんの箱は狭い? 私の箱と重なったら、痛くなる?」
「――……そんなわけあるか、ばか」
はにかんで答えてくれたお姉ちゃんが、寄りかかってきたの。
シャルを抱いてお姉ちゃんに寄りかかられながら、壁際のスクリーンを見て時計を確認。
時間にはまだ、若干の余裕がある。
だからお願い。
もうすこしだけ、ここにいさせて――……。
つづく!




