第八百四十三話
ゲネプロの取材をするということは、いち早く中身を見てしまうということ。
ネタバレはお嫌いですか? 理華はものによりますね。
たとえば答えは二だよと言われて、一足す一は? なんて振られても「で?」となるわけで。答えは十だよと言われて、なにとなにを足すのか答えるのか問われても「いやでも答えは十なんでしょ? それでよくない?」と思っていた時期がありました。
視点を変えればこれって結構深くて、たとえば恋愛映画の場合はハッピーになるかアンハッピーになるかの二択が割合としては多めですよね。それ以外の結末になる映画は、話題になるタイトルほどすくないですよね。となったとき「ハッピーエンドだから大丈夫」って言われても「あ、そっちのパターンね」となるだけ。見たいのはハッピーエンドになるための流れの文脈であり、役者さんの演技や劇伴、映像もすべて込み込みの演出による刺激。
むしろ結末が予想できるように流れを作っているし、台詞もすべてが恣意的だし、けれど予想させて裏切って心地よく思わせるように流れが作り込まれているのがエンタメ映画であり、ハリウッドの文法なのかなあという印象が強いです。
他民族かつ大勢の人が住んでいる合衆国がホームグラウンド? 幅広い年齢層や価値観の人にも届けることを主眼とするのだとしたら、むしろなんじゃこりゃって作り方じゃ受けないですよね。
アクション映画で「怖いよ」って言われても「敵がやばいの? それかスプラッタなシーンでもあるの?」となるけれど、それがたとえば「襲われた主役が元特殊部隊の出で」とか「その筋で伝説になった暗殺者で」っていうだけで「主人公の活躍がやばすぎて怖いのね」と理解して、俄然楽しみになっちゃうタイプですよ。理華は。
なにせどんな手で主人公が怖がらせてくれるのかに集中できるので。
けれど事前の情報がまったくなくて、まっさらな状態で予想さえもすべて楽しみたいというタイプの方が意外と多いんですかね? それともネットで発言する層に多いだけで、一般の人はそうでもない? 場合によるかなあ。リサーチしていないだけとも言えるかも。
みなさんはどうです?
振りが曖昧すぎるかな。
楽しみにしているライブの内訳、知りたいですか?
この問いかけの場合の理華の答えはシンプル。
断じてノー!
知りたいけれど、当日に驚きを楽しみたい派です!
さっきと言っていること真逆ですね? そんなもんです。私はわがままな小悪魔なので。
撮影前に明坂メンバーに挨拶に伺うんですが、頭の中はできれば当日の情報は頭の片隅に追いやりつつ、取材でいかにして爪痕を残そうかということ。
そして当然もちろんばっちりがっつり、教授対策もしますよ。さきほどスマホでちょちょっと連絡もしました。始動中です。
正直、集中しているので余計な茶々はごめんなのですが。
「立沢、聞きなさい。正座で」
お姉さまとやらは尊大な態度で命じてきやがりました。
断れる雰囲気じゃありません。
なにせござまで敷いて、メンバー全員が正座で上座のお姉さまに向かっているわけですから。
座布団が敷いてあるのがせめてもの救いですかね。なぜに和のテイストにこだわるのかわかりませんけどね。
お姉さまの前に律儀に三つ、座布団が並んでいます。なにが気まずいって、メンバーの前なんですよね。言うなれば最前列。
ちょこんと右側の座布団に正座している聖歌は、つま先を何度も動かしていました。痺れているのかもしれません。
美華に促されるままに座布団へ。中央は御免こうむりたいけれど、美華に左端を取られて渋々中央に腰を下ろします。正座は苦じゃないタイプですよ。小生意気な私ですけどね。
「まずは到着が遅くなり、誠に申し訳ございませんでした」
「それはいいの。いま進めていることについて、三つ要求があるだけ」
なにもかもお見通しにも程がないか? なんでもありか? ありか。神さまや妖怪連中にも一目置かれるどころじゃなく、相当重用されているような気配がある。
実際、指輪の御霊からも噂は聞いている。天使であり悪魔でもあり、さらには魔道王でもある彼すら、彼女には慎重に対処せざるを得ない時点でおっかねえんです。
「ひとつめ。BPMは百九十、百二十八、九十六で組み立てて」
いきなりBPMとか。なにに例えたいのかは想像できるけれど、予想外の注文でビビるし、身体中の毛穴がぶわっと広がったような気がした。
「ふたつめ。メジャーで組み立てて。マイナーなのはダメ」
作戦を楽曲で例えてくる?
教授対策の話だ。これは。
虐げるなということ?
バッドエンドはなしってことか。
「みっつめ。あなたなら伴侶にどんなことを求めるか。テーマはそれで統一して」
テーマさえ指定してくるか。
たくさんある。日本の歌、それこそ歌謡曲の時代から。
私の狭い知識じゃ関白宣言から始まっていて調べればきっと並べたらきりないくらいあるだろうことは想像に難くない。
「答え合わせは結末のすがすがしさでわかるから必要ない。そうね?」
射貫かれる。赤く染まっている瞳なら、いくらでも彼女の神秘性を吸血鬼に求められるのに。
黒い。ただの人間の瞳で私を捉えている。
どこまでいっても人は人。
どれほど途方もなく信奉されようと、怪異を軽くねじ伏せられる力を得ようと、彼女はどこまでも人でしかなく。故に不完全なところがあり、対処できるだけの年月を重ねてなお生じるであろう未熟と真摯に向きあい続けている人。
彼女にもあるのだろう。そのときどきで、自分に似合う歌が。
春灯ちゃんも、春灯ちゃんの歌に詞をつけるツバキちゃんにもきっとあるのだろう。
思わず我ながら神妙な顔をして頷いた。
ハッピーエンドを求めて、そのための文脈を私なりに描いてみせろというのだ。
ネタバレ当然。当たり前。
ゴールを見定めなきゃ、道筋を決められない。
不安定な要素はひとえに敵にかかってる? ううん。そんなことはない。
身内のしょうもないミスでひどい結果になる味方も敵も出てくる映画がごまんとある。
人間は不完全なもの。だからこそ、それを想定した上で組み立てていく。
そんなもんだ。
「じゃ次は別口。美華と三人でアイドル――……ではなく」
ん? あれ? 話は終わりではなく? しかも待って。アイドルではなくって仰いました?
「アイドルからもっとそれぞれのスキルに添って特化したアーティストになってもらう。明坂のテストケースとしてね」
「「「 えっと? 」」」
意外や意外、私よりも先について待っていた聖歌すら、右手でつまさきを撫でながらハモってきた。けどびびるさ。そりゃそうさ。寝耳に水だ。
想定はしていたけど。いまここで言うことか? 美華もいるんだぞ。パフォーマンスを示す美華も。ゲネプロでリハする美華も!
「理華には彼氏が現在進行形でいて、聖歌には過去派手に遊んでいた過去がある。漫画ならむしろトラブル上等で大ありだけど、現実としていまだに処女性を求められるアイドルにさせられるかっていったら……ねえ?」
ねえって言われちゃうと。ええ。もう。至極ごもっとも!
させられるはずがない。
火種にしかならないし。
美華を除けば明坂でなきゃいけない理由も、ぶっちゃけないのだし。
そう。問題は美華だけなんですが。
「もちろん美華には問題がないから両方に在籍してもらいます」
これでクリアされちゃう。明坂にとって美華を追い出す必要性など皆無なのだから。
新米の私と聖歌のポジションを新米として扱うのも、なんの違和感もない。
逆に言えば、私と聖歌の売り出し方が弱まると言うことでもある?
考えようかな。
明坂肝いりの新規トリオとなると、後ろ盾がついていることには変わりないから。
あとは私と聖歌の仕事次第となる。もちろんプロモだのばんばん仕掛けてもらわないと、あっさり埋もれて消えるのが関の山だろうけど。
はっきりしているから、わかりやすくていい。
そうは言ってもどうせみんな影でこっそりヤることヤってんだろ? だの、付き合ってるんでしょ? だの、妄想の余地は多い。ただ実際に明坂のメンバーを見ちゃったあとだとね。
裏表あるだろう人さえもお姉さま一筋! 感が半端じゃないから。敢えて裏切る手に出れる人はどれだけいるのやら。
「三名とは別でライバルも用意する予定。それは楽しみにしてもらうとして」
さらっというな。
「だからいまを全力で生きて。過去が露わになっても全力で示す。あなたたちを手放す気もない。そして取材では――……理華、あなたがようく舵を切りなさい。美華と聖歌はいつもどおりでいいからね。さ、行きなさい」
えー。えー! まじでそれで追い出されるの!?
美華に腕を組まれて引っぱられた。
待て。こいつ全然動揺してねえ。聖歌は足がしびれて四つん這いでついてくるけど、放置しやがって。さっきの「え」はなんだったんだ。嘘か? 嘘なのか!?
先に控え室から通路に私を出して、聖歌をカバーしに行く。いや順序逆だろと思いつつも、スマホを出した。頭の中じゃ同時進行で作戦立案中なので。
音楽ガチ勢ほど洋楽に傾倒? ううん。ハッピーエンドの中身を考えろ。
おとぎ話なら? みんな幸せになりましたが着地点。わかりやすくしなきゃあ、届かない。
英語ってだけで拒絶反応を示す人もいますからね。身内を混乱させちゃ、教授には届かない。
悪魔になって教授のゲスい手を読み切る。
そのうえで、天使になって引き上げる。
悪役のほうが正直似合いだ。
破滅させていいなら、そっちのほうが楽。
殺せばいい。社会的に抹殺すればいい。そっちのほうが、ずっと楽。
爆弾を体に巻き付けて、スイッチ片手に群衆に突っ込む方がわかりやすい。
けどそれじゃ救われない。
ハッピーエンドにそんな展開、あり得ない。
過程がださかろうが、アホだろうが、おばかだろうがおまぬけだろうが、ノリと勢いで絶対に掴んじゃえ! そんな春灯ちゃんのやり方は、ある意味じゃ筋が通ってますね。それにしたって野放図すぎるだろと思うことも多いですけども。
スマホの通知を情報として脳に入力する。
『教授の魔法にかかった住民多数保護。沢城&佳村ペアにより引き続き周辺の索敵および解除行動を続ける』
『トライスター、警備本部に合流。魔力の反応を引き続きユニスにより探索中』
多くのログが流れているが、大事なのはこのふたつ。
ユニス先輩は教授を魔力で圧倒した。強弱でいえば間違いなくユニス先輩に軍配があがる。
けれど老獪なる教授はからめ手が得意なようで、付近に魔力の反応を確認しても、どこにいるのかを未だに見つけ出せずにいる。
正直、あまり期待はしていない。
別にいい。こちらが彼を警戒していて、雑兵程度じゃ彼は目的を達成できないと知らせるだけで。こちらの警備体制が盤石だと知らせれば、向こうも対処する必要が生じる。
事前にあちらがこちらの警備体制のレベルを予測した上でプランを練っていれば、そろそろなにかしらの反応が出てきてもおかしくないころだが、未だ反応なし。
予想よりも出足が鈍い。
そこになにかの因果が眠っている気がする。
『因果を探る術を使いたいところだがな』
はいはい。過保護ですね。
でもあいにくと無理なんですよね。本人に術をかける必要があるので、教授を見つけない限り理華は因果応報を使えないんです。
なのでそれは見つけてからにするとして。
出足が鈍い理由。
なにがあり得るのか。
一。単純に教授の作戦立案および実行能力が予想よりも低い。
二。思い浮かぶだけの余力が彼にはない。
仮にこのふたつの方向性を敷いたとき、どちらがより可能性が高い?
士道誠心を襲撃した手並みはたいしたものだという印象がある。理華が夜中、指輪に連れられて真夜中の山中で目撃した戦いの前に、教授は春灯ちゃんを攫ってみせたという。あの日の彼の狙いはシンプルに、春灯ちゃんの力を通じて救われることにあった。
己の育ちすぎて手の施しようのない欲望こと、黒い御珠を春灯ちゃんに浄化させ、生を求めた。
彼のすべてが記されたきもい本を読んだときの記憶を掘り返してみると、ただの愚か者という印象はないかな。
最低最悪のクソ野郎なのは間違いないけれど、分析されているサイコパスらでさえ環境的要因が与える精神の形成の経路に、ある程度の理解ができる要素があったりする。共感はできないし、許せないとしてもね。
彼も同じ。
観光客を攫って麻薬漬けにして娼婦にするビジネスも、子供に銃器や爆薬の扱いを覚えさせて兵士として扱う紛争地域にも、貧困な子供たちを集めて富裕層に寄付を募りながらも一方でポルノに消費させる地域にも、より醜悪な形で社会的に喘ぐ人々を利用する地域にも、世界的に需要の高いものを手に入れるための肉体労働に子供を酷使する地域にも、もちろん戦争地帯にも迷わず飛び込んでいく。
そういう世界の悪辣さを世に訴えるなどという使命など、彼は持ち合わせていない。
楽しむために行くのだ。彼は。
マフィアや非合法な団体にも顔が利くだろう。
クロリンネが目的を達成するために必要な暗部があったとして、教授の存在感は相当に大きかったはずだ。
麻薬を取り扱う組織を調べるために潜入して麻薬を使わざるを得ない捜査官と組織ならまだしもね。
教授はあちこちで手配されるだけの理由がある人。
クレイジー方面に切れるやばい奴? 理性はぶっ飛んでいて、およそ計画的とは程遠い人物?
そうは思えない。別にクレイジーじゃないとは思わない。あいつこそクレイジーな奴だ。
けど、それにしちゃあ――……私の予想を超えてこないところに、彼の根源的な問題が眠っているような気がしてならない。
仮定してみよう。
死から死へ乗り移る彼の魂は既に限界寸前であると。
彼がそれこそなんでもやらかせるほどの脅威ならば、明坂ミコとて私に任せはするまい。
けれど、彼女は私に任せた。なんなら私の作戦に口出しをしてきた。まさに今日明日あたりが山場だろうとみているし、私が想像していることは彼女にも想像できるはず。いままさに進行形の作戦に口出しして、しかもできるだろうと煽ってもきた。
良くも悪くも私がなんとでもできるラインなのだ。これは。
なら一層、仮定は真実みを増すのではなかろうか。
そもそも彼はなぜ、青澄春灯に執着する?
「理華、いこ……って、顔赤いけどだいじょうぶ?」
完全に足が痺れているのかぴくぴく悶える聖歌を背負った美華が出てきた。頭が熱い。フル回転中だ。いい傾向だけど、できれば辿り着く前に一区切りつけたい。
美華に頷いて歩きだしながらも思考を進める。
彼は青澄春灯に黒い御珠を押しつけた。
己の欲望だ。
なら、彼の欲望とはなにか。
死体を操り、死体へと乗り移って生き長らえる。
その力の方向性は、むしろ考えてみるまでもなくわかりやすい。
死にたくない。生きたい。そこに尽きるだろう。
そしてそれを春灯ちゃんに押しつけた。飲みこませようとした。注ごうとした。
平素なら嫌悪感できもさの百乗状態で思考放棄したいネタだけど、いまはストレススイッチをオフにして進める。
男のやり方。彼がもし限界状態で、かつそういう行動を迷わず取ったというのなら?
彼のルーツはいつ頃か。いずれにせよ、男がそういうやり方をするのが当たり前だった時代なのではなかろうか。
それは飛躍している気がするが――……待て。
『片隅の記憶を引き出そうか?』
必要ない。あのノートの内容よりも、触れた手触りで思いだす。
時代は変わる。価値観も変化する。
人を使役するのが当然だった時代がある。売り買いするのが罪でなかった時代がある。いまでこそ国際的に禁止という風潮が浸透しているとして、それでも犯罪は起きているけれど。昔と価値観が同じわけじゃない。
例えば――……そうだなあ。西に敵がいる。武器を持て。殺せ。奪え。女は犯せ。子を作れ。集団を形成する人数を増やして、強大な組織になっていく。
そういう時代もあったろうし。そういう時代の悲劇はいまとはまた違った内容で、だけど同じように陰惨ないし回避不能なものだったのかもしれない。
時代に応じて自分を適応させていく。
明坂ミコは努めている。
なら、彼は?
時代に取り残されて、理解できる悪徳にしか救いを求められず、けれど救われることもなく。
万能な聖者像を春灯ちゃんに夢見て、己の欲望を浄化してもらおうと願う哀れな男だとしたら――……。
「見えた」
「「 なにが? 」」
きょとんとするふたりに笑ってみせながらも、呼吸を繰り返す。
久々に頭をフルで使った。
すべて仮定だし、エビデンス――……要するに証拠や根拠、証言や形跡を示す資料はすでに失われてしまっているけれど。
罪人が必死に救いを求めている。
そういう風にしか生きられない男が。
恐らくは、暴力やテロ行為に似た犯罪行為で迫ってくるしか能のない男が。
ライブを通して観客の夢と欲望を刺激しまくる予定の春灯ちゃんに、救いを求めている。
いっそ哀れにも思う。
万が一どころか確率はゼロってレベルで、春灯ちゃんが教授を受け入れることはあり得ない。
けれど、それでももし仮に春灯ちゃんが教授を受け入れたとして、教授が救われることはない。まずあり得ない。むしろ強い拒絶感や孤独を感じて終わるだろう。
それが哀れ。
彼は世界を見ているようで、自分しか見えていないし。
そういう人ほど、その事実に気づけないものだから。
別に彼だけに限ったことじゃなくて、常に自戒もこめて考えていることでもあるけれど。
なんでもかんでも足りない理由を世界に押しつけて、自分を変えるほどまで考えられずにいる。
それってすっごく楽だし。それで済むならそれでいいじゃないとも思う。
世界が狂っても、そういう生き方じゃどうしようもないですけどね。世界に関わる影響度を視野に入れていないのだから、対処のしようもないし。すべてひとごとじゃあね。
教授の場合、理解できるのは悪徳だけ。共感できるのも悪徳だけ。
たぶん、春灯ちゃんなら絶対に救えるはずだと思っていたんだろうし。それも失敗したいまとなっては、春灯ちゃんの御珠をどうにかして奪って、それを使ってなんとか助かろうと考えているんじゃなかろうか。
浅はかなり!
『理華がその気になったらだいたい全体像が見えたわけだろ? だったらもっと前に考えて対処しておけば万全だったんじゃないか?』
瑠衣のことを考えるので忙しかったんです!
『恋する乙女か』
恋する乙女ですよ! なにか問題でも!?
『あ、ありませんけど』
必要に迫られなきゃやりませんよ! あのゲス野郎に時間を割くなんて!
『ダダ漏れだぞ。悪意が』
いやだってさあ。
まず自分でしょうよ。
自分を救えるのは。
いつだってまず、自分でしょうよ。
『――……まあ、なあ』
もっと言うとね?
自分を救おうとして駄目なときに周囲の力を借りることは全然はずかしいことじゃないんですよ。
なんなら社会制度だってあればガンガン頼るべきです。
それがない国に生まれたら、そりゃあもう。大変ですよ。大変です。
だからこそ、逆にあるなら頼っちゃえって話ですよ。
日本に潜伏してるんでしょ?
アメリカにも行けるわけでしょ?
カウンセラーもいるわけでしょ?
金に困っている気配はないし。
だったら使って、ちゃんと自分を生かすために使えばいいだろうに。
迷い方がえげつない。
ミコさんと比べるべくもないこじらせ野郎だ。
そんな男が、なんなら殺意込みで春灯ちゃんを狙ってくるんでしょ?
考えたくないけど考えるさ。
そしてそんな奴だからこそ普段は考えたくないのさ。
けど、そうも言っていられないのでね。
渋めのテイストで相手をえげつなくかっこよく描く作品も、映画を探せばありそうですが。
許しませんよ?
そういうの。
お前ら俺を助けろよなんて言うまえに、まずお前はお前を助けるためにどうしたよっていう話で。それを聞いてどうすっかなあって一緒に考えることはできてもね。助けを求めるときにマウントとってんじゃねえよって話で。
それでも春灯ちゃんに私の考えを伝えたら、放っておかないんだろうなあって思うからさ?
なにせ春灯ちゃんは超がつくほどのお人好しだし、いい人だし。
だけど別に聖人でもねえから、普通にストレス抱えるし。それじゃライブに影響出ちゃうかもしれないし。
彼女が傷つく結果になんか、ぜったいにしない。
なにせ明日はライブなのだから。
私も他のファンもめちゃめちゃ楽しみにしているライブなのだから!
やっぱ私やみんなでなんとかしねえといけねえんです。
彼にもその気になってもらわなきゃ困るわけで。何十年、何百年とこじらせてきただろう彼を説き伏せることは土台無理だろうし?
手があるとしたら、なんですかね。
神さまがいても助けてはくれねえんです。
妖怪だの幽霊だの、現世の私らからしてみれば相当やばい力を持った存在が内に宿っても、彼らが助けてくれるわけじゃねえんです。
私たちがどうするのか。そこが問題なんですよ。
けど――……教授は力を使い続けている。御霊を宿したままで、ずっと昔から。
なら、どうする?
あなたなら――……誰にどんな助けを求めますか?
理華なら答えはひとつかな。
ネタバレをします。
「ちょっとスマホで連絡を」
「早くしてよ? すぐ合流だから」
はいはいと笑って答えながらも、メッセージアプリで緋迎先輩にメッセージを打ちました。
内容はシンプルに。
『先輩。地獄に行って教授の御霊と話してきてもらえません? 教授対策に使える情報収集を、可能な限り迅速にお願いしたいんです』
以上、立沢理華でした。
つづく!




