第九百三十三話
お風呂は昔、社交場だったそうです。
いまでもそうかな。名だたる温泉のみならず秘湯や名湯も、賑わっていればひとりきりじゃないからね。当然だね! なに考えてるんだろうね?
現代の現世と違って、朝は意外とのんびり。
なので学生寮の大浴場拡大版の女風呂は大賑わいなんです。
壁で完全に仕切られているからわからないけど、男風呂も結構騒がしそう。
で、さ?
なにに盛り上がっているかって、案外しょうもない話題なんだよね。
「昨日、丈くんが鼻血で空飛んだってマジ?」
「悲しいよね」
マドカが振った話題に麗ちゃんが達観した顔をするの笑えてやばいです!
「わかりやすくて困るよ。あんなに舞い上がるとは思わなくて」
「実際、空飛んだわけでしょ? しかも、かなりのもっこり状態で!」
ばしゃばしゃ湯船を叩いてはしゃぐマドカにキラリが鬱陶しそうな顔をしたの。
朝からハイ。目元にクマ。だけどちゃっかりきっちりキスマークを胸元につけてるマドカさん、情熱的だし徹夜なのかもしれない。なんで徹夜なのか突っ込む勇者はここにはいない。
「やばい。丈くんかわいいね。素直で! わかりやすくて! いいわあ。やっぱ素直な男子いいよ」
「なんでもかんでも素直でいたらいいってものでもないと思うけど?」
長い金髪をまとめてお団子にしたユニスさんが、重たすぎるため息を吐いた。
理由はお察しなので、もはや誰も突っ込まない。
十中八九、ミナトくんのすけべのせい。
カゲくんとミナトくんと泉くんは三大すけべだからね。二年生男子の。
表に出ているし泉くん大人しくなってきたし、最近はほんとにマシになった感じ。
むしろこっそり隠れたすけべのほうが脅威かもしれません。
そこいくと、丈くんは隠れすけべが消せない恥を晒して、もはや素直にならざるを得ない感じなのかな?
「ミナト、あれで尽くすタイプじゃん」
「――……それは否定しないけど」
キラリの指摘にユニスさんが盛大に顔に皺を寄せた。
「ごほうびあげたら燃え上がるわけ。で、次のごほうびにシフトするの。当然、ハードルはがつんと上がるわけ。エスカレートするだけだから、ついていくのが大変なの。みんなはないわけ?」
わりと切実な悩みなのでは!
朝から濃いなあ。元気にあふれてるなあ!
「つまりえっちばかり求められて困ると?」
相変わらずマドカは言いにくいことでもずばっと切り込むなあ!
「猿だもん。あいつ」
容赦ないね!
「別にね? 現代ならデートに行くし、遊んでるし、私の趣味もあいつの趣味も程ほどの距離感でゆるく楽しんでるの。でもね!?」
たまってるなあ。これは相当鬱憤がたまってるに違いないよ!?
「夜はもうそれしかないの! 寝たいっつってぶち切れないと諦めないわけ! 私だってあいつに魔法をぶっ放したくないわよ!? なのに現世で手に入れたい力の使い方第一位に輝くのが、彼氏の性欲制御ってひどくない!?」
お怒りだよ! なるほどなあ! 耳が痛いなあ……っ!
「ミナト、の……微妙なの?」
コマチさん!? どえらい質問をしますね!
「そうじゃないけど!?」
答えちゃうの!?
「私はただゆっくりくっついて寝たい夜も結構あるの! 穏やかに過ごしたいだけの夜も! だいたいあいつの都合でお願いするなら、せめて導入くらい気合い入れろっていうのよ!」
ばっしゃばっしゃと水面を叩く魔女の怒りを隣でもろに浴びて、キラリが菩薩のような顔をしながら目を閉じた。あれはもう諦めて受け入れる姿勢だ!
「どうせトラジもリョータも紳士なんでしょ? はいはい聞かなくても知ってますぅうううう!」
魔女さま、振り切れてるなあ。
「答え方、とか。焦らし方? で、くすぐるといいって、聞いたことあるよ?」
コマチちゃんの言葉にユニスさんってば、歌舞伎の決め顔みたいに唇を歪めて睨むの。
「なんであいつのわがままにこっちががんばらなきゃいけないの!」
「ええ、と……ええ?」
あ、怯んだ。コマチちゃん、怯んだ!
ユニスさんの顔芸、迫力あるなあ。
「や、わかってる! わかってるのの! あいつと私が歩みよって、ふたりの生き方を探るんだって。でも――……でも! なんだか特殊性癖とか持ってたら私の最終形態がそうとうやらしくなるかと思うと! そこまでの勇気は!」
「――……そ、そっか」
あ、今度は諦めた! コマチちゃん、露骨に諦めた!
「聞いてくれる!?」
がしって腕を掴まれたの、フォローしようとしたコマチちゃんじゃなくてキラリなあたり、もしかしたらキラリはなにか妙な因子があるのかも。中学時代のこじらせまくりの私に絡まれたり、一年生の頃のもっとも大暴れゾーンに陥っていたマドカにひっつかれたり。
なむなむ!
「なんだよ……いえよ……」
キラリが死にかけなのでは!?
「ミナトがタブレット好きに使っていいっていうから、ちらちら見てたらさ! 見つけちゃったの! あいつのす、す、すっ」
言葉につまりながら赤面してるんだけど、なにを言いたいのかわかったの私だけ?
さっき振り切れて吠えた内容からして、ためらうタイミングはとっくの昔に過ぎたと思うんだけどなあ! さじ加減が謎でかわいい。
「すけべ画像とか動画とか?」
「それ!」
よくぞ答えてくれましたと嬉しそうに見つめられたら、私はちょろく「やった」と思っちゃうんです。
「こっそり見てみたらさ! すごいの! なにがって――……すごいの!」
「「「 ……ほほう 」」」
思わせぶりな振りに前屈みになる一同。
ちなみにトモは早々に出ていったよ。ノンちゃんはまだ来てない。
あとアリスちゃんとか、日下部さんたちもいないかな?
ふたつ隣に離れた浴槽に小楠ちゃん先輩やユリア先輩たちが見えるし、反対側の浴槽に愛生先輩が浸かってるのが見える。それぞれにそれぞれの仲間と一緒にくつろぎ中なの。
幸いにして先生はいない。いたらさすがに、やんわりとほどほどにしなさいって止められそうな気がするよ。
「「「 具体的には? 」」」
「や、そこは進行具合によるんじゃない?」
みんなで聞いてすぐにマドカが答えて、
「「「 あー 」」」
って納得する流れは必要だったのでしょうか。
楽しいからいっか!
「口?」
「上になるやつ?」
「もっと攻めてお尻とか?」
「「「 引くわー 」」」
ぐだぐだ話す内容が、朝っぱらから完全に下! しもしも~!
「「「 で? どうなの? 」」」
前屈みに全員で尋ねると、ユニスさんの体がぷるぷる震えていた。
俯いていたよね。目が泳ぎまくっていたの。
「そ、それだけじゃ、なくって……ね」
「「「 あ~ 」」」
さすがに年齢的に無理なので中身は知らないけど、あれかな。
「企画物とかシチュエーションものみたいなの?」
「それ! それそれ! あとのやつ!」
お、おう。
ミナトくん、だめだよ。プレッシャーになるようなもの見せちゃ。ちゃんと隠さないと!
いや、そもそも持ってるのがどうなんだって話なんだけど!
あれかなあ。
実家がヤクザ屋さんだから、組のしのぎの中にえっち動画があるのかな?
定番じゃない? そういうの。
決めつけるのはよくないけどね。知らないから決めつけやすいし。もっといえば聞けないし。繊細な話題すぎて。マドカなら聞いちゃいそうだけど!
「服の希望があるみたいなの……ミナトのお母さまから、お父さまがお好きで影響を受けたのではないかと心配して、事前にいろいろ聞かされたの」
なっ、なかなかハードな交際関係ですね!?
そいつぁ大変だ……。
サクラさんからカナタの性癖についてあれこれ言われたり、暗にソウイチさんの性癖を知っちゃったら、次からどういう顔すればいいかわからないよ!
たぶんサクラさんとふたりで話すのはめっちゃ楽しいと思うんだけど!
ハードな関係には違いないよ!?
「昔から……好みの格好があるみたいで」
なかなかそのへんの話題を素直にやってる映像作品を知らないから、例えがどうしても大好きなコメディドラマになっちゃうんだけどさ。ビッグバンな奴で主人公が友達の妹と付き合っているときに、とある映画のコスチュームで不正確なプレイに勤しんでいたっけ。
「「「 シチュエーションプレイかあ 」」」
私だけじゃなく、他のみんなも思わず唸ったの。
ハモったね。声だけじゃなく気持ちもたぶん一緒。
したことねえなあ! って思いで溢れてたよ!
「一度許したら、なんかそれが毎度のことになったり、エスカレートしそうな気がするの。怖いわけ。なにせあいつは欲望のモンスターだから」
見た目は清楚な人なのに、ざっくばらんに言う内容がこれなのギャップが面白くていいなあ。
そんなもんだよね。えっちには限らないけどさ。もっとえげつない話題も、先輩たちがしょっちゅう話しているので、いずれはああなる可能性があるよ。誰しもね!
見せるかどうかはべつだけどさ。
欲望のモンスターを相手に怯んでいるユニスちゃん、冷たいのはプライドがあるからか。はたまた防御反応か。
いずれにせよ、付き合っているからってそのへんは同意があってこそなので、いやなら断って全然いいと思うんだよね。
むしろそういうことが自然にかつ当たり前にできる関係じゃないと、ずっとは無理だよね。
そもそも一緒にいたいと思えなくなるし。付き合ってるからいいじゃんって言われてもさ。は? 無理なんですけど! で終わるよね。お互いに。
で、そのへんは魔女さまもわかっていると思うので、ポイントは別にあると見たよ?
「したいけど、ミナトくんが求めまくるので待てって言いたいんだ?」
「待ってはくれる。誤解のないように言うと」
それ言うの、もうだいぶ手遅れな気がするけどね!?
「――……どう言ってもズタズタにしそうで」
おーぅ。
「それに、なんだか負けた気がしてやだし」
そこは別に張り合わなくてもいいのでは!
「踏ん切りがつかないわけ!」
「それで結局、うまく話せないと思ってつんつんしちゃうと」
「やること、やってる……よね?」
キラリとコマチちゃんのツッコミは容赦ない。
「そうです! 悪い!?」
清々しいまでの逆ギレっぷりが、いっそ心地いいよ!
ユニスちゃんの悩みも愚痴も、結局は堂々巡りで答えのないもの。
ミナトくんへの気持ちを軸に決めちゃえばって言うこともできるし、だけどミナトくんとどう付き合うのかを決めるのはユニスちゃんなので、そのときのどきどきもしんどさも全部、まずはユニスちゃんが抱えることになるからなあ。
個人的にはミナトくんとよく話して、なんならそれをネタにふたりがよくやる「喧嘩するほど仲がいい」の典型例みたいな喧嘩をすればいいと思うんだけど。
「私からしてみれば、その丈って男の子? くらいのかわいげが欲しいの!」
「そう? 私にしてみれば、鷲頭みたいにあけすけなほうがやりやすくていいけど」
「なっ!?」
麗ちゃんの返事にユニスちゃん、びびりまくりである。
「好きでしたいならすればいいし、気が引けるなら理由を言えば済むんでしょ?」
すればよくない? なんて言っちゃいかねない勢いでたたみかける麗ちゃんの棍棒は、ちょっと威力が強すぎるかな!
「で、それが難しいから悩んでるんだよね。自分にできる選択肢がなにか探せばいいんだけど、それがわかっていたら苦労はないわけで」
すぐに乗っかって話を持ってっちゃう。
だってさ。それで終わりにするとさ。
どっちが正しいか間違っているかの話になるじゃない?
答えはひとつで、それをしないのはなんで? それが原因で逃げてるだけじゃないか! っていう、いつのまにか責めちゃう議論になってさ。
弱って悩んでる人に、それはあまりにも冷たくて酷だからさ。
痛みで染みるような患部を治すときは麻酔をするように言い方を変えたりしないと、つらいよ。
「そのあたりの意地を張っちゃうところからくるすれ違い、あとはミナトくんの欲望モンスターの最終進化形態が見えないところが怖いわけじゃない?」
「もし性癖を聞いて物凄い内容だったらやじゃない?」
麗ちゃんの言葉に引っかからず、私の言葉に眉根を寄せて本気で悩んでるっぽいユニスちゃんの反応にほっとしていいやら悪いやら。
キラリが私と麗ちゃんを交互にちらっと見たの。けど、声を掛けたのは私たちじゃなくユニスちゃんに対して。
「あいつは確かに露骨にえっちだけど、興味があるからいろいろ知ってるだけで、それをやりたいかどうかは別でしょ」
「ええ……そう?」
「あたしたちみんな、エベレストだとかマッターホルンだとか、世界にたくさんの山があるのを知ってる。こないだの宝島探検時の登山で山歩きにはまった奴もいるみたいだけど、だからって全員が世界最高峰とか世界最難度の山にのぼるか? のぼらないだろ」
「許可証とか渡航費とか、お金がかかるからじゃないの?」
「ふたりでのんびり過ごすのも、えっちもなんもかんも一緒だろ。お金とか手間がかかることもある。それでもやることもあるし、お金がかからなくてもやらないことだってやまほどあるだろ」
あたしは、と続けるの。
「あたしは歩くのが好き。踊るのも好きだし、春灯の影響かもしんないけど歌も最近はまってきてる。だからってリョータと一緒に全部やろうとは思わない。あんたたちと一緒に旅行いきたいなあってプランを練ることもあるし、必ずリョータがいなきゃいけないわけじゃない」
その逆もまた然り。
「ウユニ塩湖とか、星をやまほど見られる場所にリョータと行ってみたいって最近すっごく思ってるんだ。お金も手間もかかるけど、それはリョータといつかやりたい夢。地元で見上げる星だけじゃなくて、世界中から見上げてみたい。なんなら宇宙にだって行ってみたい」
実現できるかどうかはわかんないけどさ、と呟きを挟んだけれどキラリは語る。
「別に星に限らず絶景はやまほどあるよ。なにげない日常の一幕も、時間帯が変わると趣が変わって見えて味わい深いし。海だっていいよ。湖も沼もさ。世の中には夜の工業地帯が好きな人もいるし」
あー! いるね! いるよね!
煙突とかごつい配管とか、強い光量のライトに照らされた工業地帯の魅力にはまってる人!
「けど、私は星を見たい。そのためにできることをやろうって思う。じゃあ、毎日夜空を見上げてますかって、そりゃまた別の話なわけ」
リョータと話して計画を練るのが最近の楽しみなんだよねとまとめたキラリにマドカがぼそっと「結局のろけじゃない?」と言って、脇腹に肘を食らってました。
不用意に言わなきゃいいのに。なんだかんだ楽しそうに笑ってるから、マドカは弄りたがりだし欲しがりな気がするなあ。
「星を見上げるのも、好きな人とキスしたりハグしたりえっちしたりするのも、結局人がすることなわけでしょ? 相手がいることなら、お互いに気持ちよく楽しんでやれたらいいなって思う」
ユニスちゃんに語りかけているようで、キラリは何度か麗ちゃんを見てたんだ。
私にもたまに視線を投げてくる。
最後のまとめとばかりに一度立ち上がって浴槽の縁に腰掛けると、キラリは尻尾を下ろしてユニスちゃんににまってしながら悪戯っぽく言うんだ。
「で、そんなことは百も承知のユニスは、あれだろ? もし怯んだらミナトが引いちゃうんじゃないかと思うと怖いんだろ?」
「う」
図星とか!
「ないない。だいじょうぶだって。どっからどう見ても、ミナトはユニスにべた惚れだし。なんなら最初からユニスに夢中だったしな?」
「うん……間違い、ない。えっちだけど」
コマチちゃん、最後の一言は余計なんじゃないかな!?
「いまさらあいつがあんたの不安に引くかって。ないない! あたしが思うに、不安な感じで聞いたら、あいつはもっともっとあんたに惚れるよ」
「いえてる……」
そ、そうかなあって不安げに呟くユニスちゃん。
さっきまでは「私をこんなに不安にさせやがって!」とぶち切れてたけど、不安が強すぎると苛々しやすくなったり凹みやすくなったりするよね……。
あれ、なんでなんだろうね?
失恋すると胸が痛くなるのは、恋愛時の興奮がおさまってどきどき分だけ物理的に痛いからだとかなんとか? なんかで聞いた気がするけど。
一緒にいて得られるものの良さのほうが強いの、納得だし。
だめになって物理的に痛むのも、なんか納得しちゃうなあ。
生き物してるよね。私たち。
ユニスちゃんは生きてるなあ。思春期を全力で生きてる。
私も生きてるし、みんなそれぞれに生きてるけど、いずれはそういう刺激に耐えられなくなったり、あるいはいまとは違う形で求めたりするようになるのでしょうか。
なんか失恋ソングや演歌の世界に近い気がしてきた。これは違うな! ちょっと違うね! 間違えたね、私いま!
きゅんきゅんすればするほど、しんどくもなるしさ。
報われればじんとしみるし、幸せもきゅん度のぶんだけ増すのかな。
激しさだけが恋愛じゃないし、いろんな形があるだろうから、一概には言えないか。
ただ、ね? 悩むところも、それで見えてくる自分も含めて恋愛の醍醐味って気がするよ。
「ミナトくん、喜んでむしろ泣くのに一票!」
これは悪のり?
「春灯、それは賭けにならないでしょー。大勢がそっちに賭けるよ」
マドカも乗っかってくるこれは、前振り。
「たしかに」
「いえてる」
キラリとコマチちゃんも続いてくる。
ここまではむしろ当然の流れ。
別にフォローのために嘘ついているとかじゃなく、心の底から思ってる。
なんなら確信してる。
ミナトくんはユニスちゃんにべた惚れだって。
一緒にお風呂は初めての麗ちゃんは「むしろそっちのが羨ましい」とユニスちゃんをじーっと見つめてた。期待のニューフェイス! 麗ちゃんが短く息を吐いて、自分も浴槽の縁に腰掛けた。
「べた惚れか……丈はしたいだけで私といたらいやだな」
なんかしみじみ言ってるんだけどさ。
「「「 いやあ…… 」」」
それはないでしょってところまで、みんなでハモって麗ちゃんにきょとんとされちゃったよ。
でも、そうじゃない?
意地だけじゃさ。気になる人と一緒にいられないよ。
しかも麗ちゃんの場合は、強い理由があるの。
彼女はたくさんの先輩と自分の部屋で関係を持ってた。あくまでひとりと。その経験が大勢になったっていう、そういう流れみたいだけどさ。
丈くんにしてみれば、気になる人が奔放だったわけじゃない? しかも全然満たされないっていうか、幸せになれてないわけで。
べた惚れじゃないと続かないよ。
麗ちゃんをなじったり攻撃したりしてないところから、彼がすごくいい子だっていうのは容易に察しがつくし。
さんざん恥を晒したらしい彼は、それでも相棒の侍候補生である麗ちゃんのために刀鍛冶としてなにができるか必死に模索しているというの。
愛がなきゃ無理だよ。
それはまだ、丈くん自身の問題から解放された気持ちになりきってるわけじゃないとは思う。
一足飛びでそこまでいけてたら、すごすぎる。
むしろいろいろ教えてもらいたいレベル!
で、できてないならできてないで、別にマイナスなんてない。
やるべきことをやっていけばいい。気負わず、逃げず、こつこつと。
その気構えでいるんじゃないかなあって思うんだ。
それくらいの覚悟が完了してそうな気がするんだ。麗ちゃんのそばに居続けて、とうとうふたりで手を繋いで歩き始めた丈くんに対して、勝手にね!
しみじみしながら「丈くんなら大丈夫だよ」とみんなで語って、麗ちゃんがその理由を頭にメモろうとしているそのときだった。
「ところで、みんなならどんなシチュエーションが理想?」
マドカが放り込んだ巨大爆弾のような振りに、みんなして腕を組む。
どうでもいいけど、そろそろ上がってもよくないかな!
なんかやな予感がするんだよね。この手の話題でしょ? で、私ってば相談されたら私の持ちうる限りの知識と経験であれこれ言ってたわけでしょ?
「春灯はどう?」
ほらあああああああ!
真っ先に聞かれたよ! そんな気がしてたんだ!
「きっ、基本が多いかなあ……ほら、ありのままの?」
「で? シチュエーションは?」
くっ!
マドカさんの質問からは逃げられない!
「し、シチュエーションは……えええ? デートプランとかじゃだめ?」
「真実か挑戦か」
「そのゲーム振るなら遅いよ! もう既に質問されているから、質問絡みの内容を吹っ掛けてくるの目に見えてるもん!」
「で?」
おのれ!
詰め寄ってくるマドカさんに引きつつも、考えてみる。
一年間、ざっくばらんに過ごしてきたほうだと思う。
だからこそ――……かな。
「原点回帰の先輩と後輩ぷれい?」
「「「 あー 」」」
みんなして「そういえば先輩って先輩だったな」って納得した顔されるのも、それはそれで複雑なんですけど!?
カナタさんは想像すらしていないと思うの。
私たちがこんな話をしているだなんてね!
私も予想してなかったよ!
「もあ!」
マドカの呼び声に「うえええ!?」と汚い悲鳴をあげて、私は必死に脳内の妄想ノートを広げるのです。
シチュエーション。
なにかが変わると燃える刺激剤。
燃料。
別にあまあまに限らず使えるものだけど、なんだろうね?
どんなシチュエーションだと燃えるのかな。
なにがハッピーかな?
こいつは地味に難問なのでは!?
つづく!




