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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第八十章 夢と欲望の化身! その名は!?
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第九百三十二話

 



 かつて世界は球じゃなくて、ひらべったいものだと考えられてたんだって。

 中学校あたりで学ぶんだっけ。天動説と地動説。

 人の心の力が形になるのなら、どこかにそれが実現した世界があるかも?

 それはさすがに夢を見すぎているかも。

 どうせ見るなら過ぎた夢でもいいのでは?

 身の丈に合わない夢なら、身の丈のばせばいつかは届くのでは?

 屍を積み上げて山を築いて城に手を伸ばし、仲間の命を自分の贄に捧げた鷹の男のように?

 いやあ。できれば路上から積み重ねて養成機関に入って、こつこつ仕事を続けて大会で優勝しちゃうお笑い芸人コンビのようなのがいいかな。

 世界をひらべったいものにしたいわけじゃないし、どうせなら狭く思えるときにはどこまでもいけちゃう手段が欲しいかな。それくらいだね。

 指輪が繋ぐ絆の中には、時空を超えちゃう奇跡を手にした子がいるからさ。

 私のぷちを通じて、私はその力を使えるのかもしれない。

 黒輪廻の私は一瞬でコツを掴んで、自由自在に使っていたよね。

 この世界から私の御霊を使って消えちゃった時点で、彼女の霊力の扱い方のスキルは凄く高い。じゃあ、彼女はどうやってそこまで自分を高められたのか。

 黒輪廻と敵対してきたユラナスさん率いる教団の話を聞いてみたいなあと思う。

 この次元に辿り着いた彼女がそこまで非道に徹した人とは思ってなくて。でも彼女はシャルになる前の教授を組織に引き入れてもいた。教授だけじゃないよね、きっと。

 光と闇は表裏一体。どちらか一方だけで存在しえないのだよ、がはははは! みたいな悪役台詞はいろんなお話で見てきたし、その善悪や光と闇って結局人がジャッジしている時点で流動的で絶対的なものじゃないのだぜと主人公サイドと敵サイド関係なく言っているよね。

 地面ばかり歩いていても、お空をぼんやり眺めていても地球の形は見えないように、自分がいやだとか気持ちいいだとか感じてもそれが万人にとって絶対的な正義か悪なのかなんてわからない。なんて言い出すと、すんごく哲学的で頭がぐるぐるし始めるけど。


『――……以上が、本日行なわれた戦闘について撮影した動画です』


 ときはすでに夕暮れ。

 相模湾の地中にて、南下する基地の地下講堂に集まった私たちは巨大なスクリーンを背にマイクを手にした小楠ちゃん先輩の声に返事もできずにいた。

 ユリア先輩と追っ手の狩人男の会話。そして戦闘の一部始終を見て、男の悪びれもしないセクハラ発言の山に沈黙していたの。

 がっつり行なわれた御霊別授業の成果は、一日でできる範囲で言えばかなり上々。そうでなくても江戸時代ほど厳しい状況に陥ってはいないので、どこか弛緩した空気があったけれど、たやすく打ち砕かれた。

 ルルコ先輩たちも先生方も明坂メンバーも集まっている中、進行役の小楠ちゃん生徒会長は沈黙も想定済みか、気にせず続けるの。


『対象の男を今後、狩人Aと呼称するとして。彼はこの時代における、どのくらいの立ち位置なのか。それは情報収集しなければ実際を知ることは難しいので、保留とします。ただ』


 映像が繰り返し流れるものの、もう音声は流れない。


『狩人Aは私たちが現代で出会った巨大ガシャドクロのような怪異との戦いに慣れていると想定しています。これがなにを意味するか』


 主役は小楠ちゃん先輩だから、必要なのは戦闘の音ではなく彼女の声。


『邪との対決において、一年生は四月の討伐に備えて最低限の防御、回避の仕方などを叩き込まれるわけですが、今回戦闘が行なわれた場合には二年生や三年生でも己の身の安全を図ることが難しい状況が想定されます。巨大ガシャドクロも綱渡りでしたからね』


 笑いたいところだ。

 けど難しい。東京湾でガシャドクロの掲げた腕の上を疾走して飛び込んだときの全能感とスリル、っていうか素直にぶっちゃけると恐怖を思うとね!

 綱渡りだったよね!

 足を踏み外して落ちたらさ。悪くしたら死んでたもんね!

 おっかないなんて軽く言えちゃう問題じゃないし、いまとなっては「無事でよかった」以外にコメントが思いつかないよ!


『逆に言えば、ガシャドクロや狩人Aが所持する技術を手に入れることができれば、すくなくとも戦力の底上げができます。私たちの霊力を向上させるなら、彼らにあって私たちにないものを見つけることが先決です。目標はわかりやすい』


 ひとつですと断言するの。


『私たちは隔離世の力は現世では通用しないものだと思って、今日までずっと生きてきました。現代で職務に励む侍隊のみなさまもそうでしょう。ですが、常識は崩れようとしています』


 いまさらな話かもしれない。


『でもね? 考えてみると、いまさらかもしれません』


 小楠ちゃん先輩がなぜか、大勢が並ぶ階段型の何列もある座席の中から一発で私を見つけるの。見つめてくるの。


『青澄春灯は金色の光を出しますね』


 うっ。


『中瀬古コマチとユニス・スチュワートは宙を泳ぐイルカや箒にまたがって寮内でふわふわ飛んでいますし?』


 これには士道誠心の生徒もほっこり!

 学生寮で定番の光景になってるよ?


『そもそも獣憑きは現代で既に獣耳と尻尾を生やしているんですよね』


 思わず先生方も吹き出しかけた。


『いまある常識は先人が積み重ねてきた知識と経験と歴史の積み重ねでできているとして、海の外からやってきた常識と衝突したり絡み合ったり飲みこんで独自のものに昇華したりしながら、どんどん練り上げられてきたもの』


 だとしたら? と、まるでショーのように小楠ちゃん先輩は人差し指を掲げて壇上を歩き始める。


『隔離世に行ったことがない人からすれば、隔離世なんてオカルトで存在しないもので、獣憑きはコスプレだの気味の悪い病気だのとジャッジされているそうです。私たちからすれば、身近な隣人や友人なのに』


 身近にいなければ、それは知らないなにかでしかなく、理解を示す必要もないもの。

 そういうなにかに優しくなれる人ばかりでもなければ、そもそも優しくなる必要だって個々人が決めるものでしかないし。

 きつい言い方されることだって、往々にしてあるよ。


『どこかの世界には、もしかしたら刀鍛冶の私ですらヒーローになれるくらい霊子を使うことを知らない人しかいないなんて状況もあるかもしれません』


 七つのボールを集めて出てきた龍に願い事を叶えてもらえる漫画で、重力をモチーフに話題にしてなかったっけ。地球の何倍もの重力がある場所で修行した主人公は地球じゃめっちゃ強いっしょ! みたいなノリで。

 月と同じ重力の世界が存在したら、ただの一般人がその世界に行ったらめっちゃ活躍できるんじゃない? とか。

 知識に変換してるケースも結構あるみたいだけどさ。


『いまあるものも違う視点で捉えることで、新たな可能性が見えてくることがあります。私たちが気づいていない可能性が眠っていることもあるわけです』


 壇上の真ん中に辿り着くと、掲げた手を腰へ。


『時代を超えた。時空もきっといつかは超えられる。だっていうのに、私たちの夢と欲望の可能性は、現状の知識の枠組みの中で留まっていていいんでしょうか?』


 答えは否。断じて否!


『大昔の、恐らくは単身でならず者として生きていそうなこの男でさえ! 私たちよりも使いこなしているわけです! ハッキリ言って、気に入らない!』


 堂々と言い放つ。

 これはもはや演説。

 小楠ちゃん劇場、熱演シーンの真っ最中!


『星さえ落とせる。私たちなら。やりたいかって聞かれたら、断じてノー! でも、それくらいどでかい可能性を実現させられるはず! なのに、いままでの常識を足かせに歩みを止めるなんて、退屈すぎるでしょ!』


 腰に当てた手を今一度掲げた。自然に自慢のハリセンを取りだして握りしめていたんだ。

 振り下ろす。床を派手に叩いてから、雄叫びをあげるの。


『そりゃあ世間の皆さまに迷惑かけちゃいけないけどね!? 怖がらせてもいけないし! そうじゃなくてさ!?』


 そして振り払って、


『なんなら、いいなーって言われるだけじゃなく、私も俺も手に入れたいって思ってもらえるようになりたいじゃない!』


 またしても、掲げる。

 大暴れなんです。荒ぶる小楠ちゃん先輩、でもこれこそがいつものノリなんです。


『現実がついてくるようなどでかく太い生き様みせてやろうって思うわけ! そうじゃない人も生きにくくならない範囲でさ! やりやすくしたいわけ! 勝手にやるけどね?』


 振り切れてるの。


『そこで萎縮したくないし、私は! この男と、この現実に敗れる夢なんかじゃ満たされないわけ!』


 ブレずに。


『だから我々は現状を乗りこえるため、夢が形になって見えるあの宝島へ行きます!』


 放つ号令は、未来を掴むために。


『傷つきそうな子は厳しい戦場に決して出す気はない! 全員で戻る! それはもう大前提なので、多くは語りません! みんなも無事に帰るの、当然だと思っているでしょ? そしてそれは待てば得られるものじゃないことも、いまの映像を見たらわかってもらえたと思うの』


 えげつないメッセージだ。


『現代に戻ってあの王さま連中と衝突しようと、ウィザードだの厄介な連中が絡んでこようと、乗りこえられる私たちになるまで、楽しみ抜いて強くなると誓うし! 生徒会はみんながそれぞれにモチベーションを高めて挑めるように努めます!』


 こういう振りにのれなきゃ、私たちは一年間を乗りこえられなかった。

 その自負がある。


『現実が私たちの権利を侵害しようとしています。上等ですよ。そんなの現代でも日常茶飯事だった。内容はハードに過激に生きるか死ぬかレベルで迫ってきているけどね?』


 小楠ちゃん先輩はハリセンを掲げたままで続けるの。


『私たちはとっくに力を手にしている。今年に関してはなんと、真実全員が掴んでいるんです』


 御霊を宿している。それも侍候補生だけじゃない。

 宝島で知ったんだ。刀鍛冶すらも御霊を宿してるって。


『ならどうする? 乗りこえてやりましょう。私たちの力を高めるだけ。シンプルでしょ?』


 ハリセンをゆっくりと下ろして、講堂の端から端へと舐めるようにスイングして。


『島でトレーニング。修行です。現代にいたら通常授業の合間にちょこちょこやるのが精一杯。だけど現代の脅威に立ち向かえるまでのレベルアップに励めます』


 熱意があればあるほど嬉しい呼びかけ。

 それでなくても力の一端に触れて喜んでいる層にはたまらない振り。

 一方で、足踏み中の子や迷走中の子には結構しんどい話。


『島までの道中も、島に辿り着いてからもサポート態勢は万全。先生方もスタッフのみなさまも随伴してくださっています。授業はトレーニングに特化する形で現状維持、カウンセリングも密に行えます。いわば今回のタイムスリップのテーマは?』


 小楠ちゃん先輩が、ちらっと脇を見たの。

 たぶんシオリ先輩がいたんじゃないかな。スクリーンの映像がぱっと切りかわったからさ。

 文字が太めでかでかサイズで表示されていたんだ。


『霊力強化塾! ごめん! ださいのしか思いつかなくて!』


 謝る必要があるのかどうかと思うし、わかりやすくていいと思うし!

 別にいいのでは?


『ま、そういうことだから! 塾といっても霊力の強化なので、健やかに、朗らかに行ないたいと思っています。あとね? もうひとつ!』


 ハリセンを消して、人差し指を立ててみせるんだ。


『催しなんかも開催しようかどうか考えているので、企画案がある人は生徒会まで! 提案が集まり次第、実行委員会を組織して開催に移そうと思いますので! いつでも私たち生徒会か先生方ないしスタッフの方へ一声かけてください!』


 よろしくお願いしますと言って頭を下げる小楠ちゃん先輩に誰かが拍手がして、みんなでそれに負けじと手を叩いていく。

 きわどい映像からの強化必須という現状。ならば強化をいかに楽しく学生っぽくやるかという提案でまとめて終わり。

 手を叩きながら、なるほどなあって考えていたんだ。

 現代人がぽんと乗り込むほど、戦国時代の引き金になったようなこの時代で生きるのはたやすいことじゃない。

 そもそも大勢の人が集まっているから、生きていくだけで精一杯。

 移動するのって地味に大変なんだよね。現代なら旅費がかかるしさ。大人数だと、その旅費って人数分だけ増えるんだ。当然だけど!

 人が働くときの費用だって、日数が増えればどんどん増していく。先生たちやスタッフさんたちのお給料問題、私たちがこの時代に滞在中の学費問題とかね。無視できないよね。

 そのあたりは、あれかなあ。

 学院長先生主導でどうにかなっているのかなあ。


『かの御仁ならば心配いらんじゃろ』


 タマちゃんがフォローするの意外すぎるんだけど?


『縁あればこそ、じゃな』


 知り合いなの?

 やっぱり、学院長先生って――……。


『小槌があるじゃろうし、問題ないわ』


 ――……な、なるほどなあ。

 タマちゃんが言っているのはたぶん、打ち出の小槌のこと。

 目撃したことはないよ? アマテラスさまのおそばで修行していても、まだないね!

 いつかは見てみたいけど。

 やっぱり振れば振るだけ、ざっくざっく小判が出るのかな。

 いまどき小判って、換金するのも一苦労しそうだけどね。

 金の価値って高いもんなあ。市場にそもそもあまり出回らないからだっけ。希少性があるから高いんだったかなあ。

 金のインゴットを銀行から盗む泥棒のシーンも、最近あんまり見ない気がするよ?

 解散を告げる小楠ちゃん先輩に、先生方が呼びかけて次々と退場を始める中で隣のお姉ちゃんがもたれかかってきた。ちょっとだけだけど、うとうとしてるみたい。重たい瞼と格闘してるよ。

 受け止めながら思うの。

 閻魔のお姫さまになった双子のお姉ちゃんと再会して、室町時代に来て、さらには地面の中を巨大な船で移動中。

 ここまでやっといて、夢見る中身がちまっとしてるのもなんだかもったいないね!

 別に地面を平べったくしたいわけじゃないの。

 ただ、世界を駆け抜けて大暴れしちゃえるくらいのおっきな夢を見てもいいんじゃない?

 叶うかどうかは別の話。

 叶えるまで挑み続けるかどうかも。

 折れるかどうかもすべては自分次第。

 自分にやれることがなにか、自分で決めるだけ、自分の世界しか見えてないようじゃ結構しんどい。

 なら、別に世界を見渡してみればいい。

 澄んだ空を見上げて、雲で淀んだら晴れを待って、雨が降ったら傘を差せばいい。台風が来たら、中学時代の私みたいに裸で外に出たりせずに屋内でのんびりゲームでも読書でもなんでもしていいんだ。

 かたくなにならずに。

 とらわれずにいこう。


 ◆


 晩ご飯もお風呂も済ませてお部屋のベッドでごろごろしてると、ぷちたちも尻尾から出てきて私のそばで飛び跳ねたり、テレビをつけてチャンネル争いをし始めたり、歌ったり踊ったり大騒ぎ。

 遅れてお風呂を終えて部屋に戻ってきたカナタが面食らって固まるの。


「に、賑やかですね」

「そうですね~」


 だらけながら足を上下にぱたぱた振って、布団の柔らかさに溶けてます。

 ちょっとだけ疲れてます。

 ぷちたちが元気すぎて。みんなひとりひとりを大事にしようって決意して名前をつけた私ですが、子供の元気さって想像を軽々と超えていくよね!

 時間が経つのがめちゃめちゃ遅くなるんだよね……! だって叫び通しなんだもん。

 放っておくとご飯の話だいすきな刑事さんのごっこ遊びとか、孤独にグルメを楽しむごっこ遊びとか始めるの。ちょいちょいチョイスが渋いのなんでなの?

 歌やダンスを止めると大泣きするし、飛び跳ねる子たちを止めようとしたら「じゃあ鬼ごっこしてくれる!?」ってハイテンションで言われるので「お部屋は狭いからね」って言い返すと「じゃあ寮が舞台ね!」とか言い出すので、さっきまでお風呂あがりなのに鬼ごっこして汗だくになったし。

 力尽きたよ。

 早くも私は元気ゼロだよ!


「待ってたよ~」

「……ほう」


 カナタのぷちは出てきてない。尻尾の中にいる。

 そもそもぷちが自由に動くようになったの、私のほうが早いし。そのあたりにも、今日レンちゃんたちと話した相棒たちの自我理論のなにかしらの発見が眠ってそうです。

 でもって、いまはその発見がどうこうって問題じゃないんだなあ。


「今日ね? ぷちたちの名前決めたの。聞きたい?」


 それとなく聞きながらも、カナタに足を向けたままで上下にぱたぱた振る。

 ちなみにいまの格好はカナタの好きなゆるめのニットのワンピース。膝上丈で、アングル的にカナタに大打撃を与えられる姿勢。

 ここまでは計算済み。


「そりゃあ……まあ」


 混乱してどもってる。しめしめです!

 満足まんぞく!

 今夜はちょっと甘さに浸りたいんだ。

 タツくんの悩みに思うところがあるの。

 銃を銃として認識するの、もったいないっていうレンちゃんの指摘。

 あれは別に銃に限った話じゃないよね。

 自分がいやだなあって思うものも、捉え方によっては利用できちゃう。自分の力に変えられる可能性があるってことだ。

 小楠ちゃん先輩の話もそう。

 じっくり語り合いたいし、あまあまに浸ってさらに素敵な解釈がないか探ってみたいんだ。

 な、の、で。早めに話を進めちゃおう。


「ちなみにカナタはもう決めた?」

「や――……今日は、まだ?」


 わかりやすく声が上擦ってる!

 カナタさんの反応、今日はすこぶるいいのなんでかな?

 いろいろたまっているのかな?

 じゃあ、あんまり持って回った話をしてもしょうがないかな。

 早速はなしちゃおっか!


「じゃあね? じゃあね! ひとりひとり名前を説明するから、できる範囲で覚えてあげて」

「どんとこい」


 どれどれとベッドに腰掛けてくるカナタに、みんながわあわあ言いながら集まるの。

 ひとりひとりの頭に手を置いていく。


「きりっとしたおしゃまで賢いリーダー格! 理華ちゃんぷちのユメちゃん」

「えへん! 頼ってくれていいんだよ?」

「歌とダンスが大好き! 誰よりも跳んで跳ねて元気な美華ちゃんぷちのサキちゃん!」

「ら~! らららー! ら?」


 止まらないぞう!


「聖歌ちゃんぷちのお歌らぶ、放っておいたらずっと歌ってる笑顔が可愛いヒナタちゃん!」

「どやあ!」

「笑顔なら負けないぞ! 瑠衣くんぷちの、なにより明るく元気で一番笑い上戸のニコちゃん!」

「あはははははははは!」


 ばっしばっしとカナタを叩くニコちゃんとどやるヒナタちゃんの段階で、早くもカナタの額に汗が滲んだ。

 名前をぽんと呼んで終わらせるだけだと思っていたのかな?

 そうはいかないよ!

 本当なら戦闘シーンと共に新技ひとつひとつ、ぷちひとりと一緒に合わせ技をしながらお披露目したいくらいだし! いまはそういう時間じゃないからまたいずれということにしてるだけだからね?

 まだまだいくよ!


「すごく繊細でおろおろするけどテレビとか読書が大好き、スバルくんぷちのココロちゃん!」

「……ども」

「ふくふくでユリア先輩みたいに食べるの大好き! 私の食欲! キサブロウくんぷちのモアちゃん!」

「お菓子持ってる?」

「甘い展開大好き! あまいあまい恋愛作品とあまずっぱい恋愛ものに目がない、詩保ちゃんぷちのカリンちゃん!」

「そ、そんなことないし!」


 ぶつぶつ呟くように名前を反芻するカナタさん。

 真面目だなあ。たぶん普通の人なら、最初のふたりで思考を放棄すると思うの。


「歌と踊りだけじゃ満足しないぜ、私はミュージカルのように浪漫に生きる! 姫ちゃんぷちのノゾミちゃん」

「いつかは立ちたい、舞台の大階段!」

「人のコイバナに目がないし、常に愛情を感じていたいよ! 七原くんぷちのルナちゃん!」

「ご主人とのあまあまならいつも見てるんで、今度そっち目線の意見もくわしく!」

「そしてそして! ぷちいちぽやっとしているけど、ぷちいちみんなの面倒見がいい優しく愛らしい子! ツバキちゃんぷちのミュウちゃん!」

「そ、そんなことないけど」


 てれてれしたり、どやったり、手を組んで夢見がちに天井を見たりするぷちたちにカナタがてんぱりながら、何度も名前を復唱してるの。

 私ならどうするかって?

 ――……なに? って言うかな!

 覚えられるわけないもん。一発では無理だよ。

 なるべくわかりやすく特徴を添えて、ぷちたちがどう言うのかも含めて打ち合わせしたし、繰り返すけど本当ならとびきり素敵な見せ場と一緒に紹介したかったけどね?

 今日のカナタさんは日常に程よく疲れていそうなので、そこそこにしておくの。


「じゃあ、私たちはお風呂はいってくるから待ってて?」

「え……先に入ってきたんじゃないのか?」

「待ってる間に汗掻いたからさ。ぷちたちと一緒にもう一回はいってくるよ。カナタはのんびり待っててね?」

「「「 こんやはおたのしみですね! 」」」


 ぷちたちみんな、余計なこと言わなくていいよ! そんなこと教えた覚えもないよ!?

 なにかで知ったのかな。侮れねえ!

 力尽きる前にベッドの下にこっそり用意しておいたお風呂セットを出して、扉に移動する。

 とっとこついてくるぷちたちが私の尻尾に飛びつく。

 寂しそうな顔をしているカナタが言うの。


「ど、どうせなら……部屋の中を一時的に改造して、でかい風呂にしてみんなでっていうのは?」


 意外な提案!

 元気なときなら考えるけど。


「んー」


 ぷちたちはちっこいとはいえ女の子だしなあ。

 私とぷちたちは同じ存在ってわけじゃなくなってきているし。

 だとしたら、あんまりよくないよね。


「待ってて? そのほうが楽しみでしょ?」


 今日はいろいろあったみたいだし。

 仮に問題ないとしてもさ?

 たぶん、お風呂はそうとうくたびれちゃうと思うので。


「のんびりしてて。ね?」

「――……わかった。気の利いた台詞でも考えながら待ってるよ」


 別に台詞なんて考えなくてもいいのにね。


「それもいいんだけど、たとえば今夜私としたいことなら、どっちがいいかな?」

「――……後者で」


 赤面しながらぼそっと本音をこぼすカナタに笑いながら「素直でよろしい!」と伝えて、部屋を出る。

 ぷちたちがきゃっきゃとはしゃいで、はやしたてたり笑ったり。歌ったり尻尾を叩いたり。

 元気印の子たちだ。とことん元気。

 ちなみに私とお姉ちゃんのぷちは尻尾の中。まだカナタに名前を教えた子たちほどの元気さはないみたい。自発性も。芽生えたばかりの子は、いまいる子たちくらいに育つまでにはそれなりの時間がかかるのかもしれない。

 なら待つよ。それにできることをして育てるよ。

 いつもより尻尾が重たいし、元気なぷちたちの声を聞くとちょっと老け込んだ気持ちにならなくもないけどね。


「それじゃあ、みんな。のんびり口ずさみながらいくよ~? 曲はわかってる~?」

「「「 びばのんのん! 」」」


 なら一緒に楽しんじゃえばいいやと割りきって、みんなで迷惑にならない声量で口ずさみながら、とことこ大浴場に向かうの。

 登別の湯とまではいかないだろうけどさ。

 みんなで入るお湯は、極上でしみるもんだよ? いい湯なの。

 夢も欲望も、お湯でリラックスしてお部屋に戻ってカナタとあまあまに浸れば草津のお湯気分で深めていけるよ。形を見出したり、違う視点で捉えるにも、まずは元気がないとね?

 いい湯だなって言えるくらいがちょうどいいかな!

 宝島に行くなら温泉にも入り放題だし!

 食料事情も宝島ならたぶん心配いらないでしょ!

 じゃ、いってみようか?

 ご機嫌にね!




 つづく!

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