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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第八章 五月の病

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第七十二話

 



 五月の特別課外活動はゴールデンウィーク明けなんだって。

 会社いきたくないー、学校いやだー、休み終わるのマジだるいーみたいな邪が大量に出るらしいですよ。気持ちはわかる。私もいやです。

 さて、みなさん。ゴールデンウィーク明け、ということは当然その前にゴールデンウィークがあるわけですよ。

 お休みです! お休みなんです! きゃっほう! ……すみません、我を忘れました。

 なんかね? 私の学校生活、なかなかに激しかったと思うんです。

 四月濃厚すぎじゃね? 説ですよ。

 なのでひと息ついて休みたくていただきました、外出許可!

 刀を持ち帰ることはできないけど、御霊は私と一緒にお外に行けるそうです。おかげで狐耳と尻尾を生やした私は好奇の視線を浴びながら実家に一時帰宅。

 それも……一人じゃありません。


「ただいまぁ!」

「お邪魔します」「エンジェぅの実家……!」


 お聞きいただけましたか? カナタとツバキちゃんが同伴してるんです。

 いや、違うの。説明させて。別に彼氏ができたぜひゃっほほう、どうだ弟よ、姉を見直すがいい! ってやりたいわけでは……やりたい、わけでは……こほん。

 それはさておき。

 出発前日、トモやノンちゃんと連絡先を交換してほくほく顔で寮のお部屋に戻ったらね?

 カナタとツバキちゃんが二人揃って私の日記を片手に盛り上がっててさ。ゴールデンウィークは二人で語り合うとか言い出すからさ。

 帰らないの? って聞いたら「どこに?」って二人して顔を見合わせるんだもん。

 カナタが家に帰りたくない理由はシュウさんだろうし、それはいいけど。

 ツバキちゃんはどうなのよって聞いたらね?


「実家、いや。お兄ちゃん、うるさい。エンジェぅのアンチ……」


 まじで。私のアンチいるの? 別に有名人でもなんでもないですよ。


「エンジェぅの新垢に突っ込んでた」

「え」


 ぱっと思い浮かんだのは、学校に気づかないことにツッコミを入れてくれた人だ。あまりに的確すぎて私の心が耐えきれそうになくてブロックしたけども。


「お兄ちゃん、人を見抜く力、すごい。けど……エンジェぅのこと、妙にだめ。なんか……病気、こじらせる原因って、いう」


 それはそのう……。ツバキちゃんが私のこと好きすぎるせいだからでは?

 お兄さんの指摘は間違いどころか大正解だし、普通の人として正しい反応だと思うの。


「……やだ。エンジェぅのこと、すき」


 きゅうううんと撃ち抜かれた私は気づいたらあたしん家に来ないかって誘ってました。

 以上、説明終わり。長くてすみません。

 お迎えにやってきたお母さんに、次に二階から降りてきた弟に、そして恐らく最後に晩ご飯にお父さんに説明することになるでしょう。三回も同じ事言うのか。

 なお、私の部屋に二人を入れて飲み物を取りにいくと、


「うわやべっ、超かわいいんですけど。姉ちゃん、あの子なんていうの?」


 弟がツバキちゃんにメロメロになってました。弟よ……。


「トーヤ、ばかいってないでアンタこれ持ってって」


 麦茶のペットボトルを渡して背中を蹴ると、いってえなとぶつくさ文句を言いながらも駆け足でのぼっていったよ。ツバキちゃんの真実は……よそう。まだ弟には早すぎる。


「学校はどう?」


 お母さんの質問に私は待ってましたとどや顔で口を開きます。


「凄い大変なの! それがさ、凄いところで! あのね、刀が――あれ?」


 人差し指を私に突きつけるの。黙れ、そして聞けのポーズです。


「あんたまさかそれ知らないで入ったとか言わないわよね? あんなに勉強したのに、まさか知らなかったなんて……言わないわよね? そんな尻尾まで生やして、まさか、ねえ?」

「おぅ……」


 お母さんの「え、やだうちの子もしかしてばか?」って顔に耐えきれなくて「し、知ってたよ?」と震え声で言う私です。ぐうの音も出ないよ。

 コップと、お母さんが出してくれたお菓子を持って部屋へ戻ると弟がツバキちゃんにデレデレしてたので摘まんで廊下に放り出しました。まったくもう……。


「弟さん、元気だな」「優しい、子……」

「ああ、トーヤ? 小学生の割りにませてるっていうか」


 カナタとツバキちゃんの言葉になんともいえない気持ちで頷く私です。ツバキちゃんが目当てだなんて言いにくい……。


 ◆


 晩ご飯は大変でした。

 ツバキちゃんを美少女だと信じて疑わない弟と父は放置。むしろ問題はお母さん。


「カナタくんは長男かしら」

「いえ、兄と妹がおります」

「そう! 緋迎って、もしかして?」

「……ご存じなら、その通りかと」

「やだー! そうなの? シュウさんの弟さんなんだ! テレビでいつも見てるわよー!」


 ……はしゃいでいる。確かにカナタはイケメンだけど、それ以外の理由ではしゃいでいる。

 あとテレビにシュウさん出てるんだ。つくづく私の世間を見る目はあまあまです……。


「お兄さんとはまた違う美形ね。ちなみに……春灯の彼氏、でいいの?」

「お母さん!」

「やだわ大事なことじゃない! で、どうなの?」

「告白はさせていただきました」

「まああああああ!」


 ……ほんと死にたい。かつてないハイテンションなんですけど。娘が入試に合格した時よりもハイテンションなんですけど。


「まさか、まさか……こんな日が来るなんて!」


 涙ぐまないでもらえますか。


「それで、カナタくんは何年生だったかしら?」

「今年で二年生になります。清い交際をできればと思っております……高校生の身分で真剣に、といってもどれだけ責任があるかはしれませんが」

「まあ……娘は連絡もまともによこさないから初耳なことばかりだわ(ギロリ」


 やべっ。

 律儀にカナタがお母さんの質問に答える。

 でも矢継ぎ早に聞くもんだから、カナタの食が一向に進んでない。

 せっかくピザを頼んでくれたのに、これじゃ冷めちゃうよ。だから私への追求をごまかすためにも口を挟みます。


「お母さん、あとにしてよ。数日は一緒だから、おいおいってことで! ご飯食べよ?」

「今度おうちにご挨拶に」

「お母さん!」

「冗談よ、高校生の交際に親がしゃしゃり出てどうするのってことくらいわかってます。さ、食べましょ」


 とても冗談には思えなかったですけど。

 父と弟はお母さんばりの勢いでツバキちゃんに構ってたけど、そっちはいいよね。っていうか複雑すぎて見ていられませんでした。許してつかあさい。


 ◆


 一階の和室に敷いた布団はカナタ用。

 意外と落ち着いた顔をしてたけど、大丈夫? って声をかけたの。そしたらね?


「君の家の香りは……落ち着く」


 はずかしいことを言うので、おやすみって言って逃げました。

 お部屋に戻るとツバキちゃんが電話を片手に揉めてたの。


「エンジェぅのうちに泊めてもらったの! だから、帰らない! やだ!」


 大丈夫かおろおろしていたら、すっかりしょぼくれて俯いちゃって。

 電話からは声が聞こえてくるけど、ツバキちゃんは涙目になって黙っちゃってて。

 見かねて電話を受け取ったの。


「もしもし、すみません急に代わりまして。青澄春灯と言います」

『……てめえがクレイジーエンジェぅか』


 おふっ。


『てめえみたいなどっちつかずの女に大事な弟は預けられねえ。住所を言え、迎えに行く』


 ひ、久々の純粋な敵意!


「じ、時間も時間ですし、もしよければ本日はお預かりさせていただけないかと」

『お断りだ。トーナメントの途中で入院するてめえに預けて安心できる要素が何一つとしてねえ』


 うぐう。正論すぎて何も言い返せないよ!

 なるほど、ふわふわぽわぽわ一途で可愛いツバキちゃんが押し込まれるのも無理はないよ!


「……って、あれ? トーナメントのこと知ってるんですか?」

『同じ学校の三年だ。口の利き方がなってねえぜ、後輩』

「す、すみません」


 つい謝っちゃった。

 ツバキちゃんが抱きついてきて、涙ぐむの。

 その声が聞こえたのか、ため息が聞こえたよ。


『はあ……一日だけだ。ツバキにそう伝えておいてくれ』

「いいですけど」

『あと、一応……一泊とはいえ、恩義だ。弟をよろしく頼む』


 意外と律儀。しかも誠意が声の端から伝わってくるの。思わず間抜けにはあ、って返事しちゃった。


『弟に変なこと吹き込むなよ』


 しっかり突き刺してから電話はぷちっと切れました。


「ごめ、ごめんなさい……」

「いいって。ツバキちゃんのこと心配してるだけだってわかるから」


 言ってること間違ってないとも思うし。

 ちっちゃな頭を撫でてひと息吐いた。


「寝よっか」

「ん……」


 私から離れて目元を拭うと、床に敷いた布団にもぐるツバキちゃんを見て……それから私は天井を一人見上げました。

 違和感仕事してないからスルーしてたけど。

 冷静に考えて、彼氏が和室で後輩男子が私の部屋っておかしくない? ツバキちゃんが突如として私に襲いかかるとか天地がひっくり返ってもあり得ないのわかるから別にいいけど。

 ツバキちゃんの精神的なジェンダーってどこにあるんだろう……深淵。


 ◆


 真実を知らない弟がきらきらした顔でツバキちゃんを送るというので、任せました。弟よ……真実は私の口から切り出すにはあまりにも重すぎる。許せ。

 そんなわけで翌日の私はといえば部屋でくつろいでたカナタに近所を案内しようとして――階段を転げ落ちました。

 ふと足の感覚がなくなって、次に気づいた時には一階の床に倒れてたの。痛みがないのが不思議で仕方なくて、きょとんとしていたらカナタとお母さんが血相を変えて私を抱き上げて。

 それで……気づいたら病院にいました。あの入院した病院です。

 私に退院許可を出してくれたあのお医者さんが、診察室で言うんです。


「通常しない検査をしてみたところ……少し困った状態であることがわかりました」


 それから何かのゲージが表示されたパソコンの画面を見せてくるの。

 円グラフなんだけど、どの数値もおしなべて低すぎなの。ささやかすぎてグラフにもならない感じ。


「お母さまにわかりやすく説明いたしますと――」


 お医者さんが言うには、人として必要なエネルギーが私には圧倒的に足りてないみたいなの。エネルギーとは、つまり霊子。毎日普通に生活して補充されるべき霊子が私の場合は欠けているみたい。


「玉藻の前と十兵衞を引き当てる彼女が? そんなばかな」


 カナタの言葉にお医者さんが頷いたの。


「何か異常が起きているのはわかるのですが、原因が掴めません。エネルギーが漏れているとしか思えない」


 霊子の漏れるケースから考えられるのは、私の魂……霊格に傷がついている可能性くらい。だけどそれを治療する方法が病院にはないそうです。


「とにかくエネルギーを補充することです。精のつく料理を食べ、体力を使うことをなるべく控えて……何かあったらすぐに来て下さい、急患でも対応しますので必ずご連絡ください」


 自覚症状がないことが危険な状態です、お気を付けてと言われても困る。

 お母さんと私はどうしていいかわからず、カナタが誘導してくれてやっと帰ることができた。

 普通に歩けるし、笑えるし、話せるし。だけど……危ないなんて、そんなのどうすればいいかわからない。


「空狐、自身の闇を吐き出す技……どちらも霊子を使う。仲間はガス欠で済んだが、お前の場合は……」

「ガソリンが、補充されない?」

「そういうことなのかもしれない」


 お部屋で腕を組むカナタの言葉にただただ困る。


「妾たちが中にいるとハルから霊子を奪ってしまうやもしれんの……」

「特に異常は感じないが……強いて言えば、妙に眠いな」

「……妾もじゃ。じゃが言われてみれば元より足りぬ状態ゆえに、妙に辛いのう」


 ぷちタマちゃんとぷち十兵衞も弱り果てた顔をしている。


「仕方ない、か……当座のしのぎ方は考えてある」


 ベッドに腰掛けた私の前に跪いて、カナタが私の手を取るの。

 その甲に口づけて――って、ええ!?


「動くな……」


 囁かれた後に、カナタの唇から冷たくも気持ちいい水のような何かが流れ込んでくるの。

 身体の中に広がって、心地よくて……広がって行くにつれて、身体中が痛み始めるの。


「っ……あ、ぅ……」


 よくみたら青あざとかになっているところがじんじんと痛む感じ。

 まるで今更、痛みを感じるだけの力が戻ってきたかのよう。

 そんなの……異常でないわけない。

 なのに、私はそれに気づかないくらいの状態になっていた。

 それがただただ恐ろしい。


「――……これ、くらい、だな」


 私の膝に倒れ込んできたカナタを見て、ぷちタマちゃんが呟く。


「自身の霊子を分け与えるか。才ある者の手段じゃが……無茶をするのう」

「……だが、これしか手がない」

「ずっとは……続けられんじゃろうに」


 顔色が悪くなったカナタは「少し寝る」と呟いたきりだ。

 どうしよう、と喉から出た声は自分でも引いちゃうくらい弱々しかったの。


「相談に乗りたいのじゃが……供給される力が、弱い……以上は」

「……すまん」


 限界がきたのか、タマちゃんも十兵衞も二人そろって寝ちゃうし。

 私はカナタがくれた霊子のおかげで痛みを感じるくらいに復活した状態で……途方に暮れた。

 だから藁にも縋る思いで日が暮れる前にノンちゃんに相談することを思いついたの。

 電話で事情を説明して何か案はないか尋ねてみたら、


『力になりたいです、でも……病院が匙を投げて、自分を刀にできるすごい刀鍛冶さんに無理なら、あたしでもちょっと力不足です』


 しょぼんと言うの。でも……待って? なんでか、引っかかるの。刀鍛冶、自分を刀にできる、そこが妙に。


「か、刀鍛冶って、どうしてなれるんだっけ?」

『なんですか急に』

「いいから! なんでだっけ?」

『霊子を扱う術に長けているからです。刀に寄り添い、刀を鍛える力があるからです』


 眠りについているカナタを見た。霊子を扱う術に長けた、才能のある……私の相棒を。


『あなたに霊子をあげられる緋迎さんに無理なら――』

「無理じゃないかも」

『え?』

「ノンちゃんありがと!」


 ぷち、と電話を切ってすぐにカナタを揺り起こした。


「……ん、なんだ?」

「カナタにお願いがあるの」


 眠そうに目を擦る彼の手を握って私は言いました。


「私を刀にして、直して欲しいの!」


 それはカナタにとって寝耳に水に違いないのに。


「――……なるほど」


 彼はすぐに頷いて言うんです。学校に帰ろうって。


 ◆


 ニナ先生とおじいちゃん先生、それにライオン先生が見守る中、私は特別体育館の神社に設置された御珠の前でカナタと向かい合っていました。


「霊子の扱いに長けた緋迎が青澄の御霊を刀にし、刀鍛冶として青澄の霊格の異常を検知し修復する……プロを呼ぶ手もあるんだぞ」


 心配してくれるライオン先生にカナタは頭を振ったの。


「そんな芸当ができるのは今のところシュウか……或いは俺か、あの佳村くらいです。シュウに任せる気はないし、佳村に頼む気もない」


 断言するカナタにライオン先生は唸り、代わりにニナ先生が御珠に手をかざすの。


「まいりましょう。不測の事態には可能な限りのサポートをします」


 お願いします、と頷いたカナタにニナ先生が御珠の力を発動させた。

 身体から御霊が離れて――分離する。


「『現世』と重なり異なる『隔離世』……御霊と霊子の棲まう場所、なるほど」


 ニナ先生が頷き、おじいちゃん先生が声をあげる。「おお……」

 それもそのはず。私の身体の端から黒く燃えて塵になっていくの。

 あちこちに穴が空いているかのようで――……やっと、力が抜けていく喪失感を知覚できた。

 私の胸からタマちゃんと十兵衞を引き出したカナタが「いくぞ」と囁いて私の胸に手をあてがった。心臓のある位置、胸の中にカナタの霊子が入ってくる。

 それは魂を掴んで、ゆっくりと……確実に私を変えていく。


「う――……っ、あ、ぁあ!」


 叫ばずにはいられない痛みと痒さにもがきそうになった瞬間、カナタが一気に私のありようを変えた。

 何も見えない視界。けれど私をカナタが握っていた。そう知覚できた時点で、そう……私は再び刀になっていたの。

 口がなくなってよかった、と思った。

 おおきな穴を穿たれ、そこから私の生きるために大事なすべてが漏れ出ていく……そんな感覚に襲われて、叫ばずにはいられなかったから。

 いやだ、やめて。もうやだ、しにたい、ころして。

 ただの一瞬で頭の中を埋めつくす絶望にすぐに心は折れた。ううん、ちがう。折れていたことを自覚したの。こんな傷に気づかずにいた自分の状態がただただ恐ろしかった。


「仲間との試合を見ていてよかった――ッ!」


 刀身――……私にカナタが触れる。

 触れられた箇所が熱くなる。じんと、熱が広がっていく。

 露わになった肌を滑る熱にもがき、喘ぎ、苦しむ口はない。


「待っていろ! お前の御霊の位置はわかっている、もう触れているッ」


 打ち込まれる。カナタの想い。言葉には出されない、私への純粋な――……


「すぐに――」


 あの日、心の奥底に触れてくれた心地よさが届いて、繋がって。


「助ける!」


 ばらばらに砕けそうな身体のすべてを繋げられて、ふっと気づいた時には視界が戻っていた。

 カナタに……抱き締められていた。

 私の霊子は端から黒い炎になって燃え上がる。

 けれど胸の内からわき出て、燃えて、それは尽きない炎となって存在していたの。


「あの日――……君の心に触れた時、気づいていれば苦しめずに済んだのに」


 嘆くカナタの背に手を回して、抱きつく。

 確かな熱を感じる。カナタの熱。想い――……御霊、霊子。

 触れ合ってしまったから……もう知っている。


「だいじょぶ。助けてくれたから」


 駆け寄って確かめてくれるニナ先生とおじいちゃん先生も太鼓判を押してくれた。

 私は真実、復活できたのだ。


 ◆


 翌日、病院で診察を受けたが完全に完治していました。

 ささやかすぎて見えないくらいの円グラフは一転、溢れて真っ黒なそれに変わってました。これはこれである意味異常だといわれましたけど、もう大丈夫だろうとも言われました。

 診察に一緒にきてくれたお母さんのたっての願いでカナタにはまた実家に泊まっていただきました。

 それはいいの。それは。

 和室に敷いた布団に座ったカナタは困った顔で、正座してぶすっとしている私を見て言うんです。


「あれ以来、あまり口をきいてくれないのはなぜかな」


 顔を背けてほっぺたを膨らませている私は何も言いません。


「刀にした時にべたべた触ったからか」

「それはある」

「……不可抗力だ」

「わかってる。私が頼んだから、別にそれはいいの」

「何が不満なんだ?」

「それに不満はないの! 不満なのは、その……」


 枕を掴んでばたばた上下に振ってから……私は耐えきれずに抱き締めて呟きます。


「ただ……」

「ただ?」

「ただはじめてカナタにちゃんと触れてもらったのに、それが刀の状態ってどうなのって……それが引っかかってるだけで」


 唸っていたら、おでこを握り拳でこつんとやられました。


「寝るぞ」

「ん……」


 多くを言い返さないのに、カナタは気にするなと伝えてきて……立ち上がろうとしたら、ほっぺたにキスをされました。


「おやすみ」

「お、おやすみなさい」


 微笑まれてどもる私です。

 いそいそと出て、自分の部屋のベッドにもぐりこんでから我に返ったよね。

 実家でなにしてん、って。

 ああ、もう。ゴールデンウィークも結局ばたばただったよ。

 こんな調子で特別課外活動とか交流戦とか大丈夫かなあ? もう。

 悔しいからカナタの携帯にメッセージを送りました。


『ほっぺたあついんですけど』

『続きを所望なら悪いが、俺は寝る』

『ばか!』

『照れ隠しちょうだいしました』


 くそう。年上だからって余裕ぶって、もー!


『……ありがと。助けてくれて』

『当たり前だ。俺は君の味方だからな……そういう契約だ』


 すぐに『いや、強いて言うなら』とメッセージが続いて。


『君が好きだから。俺は守るよ』


 おやすみ、と続いたメッセージに私は身悶えしすぎて壁に頭をぶつけたのでした。




 つづく。

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