第八十七話
夜、学食に集まった一年生の侍候補生は私を含めてみんながグロッキーでした。
なぜかって? 個々に相棒ごとに組んでいた侍候補生と刀鍛冶たちを組織だててまとめて、その旗を掲げたの。誰あろうコナちゃん先輩がね。一年生の侍候補生の相棒になった刀鍛冶は二年生が割合的に多いようです。だからまとめやすかったみたい。
そこでふと考えてみると、二年生はすごい。
ラビ先輩とユリア先輩はロシア生まれの双子の兄妹で派手だし目立つ。二人ともすっごく強いし。脇を固めるカナタは私なりに表現するなら漆黒の王子さま。刀鍛冶と侍候補生の二刀流になったその存在感は大きい。その上、シオリ先輩みたいな裏道のツールを活用できて――……恐らくすごく強い侍候補生もいて、とどめがコナちゃん先輩だ。ラビ先輩がいなければ、生徒会長の旗を握って先陣を切ってもおかしくないくらいのリーダーシップを今まさに振るわれたの。
おかげで一年の私たちは疲労困憊です。でも、みんなの目には闘志が宿っていました。
「なあ、シロ。これで、明日負けたら……」
「カゲ、いうな。考えたくもない」
……闘志が、宿っているはずなんですが。
二人して苦笑いを浮かべている。シロくんの前に置かれた資料は分厚い。対してカゲくんはぺらぺらの紙切れなんだけど、制服のシロくんに対してカゲくんは埃まみれのジャージ姿だ。
他にもみんながそれぞれに異なるテキストを与えられて、異なるカリキュラムを与えられていた。正直特訓に費やせたのはたったの一日だけ。付け焼き刃感が否めないけど、ないよりある方がいい。そう私たち全員が確信をもてるだけの内容を、こなしたのだ。
私の場合は……あはは。
「ハル、やけに顔真っ赤だし、目が死んでるけどどうしたの」
「トモ……うん。まあ、その。うん。明日わかるよ、たぶん」
「……ふうん」
歯切れの悪い私に首を傾げるトモはほっぺたが赤くなっていた。外でずっと特訓していたみたいなんだけど、なんだろう。
「トモはなにしてたの?」
「んーそうだね……明日わかるよ」
にしし、と笑うトモは男の子みたいでなんかおかしかった。似合いすぎてるんだもん。
泣いても笑っても明日、私は交流戦に挑む。
そんな中、グロッキーなりに盛り上がっているみんなを横目にスマホを確認した。
ツバキちゃんから『エンジェぅ、がんばえー!』と送られてきてました。
がんばるよ。がんばるけれども。
「はあ……」
ちゃんと生き残れるか心配です。
◆
交流戦、当日。
通常授業はなし。生徒の垣根なしに今日はお祭り騒ぎです。
舞台は特別体育館。
どきどきしている私は――今、お城の天守閣におります。
制服姿です。そばにはいつもの着物姿で綺麗なニナ先生がいます。
「やっぱり一年生はあなたが指名されましたね」
「……あのう。なんで嬉しそうなんです?」
「いえ。あなたは他の子よりも頑丈そうなので――……全力が出せるかな、と」
ぞくっとした。背筋がぞぞぞっとしたよ!
ニナ先生の顔が! 目が! ちっとも笑ってないんですけど!
「あ、あのあの。痛くしないでくだちい」
「無理です」
「まさかの即答!?」
「無理です」
「二回言った!?」
「……――あの女。こっちが手を出せないのをいいことに、獅子王に言いよって」
「に、ニナ先生? あのー、もしもし?」
「ええ、それはもう。待ってますよ。ずっと。それとなくアピールし続けてもいます」
「あ、あれ? ニナ先生?」
「あの人が死の直前に託し、みなさんが後押しをしてくださっているんです。なら、獅子王だってもっと前向きに考えてくれてもいいはずなのに! それをあの人は……! 私が指輪を命日にしかしない意味を彼はわかってないんだわ……! なのに旧姓に戻すっていったらそれはだめだって怒るし……! でも怒った後は私が一番喜ぶプレゼントをいつも的確に送ってくるし……!」
だめだ。何を言っても聞いてくれそうにない。自分の世界に入っちゃってるよ!
『一年生の部、試合開始いたします。夏目先生、国崎先生、準備をお願いいたします』
拡声器を通じて聞こえた声にニナ先生が私情入りまくりなぎらぎらの目で私を睨みました。
手をかざした途端に頭の上から、お尻から、ニナ先生が犬神であることを示す耳と尻尾が生えたのです。
「これは、ええそう。ただの八つ当たり。夏目には負けられないんです、あの泥棒猫にだけは……!」
「ななななな、何か因縁があるのはわかりましたから、せめて落ち着いて-!」
「問答無用! 姓は犬井、名はニナ! 生徒を全力で捕縛します!」
「のーっ!」
宙で印を切るニナ先生が「縛!」と叫んだ瞬間、あちこちの空間が裂けて鉄の縄が私に巻き付いてきました。がんじがらめどころの騒ぎじゃない、露出しているの目とケモミミと尻尾だけなんですけど! しかも、この縄――……
「く、ぬぬぬぬ!」
地味に痛いよ!
『捕縛を確認しました。それでは一年生戦――……はじめっ!』
怒号がお城の外から聞こえてくる。続いて歓声もだ。
天守閣に設置されたモニターには、各地点の映像が映し出されている。
神社の中、夏目先生に同じように縛られているのはユウジンくんだ。
けれど彼は楽しそうに笑っていた。そばにいなくてもわかる。彼の今の気持ちが。膨らんでいく、ただ今を全力で楽しむその姿勢こそ……彼の本質なのかもしれない。その気持ちは揺るがず、膨らみ、力となって鉄の縄を一つちぎった。
ならば、私も負けてはいられない。
なんとか息を吸いこんで、私は叫ぶ。
「黒の聖書、四十八巻、末尾! 我が真名はクレイジーエンジェぅ! 定められし衣と共に手放す名! 道化へと転じた堕天使の名! 血を吸わねば生きられぬ、愚かな女の名!」
「なっ!?」
身体中に熱が入る。
ええ、もう。はずい。
「未来永劫捨てると誓ったあの日から、我は現世をさ迷った!」
でも、なんとか叫べる。
特訓のおかげで。
「血に塗れたその運命を、裏切りと奔流に押し流される運命を、ただ愚昧に過ごしていた!」
刀鍛冶の先輩が勢揃いしている前で黒の聖書を朗読するという!
あの恥辱の特訓のおかげで!
「けれど光輝たる盟友が照らした我の魂は! 輪廻の真理を掴みし信徒の臨んだ我の魂は!」
どんなはずかしいことだって、叫んでやれるんだ!
「死なず! 折れず、今もここにある!」
お尻から一本、また一本と生えていく。
コナちゃん先輩の言うとおりだった。
『いい? ハル。あなたはね……残念な子よ』
『突然の罵倒!』
『でもその残念さは人を惹きつける……かもしれない』
『確定じゃないんだ!』
『もっと大事なことがあるのよ』
『大事な、こと……?』
『――……あなたが強くなる魔法の言葉を、もうあなたは掴んでいる。あとは素直に向き合うだけ。一度は離れた病は、もうかかることはなく痛むばかりでしょうけど』
『……コナちゃん先輩?』
『大丈夫。あなたは立派に真性のおばかさんだから』
『やっぱり突然の罵倒!』
でも、悔しいけど。叫べば叫ぶほどに力が溢れてくるの。
……泣いてもいいかな。
『たわけ! 開き直ればばかは何よりも強いのじゃ!』
タマちゃん……慰めにならないよ? 追い打ちだよ!
『何を言うか! よく言うじゃろ?』
『無理を通せば道理が引っ込む』
『あっ、こら十兵衞! 妾の台詞をよくも!』
『ふっ……なあ、ハル。ばかでいよう、ばかでいい。お前はばかでいいのだ』
ばかばか言い過ぎだよ! さすがの私も傷つくよ!?
と訴えたいのも山々なんですが。
そんなことを考えていたら力が萎んでいくのを感じるの。
ああ、もう。わかった。わかりましたよ!
黒の聖書朗読会で私はある種ふっきれてますから! もうなんだっていってやる!
「強い力に焦がれてた! 穢れを知らぬ天使から傷つき地に堕ちた私は、それでも抗い続けた! 牙を生やし、闇の衣を身に纏い! 王子との出会いを! 仲間との語らいを! ずっと求めていた! それは――」
ディスプレイに映る魑魅魍魎と化した星蘭の人たち。
その身を雷獣へと変えた鹿野さんが空を駆けて一直線に私へと向かってくる。
それを雷となって躍り出たトモが、その力を振り払って刀だけで食い止める。
トモの移動手段からして新技だ。
披露しているのはトモだけじゃない。
雨雲を天井に出して豪雨を降らせる狛火野くんの横で、タツくんが刀を抜いた。それは一斉に分裂して、霊子に散らばる。刀を手にした隊士の姿を映し出した。一人で軍勢。その力は白き桜を背負う鬼たち……なんて、怒られちゃうか。でも、その圧迫感たるや尋常じゃない。鬼たちが足を止めて攻めあぐねているからだ。
場面を変えて村正を振るうギンと立浪くんが戦っている。立浪くんの人を斬るために特化した剣術に、ギンは見たこともない技を幾つも披露して攻め続ける。見た技もあった。タツくんが披露した三段突きだ。その姿は、いまも――……変わらず私の胸を高鳴らせる。憧れと羨望。
そうだ。
「それは――!」
シロくんが、カゲくんが。クラスのみんなが刀を手に戦っている。
みんなが私を守るため、その力を発揮するために戦っている。
見守る先輩たちは歯がゆそうだ。もっとこうして、ああして、と願っているのが露骨にわかるくらい顔に出ている。
その中にはコナちゃん先輩がいて。ただ手を合わせて祈っていた。
隣にはカナタがいるのに。私を思って祈っていた。
……カナタは、ずっと私を見ている。天守閣を真っ直ぐ見ている。視線を感じるの。早く来い、と。お前ならできるはずだ、と。信じてくれているんだ。
みんながいるの。そこにすべてがあるの。
見ているだけなんていやだ。守られているばかりはいやだ。絶対に、いやだ。だって。
「ここにある! 仲間も、恋も! 青春がここに、全部あるの!」
全身にみなぎる力は尾にして九つ。
いいや、だめだ。それじゃ足りない。
鎖をちぎり、かみちぎって、刀を抜き放つ。
「憧れは既にこの手に!」
刀身を手で掴み、
『よいのか? ……本当に』
当然、と笑って根元から殻を掴んで引きはがす!
「大神狐タマちゃん!」
真の姿を露わにして、心臓に突き刺した瞬間に尻尾が根元から弾けて消えた。
身体中に力が溢れてくる。だから、ニナ先生が捕縛の術を使おうと。
「最強はこの手に掴んでる! そうでしょ?」
さらにもう一振りの刀を引き抜いて、私を捕まえようとする未来を断ち切り叫ぶ!
「十兵衞!」
『うむ!』
改心、という声だった。
視界の端に見えたディスプレイでは、ユウジンくんが最後の鎖を破壊し終えたところだった。
なら、もう……いかないとね。
「ニナ先生! 思いは口に出さないと形にならないですからね!」
「えっ――」
「ライオン先生、多分すっごい奥手だから、もっと押してもいいと思います! じゃ!」
走りだす。ただ、前へ。だって、だって。
「あ、ちょっと、危なっ――」
ニナ先生の声だって待っていられない。
空に躍り出た私の足は確かに空間を踏みしめていた。
当然だ。できる。できるさ。タマちゃんだもの。私の憧れにできないことなんてありはしない!
『いい? ハル。ようく覚えておきなさい。刀を信じる、自分を信じる心が力になるの』
わかる、わかるよ。コナちゃん先輩。
『だから慢心してはだめ。ただ信じるだけではだめ。意味を与えて、形に変えて、大事に、一途に信じなさい』
うん。この前みたいな失敗はもうしない。
「みんな! お待たせ!」
叫びながら神社へと駆けていく。
何人かが見上げて声をあげた。
「あいつパンツ丸見えだ!」
「はっ!? ふぉあっ!?」
踏めるはずの空間がなくて、地面に真っ逆さまでした。
なんとか着地したら、ユウジンくんが駆けつけたところでした。
心の底からおかしそうに笑って、その刀を抜くんです。
「おもろいね。あれほどの啖呵を切って、全能感に包まれて……なのにパンツ一つで墜落とは。きみ、ほんま……あほやわ」
「う、ううっ」
赤面しながら十兵衞を構える私です。
奇しくもカナタとコナちゃん先輩がいる長屋の前でした。
視界の端でコナちゃん先輩が眉間の皺を必死に揉んでいたし、カナタは目元を手で覆っています。う、うう! 締まらなくてすみませんね!
「自分……尻尾ないね」
「なくても強いよ」
「わかるよ。でも……うちも強いよ?」
唇の端をつり上げて笑うユウジンくんの人差し指が私に向けられた。
すぐ、
「逃げなさい!」「隠れろ!」
私の刀鍛冶二人が叫ぶ。けれど、私は前へと走る。
ユウジンくんの指が五芒星を描く。
「ほんまにえらいお狐はんか、試したるわ」
すぐに続く呪文を唱える声。
ユウジンくんからおびただしい霊子が放たれた。それはもう、膜というか、壁というか。もうね、そのまま五月の特別課外活動の再現だった。
だからこそ。
「いくよ! タマちゃん、十兵衞!」
『おう!』『もちろんじゃ!』
二人の念に笑って、そして見据える。
膜は大きい。壁だから通り抜けられない。でも、一斉に放出されるからこそ、どれだけ丁寧にやってもほころびが出る――はず!
あとはもう、十兵衞の力を信じて刀を振るうだけだ。
それは或いは愚かな前進かもしれない。
「ハル!」「無茶な真似を!」
だって、ほら。相棒二人が心配してる。ハラハラしている。
なのに――……ああ、二人とも笑っている。だから、大丈夫。
信じてくれるから、それが力になる。
活路を切り開くのは、私の最強。
行くべき未来を知らせてくれるのは、私の最強。
それをなすべき身体を与えてくれるのは、私の憧れ。
一途に信じ、私を思ってくれる、力を与えてくれる、私の憧れ。
だから、こんなの!
「切り抜けられないわけがない!」
最後の壁を切り裂いて、渾身の一撃を振るった。
ユウジンくんが咄嗟に構えた刀を切り払い、かちあげられた腕で全力で振り下ろす。
取った、と思った。
だけど、
「やらせん!」「あんたに、だけは!」
立浪くんと鹿野さんに防がれた。
割り込んできた二人は満身創痍だった。立浪くんは刀傷だらけ。鹿野さんにいたっては身体に二本の雷切が刺さっている。
にも関わらず私の刀を防いでいる。
それだけじゃない、押し返された。無防備になる私は真実、絶体絶命で。
二人の手が私へとのびる。けれど、それを吹き飛ばして、蹴り飛ばして――疾風と共に現われたのはギンであり、トモだった。二人もまた傷だらけで立っているのもやっと、そう一目でわかる状態なのに。
「悪い」「邪魔を入れた!」
二人揃って背中があんまりにもかっこよくて、目に涙が浮かんだ。
けど、だめだ。泣いてる場合じゃない。
「しゃらくさいわ!」
刀を振るったユウジンくんの霊子の波に私はなんとか耐えられた。けどギンもトモも傷つきすぎて無理だった。
だから放たれた突きを受け止める手しかなくて――……そう、
「やらせんよ」
刀は既になく、けれど誠の字を背中に描いた姿でタツくんが突きを手で受け止めていた。
「無茶をしよる!」
「……これが俺の武士道だ。レオ!」
その呼びかけに声ではなく、刀で応えるのがレオくんだった。
脇から躍り出た彼を見てユウジンくんがさっと刀を引いて避ける。けれど、
「縛! 縛! 縛!」
「くっ」「ぐうっ」
ニナ先生がやったのと寸分違わず同じ術を放ってタツくんとレオくんを封じ込めてしまった。
助けに入ろうとする私に、星蘭の人が一人、また一人背後から出てきて襲いかかってくる。
「邪魔しいな! うちの戦いや!」
「あほぬかせ!」「あんたはうちらの真の大将や!」「やらせるわけにいくかいな!」
ユウジンくんに怒鳴り返すみんな、傷ついていた。刀傷がはっきり身体に出ている。
なのに、ただ一途に、ああ――……健気に、勝利のためにではなく。ユウジンくんのために立ち向かってくる。
無理だ。こんなの、切れない。切りたくない。こんな人たちを馬鹿にした戦いをしたことが、あまりにつらい。
間近に迫る鬼の拳を見上げる。迫り来る拳はけれど、水の球ではじき飛ばされた。
「抜けば玉散る――……青澄さん。だめだよ、折れない心がキミの魂の名なんだろう?」
狛火野くんの言葉に目を見開いた。
刀を握る手に力を込める、けれど遅い。あまりにも、遅すぎた。
駆け寄ってきた巨大な牛頭が鉈みたいな歪な刀を振り下ろそうとする。
それを、
「くっ……!」「でかさで、負けるか!」「いいパンツ見れたからな! 負けられねえ!」
岡島くんが、神居くんが、茨くんが三人でなんとか受け止める。
影から躍り出た馬頭の蹴りを、
「やらせねえよ!」
カゲくんが刀で払い上げた。
がら空きになった相手に駆けつけた井之頭くんが迫る。
すぐ私の周囲を犬6と残念3のみんなが囲んだ。
「わりい、ハル! 遅くなった! シロがのびちまって、てまどっちまった!」
シロくん……!
「なんや、ぎょーさんおるな。うちも、自分とこも」
ユウジンくんの呆れた声にふり返る。
「けどわやくちゃなんも含めて、ここまでくると……いっそ楽しいわ」
ふうう、と息を吐いた彼から感じる迫力が増していく。
「一瞬でケリつけようやないか。あんま……みんなを傷つけたくあらへんし」
「同感……!」
互いに呼吸を合わせる。
見つめ合う時間は有限にして、永遠。
一歩、互いに踏み出して。
二歩、三歩とかけ出して。
四歩、五歩を経て六歩、七歩。
八歩を越えて九歩で全力。
「いくで――ッ」
振るう刀はただ、勝つために?
自分さえよければいい、そんな未来のために?
……いいや、違う。
見据える未来はただ一つ。
見える剣筋は無限。避ける道はなし。絶対に、当たる。ああ、だからこそ。
彼の力の奔流、それがもし――……今を楽しむ魂にあるのなら。
私も永遠に続けていたいけど、でも。
「ふっ」「くっ」
交差し、決着はつく。
互いに駆け抜け、沈黙。
あれだけ騒いで争っていたみんなが無言になった。
刀を振るって、鞘におさめたのは――……ユウジンくん。
ぷつん、と私のスカートが僅かに切れました。
私は目を閉じて、そっと刀をしまいます。
直後、鎖が弾けてタツくんとレオくんが解放される。
そして――。
「ユウジン!」「嘘や!」
膝をついたのは、ユウジンくんだった。
「……ずるいな、その刀」
「ごめんね。でも、勝敗は一寸の差で決まるの。ずっと楽しみたいけど……今日はここまで」
「せやね……したら、うちの負けやわ。ただ」
こほん、と咳払いをしたユウジンくんがきょろきょろと見渡して、結果を確認しに来たライオン先生とカメラやマイクを手にした生徒たちに笑顔で言った。
「あの子うつしたって、勝者やし。それにおいしいもんが撮れるで」
「へ?」
きょとんとした私の前で、ユウジンくんがぱんと拍手した。
そのささやかな振動がきっかけなのか、それとも何かの術なのか。
下半身がすっと涼しくなったの。
「えっ」
「「「「「 おおおお! 」」」」」
なぜ男の子達が前のめりに? と思った時にはコナちゃん先輩に飛びつかれて腰にジャケットを身に付けさせられていました。
「おばか! スカート斬られてるじゃないの!」
「へ?」
足下を見下ろしたら……地面にあったよね、スカート。
「締まらない結果やけど……あははは! なんや楽しいわ」
悪戯っぽく笑うユウジンくんには敵わないなあと思ってしまいました。
「勝者! 士道誠心学院高等部一年!」
緩んだ空気をライオン先生が締めくくって、私たちの交流戦は終わったのです。
「……まったく、お前は。露出狂か?」
「ち、ちがうよ!」
呆れた顔で近づいてくるカナタですが、その頬は赤かったです。
「……見たの?」
「なにをだ」
「……パンツ」
「斬られたことに気づいていながら、どこが斬られたのか把握していないところはまだまだだ」
「あーっ! ごまかしたー!」
しかもニヒルな笑顔での年上のノリで! ずるい! 似合ってるけど! だからずるい!
「ごまかしていない。まだまだ精進が足りないと言っているだけだ」
「ぐぬぬ」
「だが、まあ……よくやった。次は俺たちの番だ、見ていてくれ」
「う……うん」
頭を軽く撫でて歩き出す背中を半目で見る。
……もう。ずるいなあ。これだけのことに喜んじゃう私も私ですごくちょろい。
「こら。気を抜いてないで、一年生の負傷者の搬送に手を貸してちょうだい」
「あっ、はい!」
慌ててコナちゃん先輩に返事をしたら、
「わぷっ」
「……はあ」
抱き締められて、しかもため息を吐かれました。なぜに?
「こ、コナちゃん先輩?」
「……無事に帰ってきてくれてよかった。まあある意味無事ではないけれども。聞くところによれば下着姿で徘徊してたこともあるみたいだし今更よね」
「それは忘れてくだせえ! お願いしますだ! なにとぞ、なにとぞ……!」
「……あなたってほんと残念。でも、まあ」
「いひゃいへふ!」
ほっぺたを伸ばされまくるので抗議の声をあげたら……コナちゃん先輩はすごくすっきりした笑顔で私を見つめてた。
「かっこよかったわよ。悔しいくらい……かっこよかった」
「コナちゃん先輩……っ!」
「最後を除いて、だけどね?」
「それはもう忘れてくださいよ!」
笑いながらもほっぺたを離してくれたコナちゃん先輩についていって、着替えをして。
みんなを治療班の待機する場所に連れて行ってばたばたしてやっとひと息ついた頃に、二年生の試合が始まったのです。
つづく。




